陽が落ちたマリンスタジアムは、すっかり夜の顔だ。
スクリーンから広告が消え、転換の音が止むと、真っ暗なスタジアムにこの日一番の歓声が沸き起こった。
突然の活動休止を発表したNINE INCH NAILS、日本での事実上最後のステージが今、始まるのだ。
「Somewhat Damaged」でスタート。真っ白なスモークに包まれたステージ上に、スタンドマイクにかじり付くTrent Reznor(Vo)のシルエットが浮かび上がった。いよいよ姿を現したTrentのあまりの迫力に、僕は早くも圧倒されてしまった。続く「Terrible Lie」「Heresy」では、閃光のようなライトがステージを突き刺す。なんて神々しいんだろう。「Come on!!」と叫ぶTrentのマイクにも、一層熱がこもっているようだ。
サウンドも、アルバムで聴くよりもライヴの方がずっと激しくラウドな印象だ。オーディエンスの白熱ぶりは言うまでもない。アリーナ前方の頭上には無数のペットボトルが舞っている。
展開にコントラストのある「March Of The Pigs」では、まるで目の前の全てを受け入れるように両手を広げて歌うTrent。サビの後を原曲よりもうんと溜めるなど、ゾクゾクとしてしまう演出も。
真っ赤なライトが良く似合っていた「Closer」の後は、「The Frail」へ。すると、はらはらと雨が降り出してきた。そういえば、04年のサマソニ大阪公演のNINの時間も大雨が降ったっけ…。Trentは雨男なのかも。
そんなことを思っていると、雨は勢いを増し、突然豪雨へと姿を変えた。
スコールだ!!
マジで!?ついさっきまでの快晴からは想像出来ないほどの、バケツをひっくり返したようなスコールに、僕は一瞬何が起きたのか理解出来なかった。ステージを気にしながらも、周りの人々に混ざって慌てて屋根のあるスタンド席へ避難。
ふうっと一息、腰を下ろして改めてステージを見下ろすと、照明の光を反射させた雨がまるでカーテンのようにキラキラと揺らめいていた。豪雨なんて構うもんかと言わんばかりに演奏を続けているバンドを乗せたステージだけがそこにはっきりと浮かび上がっていて、幻想の世界を目の当たりにしているようだった。既に胸に込み上げてくるものがあったが、ぐっとこらえる。
続いてはインダストリアルでラウドなサウンドがバチバチと鳴り響く「Burn」をプレイ。雨はまだ止む気配がない。破壊的なサビのパートに入ると、なんと、ステージのちょうど上空に大きな稲妻が走った・・・!楽曲とのあまりのシンクロ率の高さに驚き、スタンド席にいた人々は拍手喝采。体にリアルに響いてくるこの衝撃は、リズム隊から放たれた音塊なのか、稲妻の振動なのかさえ分からない。ただ、たまらなくドキドキする。
続く「Gave Up」「The Big Come Down」「Survivalism」、そして僕が特に好きな曲「Wish」も、ステージから放たれるエネルギーがあまりに凄まじくて、僕は身動き一つ取ることが出来なかった。とても生々しくエネルギッシュなプレイ。もちろん「The Hand That Feeds」も最高だった。
ラストは「Hurt」。この頃になって、ようやく雨が止みだしてきた。静寂の中、Trentの声だけが切なく優しく胸に響く。もう最後なんだ。そう思うと、目頭が熱くなる。
雨も、雷も、全てはTrentが操っていたんじゃないかさえと思えてくる。全ては演出?これが最後だとは思いたくない。Trent Reznor、日本でまた嵐を呼んで欲しい。
TETU★KID
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