LIVE REPORT
キズ
2025.01.06 @日本武道館
Writer : 杉江 由紀 Photographer:小林弘輔( @style_k_ )
鬼手仏心のごとく。場にのまれることもなければ、大挙して押し寄せた人々の圧にのまれることもなく、そして何より抗い難いはずである気負いの類いにも全くのまれることなく、この夜のキズは鬼のような勢いと周到さを兼ね備えたパフォーマンスをもって、日本武道館の大空間をむしろ力強くのみこんでいく側となった。
題して"キズ 単独公演「焔」"。一説では魔除けの意を持つ擬宝珠を戴いた聖地、日本武道館での記念すべき一夜でありながらも、あえてなのかフロントマン、来夢(Vo/Gt)は終始にわたり"武道館"のワードは決して発さぬまま、幕開けの「ストロベリー・ブルー」からWアンコールの最後を締めくくった「黒い雨」までの全18曲を、威風堂々と歌い上げたのだが、果たしてその真意はどこにあったのだろう。なんなら、去り際の一言さえもがさりげなさすぎる物言いであったのだ。あれはもしや、ある種の願掛けだったりして......?
"またすぐやるよ「ここ」。じゃあな!"(来夢)
とはいえ、キズとして彼等4人がこの武道館で展開したパフォーマンスの在り方は、さりげなさの対極にある濃密さに満ちており、そこには彼等が2017年の始動以来ここまでに構築し、鍛練し磨き上げてきた完膚なきまでに神がかった"VISUAL ROCK"が、音としてだけではなく熱き魂そのものとして確かに息づいていたのではなかろうか。
キズのキズたる由縁が目一杯に詰まっている「傷痕」で、熾烈なドラミングを見せてくれたきょうのすけ。人間の内に染みついている業を具現化したような「人間失格」に、エモさと的確さを両立させたギター・ワークで説得力を与えていたreiki。劇的を優に通り越し、強い念のこもった「鬼」を殺気さえ漂うスラップ・ベースでより際立たせていたユエ。そして、本編ラストを飾ったその名の通りの「おしまい」において、既存の歌詞を改変し"この命(こえ)でお前の全てを救いたい/この声(いのち)を聞いてくれ"と歌い上げた来夢。彼は恐らく、そこにこれからのキズが担っていく使命を託していたものと思われる。
そんなキズの未来に向けた新曲「R/E/D/」がいち早く聴けたことも、今回の単独公演を語る上では非常に重要なポイントで、なんでもここには"最大限のリスペクト"が込められているそう。フォークに通ずるメッセージ性、パンクにも近い衝動性、グランジ・ロックを彷彿とさせる破壊性、ラウドやメタルを凌駕するような先鋭性、ミクスチャー・ロックと重なる創造性等。雑多な音楽要素をキズのものとして貪欲に昇華した音像と、来夢が自らに流れる血の色を克明に描き出すかのように綴られた生々しさ溢れる歌詞は、受け手の聴覚どころか潜在意識をも遠慮なしに抉ってくるから恐ろしい。
加えて、来夢は、前述したこの夜の最終演奏曲「黒い雨」でも1つの明確な意思表示をしていたと推察され、これまでであれば舞台上にて聴衆に対しやや斜に構えた姿勢で歌っていたこの歌を、ここでは躊躇なく真正面を向いて聴き手へと届けることに。つまり、それだけの揺るぎなき覚悟を彼等はここで我々に提示してくれたに違いない。終演後のLEDヴィジョンに大きく映し出された"この命でお前の全てを救いたい"という歌詞の一節のかたちを借りたラスト・メッセージは、まさにその証左であったはず。
来たる3月1日には[キズ×DEZERT This Is The "VISUAL"]、3月2日には"キズ単独公演「雨男」"が、日比谷公園大音楽堂で行われると発表されているが、キズを愛する者たちのために鬼手仏心の姿勢を貫かんとするキズの前途に、まばゆき加護の光あれ。
[Setlist]
1. ストロベリー・ブルー
2. 傷痕
3. 人間失格
4. 蛙-Kawazu-
5. 銃声
6. 地獄
7. 鬼
8. 平成
9. My Bitch
10. 0
11. リトルガールは病んでいる。
12. おしまい
13. R/E/D/
14. 鳩
15. 豚
16. 雨男
17. ミルク
18. 黒い雨
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