キズ 2022.10.09 ＠日比谷公園大音楽堂 | 激ロックライヴレポート

2022.10.09 ＠日比谷公園大音楽堂

Writer 後藤寛子　Photo by TAKASHI KONUMA、YUSURA、GAB

"世界がどうなろうと、俺らは音楽をやり続ける。これが俺たちの平和だ！" 2022年10月9日、初の日比谷公園大音楽堂単独公演を、来夢（Vo/Gt）はこの宣言で締めくくった。迷いのないまっすぐな言葉を、会場にいた誰もが否定することなく受けとっただろう。もしかしたら、霞ヶ関にも届いていたかもしれない。それほどまでに、キズは自らの血と意志の通ったパフォーマンスを野音のステージに刻みつけた。

ライヴ前に雨が降り始め、自ら冠した"そらのないひと"というタイトルにぴったりの空模様。静かにステージに登場した来夢がアカペラで歌い出したのは「黒い雨」。その一瞬で、打ちつける雨は演出に変わった。reiki（Gt）、ユエ（Ba）、きょうのすけ（Dr）のバンド・サウンドが加わり、4人の堂々たる佇まいに"今日のライヴはすごいものになる"という予感が込み上げる。直後、来夢のシャウトを合図に轟音が解き放たれ、「地獄」を投下。"首置いて帰れ！"という煽りにオーディエンスも一斉にヘッドバンギングで応え、早くも一体感が高まっていった。

「銃声」ではreikiのエモーショナルなギター・ストロークが琴線に触れ、「ヒューマンエラー」ではきょうのすけの獰猛なビートに圧倒される。かと思えば、跳ねたリズムの「ミルク」でユエの妖艶なベース・ラインが観客を魅了。個性豊かなメンバーのプレイヤビリティと華やかなパフォーマンス、ステージ背面の巨大LEDヴィジョンに映る映像演出も相まって、ただ過激なだけではないキズの世界に飲み込まれた。その中央で、時にアコースティックギターをかき鳴らしつつ、圧巻のハイトーンから鮮烈なシャウトまで巧みに使い分けて表現する来夢の存在感が凄まじい。"お前ら全員、俺と命燃やせるか！？"と投げ掛け、自ら限界に挑む姿と歌の力でもってオーディエンスの心に火を放っていく。
reikiの切ないアルペジオとともに歌い始める「0」の悲痛な絶唱に続き、「ストロベリー・ブルー」で力強いメロディに乗せて"さあ、行こうあの場所へ"と手をさしのべる彼から目が離せなかった。孤独を嘆くのではなく、抱えたままでその先に歩き出そうとする覚悟。オーディエンスの孤独もまるごと抱えて前に進もうともがくキズの想いがそこにあった。さらに、会場中がジャンプで揺れた「傷痕」の熱狂を経て、ラストに贈られたのは、最新シングル「リトルガールは病んでいる。」。世界情勢に想いを馳せずにいられない詞を、ラップを交えて全身全霊で表現する来夢と、心を揺さぶるヘヴィなサウンドが野音を制圧する。最後は来夢ひとりがステージに残り、圧巻のロング・トーンを響かせて本編の幕を閉じた。

気がつけば、アンコールを呼ぶ手拍子とともに雨はあがっていた。劇的な展開を追い風にスタートしたアンコールは、ステージの上も本編と打って変わって温かなムードに満ちている。「十七」で早速ヘッドバンギングの波を起こすと、フロント3人がドラム台に座って始まったミドル・チューン「鳩」から、異色のギター・ロック・ナンバー「日向住吉」を披露。来夢がreikiの顔を覗き込んで歌ったり、メンバー同士で笑い合ったり、ナチュラルな表情で奏でられる優しいメロディが雨上がりの空に染み渡っていった。そして、お馴染みのキラーチューン「おしまい」で狂騒のラスト・スパートへ。ヴィジョンにメンバーとオーディエンスの笑顔が映し出され、その上に金テープが舞い落ちる。まさしく"これが俺たちの平和"と讃えるべき目映いフィナーレだった。

公演終了後、12月に男／女限定GIGの開催、さらに2023年3月のNHKホールでの単独公演"残党"が告知された。野音を制し、次なる大舞台でキズはどんなステージを繰り広げるのか、今から楽しみでならない。