INTERVIEW
DREAM THEATER
2025.02.07UPDATE
2025年02月号掲載
Member:James LaBrie(Vo)
Interviewer:菅谷 透 Translator:安江 幸子
-MVもそんな感じでしたね。このダークながらも重要なテーマは『Dream Theater』(2013年リリースの12thアルバム)の「The Enemy Inside」でも扱われていましたよね。
そうだね。「The Enemy Inside」もPTSDについての曲だった。ただこの曲の場合は、俺がパラソムニアについて調べていたときに、退役軍人のエピソードをよく見かけたことがきっかけなんだ。彼等は夜驚症や悪夢に悩まされていた。夢遊病になったり、目が覚めたら身体にアザができていたりして、それが自傷によるものだと思った人もいれば、誰か別の人が夜な夜なマーキングしに来ていると思った人もいてね。そういった戦争の犠牲者たちによるパラソムニアの証言を読むのは興味深いものがあった。パラソムニアのリサーチ中に読んでショックを受けて、そういう人の1人について曲を書きたいと思うようになったんだ。戦場にいたときの彼は同志たちのために働いているんじゃなかった。ある戦闘では小隊のメンバーをほとんど失ってしまって、数少ない生き残りになった。彼は"なんで俺が助かって、みんなはそうじゃなかったんだ?"と思うようになる。罪悪感を抱えてしまって、それを乗り越えることができない。友人や同志、愛する人たちが死んでしまって、自分が助かったことが、道理に適っていないと思えてしまう。そうして彼は完全に落ち着きを失って心をかき乱されてしまって、かつての自分にはもう戻れないことを知るんだ。そういう文献を読んで、自分の感情に訴え掛けてきたものを曲にした。まず何よりも"Broken Man(壊れてしまった男)"というタイトルにする確信があった。まさに彼のことだからね。しかも修理不可能で。
-ダークなトーンの「Dead Asleep」は夢遊病の殺人について歌われています。インスピレーションを受けた作品等があったのでしょうか? これもまた同じような視点から描かれている気がしますが。
「Dead Asleep」は俺の記憶が正しければ、John Petrucciがこういう事件が起こったという記事を読んだんじゃなかったかな。眠った状態で殺人事件を起こしてしまって、陪審員によって無罪と判断されたんだ。これについてはJohnに今一度質問しないといけないな。そういうストーリーを聴いた確信はあるけど、もしかしたらあいつのフィクションかもしれないし(笑)。たしか実際に起こった出来事だったと思うよ。ともあれ当事者にとってはひどい話だ。後でことの顛末を知って混乱してしまって、翌日"待てよ、なんでこんなことになっているんだ? なんでここに人が倒れているんだ? 侵入者がいたのか?"なんて思ってしまうけど、実は自分のせいなんだからね。彼等がレコーダーを持っていれば分かるんだろうけど、分かったとしても不気味な話だよね。セットしたレコーダーを再生してみたら、自分がベッドから起き出して歩いているのに、自分ではそんなことをしたなんて憶えていないんだから。怖い話だよ。
-恐ろしい話ですね......。
俺にとってはそれがホラー映画だよ(笑)! ともあれ、Johnは事実に基づいて書いていたと思う。カップルの男のほうが妻を殺してしまって、その殺したやつが自分だったって翌日分かるんだ。パラソムニアの文献を読むとそういう話が出てくる。読んで初めて、世界中にある現象だって分かったよ。本当にたくさんそういう人たちがいるんだ。この惑星に暮らしている人の大半にとって、一晩安定して眠るのは難しいことだ。それが次の段階になるとこんな感じになってしまって、信じられないよ。どんな気がするのか想像すらつかない。毎晩毎晩とらわれの身のような感じで......寝る時間になったときの不安の大きさは計り知れないよね。もう眠りたくない、一生眠りたくなんかないと思ってしまうんだ。クレイジーな話だよ。
-そうですよねぇ......それとは違った成り立ちかもしれませんが、「Midnight Messiah」は強力なメタル・ナンバーで、歌詞には"Strange Déjà vu"(『Metropolis Pt. 2: Scenes From A Memory』収録曲「Scene Two: II. Strange Déjà Vu」)、"Constant motion"(2007年リリースの9thアルバム『Systematic Chaos』収録曲「Constant Motion」)等、過去の楽曲のタイトルやフレーズがいくつも登場しますね。"No rest for the wicked"(Ozzy Osbourne)等、他のアーティストの作品名まで出てきます。
あと"HOME"(『Metropolis Pt. 2: Scenes From A Memory』収録曲「Scene Six: Home」)とかね。あの歌詞はMike Portnoyが書いたんだ。昔のDTに言及するのはあいつのよくやる手法だね。クールだと思うし、本人にも言ったんだ。"歌詞がクールだと思うよ。主人公がこのパラソムニアの症状、悪夢等を乗り越えようとしつつも夢の世界に戻りたいと思ってしまうんだな"とね。あの歌詞はむしろ放っておいてほしい、その状況にとどまっていたいと歌っているようなものなんだ。彼等にとってはその状態こそが安全地帯だからね。パラソムニアという代替現実の世界の中にいることが彼等にとっての安らぎなんだ。"昼間のコレクター(daytime collector)"という歌詞が出てくるけど、そいつは彼等を夢の世界から引っ張り出そうとする。だけど本人は独りにしてほしい、夢の世界に戻りたいと思っているんだ。それが彼の世界であり、彼の感じていることだからね。あいつが昔の曲やアルバムに言及していたのもクールだったね。みんなノスタルジアを抱えていて、これまで俺たちが作ったり経験してきたりした物事にはセンチメンタルな価値があるわけだから。テーマのコンテクストにとどまりながら素晴らしい自己表現ができたと思う。Mikeらしい、とてもクールなやり方だと思うね。
-「Bend The Clock」は緊迫感のある本作の中で、呼吸を取り戻すような安らぎのあるバラードになっています。
そうだね。それでいて耳に残る美しさは健在なんだ。絶望、抑圧、解離を感じさせる。君も言ったように呼吸を取り戻すことができる曲だね。全てを消化するような感じ(笑)。そうして次の壮大な曲に続くんだ。あれは並外れているよね。俺たちが今まで作った曲の中でも特に壮大な部類に入ると思う。「Bend The Clock」は、ダイナミクスをアルバムにもたらすことを狙って作った曲なんだ。山あり谷ありな感じにしようとしてね。それがあるからこそ流れがエキサイティングになるし、深遠なものになるんだ。
-最後の「The Shadow Man Incident」は本作最長のナンバーです。この曲は「In The Arms Of Morpheus」とともにブックエンド的な役割を果たしているのでしょうか?「In The Arms Of Morpheus」のフレーズが印象的な歌メロで登場したり、スリリングなインスト・パートがあったりと集大成的な楽曲に仕上がっていますよね。
君は正しいよ、それで決まりだ! じゃあね(笑)!(※インタビューを終えて部屋を出るふりをする)
-(笑)
......というのは冗談だけど(笑)、まさにその通りだよ。まさにそれが俺たちの狙いだった。いろんなテーマが1つの曲の中で一堂に会して、ほんの少し発展しているんだ。今君(※通訳)が"ブックエンド"と言っていたのが面白いね。実際俺たちもそう言及していた時期があったんだ。鋭いね! まぁでも、これはDTが過去のアルバムでもやったことなんだ。俺たちのやっていることの裏には常に意図が存在する。俺たちみたいな音楽をやっていると......ほら、DTというバンド名からして、シネマティックなものを作りそうな感じだろう? 壮大な曲をアルバムの最後に置くというのは、映画のクライマックス的狙いがある他ならない。プロットの全てがここでついに説明されるんだ。それがこの曲の役割であって、これの前に現れた全ての曲の全ての要素が1つになって、俺たちの言いたいことを結論付ける。パラソムニアのこと、アルバムのこと、音楽のこと。美しいエンディングだ。
-すでに現体制で結成40周年のツアーを行っていますが、次の行程は北米ツアーで、2月に始まるんでしたよね(※取材は1月中旬)。
ああ、2月7日だ。実はその初日がアルバム発売日なんだよ。プロダクションも大掛かりだし、素晴らしいショーになる。レーザー光線を使ったライティングがデザインされていて、ヴィジュアルもスクリーンに映し出すしね。北米ツアーは2月7日のフィラデルフィアから始まって、最終日は3月22日のRadio City Music Hall(ニューヨークの会場名)なんだ。その後少しオフを挟んで、次はヨーロッパで大規模なフェスにいろいろ出る。その合間にヘッドライン・ショーもいくつかやるんだ。できれば秋以降には君たちの美しい国に行けたらと思っているよ。少なくとも向こう1年はツアーに出ずっぱりになると思う。まだ行くべき場所がいっぱいあるし。絶好調だよ。とても楽しんでいるし、ファンも喜んでくれている。早くアルバムをみんなにしっかり聴いてもらって、消化して、その価値を全て吸収してもらいたいね。そうすればライヴに来てくれたときに魅惑的な体験ができると思う。
-セットリストを決めるのは至難の業ですね。『Parasomnia』の曲もようやく入れられるようになりますし、約13年ぶりの復帰ということで、PortnoyのいるDTのライヴを楽しみにしている古くからのファンはもちろん、この編成でのライヴを初めて観るという若い世代のファンもいると思います。
ありがたいことに、またMikeを頼ることができるようになったんだ。Mikeについてはインタビューでいつも言っているけど、あいつは何よりもDTの最大のファンなんだ。みんなを満足させるセットリストを作るなら、あいつ以上の適任者はいないよ。とても真摯に情熱を持って向き合っているし、端から端まで分析して、DTのファンなら誰もが喜ぶセットリストを作ってくれるからね。それが目標なんだ。君も言う通りものすごく難しいタスクだけど、あいつは毎回欠かさず素晴らしいものを作ってくれるよ。セットリストはツアーが続く中で曲を入れ替え続けるけどね。古いものを入れたり、新しいものを入れたり。絶えず変化し続けるよ。(※通訳が1993年の日本公演を観たことや、それ以来ライヴを観に行けていないので今度こそは行きたいという話を伝えると)ずっと来ていない人はぜひ来てほしいね。自分たちのコンサートに何十年ぶりに来るファンというのが実は結構多いんだけど、みんな"コンサートの壮大さがさらにパワーアップしている"と驚いてくれるんだ。直接言いに来てくれる人もいれば、SNSのコメント欄で言っている人たちもいる。実際俺たちも"やるなら壮大なものを。紛れもなく壮大で記憶に残るもの。来てくれたファン一人一人の心の中に消すことのできない足跡を残せるもの"を狙っているからね。俺たちが今までどんな道を辿ってきて、今どんなところにいるのかを真の意味で証明してくれるのがライヴだから、なんとかして来てほしいと思う。
-最後に、日本のファンにメッセージをお願いします。
日本のファンのみんな! DTのJames LaBrieだ。まずなんといっても、俺たちの新作を全曲聴いてもらえる日が待ち遠しいよ。早くそっちに行ってツアーしたいね。30年以上行っている大好きな国だから。日本には素晴らしい思い出がたくさんあるし、早くまた行きたいと思っているんだ。