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INTERVIEW

Haint

2023.02.27UPDATE

Haint

Member:YU-TO(Dr) Kaz Niita(Gt)

Interviewer:清家 咲乃

THOUSAND EYESのメンバーとしてドラムを叩くかたわらnoteでのコラム執筆や動画編集なども手掛けるYU-TOと、Death I Amのドラマーでありギター・プレイから作編曲、ミックス/マスタリングもこなすKaz Niitaというふたりのマルチ・クリエイターによる"Borderless Extreme Music Creation Team"がコロナ禍中に始動。幽霊を意味する"Haint"というプロジェクト名は、輪郭の定められていない、無限の可能性を示唆している。音楽は不要不急かもしれない。だが、音のデータは自宅にいながらにして宙を舞い、海を渡り、国境をすり抜ける。自由に浮遊する彼らの楽曲について、そして新たな音楽活動のあり方への希望について訊いた。

-おふたりは旧知の仲ということですが、最初の出会いはどこでしたか?

YU-TO:俺はっきりと覚えてます。新宿ANTIKNOCKですね。

Kaz:YU-TOさんがDeath I Amで僕がDOMINATE OVERのときですよね。

YU-TO:レコ発かなんかで話し掛けられたんですよ。で、ちょこちょこライヴのときに会ったりとかしてて。ただ、いつ仲良くなったのかまったく覚えてないんだよね。

Kaz:会うたびに僕からしつこく話し懸けて、少しずつガードを崩していきました。

-Haintを立ち上げようと思いついたのはいつ頃だったんでしょう。

YU-TO:コロナ禍になってからだから2020年、いや2021年かな? 最初にKaz君から"最近ちょこちょこドラム録ったりしてるんで、YU-TOさんのドラム録らせてください"って音源も送られてきて。よく録れてるし、曲もいいしで、1回俺のプレイ動画のレコーディングをやってもらったんです。ちょうどそのとき自分自身で何かやりたいなと思ってて、いろいろ考えてるなかで、別にライヴやんなくていいな、ぶっちゃけ制作だけやれればいいなって感じて。ライヴも今後どうなるかわかんないし。それで誰かいねぇかな? ってなったときに"あれ、Kaz君いるじゃん"みたいな(笑)。

-"Borderless Extreme Music Creation Team"というプロジェクトの形の着想はKazさんと組む前からあったんでしょうか。

YU-TO:ありました。日本にBUNNYってアーティストがいるんですよ。もともとDJから派生した人で、むこう(欧米)のEDMサウンドと2000年代から2010年代くらいまでのスクリーモとポスト・ハードコアのサウンドをガチッと合わせたような。その人がトラックだけ作って、あとは海外の人たちに歌わせてるんです。そういうのを聴いてて"あ、これすごい!"と思って。日本だけど、まさに洋楽みたいなサウンド出してるし、たぶん音楽って、制作ってこうなっていくだろうなと。それに結構衝撃を受けて、こういうのを日本のメタル・シーンでもできたら面白いなってなったときに、Kaz君が浮かんで。Kaz君は英語もできるんで、もともと海外のアーティストとやりとりして歌ってもらうみたいなこともやってたんですよ。あぁ、Kaz君とだったらボーダーレスなことできんじゃないかなぁって。

-楽曲はあて書きで作られるんですか?

Kaz:できあがってから決めますよね。

YU-TO:そうだね。ヴォーカリストを誰にするかはほぼ直感で決めます。その直感が降りてこないときもあるんですよ。曲ができて、ドラムのレコーディングも終わって、"いやちょっと......もうちょっと待って"みたいな感じにしていて、あるときふと思い浮かんで"あ、この人!"ってなって連絡して、OK! ということが今回ほとんどだったような気がします(笑)。

Kaz:YU-TOさんの人脈の広さが非常にありがたかったですね。

YU-TO:今回の制作ではレコーディングの日程を組むのが一番大変でしたね(笑)。お願いする相手にもメインの活動があるわけだから、そこに支障をきたすのはちょっと良くないと思うし、あんまりしつこく催促するのも......今後の関係性というのもあるから、嫌だなと考えてたんで。

Kaz:わりと曲はパッパッとできてたんですね。本当はシングルを月に1回、1年くらいずっと出したかったんですけど、3、4曲目くらいからうまくいかなくなって(笑)。でもそのぐらいから"アルバム出せそうかも!"ってなって、じゃあシングルは気にしないで、アルバムに向けてまとめて曲出してこうって感じになりましたね。YU-TOさんから"こういうの欲しいんだけど"っていう案を出してもらって、その後、自分で作っていって。

-YU-TOさんがアイディアの起点なんですか?

YU-TO:そういうケースが結構ありましたね。お題があったほうが作りやすいって言われて。

Kaz:12曲中半分以上はそうじゃないですかね。"このバンドとこのバンドを混ぜた感じ"って。だから大枠はメタルですけど、メロデスもあればDjentっぽいのもあるし。あとは僕のほうで何かしらインスピレーションが湧いてイチから作ったやつと。

-そこからドラムのレコーディングまで終えて、ゲストの方を招いて。

Kaz:全部打ち込みのデモの段階でもう"この人"って決まってたら、ドラムを録るより先にヴォーカルを作ってもらいます。最後にガッチャンコするんで。

YU-TO:そういうケースもあったんですけど、ヴォーカルがどんなふうになるかを知っててドラムを録音した曲はほぼないですね。もう本当に何が来るかお楽しみ。

-でも曲としてしっかりまとまっているという。

YU-TO:"こういうヴォーカルだったら、ドラムはもうちょいおとなしめでも良かったかもな"とか思うんです......それは全然直せるんですよ。でもあえて直さなかったですね。そういうの直しちゃったらエッジがなくなっちゃうんじゃないかなと。しかもヴォーカルの人にも、"こういうふうに歌ってくれ"ってディレクションはほぼしてないんですよ。最終的にいい感じでまとまればいいんじゃない? くらいの心持ちで。

Kaz:僕、毎回感動しましたよ。バンドを一緒に組んでる人だったら、毎週スタジオで会ったりしてて意思疎通できるから、イメージ通りのヴォーカルが来るのが想像できるんですけど、初めてやりとりする人なのに"完璧じゃん"って。それだけすごいスキルを持った方々だったんですよね。

YU-TO:さっきも言ったように、頼む人は直感で決めるんですけど、もうそのときに自分の中で"あぁ、この人だったら絶対こうなるな"みたいなのがあって。まぁ悪いようにはなんないだろうな、みたいなのはありましたよね(笑)。

-今後もゲストを招くスタイルが続くんでしょうか?

YU-TO:誰かひとりいい人がいたら、その人に全部歌ってもらうとかもありだなと思うし。逆に全然別のジャンルの人にメタルを歌ってもらっても面白いだろうし、いろんなヴィジョンだけはあって。デス・ヴォイスを出したいって人、今多いじゃないですか(笑)。アイドルでも、"歌ってみた"でもやってるし。今回の作品はこの界隈で知名度がある人が多いけど、それにプラスして、日本で誰も聴いたことがないようなヴォーカルを発掘したいなってのはちょっとあるんですよ。レコーディングだったらやり直しきくし、その人に制作の酸いも甘いもいろいろ体験させて、夢への第一歩じゃないけど、何かそういうのを与えられるプロジェクトにもできたら、メタル・シーンに貢献できるんじゃないかなとは思ってますね。

-オーディションみたいになったら面白そうですね。トラックを公開して。

YU-TO:そうそう。トラックを公開して、3人のヴォーカルでまったく違うのが乗ってるのを3曲入りEPで配信リリースとか(笑)。歌う人が違えばこんだけ楽曲としても違くなるよっていうのを示せるのも面白いかな、とは妄想だけしてますね(笑)。

-今回はミックスをKazさんがされていて、既存曲のほうもリミックス、リマスターが施されているとのことで。意識したことや、シングルから変えた部分というと?

Kaz:シングルで出した曲をEP(2021年12月の『CHAPTER #0』)としても出して、そこでも1回リミックス、リマスターしてるんですね。それをまたできるって、こちらとしては贅沢な感覚です。3回もやり直せたので、出すたびに"ああしたかった、こうしたかった"ってところを直して(笑)。アルバムで初めて出てくるって曲に関しては......EPで出した曲に関しては自然な響きを意識したんですけど、「Into the Vortex」以降はパンチ力とか低音を強くすることを意識しました。あと、EPで出した曲は生ドラムで、もう半分は電子ドラムで録ったんですね。どっちともYU-TOさんの生プレイなんですけど、生ドラムのほうはいかにも生って感じでシンバルを叩くたびに音色が違うとか、部屋の響きとか繊細なナチュラルさがあって、そういうところが僕は好きなんです。一方で電子ドラムはやっぱ加工しやすいんで、めちゃくちゃパワフルにできたと思います。

-YU-TOさんは聴いてみていかがでしたか?

YU-TO:Kaz君は、もうこれ以上無理だろってとこまで煮詰めてからミックスして送ってくるんですよね(笑)。"じゃあ、あの、わかりました"ぐらいの。ぶっちゃけ使ってる機材はそんなに高級じゃないんですけど、出てくる音があれって結構すごいですよね。正直......Kaz君って日本でトップレベルにミックスがうまいんじゃないかなと思います。「虚に産まれた毒蟲達の選択」はヴォーカルがめちゃくちゃトラック数多いんですよ。それをよくまとめたなと思うし、しかも彼、別にレコーディング・スタジオで働いた経験もないんで、自分が好きでやっているだけでここまでいけたっていうのがびっくりしますよね(笑)。

-Kazさんはどうやって独学でノウハウを身につけていったんですか?

Kaz:"Nail The Mix"っていうネットのオーディオ・エンジニアリング講座みたいなのを、一時期すごく真面目にやってました。そこで教えてることを実際に試してできるようにするとか、あと生ドラムの編集もYouTubeでいろんな動画を調べて、自分でドラムを叩いて録って、自分で編集して試したんです。全部英語で、音楽エンジニアリングの専門用語だらけなので、なかなかハードルが高いですけど、頑張りました。

-電子ドラムでのレコーディングは、音的にそちらのほうを選ぶ理由があったんでしょうか。

Kaz:YU-TOさんが"やってみたい"って感じじゃなかったですか?

YU-TO:それができれば越したことがないなっていう。生ドラムはやっぱスタジオ取らなきゃいけないし、フレーズも固めていかなきゃいけないし、なるべく一発で録れるぐらいのクオリティにしなきゃいけないと自分は思っているので、それでやるとどうしてもいろいろ時間がかかっちゃうんですよね。だったら電子ドラムで、曲聴いてアドリブでバッと叩いて、それをちょっと自分が編集してKaz君に投げたほうが、スムーズにいくんじゃないかなぁというのがあって。

Kaz:作業フローは断然電子ドラムのほうが楽ですよね。

-じゃあ今後、例えば2枚目を出すときには最初から電子ドラムでいくかもしれない?

YU-TO:俺は、いくかもしれない。

Kaz:えぇ~。生ドラム、いいっすよ。あとは曲によってとかじゃないですかね。

-本作は、1枚で日本のニュー・スクール寄りのメタル・シーンを紹介できるようなものだと思っていて。シーン内外へのアピールみたいなところは考えられてました?

YU-TO:あるにはあったんですけど......意識はそこまではしなかったかなと思いますね。そういうマーケティングみたいな部分よりも、もっと制作自体を楽しんで、いろんな人と制作をやって。今の自分たちは、どんなものが作れるんだろう、それをどんな人たちがキャッチしてくれるんだろう? という段階なんですよね。日本のメタル・シーンでこんなスタイルで活動してる人って自分が知る限りはほぼ0だったから、本当にまだ実験の段階というか。

-結果この規模の作品になるのもすごいことですよね。ただやってみたいことをやって、これだけの形になるという。

Kaz:正直"規模"っていうのが、あんましっくりこないです。ゲストにたくさん参加していただいたのはめちゃくちゃありがたいですし、嬉しいんですけど、規模が大きいっていうのは何かちょっと感覚違いますよね(笑)。

YU-TO:作るのに精っぱいだった部分があるから(笑)。

Kaz:わかりました。YU-TOさん、バンドって何歳からやってます?

YU-TO:16歳です。いや~もう20年ですよ(笑)。

Kaz:"規模の大きさ"っていうのはやっぱその年月だと思います。培ってきた自分の実力もあるし、コネクションもあるし、それが表れたんじゃないかなって。

-大学のときは、周りがTHOUSAND EYESやImperial Circus Dead Decadenceのコピバンをしてましたし。ご自身でしっくりこないとしても、自分たち世代はこのトラックリスト見るだけでもテンション上がります。

YU-TO:おぉ~。自覚ないよね(笑)。

Kaz:本当にないですね。

YU-TO:俺の身近にいる人、直接連絡取れる人としかやってないから、もう本当に周りにいる仲間たちと"いっちょあがりましたよ!"ぐらいな感じなんですよね(笑)。

Kaz:YU-TOさんの言葉として言いたいですけど、ライヴハウスで何年も前から一緒にやってるような人たちですから。下手したらサークルのとき一緒だった友達みたいな。

YU-TO:そうそう。そういう感覚ですね。