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INTERVIEW

vistlip

2022.03.29UPDATE

2022年03月号掲載

vistlip

Member:智(Vo) Yuh(Gt) 海(Gt) 瑠伊(Ba) Tohya(Dr)

Interviewer:杉江 由紀

-次いでの3曲目「"TOXIC"」も、今作『M.E.T.A.』におけるvistlipとしての新機軸が満載な楽曲となっておりますが、こちらはなんとも上品な色気とバンドの放つダイナミズムを、両方とも味わえる仕上がりですね。

瑠伊:ジャズのテイストを入れたかったんですよ。そこを軸に考えていったら、ジャズのライヴってみんなそれぞれにソロがあるじゃないですか。この曲の中ではそれもvistlipとして表現したかったので、5人それぞれの見せ場も入れていくようにしました。

智:この曲は、今後ライヴでも重要な位置で活躍する曲になっていくと思いますよ。

-瑠伊さんは、他にもこのアルバムの中で、ほんのりとしたR&Bテイストが香る良質なメロディが素敵な「蟻とブレーメン」や、軽快なリズム・パターンのハジけるポップ・チューン「STAR TREK」と、一筋縄ではいかない曲たちを書いていらっしゃいますね。

海:不思議なのは、瑠伊の曲ってどれも弾いてる側からしたらやたらとややこしいものが多いのに、完成した音全体を聴くと曲としては変に耳についたり、引っ掛かったりするようなところがまったくないんですよね。すごくスルッと心地よく聴けちゃう。だから、今までも方々で僕は"瑠伊は天才だ"って言ってるんですけど、なぜか智はそのたびに"いや、別に天才じゃないし"と言うんですよ。

智:俺は、瑠伊は遊んでるだけだと思うよ。

瑠伊:そうね。感覚でやってるだけっていうのはある(笑)。

-そうだとしても、今作『M.E.T.A.』での瑠伊さんはコンポーザーとしてより覚醒したというか、開眼されたようにも聴き手側としては感じます。そもそもvistlipはみなさん高いソングライティング能力をお持ちであるだけに、これはもう無敵状態なのでは?

海:楽曲クオリティがより高くなってきてる、というのはたしかにありますね。ほんと、そのぶんプレイヤーとしてはいろいろと大変なところもありますけど(苦笑)。

-曲の完成度が高まってくると、それに比例して、やはり歌に関しての難易度もさらに高くなっていたりするのではありませんか?

智:そうですね。ニュアンスをコントロールしながら、感情や物語を聴き手に伝えていくことだったり、色気を醸し出していくということだったりは自分としてもかなり意識したかな。

-時には、演技的な要素も必要になったり?

智:そこに関しては、たまたま最近ファンクラブのほうの企画でやってたことを生かすことができたんですよ。ファンの人たちからのリクエストに応えるかたちで、"こういう感情でこのセリフを言ってください"みたいな感じで、声優さんの真似事をするような機会があったんで、あの経験は今回の歌録りで確実に反映できました(笑)。

-それから、今作には昨年シングルとして発表された海さん作曲の「Act」も収録されておりますけれど、今作での録り下ろし曲としては「無音」を海さんが手掛けられています。こちらの楽曲についても少し解説をいただけますでしょうか。

海:これは最終的な作曲期間に入ったときに、すでにできあがっていた曲たちを見渡したら、激しかったり重かったりする曲はあるんですけど、"音域的に低めのものがあんまりないな"とちょっと感じたので、チューニングの下がってるギターを使って作ってみたものですね。個人的な感覚としては、長年"こういう雰囲気の曲を作ってみたいんだよなぁ"と思いつつも、なかなかかたちにはできてなかったものが、たまたまここで曲になってくれたなって思えた曲でもあります。

智:俺としても、この曲では前から書きたいなと思ってたことを詞にすることができたんですよね。もっとも、それを海と歌い分けていくのはちょっと大変でした。内容的なものもあるのか、俺が書いたこの言葉たちを海が歌うっていうのが、雰囲気的にどうもしっくり来ない感じがあって。結果としては、詞の表現のほうが海に合わせたかたちでソフトになってました(苦笑)。

海:細かいことなんですけど、自分の声の出しやすさが言葉の響きによっても変わるんですよね。自分としてはその言葉だと強くアプローチしていけないって部分があったので、そういうところは変えさせてもらいました。

智:そのくらい詞と歌の聴こえ方にはこだわっただけに、完成したときには周りのオトナがこれをすごく気に入っちゃって。急遽、リリック・ビデオを作ることになりました(笑)。

-そのほかにも、今作にはvistlipの王道的な要素が漂っている「ENTRY MODEL」、美旋律とバンドの奏でる音が絶妙に響き合う「アンサンブル」など、聴きどころ満載な楽曲があれこれと収録されているわけですが、「ID:ID [Extend Song]」と「RED LIST [Extend Song]」の2曲については、"Master Edition"のみの収録となるそうですね。しかも、そのうちの特に後者は歪んだギターの音がいいスパイスとなっていることもあり、激ロックのユーザーの食いつきが良さそうに感じます。

Yuh:「RED LIST [Extend Song]」は激しいラウド要素もあるんだけど、自分としてはバラード的な面も持った曲ですね。それこそ、だんだん年齢も重ねてきて、いい意味でのオトナになっていきたいなという気持ちがあるから、普通に激しいだけでは終わらない楽曲を作った感じなんです。智にも"ストーリー性を出していったら?"というアドバイスを貰えたんで、今までだったら編曲なんかは曲のことしか考えてなかったところを、詞の世界も考慮しながら引いたり、削ぎ落としたりしていくことで、曲自体にもストーリー性を持たせた仕上がりにすることができました。

海:一応ですね、念のため言っておくと、今回の"Master Edition"に入っている限定曲たちは、アルバムの発売後ある程度の期間を置いたあとになってしまうものの配信でも聴けるようにする予定です。なので、もちろんバンド側としては盤で真っ先に聴いてほしいなという気持ちもありますが、他の"vister"や"lipper"を買った方でもあとから聴いていただくことはできますよ、というかたちになってます。

-朗報をありがとうございます。ということは、"lipper"の最後のみに収録されている「Sunday」も、みなさんに聴いていただけるわけですね。

智:位置づけ的に、このアルバムはSEの「PW:Invitation」から始まって、「PW:ReAct」までの間にメタバースの世界を体験してきて、そのあとに「Sunday」で日常に戻ってくるという流れになっているんですよ。だから、この曲は歌詞もこれだけすごく現実感の溢れたものになってるんです。実質的にはボーナス・トラックっぽい面もあるにせよ、アルバムとしての『M.E.T.A.』はそこまで含めてひとつの物語になっているんですよね。

海:"vister"と"Master Edition"が「PW:ReAct」で終わるのは、いわゆるマルチ・エンディングみたいな感じになっているということなんです。ジャケットのデザインも、それぞれの3パターンを通じてマルチ・エンディング的なことを表していて、映画で言えばそれぞれが劇場公開版、ディレクターズ・カット版、ファイナル・カット版みたいに、基本は一緒だけど違いがあるっていうことなんですよ。

-そういうことでしたか。それは面白いですね。しかも、「Sunday」については曲調がガチなシティ・ポップ調でかなり驚きました。

瑠伊:これはまさに、自分の中にあった"シティ・ポップみたいに、休符のいっぱい入ったベース・フレーズを弾きたい"という気持ちから作った曲ですね。

Yuh:僕、こういう曲調やコード感もすごく好きなんです。プレイヤーとしての引き出しの中には前からあるんだけど、自分では作れないタイプの曲だし、vistlipとしては新しいタイプの曲でもあるので"こういうのやれて楽しい!"ってなりました(笑)。バンドとしての大事な軸はちゃんとあってのこととしてやってるわけだし。時代の移り変わりや自分たちの成長と共に、やりたいことの幅は広がってくものだと思うので、vistlipはさらに新しい世界を提示してるんだって感覚で、受け止めてもらえるといいなと考えてます。

-人間はそのときの気分や年齢の変化によって着たい服も変わったりするものですし、そうなったときに大事なのは"着こなせているかどうか"だと思うのですよ。音楽もたぶんそれと似ていて、無理矢理に新しいものを導入すれば、違和感が出てきてしまう可能性もあるかもしれませんが、この『M.E.T.A.』でのvistlipは新鮮な一面や、大胆な表情も見せながら、すべてを自分たちのものにしていることが明瞭ですので、そこは間違いなく聴く側に対しての説得力に繋がっているのではないでしょうか。

海:良かった、そう言ってもらえると嬉しいです。ありがとうございます!

-こうなってくると、5月6日のなかのZERO 大ホールまで続く、東名阪での"vistlip ONE MAN LIVE TOUR「META TOXIC」" も、アルバム『M.E.T.A.』の世界をライヴというかたちで味わえることになるのでしょうから、実に楽しみです。

Tohya:この『M.E.T.A.』が完成した時点で世界観は完全に完成してて、それだけ演奏するには難しい曲も多いんですけど(笑)、vistlipとしては新鮮な領域の音を聴かせられるだろうし、それをみんなにじっくり楽しんでもらえるようにしていきたいと思ってます。

瑠伊:このところはセットの面でも力を入れてますしね。音を聴かせるだけじゃなく、演出とかも含めた総合的なステージを展開していきたいです。

Yuh:vistlipっていうバンド名はvista(視覚)とlip(聴覚)をかけあわせた造語でもあるので、今度のツアーではそこを両方とも改めて打ち出していきたいですね。

海:いい意味で、CDを完全に再現しますよというライヴにはならないと思います。あの世界をバンドが生でやるとここまでのことになりますよ、どうぞ思いっきりこの世界に入り込んでください、というものにしていきたいと考えてますね。

智:前から表現したかったことも、この『M.E.T.A.』を完成させられたことでオトナになった今のvistlipだったら、もっと上手く伝えられるなという確信があるんですよ。みんなはもう純粋に、ただ楽しみに来てくれたらそれで大丈夫です。