INTERVIEW
DREAM THEATER
2021.10.18UPDATE
2021年10月号掲載
Member:James LaBrie(Vo)
Interviewer:菅谷 透
-「Sleeping Giant」は、複雑に変化していく展開がDTらしい楽曲です。ヴォーカル・ラインもメイン・フレーズが違ったメロディで登場するなどユニークですが、この曲のアイディアはどのようにして生まれたのでしょうか?
あれはアルバムの中でも特に気に入っているんだ。DTをよく体現している曲だと思うからね。バンドならではの要素を全部網羅している曲だと思う。プログレッシヴで、ヘヴィで、感性豊かな面が表れている。展開も優れていると思うし、ダイナミックで......俺たちが知られるようになった音楽的な要素が入っているんだ。で、この曲を歌っていたとき、これだけダイナミックな曲だから、ヴォーカルもそれに寄り添う形にするべきだと思った。ああいうインタープレイをちゃんと反映させたものにするべきだってね。曲がああなんだったら、ヴォーカルもああいう感じの山や谷があって、強く歌うところや囁くように優しく歌うアプローチがあるべきだろうと。ライトになったりヘヴィに歌ったりすることによって......うーん、"ヘヴィ"はちょっと違うかな。よりパワフルで説得力のある歌い方をするという意味なんだけど......そうすることによって、曲自体の全体的な性質が強化されると思う。それでああいう歌い方にしたかった。さっきの繰り返しになるけど、俺はメロディに導かれるんだ。いつも曲を音楽的に分析することから始める。それから歌詞を分析して、そのメロディの中で自分が強調したいものはなんだろう、何を強調したら曲全体のリスニング体験がより良いものになるだろうと考えるんだ。
-すごく共感できます。ファンがあなたの歌声のどこが好きかと言えば、ただの声じゃなく、楽器のような役割もできるという面もあると思いますが、そういうふうにアプローチしているからなんですね。
そうだね。そう言ってくれて嬉しいよ。それから『Images And Words』(1992年リリースの2ndアルバム)でこのバンドに入って以来ずっと自分で誇りに思っていることがあって、それはただマイクの前に立って歌うだけじゃ嫌だと考えてきたことなんだ。機械みたいにただ歌って去るなんてのはね......。俺にとって大事なのは、メッセージを真摯に、説得力のある形で伝えること。俺の考えというのは――何年も前の発言で今もそう思っていることだけど、言語がわからなくてもメッセージをわかってもらえるような歌い方をするってことなんだ。俺の歌い方でメッセージが伝われば本望だよ。それはすべてのヴォーカリストが担うべき役割であって責任だと思う。相応しい感情を相応しいトーン、質感、ニュアンスで伝えるということだ。俺は子供のころFreddie Mercury(QUEEN)やSteve Perry(ex-JOURNEY)、Lou Gramm(FOREIGNER)、はたまたRod StewartやNat King Coleを聴いていて、彼らを感情を伝えることのできるシンガーたちだと思ったんだ。曲とリスナーの間を声で繋ぐ通訳みたいなものだよ。そうなることがすべてのシンガーの責務だと思う。ちゃんとできれば、それに惚れ込んでくれる人たちが出てくるはずだ。
-「Transcending Time」はメジャーなコード感が、アルバムの中でもいい意味で違いを出している楽曲です。個人的には『Awake』(1994年リリースの3rdアルバム)の「Innocence Faded」などにも通じていて親しみやすさを感じましたが、この曲についても詳しく教えていただけますか?
似ているね(笑)。面白い話で、今回のアルバム発売に向けて結構たくさんインタビューをやってきたけど、かなり多くの人にこの曲について聞かれるんだ。"DTの曲の中では「近づきやすい」曲ですね"なんてよく言われる(笑)。というか、"DTがポップになり得るんだったらこれがDTのポップなんですね"みたいな感じだね。でも、今までもこういう要素には触れてきたんだ。「I Walk Beside You」(2005年リリースの8thアルバム『Octavarium』収録)とか「Forsaken」(2007年リリースの9thアルバム『Systematic Chaos』収録)、「Wither」(2009年リリースの10thアルバム『Black Clouds & Silver Linings』収録)......こういうのも俺たちの音楽的な要素の一部だよ。「Transcending Time」はこのアルバムに投入するととてもクールなことになるだろうと思ったんだ。名は体を表すというか、独特のアイデンティティを持っている曲だからね。メロディも、俺がバックグラウンド・ヴォーカルでやっていることを聴いてもらえれば、リード・ヴォーカルと渡り合っているのがわかると思う。お互いいい感じに参照していてね。ムードの"近づきやすさ"や曲そのものに一役買ってくれていると思うよ。「Transcending Time」のメッセージは――多くのアーティストは、クリエイティヴな何かとの繋がりを強く感じるあまり、自分以外のすべてがフェード・アウトしてしまったかのような錯覚に陥ることがあるんだ。その世界に完全に集中して、自分もその一部になっていく。しかも自然体で。無理してそうなるんじゃなくて、自然にその世界に入り込んでいくんだ。その感覚がすごく超越的でね。で、そういう入り込む瞬間っていうのは時間が止まるから"Transcending Time(時間を超える)"なんだ。時間なんてものはなくなって、何もかもがその瞬間、その体験のためだけに存在するようになる。なかなかクールなコンセプトだよ。
-「Awaken The Master」ではPetrucciが初めて8弦ギターを使用しており、バンドとして新たなヘヴィネスが表現されています。
それは間違いないね。歌詞はJohn Myung(Ba)が書いたもので、正義を形作る声に耳を傾けていることやポジティヴなものに向かっていくことについて歌っている。と言いつつ、善と悪のような相反するものについても語っているんだ。John(Petrucci)は8弦ギターで曲が書けると大喜びしていたね。実際そのおかげで曲のトーンがダークでヘヴィになったと思う。そういう要素はこれまでもDTの一部だった。ヘヴィでダークな要素は昔からあったんだ。「In The Presence Of Enemies」(『Systematic Chaos』収録)とかもそうだけど、『Train Of Thought』(2003年リリースの7thアルバム)もアルバムとしてヘヴィだったよね。「Awaken The Master」がクールなのはあいつが初めて使っている8弦ギターが曲にぴったり合っているからなんだ。とてもパワフルな曲だからね。強いダークさを醸し出しながらも音楽的に豊かなんだ。
今回のアルバムに向けてまだ1音も曲を書いていないうちから、壮大な曲が入るってことはわかっていたんだ
-そしてラストの表題曲は、セルフ・タイトル作『Dream Theater』(2013年リリースの12thアルバム)の「Illumination Theory」以来となる20分超えのトラックです。こうした壮大な楽曲に今回改めて挑んだ意図をうかがえますか?
そうだね、あれ以来だったからこそ、というのもあったと思う。しばらく壮大な曲をやっていなかったからね。でも俺たちは長い曲あってこそのDTでもある。俺たちがアルバムを出すときは"DTだし壮大な曲が入っているんじゃないか"とみんな期待してくれるからね。
-たしかに。
"そろそろ機も熟したし、ああいう壮大な曲を作ろうじゃないか"なんて話になってね。というか、今回のアルバムに向けてまだ1音も曲を書いていないうちから、壮大な曲が入るってことはわかっていたんだ。
-そうなんですね。
そう、こういう曲をやりたいって確信があった。その確信がアルバム全体のトーンの決め手にもなった気がするね。時間の制約なく曲を書こうと。『Distance Over Time』のときはスタジオに入って、狙っているところに弾を命中させて終わり、という感じだった。だからいつもよりも比較的曲が簡潔というか短くて、それでいてとてもクールな仕上がりになっていたんだ。今回の場合は"曲がどういう方向に行くのか様子を見てみよう"という感じだった。それで完成したって思えるときがそのときだってね。その中で1曲はものすごく長い、壮大な曲になることが初めからわかっていた。しかもベストな曲になるってね。ベストな曲じゃなくてもその部類に入る曲になると。俺たちは常により良いものを目指しているし、俺たちのありのままがベストな形で表れているものを作ろうとしている。それはすべてのアーティストにとっての課題だよね。ファンにとっても自分たちにとっても一味違う、より良いものを作ろうとしているんだ。100パーセント誇りに思えて、心から責任を持つことができるものをね。で、この曲はスリル満点の展開にすべきだという考えがあったんだ。ファンにとっても俺たち自身にとってもね。うまくいったと思うよ。とても美しい曲だと思うし、音楽をやっている集団としてのDTのあらゆる面を見せているんだ。あと、ヴォーカリストとしてもああいう曲は大好きだね。いろんな表現で歌うことができるから。
-公式SNSでは「A Change Of Seasons」(1995年リリースのミニ・アルバム表題曲)が作曲過程に影響を与えたという動画がアップされていましたが、この表題曲のことを指しているのでしょうか。
「A Change Of Seasons」を毎晩プレイしていたころ(※『Images And Words』25周年ツアーではアンコールで「A Change Of Seasons」も披露された)に言っていたんだ。"この曲のアレンジはきちんと見ておくべきだね。自分たちのルーツとして大切にしたほうがいい。あの曲には素晴らしい瞬間がいくつもあるし、そこにファンは魅了されてくれた"。そのあとのツアーでは『Metropolis Pt. 2: Scenes From A Memory』をプレイしていて、頭の中のスペースに"長くて壮大な曲"というコンセプトが入り込んできた。自分でも気づかないうちにね。『Metropolis Pt. 2』や「A Change Of Seasons」みたいな曲が、キャリアのこの時点でまたひとつ壮大な曲を作るきっかけを与えてくれた。そして最終的にできたのが「A View From The Top Of The World」なんだ。
-パンデミック時代のDTにとって最高の集大成になりますね。
あはは、そうだね(笑)。それは間違いないよ。
-10月末からは北米ツアー(※取材当時。2022年への延期が発表された)、来年の春からはEUツアーが控えているようですが、意気込みはいかがですか。
楽しみだよ! 10月の終わりに北米ツアーが始まるんだ。ものすごく久しぶりだしワクワクするよ。日本にも来年の春くらいに行ければ理想的だ。と言いつつ、引き続き気をつけないといけないね。パンデミックはまだ続いているし。ちゃんと気をつけて暮らして、俺たちの誰も感染しないことを願うよ。全員ワクチンを打ったし、それが安全策になるといいね。とにかく楽しみだよ。またステージに立てるのは最高の気分だろうし、みんなと一体になれるのも楽しみだ。きっと素晴らしいツアーになると思うし、早く日本に行って日本のファンと俺たちの音楽を一緒に楽しむ機会が来ることを願っているよ。
-では最後に、日本のファンへのメッセージをお願いいたします。
よし。......やぁみんな。日本のみんなに会えなくて寂しいよ。俺たちのステキなファンと早く一体になって、この30年間みんなで愛してきた曲を楽しみたいね。みんな元気でいてくれますように。再会を楽しみにしているよ。身体を大切に!