INTERVIEW
EVANESCENCE
2021.03.23UPDATE
2021年03月号掲載
Member:Amy Lee(Vo/Pf)
Interviewer:山本 真由
自由になって自分の望むものをやってみて、他のものをやっても OKだという確信ができたら、逆にこの手の音楽に戻りたくなった
-もちろん他の楽曲も気に入っているので、このあと詳しく聞かせてください。ところで、昨年12月には新曲を披露するオンライン・ライヴ("A Live Session From Rock Falcon Studio")も開催されました。あれはアルバム完成直後ということになりますよね?
そうね。というか、実はまだ終わっていなかったんだけど(笑)、1週間オフを取って準備に専念したの。
-普段は大勢のオーディエンスの前で歌っているのが、このときはパソコン(のカメラ)しかなかったでしょうし、普通のライヴとは手応えなど違ったのではないかと思いますが、新しい試みとしていかがでしたか?
確かに手応えが違ったね。このコロナ禍ではいろいろ新しい方法を探していくことがとても大きいの。それ自体とてもインスピレーションになった。新しい方法を探して、それが見つかったとき――自己表現や、音楽を世に出して、ファンと繋がる手段が見つかったときの満足感は大きいのよ。希望や、インスピレーションを感じることができるの。"私たちを落ち込ませるものなんてない! 私たちを止められるものなんてない!"と思える。私はそう感じたし、ファンも感じてくれたんじゃないかな。それから、このコロナ禍では必要なときに友達に助けを求めることの大切さを知った。謙虚になって助けを求めることをね。その例が「Use My Voice」。あの曲は2年くらいかけて温めていたんだけど、どうしても完成できなかったの。私の女友達でVERIDIAというバンドのヴォーカルをやっているすごく上手い子がいて。Deena Jakoubっていうんだけどね。彼女がたまたま私の住む街に来ていて、いつも曲を聴かせ合ったり、それぞれの作品に対する意見を聞き合ったりするんだけど、そのときも自分が取り組んでいた曲を聴かせたの。別の曲で行き詰まっていたというのもあって。でも、最終的には「Use My Voice」のさわりのところを聴かせて"コーラスができないのよ! もうっ"みたいな感じでフラストレーションを吐き出していたの。ヴァースはすごくクールなのができて"これならいける!"と信じていたんだけど、どうにもコーラスが思いつかなくて。バンドの音どころじゃなくて、困っていたら、彼女が"ちょっと待って"と。そこから自然な流れで、あのコーラスを一緒に書いたの。メロディの部分をね。私にとって曲を書くというのは聖域で。このバンドの曲を書くことに関してはすごくガードが堅いから、それまでは誰も入れたことがなかったんだけど、このときは手を差し伸べてくれたことに関して完全にオープンな気持ちになって、自分ひとりではできないことを助けてもらおうという気になれたの。一緒にやればもっと強力になれる、という思考のプロセスから他の人の声を入れたいという気持ちが生まれて、女友達に片っ端から声を掛けて、みんな歌ってくれているのよ。ひとつになって何かに取り組むことのパワーや、強さを表現してくれているし、脇道に逸れたおかげで手に入れられたものだと思う。そういうふうに考えられるようになったのは、プロデューサーのNick(Raskulinecz)のおかげなの。彼も本当に力になってくれた。彼なしではライヴ・ストリーミングも実現しなかった。私はどうしたらいいのかわからなかったしね。あれは彼のスタジオでやったの。
-そうでしたか。
ええ。アルバムをレコーディングしたのもそこだった。そういう意味でもあのライヴはクールだったわ。"ここで今作業してます!"と言えたし、ファンにその場所を見てもらえたからね。その1ヶ月ちょっと前にパフォーマンスをするという話があってね。それは(大統領選挙の)選挙人名簿への登録を促進する(※アメリカでは自己申告で選挙人名簿に登録する)ためのものだったの。選挙人の登録をする、あるいは、自分の登録状態をチェックした人たちだけが観られるようなパフォーマンスをするという感じだったわ。そのときに"どうしよう、ひとりじゃできない!"と思ったんだけど、Nickにすごく助けられたの。メンバーそれぞれ隔離されたブースに入ってレコーディングしたものを、彼が素晴らしいミックスにしてくれたわ。本当に頼り切った感じだった。素晴らしいプロデューサーのおかげで実現したのよ。
-なるほど。そのパフォーマンスも含め、ここ10年の間には様々な表現に挑戦してきましたよね。前作でのオーケストラとの共演をはじめ、あなたのソロ活動での子供向けの作品(2016年リリースのアルバム『Dream Too Much』)などがありましたが、今回本格的なロック・アルバムに回帰したのはなぜでしょうか?
そうしたかったんだよね。そうすることが、気分が良かったのよ。いろんなクリエイティヴな道を歩いてみて、いろんな方向に行ってみて、自分のパーソナリティのいろんな面を見せたことによって、バンドが自分の義務ではなくなったの。それだけしかやっちゃいけないということではなくなった。それって私にとってすごく大切なことなの。子供の頃、私の場合は、大きくなったらなりたいものが山ほどあった。頭の中にいろんなキャラクターがあって、ひとつはロック・スター。他には獣医。もうひとつはクリエイティヴでファンキーなイケてるママ。とにかくいろんなタイプのキャラがあった。あ、あとモーツァルト! スコアを書ける作曲家になりたかったのよ! マッドな天才になりたかったの! だけど、若いうちにあれだけの成功を収めてしまったから......『Fallen』のあと、自分が本当にやりたい道を行っているのかわからなくなった時期があったんだよね。私はいわゆる"ゴス"しか許されない。黒のアイライナーで化粧して......みたいな。もちろん大好きなことだし文句を言うつもりはないけど、それ以外の私だってあるわけで。その一面しかできないというのはアーティストとして満足できない。それで、そういう縛りから自由になって自分の望むものをやってみて、他のものをやってもOKだという確信ができたら......(笑)逆にこの手の音楽に戻りたくなったの。私の本当のパーソナリティや、アーティストとしてのサウンドの巨大な部分を占めるものだからね。
-たしかに同じロックをやるにしても、もっと自信に満ちているように聴こえますね。今作は本格的なロック回帰作でありつつも、エレクトロ・サウンドの使い方や、シンフォニックな表現など壮大さに磨きがかかり、より多くのファン層へリーチする内容になっていると思います。もしかしたら、そうやっていろんな道を歩いた経験がここに生かされているのかもしれません。
生かされている、と思いたいね。勉強みたいなものだよ。教育になぞらえて考えるのも変な話かもしれないけど、幅広く探索すればするほど、そしてあらゆるジャンルのいろんなタイプのアーティストや、ミュージシャンとコラボすればするほど、いろんなことを学ぶことができるからね。コラボ仲間で、一緒に仕事するのが大好きな相手のひとりが、友人でチェリストのDave Eggarなんだけど、彼が一番成功しているのはジャズなの。私は学ぶことが大好きだから、彼からもたくさん学んでるよ。私がDaveから学んでいると言っても、今後EVANESCENCEにジャズの要素が入るというわけじゃないけど(笑)、そうすることによって思考する者、ミュージシャン、クリエイターとしての心が開かれるの。どうしてこんな曲の構造になるのかとか、そういうことがわかるようになるんだよね。どうしてブリッジのあとにコーラスが来るのかとか、いろんな疑問が浮かびあがっていて、それらを実験することによって、自分の音楽を持っていける新しい境地を見いだすことができるの。
-そんなDaveも含め、今回はいろんな人の助けを得ることを覚えたとのことでしたが、今作収録の「Use My Voice」は、楽曲自体パワフルでドラマチックなEVANESCENCEらしさのある素晴らしい楽曲ですが、オフィシャル・ファン・ビデオなどの取り組みにも心を打つものがありました。女友達のみなさん......Lzzy Hale(HALESTORM/Vo/Gt)や、Sharon Den Adel(WITHIN TEMPTATION/Vo)、Taylor Momsen(THE PRETTY RECKLESS/Vo)なども参加しています。この楽曲や、コラボはどのようにして生まれたのでしょうか?
「Use My Voice」に参加してくれた人たちは普段から十分親しいから、普通にメールを送って"ちょっと手伝って"と言える相手なの。あんなにパワフルな女性たちと縁があって本当にラッキーだと思う。有名な人たちだけじゃなくてね。たまたま彼女たちは名が知られている素晴らしいシンガーだけど、他にも素晴らしいシンガーの妹がふたり(実妹のCarrie LeeとLori Lee)参加してるわ。それに、有名なヴァイオリン奏者のLindsey Stirlingも(バック・シンガーで)参加しているのよ! 私の友達のパワーとフィーリングと感情を集めて、私と縁のある強い女性たちとが、一緒にあの曲の中で立ち上がっているというのがあの曲の一番大事なところなの。何よりもね。......でね、参加は電話1本でオッケーだったわ(笑)。
-超ゴージャスなガールズのラインナップですよね。
そう~! 本当に誇りに思ってる。同時に謙虚な気持ちにもなれるの。彼女たちには借りができた。もし今後私があの中の誰かとコラボすることがあったら、"借りを返してるんだな"と思ってくれればいいよ(笑)。
-(笑)残念ながらパンデミックのせいで同じマイクに向かってコラボ......とまではいかなかったでしょうね。バンド内でもJen(Majura/Gt)はドイツ在住ですし。と言いつつ近年では、離れたところに住んでいるメンバー同士が、データを送り合って楽曲を制作するというバンドも少なくないので、パンデミックのなかでも制作にはあまり支障がないということもあるかもしれませんが、今作に関しては、どのような制作プロセスが採用されたのでしょうか?
プロセスの多くはいつもと同じだったよ。ひとりで作業する部分とみんなで作業する部分があって。パンデミックの前には運良く共同作業することができたけど、十分ではなかったね。他の共同作業はJen抜きでやらないといけなかったから。Jenはリモートで作業しないといけなかったから、本当にがっかりしてた。彼女にとっては本当につらい時期だったと思う。最悪だよね! 初めて彼女もアルバム作りに参加できることになったのに。