FEATURE
FALL OUT BOY
2025.10.17UPDATE
2025年10月号掲載
Writer 山本 真由
ムーヴメントを起こし、その終焉を見届け復活と共にロックを再興させた功労者
2000年代のポップ・パンク/エモ・シーンを代表するバンドの1つであり、今なおヒット作をリリースし続けるトップランナーでもある、FALL OUT BOY(以下:FOB)。今年の夏は"SUMMER SONIC 2025"のヘッドライナーも務める等、これまでにフェスや単独公演での来日の歴史があり、ここ日本でも高い人気を誇るバンドだ。
そんなFOBの2ndアルバムであり、メジャー・デビュー・アルバムでもある『From Under The Cork Tree』(2005年)が、今年リリース20周年を迎えた。本作は、彼等のメインストリームでの成功を決定付けた作品であり、「Sugar, We're Goin Down」や「Dance, Dance」といった大ヒット・シングル等、今もなお色褪せることがない名曲を数多く収録した作品である。
そもそも、彼等はFueled by Ramenからリリースされた1stアルバム『Take This To Your Grave』(2003年)の時点で、すでに新鋭のポップ・パンク・バンドとして注目されていた。そのため、1stアルバムのリリース後間もなくユニバーサル ミュージック グループ傘下のIsland Recordsとの契約が決定し、潤沢な資金と環境、ゆとりあるスケジュールを得て『From Under The Cork Tree』の制作に取り掛かることとなった。その上、NEW FOUND GLORYの『Sticks And Stones』(2002年)やYELLOWCARDの『Ocean Avenue』(2003年)等、ポップ・パンク/エモ・シーンにおける重要な作品を手掛けたNeal Avronがプロデュースし、あらかじめ"売れることが想定された"アルバムとして制作環境が整えられたことで、バンドにとってはこれまでにないプレッシャーのなか制作されたのではないかと思う。しかし、その大いなる期待に応え、バンドはロック史にその名を遺す名盤『From Under The Cork Tree』を完成させた。この作品は、全米のアルバム・チャートTOP10入りを果たし、アルバムを引っ提げたワールド・ツアーも成功させる等、FOBの知名度をグッと引き上げただけでなく、当時のポップ・パンク/エモ・シーンにも大きな影響を与えた。
90年代に、THE OFFSPRINGやGREEN DAYといったバンドが、キャッチーな音楽スタイルでパンク・ロックを大衆化させ、それがスケート文化やエクストリーム・スポーツ界隈の文化、ファッション等ともリンクし、2000年代初頭には多くのポップ・パンク・バンドがシーンを賑わせることとなる。当時は、BLINK-182の4thアルバム『Take Off Your Pants And Jacket』(2001年)が、商業的にも大成功を収めMTVを席巻し、デビュー・アルバム『All Killer No Filler』(2001年)をリリースしたSUM 41が、同世代のキッズの共感を集めて一躍人気バンドの仲間入りを果たす等、とにかくシーン全体がワクワクするような盛り上がりに満ちていた。そんななかで、鳴り物入りでデビューしたのがそう、FOBというわけだ。
ベーシストのPete Wentzは、FOB結成前から、シカゴのハードコア・パンク・シーンにおいて複数のバンドで音楽活動をしていたが、自分のやりたい音楽に専念するためにギタリストのJoe TrohmanとFOBを結成した。そして、メンバーを集めるなかでPatrick Stumpをヴォーカルとしてスカウトして活動を開始し、その後何人かドラマーの交代を経てAndy Hurleyが合流。現在のFOB不動のラインナップが揃った。彼等は、そんなハードコア・パンクやポップ・パンク・シーンの系譜として誕生し、デビュー・アルバム『Take This To Your Grave』も、当時の潮流に合ったポップ・パンク色の濃い作品だったが、ブレイクスルーした『From Under The Cork Tree』では、独自のエモ・ポップ路線を開拓し、オリジナルな存在感を強く印象付けた。
その後、2000年代後半から2010年代にかけて膨れ上がったポップ・パンク・シーンは、様々なスタイルに細分化され、激しいスクリームを取り入れたエモ・バンドは、よりアグレッシヴなサウンドを追及し、ポストハードコアへと進化。反対にポップ路線に振り切ったバンドはダンス・ミュージックを取り入れ、FOBの弟分とも言えるPANIC! AT THE DISCOやCOBRA STARSHIPといったバンドのようにポップ・ミュージックとの親和性を高めていった。
そんななか、独自の音楽スタイルを進化させ、もはや"パンク"という形にこだわらなくなったFOBに対し、古参のファンが拒否感を示した。4thアルバムの『Folie À Deux』(2008年)は、ビルボード・チャートで8位にランクインする等、十分にヒット作と言えるのだが、前作『Infinity On High』(2007年)が1位を獲得しロングヒットとなっていたことで、"4thはあまり売れていない作品"というイメージが付いて回ってしまった。そのように、バンドが売れて規模が大きくなったことで、大きな成功を維持するプレッシャーが肥大化してしまい、2009年にバンドは無期限の活動休止を発表する。そして、散り散りになったポップ・パンク・シーンそのものも下火となっていき、音楽チャートはヒップホップやEDMが席巻、バンドやロックそのものが徐々に日陰に追いやられる時代に突入した。
FOBのメンバーは、休止期間もそれぞれに新しいチャレンジをしつつ音楽活動を続けていたが、2013年に活動再開し、同年4月にはシーンに衝撃を与えたカムバック・アルバム『Save Rock And Roll』をリリース。同作は全米チャートで見事1位を獲得し、ロックが鳴りを潜めていた音楽シーンを一喝し、文字通りロックを救う作品となった。その後のFOBの躍進は言わずもがな、出すアルバムは軒並みヒットし『American Beauty/American Psycho』(2015年)はゴールド・ディスク、プラチナ・ディスクに認定。大規模フェスでヘッドライナーを務める、ロックの番人とも言える存在になっている。
そんな彼等の足跡の1歩が、今回20周年記念盤として再リリースされる『From Under The Cork Tree』だ。タイトルは、アメリカの児童文学作家、マンロー・リーフによる名作絵本"The Story of Ferdinand(邦題:はなのすきなうし)"からの引用。絵本に出てくる牡牛のフェルジナンドは、闘牛よりもコルクの木の下で花の香りを楽しむことが好きな大人しいマイペースな牛で、"自分らしくあること"や"穏やかな強さ"の大切さを教えてくれる。ポップ・パンクやエモといったジャンルは、アンダーグラウンドなパンクやマッチョなハードコアから派生して、よりエモーショナルで文学的、パーソナルなテーマで親しみやすく変化していったものだし、本作がまさしく当時の"エモ・パンク"を象徴するような作品として歓迎されたのも、彼等のそうした文化的背景によるものだろう。ちなみに、収録曲「Sugar, We're Goin Down」や「Dance, Dance」は全米TOP10シングルとなり、翌年の2006年にはバンドはグラミー賞の最優秀新人賞にもノミネートされている。これだけでも、彼等がメジャー・デビュー当時から、頭一つ抜きんでた存在として異彩を放っていたことが分かる。そんなアルバムのもとの収録曲に加え、今回の記念盤では、人気楽曲のライヴ・バージョン、そしてレア・トラックの「Start Today」(ハードコア・バンド GORILLA BISCUITSのカバー)も収録した豪華な内容だ。
Fall Out Boy - Sugar, We're Goin Down (Official Music Video)
Fall Out Boy - Dance, Dance (Official Music Video)
ずっと変わらないスタンスでファンを喜ばせ一定の人気を維持しながら、パワフルな演奏を続けているバンドはたくさんいるが、FOBのように常に新しい世代を満足させる楽曲を生み出し続けるバンドはそういない。彼等は変化を恐れないし、大衆的であることを恥じないし、むしろそういった外的な評価は関係なく自分たちが満足するもの、やりたいことを続けているだけなのだ。大きなブームの潮流に乗っているバンドの1つと思われていた頃は、それが一部の原理主義的なファンの反感を買ったり、評論家から軽視されたりすることになったが、その後の成功が、彼等が正しかったことを証明している。本作はそんな彼等を長年支えた熱心なファンに刺さるのはもちろんのこと、幅広い音楽ファンが彼等の魅力の源泉を改めて発掘することに繋がるだろう。
▼リリース情報
FALL OUT BOY
ALBUM
『From Under The Cork Tree (20th Anniversary Edition)』
【3LP輸入盤】【2CD輸入盤】
NOW ON SALE!!
TOWER RECORDS
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