FEATURE
FALL OUT BOY
2013.07.16UPDATE
2013年07月号掲載
Writer 山口 智男
2013年3月14日(木)の深夜。毎年3月に開催される世界最大規模の音楽見本市、South By Southwest(以下SXSW)に参加するためテキサス州オースティンを訪れていた筆者はダウンタウンにあるホテルの部屋で明日、見ようと考えているライヴのスケジュールを確認していた。その時、突然、3つの単語が目に飛び込んできた。
FALL OUT BOY――息が止まりそうになった。日本で出演バンドをチェックしていた時はまだFOBの出演は発表されていなかったはずだ。その彼らが明日の深夜1時から演奏する!!2000組以上のアーティスト/バンドが4日間にわたって熱演を繰り広げる巨大フェスティバルだ。出演しているにも関わらず、どうかすると見落としてしまうアーティスト/バンドも少なくない。アブない。アブない。FOBの出演を見落とすところだった。その時点で彼らが4月2日に恵比寿のLIQUIDROOMでライヴをやることは知っていた。しかし、3週間後まで待っていられなかった。1日でも早くFOBの復活を見届けたかった。
そこで元SOMETHING CORPORATE / JACK'S MANNEQUINのAndrew McMahonを観た後、FURTHER SEEMS FOREVER / DASHBOARD CONFESSIONALのChris Carrabbaの新バンド、TWIN FALLSを見ようと考えていた予定を急遽変更。Andrewのライヴを見ると、FOBが演奏する2ブロックほど離れたところにあるヴェニューに移動。1階のスタンディング・フロアーはすでにすし詰め状態だったので、2階のバルコニーに上がると、そこもいっぱいだった。しかたなく3階のバルコニーに上がる階段の踊り場で、店のスタッフから“立ち止まるな!”と言われないことを祈りながら見ることにしたのだが、階段もすぐに身動きできないほど人で埋まってしまい、“この階段、崩れ落ちるんじゃないか?!大丈夫か?”とライヴの間ずっとひやひやしっぱなしだった。
しかし、ライヴはよかった。そんな思いをしても見る価値は十二分にあった。正直、きつい照明とスモークから時折、浮かび上がるメンバーの顔がちらっと見えただけで、ステージはほとんど見えなかったのだが、音からだけでも彼らの気迫は伝わってきた。
何よりも嬉しかったのはファンの盛り上がりだ。そこにいるほぼ全員が歓声とシンガロングで、帰ってきた4人を大歓迎した。終演後、ヴェニューを出る時、筆者の後ろにいた若者がこの日最後に披露した「My Songs Know What You Did In The Dark (Light Em Up) /僕の歌は知っている」の“I'm on fire!”というサビを歌っていたのが、なんだかすごくいい感じだった。ここにいるファンだけじゃない。きっと世界中のファンが彼らの帰還を待ち焦がれているに違いない。4年ぶりの復活を見届けることができた筆者も大満足だった。
2009年、FOBは無期限の活動休止を発表した。デビュー以来、ノンストップで活動を続けてきた彼らは休息を必要としていたのだ。周囲の誤解、メンバー間の軋轢。さまざまなフラストレーションが溜まっていた。考えてみれば、ついこの間まで地下室で演奏していたハードコア・キッズはあっという間にロック・スターになってしまった。そのまま続けていたらバンドは空中分解して、二度と元に戻らなかったかもしれない。
活動休止している間、ご存知のとおり、メンバーたちはそれぞれにソロ活動に精を出していた。ANTHRAXのScott Ian(Gt)、EVERY TIME I DIEのKeith Buckley(Vo)らとTHE DAMNED THINGSを組み、『Ironiclast』というアルバムもリリースしたJoe Trohman(Gt)とAndy Hurley(Dr)は、自分たちのルーツであるハードコアやメタルを演奏するため、複数のバンドで演奏することを楽しんだ。
Patrick Stump(Vo)もワンマン・レコーディングというやりかたで大好きなR&Bを追求した。その試みはソロ・アルバム『Soul Punk』に実り、その後、Patrickはバンドを従え、FUJI ROCK FESTIVALに出演した。
Pete Wentz(Ba)はよりポップなサウンドを追求するため、女性シンガー、Bebe RexhaとBLACK CARDSを組み、ライヴ活動やレコーディングを行っていた。
その頃の彼らと言えば、あまりにも巨大になりすぎていたFOBから解放され、メンバーそれぞれにFOBにいた頃はできなかったことを楽しんでいるように見えたものだ。しかし、その間もPatrickとPeteは連絡を取り合い、曲作りを続けていたことが、彼らが5年ぶりにリリースした『Save Rock And Roll~FOBのロックンロール宣言!~』のリリースと共に明らかにされた。
FOBを忘れたわけではなかった。メンバーそれぞれに自分の人生と1人のミュージシャンとしてのキャリアを取り戻しながらも常にFOBのことが頭にあったというところが――浪花節的と言われるかもしれないけれど、いいじゃないか。メンバーたちのFOBを大事に思う気持ちが窺える。
そんなことを思いながら、8月7日にリリースされる『Live In Tokyo』を聴けば(見れば)、その感動はより深いものになる。4月2日、LIQUIDROOMでFOBが行った一夜限りのプレミアム・ライヴのハイライトを、CDとDVDに収録した『Live In Tokyo』。FOBにとって6年ぶりとなるSUMMER SONIC出演を記念してリリースされる日本独自企画の作品だ。当日のライヴについてはここでは繰り返さないが、バンドとファンの関係が何も変わっていないことを印象づけるものだったということだけ今一度記しておきたい。
当日、演奏した全21曲から選ばれたのは、「Thriller」「This Ain't A Scene, It's An Arms Race~フォール・アウト・ボーイの頂上決戦」「Grand Theft Autumn / Where Is Your Boy」「Dance, Dance」「I Don't Care」「My Songs Know What You Did In The Dark (Light Em Up)/僕の歌は知っている」「Beat It/今夜はビート・イット」の7曲。
毎回、冒頭のアカペラから大合唱になる「Grand Theft Autumn / Where Is Your Boy」をはじめ、彼らのライヴに欠かせない代表曲ばかりだ。「My Songs Know What You Did In The Dark (Light Em Up)/僕の歌は知っている」は『Save Rock And Roll』からの新曲。この夜、日本のファンのために初めてライヴで演奏したという新曲の「The Phoenix」が収録されなかったのは残念だが、贅沢を言えばきりがない。日本のファンにFOBの復活を印象づけたライヴがこうして作品として残ることだけでもありがたいと思うべきだろう。
この日のライヴを見たいと切望しながら見ることができなかったファンや、当日雨が降る中会場に足を運んだファンのみならず、今回の復活を機にFOBを聴いてみようと思っている人にとっても入門編としてぴったりかもしれない。
もちろん、『Save Rock And Roll』も必聴だ。FOBらしさをアピールしながら、メンバーそれぞれに活動休止中にやっていたソロ活動の成果が反映されたことを思わせる『Save Rock And Roll』からは、彼らが活動休止を前向きに捉えていることが窺える。遠回りにはなってしまったけれど、自分たちの選択に間違いはなかった――そんな自信をアピールしているところもいいな、と『Save Rock And Roll』を聴きながら思うのである。
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