FEATURE
MY CHEMICAL ROMANCE
2014.03.18UPDATE
2014年03月号掲載
Writer 山口 智男
そんなカリスマ性がエモ文化を不健全と考える勢力から"若者を惑わせている!"とバッシングされるという現代の魔女裁判を思わせるような出来事もあったが、死をテーマにしたロック・オペラに挑戦。エモ/スクリーモの範疇に収まりきらない音楽性をアピールした『The Black Parade』(2006年10月発表)の大成功(全米2位)によって、彼らは世界規模のロック・バンドとして人気と評価を確かなものにしたのだった。
前述したとおり、2007年5月には武道館公演も実現。それまでMCRをキワモノと考え、見向きもしなかった人たちも『The Black Parade』大ヒット(オリコン洋楽チャート1位!)と武道館公演の成功以降、手の平を返したように彼らを絶賛しはじめた、という話を関係者から聞いた時は、ずいぶんと溜飲が下がったものだ。
その後、PEARL JAMやRAGE AGAINST THE MACHINEなどの作品で知られるプロデューサー、Brendan O'Brienと組み、MC5やTHE STOOGESのようなサウンドを目指したロック路線のアルバムを完成させたものの、自分たちが今、作るべき作品なのかと考えたのか、結局お蔵入りにすると(その時の楽曲は『Conventional Weapons』シリーズとして2012年9月から5ヶ月間にわたって、2曲ずつ配信と7インチ・シングルという形で発表された)、『The Black Parade』を手掛けたプロデューサー、Rob Cavalloと一から作り直した『Danger Days: The True Lives Of The Fabulous Killjoys』を、2010年11月にリリース。その『Danger Days』は全米8位と前作ほどチャート・アクションは振るわなかったものの、ニュー・ウェイヴやデイスコ・サウンドも取り入れたカラフルかつポップな作風からは、バンドの野心が感じられた......と、当時は思ったものだが、ひょっとすると、Brendan O'Brienと完成させたアルバムをお蔵入りにしたところから新たな方向性を模索しながらバンドはすでに求心力を失っていたのかもしれない。
今回、リリースされるベスト・アルバムには彼らがリリースした4枚のアルバムからの15曲に加え、メンバーが一緒にスタジオで最後に作り上げた「Fake Your Death」という未発表曲と結成間もないMCRがレコーディングした、いわゆる「Attic Demo」と呼ばれる初期デモ音源3曲が加えられている。
つまり、4枚のアルバム以前と以後も含め、MCRというバンドの歩みを辿ることができる選曲になっているわけだ。Gerardはベスト・アルバムにこんなコメントを寄せている。
"バンドにさようならを言うのはすごく悲しいけど、このベスト・アルバムは、俺たちの最高の楽曲たちを祝福してくれる完璧なコレクションだと思っている、この楽曲たちが、君たちに、そして俺たち自身に与えてくれた〈喜び〉というものを、これからも伝え続けてくれることになるからね"
MCRが初めて作ったという「Skylines And Turnstiles」、その後、「Our Lady Of Sorrows」と改題される「Knives / Sorrow」、そして「Cubicles」の初期デモ音源の3曲は正直、そのショボさに、よくぞ収録した!と逆に拍手を贈りたいが、デビュー・アルバムのヴァージョンと聴きくらべれば、誰もが曲のブラッシュ・アップが連想させるバンドの急成長に驚かずにいられないだろう。その間、わずか数ヶ月。
そして、彼らが最後に残した美しいピアノ・バラードの「Fake Your Death」が印象づける成熟を思えば、MCRというバンドがものすごいスピードで成長しながらロック・シーンの頂点を究めたことが理解できるはずだ。それを考えれば、突然の解散は必然だったのかもしれない。
現在、メンバーたちはそれぞれに音楽活動を続けている。近い将来、新しい音楽をひっさげ、日本のファンの前にも戻ってきてくれるに違いない。
『May Death Never Stop You - The Greatest Hits 2001-2013』は全19曲収録の通常盤に加え、ミュージック・ビデオのアウトテイクなどを収録したDVDをカップリングした2枚組デラックス・エディションもリリースされる。