LIVE REPORT
キズ
2023.08.26 @豊洲PIT
Writer : 杉江 由紀 Photographer:小林弘輔、浜野カズシ
生傷ができてしまうのは、もはや仕方ないことと言えよう。多分これは不可抗力で、とにかくキズというバンドがステージ上にて我々へと向けて発する音、思念、パフォーマンスはどれも鋭い。しかも、彼らはその刃に目いっぱいの気迫まで込めて振り上げるものだから、向き合おうとする者は多少の負傷を覚悟で向き合う必要があるわけなのだ。
だが、無難で生ぬるい消費型の音楽とは違って、そのぶんだけキズの生み出す音楽には様々な形の生々しいリアリティと説得力が詰まっている。その圧倒的な訴求力に惹きつけられてしまったが最後、聴き手は生傷を作りながらでも、キズの音楽やキズの呈する世界にどっぷり浸りたい、と渇望してしまうことになるのではなかろうか。
"みなさん、ここが日本で一番でっかいライヴハウスです。1stワンマンをやったときの約束を覚えてますか? とりあえず、ここが日本で一番でっかいライヴハウスです。みんなほんとにありがとう!"(来夢/Vo/Gt)
残念ながら、2017年8月に彼らがEDGE Ikebukuroにて"1st ONEMAN「失敗」"を開催した当時のことに当方は不案内だ。ゆえに、当時の来夢がその場でどのようなことを語ったのかは今ひとつ不明。ただ、客観的事実を述べるならば、この夜の会場となった豊洲PITが、満杯の完全ソールド・アウト状態であったことは確定事項でしかない。都心から微妙に遠いこの会場までわざわざ足を運び、キズを生で観たい! と思った人が多々集まってこの大会場を埋め尽くした、というのは揺るぎない現実であるはず。
かくして、まずは"ついて来な楽園へ"という歌詞が印象的に響いた「ストロベリー・ブルー」で幕を開け、きょうのすけの轟かせたフロアタムがいいスパイスになっていた「ステロイド」、reikiの弾くギター・ソロが楽曲の持つポテンシャルをブーストさせていた「鳩」、ユエの熱量高めなベース・ソロが際立っていた「豚」など、本編前半から中盤にかけての流れも聴きどころ/見どころは満載だったが、今回の公演で特に圧巻だったのはライヴ・タイトルとも響き合う「傷痕」を皮切りとした本編後半にかけての下り。
ここからのステージングは半ば神懸かり的な濃密さに溢れており、ラストを締めくくった「リトルガールは病んでいる。」に至っては、来夢の絶唱が聴衆の心を鷲掴みにすることに。
またアンコールでは場内に演出として巨大バルーンが飛び交った初披露の新曲「Bee-autiful days」を披露。
来夢が"夢を唄う血と骨で音奏で"とギターを肩にかけながら歌ったラスト・ソング「黒い雨」を聴きながら、このライヴに接することでできた生傷が乾き切らないうちに、またキズに傷をつけてもらいたいものだと感じていたのは......何も筆者だけではあるまい。
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