LIVE REPORT
SiCX
2017.08.20 @新宿club SCIENCE
Writer 杉江 由紀
親しき仲間たちに祝福されながらの記念すべきパーティーをもって"船出"することができたSiCXは、とても幸せなバンドだと言えるに違いない。
夏にメジャー第1弾アルバム『INITIUM』を発表したSiCXが、このたび新宿club SCIENCEにて行ったのは、その名も[SiCX presents"Pit of Madness vol.4" -SiCX 1st Full Album "INITIUM"Release Party-]だ。
沖縄出身のNaokiがフロントマンを務めるだけあって、南国情緒溢れる歌メロが持ち味のTEDANUFAや、シューゲイザー的ギター・ロックの方法論で独特な密室的音像を描くDISH、岐阜の雄としてキャリア17年ならではの筋金入りR&Rを聴かせるTHE BROTHELS、英詞を軸とした疾走感溢れるサウンドが身上の多国籍バンド COUNTLOSTなど、このたびはSiCXとかねてから親交のあるバンドたちが有志としてこのパーティーに参加することになり、それぞれに渾身のパフォーマンスで場を派手に盛り上げてくれることに。
もちろん、この夜の大トリおよび主人公として最後にステージ上へと君臨したのはSiCXにほかならず、アルバム『INITIUM』でも冒頭を飾っていたアッパー・ロック・チューン「OUTSIDE CREATURE」を威勢よくブチあげるところから、このパーティーはいよいよ佳境を迎えることになったのである。
暴れんばかりに躍動するKEIICHIROのドラム・プレイと、うねるようにドライヴするCHiKARaのベース・フレーズがアクセルを踏み込んだ「the grim reaper's scythe」。KatsuhikoとYU-$UKEの織り成すギター・アンサンブルが奥深い味わいを醸し出し、歌メロに合わせてオーディエンスがシンガロングする光景も垣間見られた「Myth from dark」。リリース・パーティーというだけあって、全曲が『INITIUM』の収録曲によって構成されていた今宵のライヴでは、まさにリアルタイムなSiCXの実像というものが全編にわたって具現化されていたのではなかろうか。
"みんな、集まってくれてありがとね! ツアーが今日から始まるんですけど、文字どおりにこれは「ここから始まる」っていう意味だからさ。俺たちの始まりを体感したり、目撃できるのはここにいるあなたたちだけなので、今日は思う存分楽しんでいってください!"
ヴォーカリスト・SHOがこう述べたあとに演奏された「Room #100」において、切なさを孕んだメロディ・ラインがSHOの表現力によってより輝きを増したものとして聴こえてきた点も、この夜のライヴを語るうえでの特筆すべき点だった。とかく、パっと見のイメージや全体的な雰囲気からは"SiCX=ちょっとイカつそう"という印象がどうしてもありがちなものの、意外や意外に彼らの生み出している楽曲の多くはキャッチーな要素を持ったものが実は多いのだ。むろん、硬派なバンドとしてのこだわりは常に根底の部分で流れているにせよ、今作『INITIUM』がいい意味で聴きやすいロック・アルバムとして仕上がっているのは事実であり、この点をより打ち出していくことでさらに広い層へとSiCXの認知を広げていける可能性は相当にあると思われる。
なお、この夜のライヴでは盛り上がりについで聴衆たちが豪快なクラウドサーフを始めた「Strawberry Fields」や、アタック感の強いビートがハジけた「Taking hope」を披露したあと、メンバーの仕掛けたサプライズにより、リーダーであるかっちゃんことKatsuhikoの誕生日を場内に居合わせた人々がこぞって祝う一幕があったこともここに付記しておきたい。(ちなみにここでKatsuhikoに贈られたのは、なぜか生ジャガイモを使ったアクセサリー。彼は苦笑しながらも実際に身につけてみせたのだった......)
"本当に今日はどうもありがとね! こうして観てもらえればわかるとは思うんだけど、今の俺らがずっと変わらずみんなに伝えようとしているのは「自分とどう向き合うか」っていうことなんだよ。それだけで、人って必ず変われるし、ひとりで「誰も何もしてくれない」って神様を拝んでいるだけじゃ、そんなの何も意味ないじゃん。そんなんじゃなくて、俺らみたいに仲間を見つけたり、自分の好きなことを見つけて、やっていこうよ。そしてもし、外に出て何かイヤなこととか、「これもう超ムリ。死んじゃいたいな」とかって思ったときは、みんなでまたこうやって集まって遊ぼうよ! 約束だぞ!!"
バースデー・サプライズのくだりでひとしきり和んだあと、少し仕切り直すようにSHOが発したのはこの言葉だった。
また、ついにテンションMAXとなったSHOがフロア・ダイブを敢行した「Faceless」のあとには"これまでSiCXに関わってきてくれた、すべての人に感謝します。これからも、よろしくお願いします!"という真摯なひと言が添えられたうえで、この記念すべき夜は親愛なる人々へと向けた「DEAR HATERZ」でしっかりと締めくくられた。
だが、いかんせんSiCXはこの夜をもっての新たなる船出を始めたばかりだ。現状ではまだ今年11月いっぱいまでのスケジュールが発表されているにすぎないが、この続行中となるツアーのタイトルは[SiCX 1st Full Album"INITIUM"Release Tour 2017-2018]。つまり、この航路は年をまたぎ2018年へと繋がっていくことが決定していることを意味していることが明白。数々の街へと寄港しながら、果たしてSiCXが何を得て何を吸収していくのか。ここはやはり、その点に大いなる期待をしていきたいものだ。
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