INTERVIEW
Paul Gilbert
2023.04.06UPDATE
2023年04月号掲載
Interviewer:井上 光一 Translator:安江 幸子
-偉大なヴォーカリストであると同時に、偉大なギターの先生でもあったのですね。どの楽曲でもメロディをただなぞるのではなく、メロディや歌詞に込められたRonnieならではのエモーションや細かいニュアンスまでもが、見事にギターで表現されていますね。これも以前にあなたが語っていたこと(※2021年6月号掲載)ですが、"ギタリストでありながらシンガーの役割を果たす"という目標にまた一歩近づいたと感じていらっしゃいますか。
そうだといいね。Ronnieの歌い方にはできるだけ近づこうとした。自分のスタイルを一番出したのはギター・ソロじゃないかな。速くてクレイジーな箇所があったら、僕ならではの"速くてクレイジー"なバージョンを弾いて(笑)。メロディは維持していたと思うけど......Tony Iommi(BLACK SABBATH etc.)やRitchie Blackmore(DEEP PURPLE/RAINBOW etc.)、Vivian Campbell(DIO etc.)も、わーっと弾くことがあるからね。その箇所を聴いて"あぁ、これは僕も好きに弾いていいってことだな。ライセンスを貰ったようなもんだ"と思ったよ。どんなギタリストも、速弾きにはその人独特の流儀があるような気がする。ひとつだけじゃなくてね。自分を一番出したのはその部分じゃないかな。
-そこに、これまで培ってきた"本能"が生かされるわけですね。
というか、その"本能"も彼らみたいなギタリストを聴いて培ってきたものだからね。僕の初期のギター・ソロはTony Iommiをコピーしながら磨いていったものが多かったんだ。今はもう少し複雑だったり洗練されていたりするものを弾いているけど、その中心にはいつも、12歳の頃に聴いたTony Iommiがいるんだ。
-自分が聴いて育ってきた曲をいざカバーすることになって、そういう素晴らしいミュージシャンたちの名演を改めてひもといてみていかがでした? キッズのときに練習した曲もあるでしょうし、ギターを始める前から親しんできた曲もあるかもしれませんが。
今のほうが音楽耳が肥えているから、ディテールをピックアップするのがうまくなったと思うね。全体としては、そういうリフを弾くたびに、腕の毛が逆立ったんだ。"なんで音楽を聴くと腕の毛が逆立つんだろう?"と思うようになったよ。ある意味ミステリーだよね。猫は、脅威や恐怖を感じたときに毛を逆立てる。僕もRonnieの曲を聴いたりプレイしたりするときにすごくパワフルなエモーションを感じて、"生きるか死ぬか"に近い感じが伝わってくることがあるんだ。
-あぁ、なるほど。
それだけ彼の音楽が重要だってことだね。この音楽は僕を重要な境地に連れていってくれる。闘って生きるか、それとも打ち負かされて死ぬかの場所にね。実にドラマチックだよ(笑)! と思うのが僕はハッピーだね。僕にとってRonnieの音楽はそこがいいんだ。"海辺でドリンクでもすすりながらのんびり聴くか"ってタイプの音楽じゃない。それはまた別のフィーリングだからね。Ronnieの音楽はリラックスするためじゃない、闘いの準備をするような感じの曲なんだ(笑)。でもグッド・ニュースがあって、Ronnieが毎回勝つんだ(笑)!
-その強烈なパワーを受けて立ってくださってありがとうございます(笑)。個人的に特に驚かされたのが「Holy Diver」の原曲の歌い出しで、長いイントロのあとにRonnieが"Mhhh-hm-hmm"とハミングするところです。あなたのギターは本当にRonnieが歌っているかのように聴こえました。彼の声をサンプリングして入れたのかと。
(爆笑)それは嬉しいね。ありがとう(笑)!
-そういう人間の声ならではのもの、例えばハミングですとかブレスですとか、ギターで再現するのは大変だったと思いますが。
秘訣としては、ほら、ヴォーカリストは言葉を歌うだろう? ギターでは人間の口みたいな"言葉"の出し方はできない。でもそれに少し近づくことはできる。それは、どんな言葉にも母音があるからなんだ。ニホンゴで言うところのア、イ、ウ、エ、オだね。母音のサウンドはピックのハーモニックで再現することができるんだ。ピックで弦をはじくと(※手でその真似をしながら)イ、オ、イ、オという感じにピックで母音の形を作ることができる。
-なんと。
そうなんだよ。僕はずっとそれをやっていたんだ。そういう表現をするのにものすごく重要だからね。ヴォーカルにグッと近づくことができるんだ。
-そういうことをやるギタリストは多いんでしょうか。それともあなただからこそできること?
いや。ピック・ハーモニクスの例はいろいろあるよ。僕はZZ TOPのBilly GibbonsやEddie Van Halen(VAN HALEN)、Michael Schenkerとかを聴いて学んだんだ。やっているギタリストは本当にたくさんいるけど、まったくやらないギタリストもいる。そういう人はもっと均一な音を出す傾向があるね。音が一貫しているんだ。でも僕としては、シンガーをコピーするときの秘訣のひとつに、コントラストを作るというのがある。一貫性を持たせたくないんだ。ある音の次の音が全然違ったら、それが言葉のサウンドを作る。例えば......"Holy"という言葉。オ、イ(が母音)だよね。その法則に則っていったら、本物のヴォーカルみたいに聞こえるんだ。
-なるほど......たしかに"a"ひとつとっても、いろんな"a"がありますもんね。
その音がなんでも、コントラストを作る方向性で行くんだ。
-とても興味深いです。ありがとうございます。オリジナリティの発揮どころについては先ほど話に出てきましたが、ご自分のオリジナリティと原曲のバランスはどのくらい意識していましたが。
自分のオリジナリティについては特に気にしなかったんだよね。できるだけRonnieに近づきたかったんだ。そして音楽が自分の中を通って流れていって、そこから学びながら楽しみたいと思った。さっきのギター・ソロの話みたいに自分のリックをやった箇所もあるけど、それが僕のメインのゴールではなかった。僕のゴールはRonnieをできるだけ正確に再現することだったんだ。もちろんそれは無理なことなんだけどね。ギターと声というのはまったく違う楽器だから。そこが面白いところなんだ。翻訳みたいなものだよ。まったく同じものにはならないけど、その翻訳具合が興味深いものになる。僕はできるだけハードにその路線を突っ走ってみたんだ。その結果が、こういうわけだね。
-翻訳とオリジナルを同時に生み出していたんですね。
オリジナルの部分と言えば、その翻訳結果を得るメソッドかな。テクニックをいろいろ編み出してあのサウンドを作ったからね。例えばスライド・バーを使った箇所がいくつかあるんだけど、僕はスライド・バーにマグネットをつけたんだ。そうすれば早く手が届くからね。そりゃスタジオではオーバー・ダブできるけど、実際にライヴでノーマルとスライドを使い分けないといけないから、マグネットがあると便利なんだ。それから、自分が先生をやっているのも役立っているね。通常弾いているときは本能で弾いているけど、教えるときは"フィーリングでプレイしなさい"なんて言えない。一般論すぎるからね(笑)。先生としては、細かいところまで噛み砕かないといけない。生徒の音を聴いて"何か違う気がする。どうしてかはわからないけど"なんて言うこともあるけどね。僕の仕事はその音をしっかり聴いて"しっくりこないのは一本調子になっているからだ。コントラストが必要だね"と言えるようにすることなんだ。じゃあそのコントラストとは何か。さっき母音のコントラストの話をしたけど、ひとつの音をどのくらい伸ばすかというのもコントラストとして大事なんだ。プレイした音をサステインしてどこまで伸ばすか。途中でストップするならどのくらい早く切るのか。どの音を短くしてどの音を長くするのか。シンプルなコンセプトに聞こえるけど、教える立場からすると本当に難しいことだし、本能が発達していないんだ。でもシンガーにとっては表現方法の大きな部分でもある。
-たしかに。
ほら、"Holy Diver"(※Diverを"ダイヴァッ"と原曲のヴォーカル風に短く切って歌う)って歌っているだろう?
-(笑)実はそれについて言おうと思っていたところでした。
急ブレーキを掛けるようにブチッと切っているよね。それを"Holy diver~"(※長く伸ばす)と歌うとひどくなるだけだ(笑)。だから、どこを長く伸ばすべきか、どこを短く切るべきか、そして実際どうやってやるのか。もし短く切りたいなら手のどの部分を使えばいいのか。教えることによってそういう答えが僕の中ではっきりしてきたんだ。ちゃんと説明できるように解明しないといけなかったからね。それを本能で弾けるように自分の中で築き上げていかないといけない。