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INTERVIEW

Paul Gilbert

2021.11.22UPDATE

2021年11月号掲載

Paul Gilbert

Interviewer:米沢 彰

今年6月にソロ16作目のフル・アルバムをリリースしたばかりのPaul Gilbertが、わずか5ヶ月の短期間で早くも次なるアルバムを送り出す。企画盤ながらオリジナル・トラック3曲に、大胆なアレンジを加えたクリスマスの名曲の数々という意欲的な作品。ジャズ、ブルースの有力プレイヤーを迎え、その半数が一発撮りで収録された本作について、ギターを抱え、時にプレイも交えながら答えてくれた、インタビューの模様をお届けする。

『Werewolves Of Portland』(2021年6月リリースの16thアルバム)から半年も経たずに新作のリリースとなりましたね。こんなにもハイペースなのに驚かされました!

ミュージシャンは音楽を作るのが仕事だからね(笑)。『Werewolves Of Portland』はだいぶ前に作ったもので、出るまでに少し時間がかかったんだ。あれをレコーディングしたのはいつだったっけ......まぁいいや(笑)。アルバムを手にしてくれる人たちから見ればハイペースに見えるかもしれないけど、僕自身のレコーディング・スケジュールは少し離れていたよ。

-今回のアルバムをレコーディングしたのは今年の夏ですよね?

そうだよ。

-暑い時期にクリスマスの曲をやるのは変な感じだったりはしませんでしたか?

実はすごく楽しかったよ。5年くらい前だったかな、どこに行ってもクリスマス・ソングがかかっていて飽きてきてね。50歳くらいの頃で、"もう十分聴いたな"と思ったんだ。クリスマス・ソングはもう聴きたくないなって(笑)。でも、今年はなぜかクリスマス・ソングの気分になっていた。夏にプレイするのはなかなか面白かったよ。それから、今回は様々な人の様々なスタイルを聴いてリサーチしたのがとても役立ったね。同じ曲でも、ある人はこのスタイル、別の人は違うスタイルでやっているのを聴いていると、その曲の気に入り方が変わることがあるんだ。中でもNat King Coleのバージョンは特に美しくて良かった。しかもすごく洗練されていたんだ。オーケストラやアレンジを手掛けた人たちが本物のミュージシャンだったんだろうな。自分たちのやっていることをちゃんとわかっている感じで、ジャズのアレンジが素晴らしかった。ロック・ミュージシャンとして聴いてみても素晴らしいと思ったよ。

-クリスマス・アルバムというのは昔からやりたかったことなのでしょうか。Paul自身、念願のギターを手にしたのもクリスマスがきっかけなんですね。

あぁ、そうだったね。たしか15歳くらいの頃、両親へのプレゼントにヘヴィ・メタルのクリスマス・アルバムを作ったんだ。

-それはすごいですね。

当時はヘヴィ・メタル・バンドをやっていたから、メンバーに"ちょっと手伝ってくれ"と頼んで5、6曲やったんだ。音源は今でもどこかにあると思うよ。クリスマス・ソングのパンク・ロック・バージョンみたいな感じで......(※ギターをかき鳴らして「Jingle Bells」を歌う)。RAMONESがやるような感じに弾いてね(笑)。それが初めての試みだった。今回は、ブルースやジャズをもっと知るようになって、クリスマス・ソングの中にはコード進行がブルースやジャズに近いものがあることに気づいたんだ。僕が今回選んだ曲の中にもそういうのがあるけど、ジャズのスタンダード曲に近いような感じだね。そういう曲はプレイするのがとても大変だけど、聴いていてとても楽しいんだ。あと「Rudolph The Red-Nosed Reindeer(赤鼻のトナカイ)」や「Frosty The Snowman」は、ハーモニック的には洗練されていなくて、子供向けの歌みたいな感じだよね。

-たしかに、ちょっと童謡っぽい響きがありますね。

そう。そういう曲をパンク・ロック調にするのは結構簡単なんだ。ベーシックなコードを弾けばいいだけだからね。でも今回は他の方法を考えたかった。ああいう曲に別のアレンジをするのは至難の業だけど、最終的にはなんとか道を見いだしたんだ。楽しいチャレンジだったよ。

-初のクリスマス・アルバムはその10代の頃のメタル・クリスマスということですが、その後Steve Vaiの企画したアルバム『Merry Axemas』に日本盤限定で参加されていますね。1997年のことでしたが、当時のことは覚えていますか?

あぁ、そうだったね。初めてクリスマス・ソングを書いたのがあのときだった。

-オリジナル曲(「Mount Fuji Christmas」)での参加でしたね。

Steve Vaiがなぜかオリジナル曲にしてくれと言ってきたんだ。"君にはカバーをやってほしくない。自分でクリスマス・ソングを書いてくれ"とね。通常は歌詞でクリスマスっぽい雰囲気を出すものなのに、インストゥルメンタルでどうやって? と思ったけど(笑)。歌詞じゃなかったら他の方法を考えないといけない。例えば、(※ギターを爪弾いてド、シ、ラ、ソと下降フレーズを鳴らして)スケールで音を下がっていくとか。そうするとそりの鈴みたいな雰囲気が出て、僕的にはクリスマスっぽいメロディになるんだ。

-『Merry Axemas』のアプローチはハイ・ゲインなRACER X的サウンドで、今作とはかなり異なっていますね。今のPaulのアプローチはゲインを落として、聴いていると弾いている手元の様子が頭に浮かぶような、細かいニュアンスをサウンドに乗せているように感じます。

最近は"シンガーみたいに弾く"ことに興味があるから、こういうアプローチになったんじゃないかな。クリスマス・ソングに興味を持った理由のひとつは、メロディを弾くことになるというのがあったんだ。「Mount Fuji Christmas」みたいな曲は僕の昔の作品を思い出させるよね。例えば「Hurry Up」(2006年リリースのアルバム『Get Out Of My Yard』収録曲)みたいに、リフ・ベースになっていて、いかにも"ギタリストがギターを弾いている"感じになっている。RUSHのAlex Lifeson(Gt)の影響を受けているような感じに聞こえるよね。ギター脳で考えながら弾いているんだ。今もギターを弾いてはいるけど、シンガー脳の度合いが大きくなってきたんだよね。

-たしかに。

ここ数作のアルバムがそういう感じだったからね。

-そうでしたね。

アイディア的にもシンガー脳でいるとしっくりきたんだ。僕がカバーを聴くときはふたつのことをやる。まずはシンガーの声を聴く。それからアレンジもじっくり聴いて、コードがどういうふうに関係してくるかを考える。時にはオリジナルのアイディアが浮かぶこともあるんだ。例えば今回のオープニング「Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!」のメロディはとてもシンプルだよね。あまりにシンプルすぎてなんのキーが使われているのかすらわからない(笑)。だから、頭の中で曲を思い描いて、もっと違うコード・アレンジにすることを考えたんだ。メロディをシンガーみたいに表情豊かに弾くこと、それから、いろんな感情が聞こえてくる興味深いアレンジにすること、このふたつにフォーカスしていたよ。あとはそれまで聴いたことのない境地に曲を持っていくことにもね。

-現在のアプローチにはロー・ゲインのほうが合っているということでしょうか。

ふむ......興味深い質問だね。自分ではあまり考えたことがなかったよ(笑)。必要なものを使っているだけでね。ものすごく大きな決断をしたわけではないんだ。もしかしたら決め手になるのはヴォーカル・ラインを弾くなら"間"が必要だってことじゃないかな。シンガーは呼吸しないといけないからね。例えば、歌うように弾くとき(※「Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!」のヴォーカル・ラインを弾きながら)、"穴"があるのがわかるかな? でも、同じフレーズを、ディストーションをかけて弾くとその"穴"がフィードバックやノイズで塞がってしまう。どこで止めていいかわからなくなってしまうんだ。音をクリーンにしておけば、止まってひと息つくというオプションができる。ただ、ロー・ゲインになると失うものもある。多くの場合はハイ・ゲインのときほどサステインが効かなくなるんだ。それを補うためにPignoseのアンプをマウントした。小さなアンプだけど、ギターのものすごく近くに配置したんだ。そうすると必要なサステインを維持しつつ、クレイジーさやノイズを抑えることができる。

-リリースに先立って3曲目に収録の「Hark! The Herald Angels Sing」のMVが公開されましたね。あのMVは撮影をしながらトラックの一発撮りをしているのでしょうか? 音源と完全に同じ演奏かも、と思っているのですが。

同じだよ。アルバムを録音している間、ビデオ・カメラを回しっぱなしだったからね。

-やはりそうなんですね。

バンドと一緒に生で演奏すると、そういうことができるから楽しいよね。つまり全曲分のビデオがあって、編集すればすぐ出せるってことなんだ。

-トナカイやサンタの帽子を被りながらレコーディングした音源なんですね(笑)。

(笑)夏に変だったことの一部はそれかな。

-(笑)全曲コスプレで演奏したんでしょうか?

あぁ。ポートランドには熱波が来ていて(笑)、外は華氏100゜F(およそ摂氏38℃)で、もちろんスタジオは空調がついていたけど、それでも涼しさを保つのは大変だったから、扇風機をかけて。できるだけクールでいようとしたけど、サンタの帽子は暑かったね(笑)。それぞれのビデオは撮影日が違ったから、僕たちの服装もちょっと違うんだ。違うサンタの帽子を被ったこともあったしね。ビデオはとてもクールに仕上がったから、早く他のやつも観てもらいたいね。この先もっと出すことになるよ。

-すべて1テイクで録ったのでしょうか。

生演奏を録ったけど、曲によって違うね。1テイクで録れたのは半分くらいかな。僕が編集したものもあるんだ。興味深かったのが、今回起用したのが、ジャズ・ミュージシャンが中心だったから、みんな楽譜を読むことに長けているということだった。ロック・バンドにいるとリハーサルのときは耳コピが普通なんだ。でも、今回はジャズの人たちだったから、譜面を書き起こした。僕はあまり楽譜の経験がないんだけど、とにかく楽譜を書いて彼らに渡したら、ほとんどリハーサルもなしにプレイ・スルーして理解してくれたよ。ほんの少しだけやったリハーサルでは、彼らに楽譜を書いてもらった。"Barbra Streisandの「Have Yourself A Merry Little Christmas」をチェックしてくれ"みたいに頼んでね。僕はあの曲のBarbra Streisandバージョンが大好きで。それでキーボード・プレイヤー(Clay Giberson)に、"これを一緒におさらいしよう"と言ったんだ。"コードを書いてくれないか。ちゃんと僕が気に入るようなものにしたいんだ"とお願いしてね(笑)。そうして楽譜を書いてもらって、それをギタリスト(Dan Balmer)に渡して、僕は僕でメロディを弾いて。そういうふうにプロデュースをしたんだ。僕か彼らのどちらかが楽譜を書いてね。ジャズ・コードが多いから、彼らが楽譜を書いたほうが早いものもあったよ。そりゃ僕もそういうコードはいくつか知っているけど、あっちはプロだからね。あっちのほうが早いんだ。

-ちなみに彼らはたまたまジャズ・ミュージシャンだったのでしょうか。それともあえてロックではなくそういうミュージシャンを選んだ?

今回はジャズ・ミュージシャンが欲しかったんだ。クリスマス・ソングはジャズのコードを使うものが多いからね。キーボードとギターのClay GibersonとDan Balmerのふたりは主にジャズを弾いている。でも、リズム・セクション、ベースのTimmer BlakelyとドラムスのJimi Bottはブルース・ガイなんだ。

-そうなんですね。

JimiはTHE FABULOUS THUNDERBIRDSとプレイしていたことのある人だよ。Timmerは地元ではブルースのレジェンドみたいなベーシストなんだ。つまりドラムとベースはブルースのフィーリングで、クールなジャズのコードがあって、その上で僕がロックしていた。すごくいいコンビネーションだと我ながら感じたし、曲もこういうラインナップを必要としていたと思う。

-前作に引き続き、スライド・バーを使ったフレージングがすごく印象的です。音のひとつひとつの抑揚がすごく生きてきて、途中でリズムを変えてからのチョーキング主体の弾き方と同じギターなのに、全然印象が変わってきて面白いです。ワウを使うところからもまた全然変わってきますね。

実際に歌っている"声"があるわけじゃないから、その代わりになる"声"がいろいろあるのはいいことだなと思ってね。スライドに関しては、マグネットつきのやつを発明したんだ。ギター本体にくっつくから、ノーマルなギター・プレイに簡単に移行できる。その逆も。すごく楽しいよ。今学んでいることの大半は、ヴォーカルのメロディから学んでいるんだ。最近はRonnie James Dioの"声"でRAINBOWの曲を学んでいるよ。例えば、「Long Live Rock 'N' Roll」とか。スライドを学ぶには格好の方法だよ。僕はギタリストのスライド・プレイを勉強することはないんだ。Duane AllmanやDerek Trucksみたいなレジェンドはいるけど、彼らから学ぶのは怖くてね(笑)。好きなシンガーから学んでいるよ。K.D. Langなんかは最高のお手本なんだ。ギターの音を"声"にするための取り組みのひとつなんだ。

-スライド・バーは今後もどんどん使っていく考えですか?

『Behold Electric Guitar』(2018年リリースのアルバム)のときに初めて本格的にスライドを多用するようになったけど、あのときはプロデューサー(John Cuniberti)が曲順を決めるときにアドバイスしてくれたんだ。"スライドの入った曲は2曲連続にしないように"ということだった。自分では考えたこともなかったけど、スライドの次にまたスライドというのはあり得ないと。ちゃんと分けて配置するようにってね(笑)。

-なるほど。

直接的にそう言っていたわけじゃないけど、僕はそう解釈した。"サウンドはいいけど、あまりやりすぎないように"と言っているんだろうと。スライドを使うのもいいけど、通常のプレイとちゃんとバランスを取るようにということでね。たしかROSE TATTOOだったと思うけど、TED NUGENTのオープニングを務めているのをずっと前に見たんだ。そのギタリストがスライドを使って弾いていて、まさにそんな感じだったんだよね。1曲目はすごくクールだけど、3曲目くらいになると"少しはノーマルなのも弾いてくれよ"って気分になるんだ(笑)。あれは教訓になったね。"いいけど、そればっかりじゃね"ということで(笑)。