MENU

激ロック | ラウドロック ポータルサイト

INTERVIEW

Paul Gilbert

2021.11.22UPDATE

2021年11月号掲載

Paul Gilbert

Interviewer:米沢 彰

一番大きなゴールは、"これらの聴き飽きた曲を、どうすればまた聴きたいものにできるか"ということだった


-7曲目の「Every Christmas Has Love」はPaulのオリジナル曲となっていますが、この曲はどのような内容がテーマになっているのでしょうか? クリスマスらしいフレーズやサウンドというより、もっと異なるものをテーマにしているように感じました。

あれはある夜、ベッドに入る直前にふとメロディを思いついたんだ。それに歌詞をつけようと思ったんだけど、最初に頭に浮かんだやつはちょっとシニカルだった。もともとのタイトルは"Let's Appropriate Love(愛を占有/着服しよう)"だったんだ。

-(笑)そうでしたか。

こんなことを言ったらミュージシャンとして破滅してしまうと思うけど(笑)、近代のセオリーとしてAppropriateするのは良くないという考えがある。Appropriateというのは"盗む"的な意味があってね。他のカルチャーから何かを盗んではいけないことになっている。つまりこういうことだよ。僕の祖父母はポーランド出身だった。ということは、僕はポーランド音楽しかやっちゃいけないのかもしれない。アコーディオンでポルカを演奏してね。あるいはショパンだったらいいかもしれない。でも、ブルースは違う文化のものだから、プレイしちゃいけない。ラテンのリズムも習っちゃいけない。そういうルールみたいなもの、自分の祖父母が違う国の出身だからやっちゃいけないものがあるって考えなんだ。でも、それって、世界一バカな考えだと思うんだよね。

-ですよね。

僕はあらゆる文化の音楽を学んできたし、世界中の音楽が大好きなんだ。そういうことで、だったらクリスマスのカルチャーはどうなんだ? と思ったんだよ。クリスマスを考案した一部の人たちだけのものなのか? 他の人たちはどうなんだ? という考えから始まって、じゃあ他に手に入れちゃいけないものってなんだろう? と思ったんだ。祖父母が他の文化出身だから、クリスマスを祝っちゃいけないのか? ってね(笑)。じゃあ"愛"はどうだろう? "あなたは愛を手に入れてはいけません"なんておかしいよな? と思ったんだ。そんなの世界一バカな考えだよ。愛はもちろん手に入れていい......ってまくし立ててごめん。ちょっと不平が過ぎたな。

-いえいえ。

そこから"Every Christmas Has Love"に変更したんだ。というのもオーストラリアみたいに夏にクリスマスを迎える国のことが頭にあってね。それで歌詞にこう書いた。"Not every christmas has snow. It depends on the place where you go"(クリスマスには必ずしも雪がつきものってわけじゃない。どこに行くかによるんだ)。最初に浮かんだのがその歌詞だった。アイディアはそこから来ているんだ。で、終盤に向けてあの曲で気に入っているのは、Loveという言葉を引き伸ばして長いメロディで歌っているところだよ。"Every chrismas has lo-o-o-o-o-ove"(※裏声で歌う)という感じにね。伸ばすのにいい言葉なんだ。あのメロディを弾くといつも気分が良くなる。

-なるほど。結果としてとてもハートウォーミングな曲に仕上がっていますね。

みんな、世界中のあらゆるいいものをAppropriateすべきだと思うよ! これは盗用じゃなくて、素晴らしいものや他の人のいいところを"受け容れる"ということなんだ。

-素敵なメッセージですね。8曲目の「Three Strings For Christmas」は、"クリスマスのための3本の弦"というユニークなタイトルです。冒頭はすごく軽快なバックの演奏に対してPaulの演奏はアルペジオで大忙しですね。

あれは本当に3弦のギターで弾いたんだ。3弦のギターで、オクターブでチューニングしてあってね。クレイジーなチューニングだけど、あの曲に使われているリック(フレーズ)にはすごく合うんだ。"このリックを使って曲を書こう"と思って作ったんだ(笑)。大半のギターは6弦だから、クリスマスにもう3本貰えれば......って、いつかもう3本手に入れたいな、という曲なんだ(笑)。

-この曲は全体にすごく明るくて、楽しいクリスマス・ソングになっていますね。

インスピレーションは「Blue Christmas」(Doye O'Dell)という曲から少し受けたんだ。誰が書いた曲かわからないけど、Elvis Presleyが演奏している曲で、Elvisの「Viva Las Vegas」とか、ああいう感じのカントリー・アンド・ウエスタン的なグルーヴを組み合わせた曲調だね。

-もとから明るい曲を作りたいという思いがあったのでしょうか?

あまりに早く書きあがってしまったから、考える時間がなかったんだよね。ひとりでにできたような感じだったんだ。僕にとってはそれがベストな曲の作り方だね。作るのに時間がかかるものは、たいていどこかに問題があるから時間がかかるんだ(笑)。パパっとできた場合はソリューションが良かったということになる。

-日本盤にはオリジナルのボーナス・トラックも収録されていますが、この曲はどうやってできたのでしょうか。

あれはブルースのジャムなんだ。バンドにもやることは言っていなかった。たしか最後に「Winter Wonderland」を15回くらいプレイして、やっといいテイクが録れたんだ。"よし、やっといいテイクが録れたぞ。これで決まりだ"と思った。それでそっちを終わらせてから、いきなり"Blues at C, from the five!(Cのキーで5度のスケールからブルースをやろう!)"と僕が言ったんだ。みんなそれを聞いて"なんだなんだ?"という感じでついてきてくれた。1回やってみて......ある意味、僕からのバンドへのサプライズだったね。僕があんなことをするなんてみんな思ってもみなかったから。

-あれは即興だったのですね。

プレッシャーのないところでミュージシャンとジャムるのは楽しいからね。純粋に楽しむためにやったことなんだ。"終わったぞ! 完成させたぞ! プレッシャーなく楽しもう!"みたいな感じでね。歌詞やブルースは頭の中である程度できあがってはいたんだ。サンタとトナカイが煙突を降りてくる、みたいな内容で。1週間くらい前から頭の中にあったのかな? でも具体化はされていなかったから、カジュアルにやってみたという感じの曲だね。楽しかったよ。僕たちにとって楽しかったから、リスナーにとってもそうだといいね。

-自分の頭の中にはあったけど、メンバーには知られていない曲だったんですね。

そうだね。僕は計画していたけど、彼らはそうじゃなかった(笑)。

-前作のソロ作品ではほとんどすべてのパートをご自身でレコーディングされていましたが、今作はバンド編成でライヴの形式でのレコーディングになっていますね。レコーディングへのアプローチがまったく違いますが、これはどういった考えから違いが生まれたのでしょうか?

コロナ禍の状況が好転していた時期だったんだよね。みんなワクチンを接種したあとで、新規感染者数もぐっと減って。今はまた変異株か何かでみんなマスクをするようになっているけどね。だけど、"もう大丈夫かもしれない"と思えた時期がごく短い間あって、偶然その頃レコーディングできたんだ。もうコロナ禍は終わりだ、これからいいことになるぞ、という感じでね。たくさんの人がノーマルな生活に戻っていったんだ。僕にとってもレコーディングをするには絶好のチャンスだった。それに相手がただの人じゃなくて、僕にないスキルや知識を持っている人たちだったからね。素晴らしいジャズ・ミュージシャンたちからのインプットがとても欲しかった。特にDan Balmerは本当にたくさんのプロダクション面でのアイディアを出してくれたよ。ドラムのJimiも、僕が思いつきもしなかったグルーヴをいろいろ提案してくれたんだ。"こんなのはどうだい?"、"うわぁ、パーフェクトだよ!"という感じでね。ふたりには本当に助けられたよ。おかげでしっくりくる音楽ができた。

-作品タイトル"'Twas"にはどういう意味が込められているのでしょうか?

"The Night Before Christmas"という有名な詩があるんだ。正式には"'Twas The Night Before Christmas"だったかな。その詩の最初に出てくる単語が"'Twas"なんだ。

-It wasの意味ですよね?

そう、It wasの意味。アメリカの子供はみんなその詩を聴いて育つんだ。よく知られている英語の詩だよ。あと、"スパイナル・タップ"という映画があって、80年代に出た、ミュージック・ビジネス・シーンをおかしく描いた映画なんだ。それに出てくる曲のひとつに"'Twas"を使ったものがあって。ちょっと文学的な雰囲気を出すために"'Twas"を使っているんだよね。"僕たち本をたくさん読んでます!「'Twas」って言葉も知ってます!"みたいな。

-(笑)たしかにクラシックな響きがありますよね。

当時から変なのって思っていたよ。古い言葉だからね。今じゃもう誰も"'Twas"なんて言わないよ。でもクリスマスっぽい言葉だし、"スパイナル・タップ"に出てくるし、というふたつの理由で使うことにしたんだ(笑)。

-ご自身で特に気に入っているトラックをうかがえますか?

中には演奏しながら感極まって涙してしまった曲もいくつかあったよ。素晴らしい気分だった。ロックでガンガンやってエキサイティングなプレイは何度もやったことがあるけど、ああいう気分は今までなかったね。音を聴いてもらえればわかってくれると思う。馴染みがあるけど、しばらく聴いていなかった曲をやっていると何か感じるものがあるんだ。1曲目の「Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!」の最後のほうで、サビのフレーズを弾いていたら"あぁ!"という気分になって、すごく感極まってしまったんだ。あんなにシンプルな音なのにこんなにいい気分になれるなんて、と思ったね。もうひとつ、「Have Yourself A Merry Little Christmas」の最後のほうも同じような感じで、プレイしながら泣いていたよ。とにかくいい音だったんだ。ということで、言うまでもなく、そのふたつの瞬間はお気に入りだね。他にもパフォーマンスが1テイクで終わった「Frosty The Snowman」とか。あの曲は3つのまったく違うグルーヴがひとつの曲になっているから、個別に3回プレイしてから編集しようと思っていた。みんなこの曲を初めて渡されて、その場で覚えたんだ。それなのに、いきなりパーフェクトなテイクができたよ! これだ! という感じだった。まぁ僕はちょっと間違えたかもしれないけど(笑)。みんなは全然悪くなかったから、このままにしておこう、と思ったね(笑)。あれはクールだった。あと、「Winter Wonderland」は最後にドリルが使えるから気に入っているよ。

-「Winter Wonderland」はドリル奏法がすごくPaulらしくて面白いアプローチですよね。ドリルを入れたいきさつはどんな感じだったのでしょうか。

"自分はドリルを使うギタリストだ"ということを忘れることが多いんだよ(笑)。ドリルは自分自身の楽しみだけのために使うわけじゃなくて、思い出したときに......というか、あれを使うとリスナーがいつも喜んでくれるからね。ステージでやったらみんなにこにこしてくれるし、僕も"やって良かった"とハッピーになれる。それで......たしか誰かに"ドリルどうするの?"と聞かれたんだよな。それで"あぁ、そうだ"と思い出して、じゃあどの曲に入れよう? と考え始めたんだ。「Winter Wonderland」が最後にレコーディングした曲じゃなかったかな。それで"チャンスはもうここしかない"と思って入れたんだ(笑)。ここで入れなかったら入れられないから、どこに入れるかちゃんと考えないと! と思ったね。

-個人的なお気に入りは「Frosty The Snowman」です。マイナー・コードで始まるのが面白いと思って。

あぁ、そうだね。あの曲をユニークにするのはなかなか難しいんだ。実は参考にしたのがLoretta Lynnのバージョンでね。カントリー・シンガーの彼女のバージョンはとことんノーマルでね。彼女以上にうまくやれる人はいないくらい正統派なんだ。僕は絶対に無理だと思った(笑)。それならノーマルじゃないことをやらないとな、と考えたんだ。それで今言ったようにメジャーの音を全部マイナーにして、まったく違うエモーションを表現するようにした。それからメジャーに戻したけど7/8拍子にしたんだ。ちょっとRUSHとかプログレッシヴ・ロックっぽい感じにね。

-たしかに! プログレッシヴな感じがします。

同時にバンドの演奏はラテンっぽい感じになったけどね。

-ポリリズム風というか(笑)。

そこからさらにブルースに持っていって......常にサプライズがやってくるような構成にしたんだ。

-最後に日本のファンへのメッセージをお願いします。

メリー・クリスマス! アルバムを楽しんでもらえますように。これらの曲の僕のバージョンを聴くことによって、初めて聴いたときみたいな気分になってもらえるといいね。僕はアメリカ育ちで、アメリカではクリスマスっていうのはものすごくビッグなイベントで、クリスマス音楽もものすごく大きな意味があるんだ。僕自身はすっかり飽きてしまってもうこれ以上聴きたくないと思ってしまった(笑)。だから、今回一番大きなゴールは、"これらの聴き飽きた曲を、どうすればまた聴きたいものにできるか"ということだったんだ。それが僕の狙いだった。その答えはぜひ自分で聴いて確かめてほしい。