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INTERVIEW

Paul Gilbert

2023.04.06UPDATE

2023年04月号掲載

Paul Gilbert

Interviewer:井上 光一 Translator:安江 幸子

ギターでは人間の口みたいな"言葉"の出し方はできない。でもそれに少し近づくことはできる。それは、どんな言葉にも母音があるからなんだ


-レコ―ディングは去年始めたとのことですが、実際のプロセスはどんな感じでしたか。どのパートを先にレコーディングしたですとか。

ミュージシャンを誰にしようか考えていたんだけど、ドラムス以外は全部自分でやることにしたんだ。

-そうだったんですね。でもなぜドラムス?

僕もドラムは叩けるけど、自分でやったら時間がかかってしまうからね(笑)。一緒にやっているドラマーのBill RayもDioの大ファンなんだ。僕がこのアルバムの話をちらっとしたら、その夜のうちにDioの曲を1曲叩いて送ってくれたよ! 聴いてみたら素晴らしかったから、"OK、Bill。ドラマーはあなたに決まりだ"と言ったんだ。ギターのパートをプレイするのもとても楽しかったし、もちろんヴォーカルのパートも。中でもベースのパートをプレイしたのがものすごく良かったね! 本当にたくさんのことを学べたよ。テクニックというよりも楽曲をね。ベーシストっていうのは僕が予想するよりもはるかに賢いんだ(笑)。曲の中で(別の)曲をプレイするような感覚でさ。Geezer Butler(BLACK SABBATH)、Jimmy Bain(ex-RAINBOW/DIO etc.)、Craig Gruber(ex-RAINBOW)......ベースのパートを覚えるたびに"こんなの考えもしなかった。この人たちは天才だ!"なんて思っていたよ。心からリスペクトしているんだ。

-ご自身の専門であるギターのパートから始めて、それからヴォーカルをギターで弾いて......という感じに進めていったのでしょうか。

まず、テンポがいろいろあるだろう? 「Heaven And Hell」みたいな曲はテンポが大きく変わるんだ。それでエンジニアと一緒にテンポをマッピングして、それに合わせてラフなギターを弾いてしっくりくるかどうか確認した。そこにパワフルなリズム・ギターを入れたり、ベースを入れたりして......ラフな感じでメロディを入れて曲の体を成すような感じにしたものをBillに送ると、彼がドラムスを入れて戻してくれた。それをもとに、今度は本番のメロディを入れて、ギター・ソロや追加のオーバー・ダブなんかも使って仕上げたんだ。

-ということはいわゆる"ギターによるヴォーカル"のパートはあとから重ねたのですか。

そうだね。オーバー・ダブをするときはリズムの構造がちゃんとできてないとまとまらないから。

-Bill とは実際にスタジオで一緒に顔を合わせてセッションなどはされたのでしょうか。

いや、彼はシアトルにいたから、音のファイルをネットでやりとりしたんだ。一緒にプレイできたらクールだからこっち(ポートランド)に来てもらうことも考えたんだけどね。でもそうすると、僕がアルバム全体のリハーサルをやっておかないといけないことになるから......(笑)。

-たしかに(笑)。

しかも全部覚えないといけないし(笑)。そこまでやる時間はなかったんだ。今回は1曲ずつものすごく集中して作ってから彼に送るのが僕にとってはベストだった。実際うまくいったしね。細かいところまで詰めることができたんだ。

-彼とは共演かツアーの経験があるんですよね?

Billのこと? 『Behold Electric Guitar』(2019年)にも参加してくれたし、ツアーもたくさん一緒に行ったよ。最近も一緒にギグをやってね。本当にインスピレーションをくれるドラマーなんだ。

-だから実際に顔を突き合わせていなくても、息の合ったプレイができるんですね。

もちろんだよ! インプロヴィゼーションのときもそうだけど、彼は最高の"リスナー"のひとりでもあるんだ。僕がプレイするものに反応してくれる。ドラマーのみんながそんな感じじゃないんだ。中には(※しかめっ面を作って)"僕はこういうプレイをするんだ。誰にも変えさせない"なんて感じの人もいるけどね(笑)。

-(笑)

もちろんそういうやり方でうまくいくこともあるけど、特にインプロヴィゼーションのときはBillとプレイするのが楽しいね。

-あなたがギターで醸し出す感情もきちんと拾ってくれるのですね。だからこそこのアルバムも生き生きしているのだと思います。

まぁ、生き生き聞こえる理由は、生き生きした曲をプレイしているからってのもあるけどね。ターゲットとしていい曲たちなんだ。僕自身聴いて育ってきた曲だから、あのエネルギーをキープする必要があるって確信していた。「Stand Up And Shout」は初め"無理だ、速すぎる"と思ったんだ。手がついていけないってね。でもBillが曲のリストを見て"「Stand Up And Shout」はどこだ? あれは絶対にやらないと"って言い出してさ。"できる? めちゃめちゃ速いよ?"と言ったら"大丈夫!"と言うから、"わかった。トライしてみるよ"と言った。彼が提案してくれて良かったよ。今じゃお気に入りのひとつだ。すごくいい感じに仕上がった。

-本作にはBLACK SABBATHとRAINBOW、そしてDIOの楽曲がそれぞれ4曲ずつ収められています。名曲がたくさんあるので選ぶのも大変だったかもしれませんが、楽曲の選考基準などはあったのでしょうか。

やったら楽しかっただろうなという曲は他にもいくつかあったんだ。ただ、ヴォーカルを思い切りフィーチャーした曲を取り上げたいという気持ちがあったことに気づいてね。例えば「Stargazer」とか「A Light In The Black」や「Gates Of Babylon」(RAINBOW)が僕は大好きだし、素晴らしい曲でヴォーカルのパートも最高だけど、リズム・セクションがものすごく長いんだ。ヴォーカルの方へのフォーカスを保ちたいと思ってね。ギター・ソロはあるけど、そういう曲に比べれば短いし。あまりにギターやキーボード・ソロが多い曲はVol. 2に取っておくよ(笑)。

-Vol. 2ですか。楽しみにしています(笑)。 近年のあなたはヴォーカルのメロディ・ラインをギターで表現する、ということに積極的に取り組んでいらっしゃいますよね。

音楽的にとても健全なことだと思うんだ。僕の世代が聴いて育ってきたギタリストは、炎や嵐のようなエキサイティングな音を弾く人が多かった。僕はそういうのが大好きだったし、ティーンエイジャーの頃はそういうのに情熱を傾けていたけど、メロディをプレイする方法をそこからは学べずじまいだった。それでも問題はなかったんだ。僕がいたバンドではシンガーがメロディを担当していたからね。それは他の人の仕事だったし、僕はそれで良かった。メロディのときはシンガーが、炎みたいなフレーズは僕が担当、という感じでね。それでうまくいっていた。でもメタルに入り込んでいったら......。2007年にJoe Satrianiと"G3"のツアーをやったときのことだった。そのときJoeのメロディの弾き方がとても素晴らしかったのと、オーディエンスのそれに対する反応がとても印象的だったんだ。"そうか、しかるべきやり方をすれば、ギターが「声」の役割をすることもできるんだ"と思ったね。それまでは特にそう思っていなかったんだけどさ(笑)。Joeとのツアーが、ギターでできることの概念を僕の中で変えてくれたんだ。そしてゆっくりと取り組み始めていった。次に出したアルバムでは1、2曲ヴォーカル・メロディを弾いたやつを入れたけど、自信をつけていくごとに増えていったんだ。

-先ほども話題に出てきましたが、日本盤のみ、ボーナス・トラックにRoger Gloverが手掛けたコンセプチュアルなアルバム『The Butterfly Ball And The Grasshopper's Feast』より、「Love Is All」が収録されます。この曲もメロディックだから選んだのでしょうか。

あれを入れたのは、初めて聴いたとき僕が日本にいたからだよ(笑)!

-日本とのコネクションだったのですね!

そう、初めてあの曲を聴いたのはRonnieがDEEP PURPLEと共演したときだったからね。僕にとって素晴らしい思い出だから、その思い出へのオマージュにクールだと思って。

-(※通訳個人の意見であると前置きしてから)この曲はあなたの「Professorship At The Leningrad Conservatory」(2021年リリースのアルバム『Werewolves Of Portland』収録曲)を彷彿とさせるような気がします。リズムの感じや雰囲気が。

あぁ! そうかもしれないね。

-Ronnieのヴォーカルと向き合ったことは、ミュージシャンとしてのあなたにどのような経験をもたらしましたか。

Ronnieが素晴らしいテクニックの持ち主だということは1回聴けばわかるんだ。どんな音程もピタッと決める。高い音も低い音もね。音域がすごく広くて、正確に歌えるシンガーだった。でも同時に、彼の声にはブルースやソウルの要素もあって、それが絶妙な塩梅で曲にフィーリングを与えてエモーショナルなものにしているんだ。彼がそういう想定外のベンド(ピッチを滑らかに変化させること)をやっているところを探すのは面白かったね。その個所をピアノで弾いてもきっとうまくいかないだろう。鍵盤と鍵盤の間にあるような音だから。僕は、彼が意図的にそういうベンドを入れたんだと思っている。ピタッと決められないからそうしたんじゃなくてね。そのほうがフィーリングが高まってエモーショナルな曲になるからそうしたんだろう。それをギターで再現するには、(※左手をギターを弾く形にしながら説明)こうやって低いところ(ネックの下部)から攻めていってそこからスライドするとか......1回聴いただけでできるものではないね。それにひとつの音からもうひとつの音に移行するときはスライドになることが多いんだ。指でもスライド・バーでもいいし、ベンディングで効果を出すのでもいい。ワーミー・バーを使ってもいい。いろんな方法があるんだ。ハンマリングでもいいしね。そうやって耳を発達させていって、自分がどんな音に向かっていくか把握する。クリエイティヴなターゲットがあるんだ。そのあと自分の楽器に戻って"そのターゲットを狙うにはどうしたらいいだろう?"と考える。耳もテクニックも磨くことが大事だね。最終的にはそういう意識を全部忘れて本能だけで弾けたらいいんだけど、本能は"築き上げて"いかないといけないと思うんだ。それが今回のゴールのひとつだった。このプロジェクトがファンタスティックなギター・レッスンで、Ronnie James Dioが僕のギターの先生だったんだ。