INTERVIEW
KISAKI
2023.04.25UPDATE
2023年04月号掲載
Interviewer:杉江 由紀
リヴィング・レジェンド、KISAKIによる初ソロ・アルバムがここに完成! 1995年から1997年にかけ活動していたLa:Sadie's(DIR EN GREYの京、薫、Die、Shinyaが在籍)を筆頭に、これまで30年間にもわたりヴィジュアル系シーンの中で圧倒的な存在感を放ちながら音楽活動を続けてきた彼が、この4月から6月にかけて『Providence』、『Afterglow』、『Preuve d'etre』という各10曲入りソロ・アルバムを続々と発表していくことになったのだ。いわゆるV系人脈のみならず、NEMOPHILA/Mary's BloodのSAKIやGALNERYUSのSYUといった絢爛豪華なゲストが多数参加したこの作品群は、どうやら彼の生き様を凝縮したものだと言えそうだ。
自分でも思っていた以上に錚錚たる方たちに参加していただくことになって嬉しい
-この4月から『Providence』、『Afterglow』、『Preuve d'etre』という3枚の10曲入りソロ・アルバムが続々と発表されることになりました。SAKI(NEMOPHILA/Mary's Blood/Gt)さん、SYU(GALNERYUS/Gt)さん、団長(NoGoD/Vo)さん、苑(摩天楼オペラ/Vo)さん、DAISHI(Psycho le Cému/Vo)さんなど、総勢20人以上ものゲストを迎えて制作されたという作品群は、KISAKIさんの"活動暦30周年"を飾る絢爛豪華な仕上がりとなったようですね。
今年は1月に新宿BLAZEで、"KISAKI BANDWORKS 30TH ANNIVERSARY LIVE「BEYOND THE KINGDOM -TOKYO-」"と題したメモリアル・ライヴをやったんですが、それが終わってからはずっとアルバム制作にかかりきりになってたんですよ。まだ一部作業が残っている部分もありますけど、自分にとってここから出していくことになる3枚のアルバムは、30周年を迎えたことに対する一種のけじめとして作っているものですし、ここまでの人生を音楽というかたちで残したいという気持ちを持ちつつ、今回はたくさんのゲスト・プレイヤーの方たちにもいろいろと助けられながら、すごく納得のいく作品を作ることができていると思います。
-それにしても、まずは30曲を一気に揃えるだけでも相当な労力や時間がかかったのではありませんか?
曲は考えてから作り出すとかではなく、自分の中から出てきたものを、ひたすらかたちにしていくっていうやり方で揃えていく感じでした。中にはボツにしたものもありましたけど、とにかく今作に関しては自分がここまでに辿ってきた道や、自分にとってのルーツに繋がるような曲たちしか作っていないので、まさに自分にとってのこの30年が凝縮された、自分にしか生み出せない30曲を3枚のアルバムに収めたものになってます。
-なお、3枚のアルバムにはそれぞれコピーが冠せられております。『Providence』は"涙を枯らし、祈りを込めて生まれた魂の旋律"、『Afterglow』は"絶望と悔恨のメロディが奏でる孤高のカタルシス"、そして『Preuve d'etre』は"狂った世界、真実は記憶の裏で永遠に眠る"。つまり、今回の3枚は個々にコンセプトやカラーが違う内容となっているのですね。
『Providence』は"魂の旋律"なのでメロディを重視した曲を軸として構成していきましたし、『Afterglow』は"孤高のカタルシス"ということで基本的にアグレッシヴな曲が揃ってます。そして、『Preuve d'etre』については今現在のヴィジュアル系に対して自分が発信するアンチテーゼを詰め込んだ内容になっている、と言っていいでしょうね。
-だとすると。KISAKIさんは、今現在のヴィジュアル系シーンを"狂った世界"だと感じていらっしゃると同時に、さらに"真実は記憶の裏で永遠に眠る"と続けられているということは、このアルバムをもってひとつの墓標を打ち立てるような心持ちでもあられるのでしょうか。
結局ここまで30年にわたってヴィジュアル系のシーンで活動をしてきた自分からすると、今のヴィジュアル系業界は狂ってるなと感じることが非常に多いんですよ。もちろん、真剣に頑張ってるバンドもいると思いますけど、業界の中に大人が変なかたちで入り込みすぎてて邪魔くさいんですね(苦笑)。そういう現状に対して、楽曲的にも歌詞の面でも『Preuve d'etre』は一石投じるような姿勢で作ったものになりますし、これは自分にとって遺書になってもおかしくないようなアルバムになっていると思います。
-"Preuve d'etre"は直訳すると存在証明という意味ですものね。
特に、『Preuve d'etre』のラストに入っている「Deep Sorrow」という曲はめちゃくちゃ長くて、9分半くらい延々と曲が続いた最後に"狂った世界、支配するものにねじ伏せられた屈辱と悲しいほど切ない孤独"ってエピローグで終わるんですけどね。ここには自分の率直な想いを込めました。
-いずれにしても今回の『Providence』、『Afterglow』、『Preuve d'etre』はどこを取ってもそのスケール感と内容の濃さに圧倒される内容になっていると言えるでしょう。ちなみに、冒頭でも触れさせていただいた総勢20人以上ものゲスト・アーティストの方々については、どのようにお話がまとまっていくことになったのでしょうか。もちろん、Ruiza(ex-Syndrome/D/Gt)さんなどのかねてから縁の深かった方たちもたくさんいらっしゃいますが、中にはかなり意外な顔ぶれも見受けられる印象です。
ありがたいことに、自分でも思っていた以上に錚錚たる方たちに参加していただくことになって、本当に嬉しい限りなんですよね。経緯としてはこちらから誘わせていただいた方もいましたし、1枚目の制作に着手した段階で"今、30周年で初のソロ・アルバムを作ってるねん"みたいな話が結構いろんなところに伝わったみたいで(笑)、あちこちから"弾かせてくれ"、"歌わせてくれ"っていう声も寄せられまして、その中には激ロックによく載ってるようなアーティストたちもいたんです。それで、各曲を"だったらこの曲はこの人にやってもらおう"、"こっちはこの人だな"というふうに、曲調の雰囲気によって曲を各人へ割り振っていくことになりました。それこそ、SAKIちゃんが参加してくれているのは、みなさんからしたらきっと意外だったと思いますけど、今回は3枚ともに彼女が参加してくれてるんですよ。
-なんでも、SAKIさんとは以前からお知り合いだったそうですね。
彼女がMary's Bloodで動いていた頃に、人の紹介でライヴを観に行って衝撃を受けたんですよ。当時からあのギター・プレイはすごいなと思っていたので、今回"ぜひ弾いてほしい"と誘ったら快諾してくれました。
-また、今回の3枚ではSAKIさんと並んで、HIZAKI(Jupiter/Versailles/Gt)さんも何曲にもわたって華麗なるプレイを展開してくださっておりますね。
HIZAKIのことも昔からよく知ってますけど、彼は何にでも対応できる優秀なギタリストなので全面的に安心して任せられました。他にも今回はJUN(ex-Phantasmagoria/GOTCHAROCKA/Gt)、源 依織(ex-Siva/Phobia/Gt)、MASATO(defspiral/Gt)、Iyoda Kohei(NoGoD/ANCIENT MYTH etc./Gt)といったミュージシャンたちも力を貸してれていますし、GALNERYUSのSYU君が参加してくれることになったのも僕としてはすごく嬉しいことでしたね。
-SYUさんとも以前から交流があられたのですか。
かれこれ僕が20歳前半くらいからの付き合いなんです。SYU君とは、彼がまだ大阪でVALKYRというヴィジュアル系のバンドをやっていたときに、対バンをしてたんですけど、そのあとは方向性を変えてメタルの世界で活躍するようになり、今では日本を代表するギタリストのひとりだと僕は思ってますからね。今回のアルバムに参加してほしいって言ったら、彼も気持ち良くOKしてくれました。
-そうした一方、5月発売の『Afterglow』にはSena(JILUKA/Gt)さん、D13(Leetspeak monsters/Vo/Rap)さん&Yo'shmeer(Leetspeak monsters/Gt/Cho)さんといった、KISAKIさんのかなり後輩にあたるV系アーティストたちも参加されていますね。すなわち、彼らはいわゆる"狂った世界"とは、一線を画する領域で活躍している若手ということになりますか。
たしかに、Sena君は若手の中でも一線を画してるギタリストでしょうね。最近プレイを観て素直に"すごいな!"と思ったんですよ。
-「Broken Loneliness」での激烈な超速テクニカル・フレーズは、クレジットを見ずとも、一聴して"これはSenaさんの音だな"とすぐにわかりました。
僕が作った原曲にはあんなスウィープとかはまったく入れてなかったんで、あのピロピロした音を聴いたときは"なんじゃこりゃ!"って思いましたね(笑)。でも、カッコいいんで"これはこれでアリやな"となったんです。もともとJILUKAのマネージャーさんとは昔から知り合いだったのもあって、ちょっと声を掛けてみたら"やります"っていうことで、参加してくれることになったんですけど、誘ってみて良かったです。
-では、Leetspeak monstersのおふたりに関しては、どのようなプロセスで参加していただくことになったのですか。
彼らの事務所社長(Rame)が僕の以前やってた事務所(UNDER CODE PRODUCTION)にいたバンド(ヴィドール)のメンバーでもありましたし、MIRAGEを25周年のタイミングで復活させたときには、サポート・アクトとしてライヴにも参加してくれてたくらいの縁で、そのRameが今ずっと携わっているのがLeetspeak monstersですからね。それに、ギターのYo'shmeerなんかは話をしていると僕が過去にやってたバンドたちのことを、めっちゃよく知ってくれてるんですよ。そういう流れもあって、今回D13とYo'shmeerがレコーディングに協力してくれることになりました。
-その他にも、今回の作品群においてはTAKA(defspiral)さん、ryo(ex-GULLET/ex-9GOATS BLACK OUT/HOLLOWGRAM/DÄLLE/H.U.G)さん、HAL(FEST VAINQUEUR)さんといったヴォーカリストの面々も、各曲にて個性を発揮してくださっていますが、歌についてKISAKIさんが何かオーダーを出されたり、ディレクションをされたりる場面もあったのでしょうか。
それはあんまりなかったですね。みんなそれぞれ自分のカラーを持っているヴォーカリストばっかりなんで、そこを自由に生かしてもらった感じでした。TAKA君は思った通りにあの色気のある声でいい歌を歌ってくれてるし、ryo君も昔からずっと雰囲気のある歌が得意で、今回もそこを充分に感じさせてくれてますからね。HAL君もしっかり自分の色を出してくれているので、こちらからは特に言うことはありませんでした。
-逆に、ヴォーカリスト側から、"こういうことがしたい"と持ちかけられたケースなどはなかったのでしょうか。
アンティック-珈琲店-のみく君からは、だいぶ明確な要望がありましたね。僕としては、彼が参加してくれるなら、アンティック-珈琲店-にやや近いような雰囲気の曲を作ろうかなと思っていたんですけど、彼からは"むしろアンティック-珈琲店-では絶対やらないタイプの曲を歌いたいです"、"KISAKIさんが10代の頃にLa:Sadie'sでやってたような攻撃的な曲をやりたい"って言われたんですよ。
-そういうことでしたか。まさに『Preuve d'etre』収録の「Outside the Gate」には大変驚きました。聴いていて"これをあのみくさんが!?"と非常に意外でしたね。
90年代初期を意識して曲を作ったんですが、その中でみくがシャウトしまくってますからね(笑)。ほんまにバチバチでドロドロでエグいし、かなりカッコいい曲になってくれました。アンティック-珈琲店-のファンが聴いたら、これは相当びっくりだと思いますよ。
-かと思うと、樹威(ex-ヴィドール/GOTCHAROCKA)さんは、往年のKISAKI PROJECTを今に再現するかのように沁みる歌を聴かせてくれています。
樹威の歌っている「硝子のアルバム」は、KISAKI PROJECTの代表曲(2008年リリースのアルバム『永遠の夢~for Lovers...』収録)を15年ぶりくらいで再録したものですからね。あの頃よりも声も歌い方も大人になって魅力が増したな、と今回のレコーディングでは強く感じました。
-そうしたなか、曲数の面で最も多く歌っていらっしゃるのはAKIRA(MIRAGE/RENAME)さんです。事実上、彼は今回のメイン・ヴォーカリストとなるわけですよね。
実を言うと、当初はすべてAKIRAに歌ってもらおうと思っていたんです。というのも、もとを正すといきなりアルバムを3枚作ると初めから決めていたわけではなくて、コロナの影響を受けたライヴハウスのためのクラファン企画のために、ソロ名義で何曲か楽曲提供をしたのがきっかけだったんですね。それはすべてAKIRAがヴォーカリストでしたし、その後30曲を3枚のアルバムとして出すと決めたときにも、こうしてAKIRAにはたくさん歌ってもらうことになったので、本当に彼の貢献度はとても大きいです。というか、AKIRAがいなかったら3枚ものアルバムはきっと作れてなかったと思います。
-そう考えると、2021年1月にMIRAGE第3期が始まっていたことはいろいろな意味で吉と出ましたね。
そうなんですよ。まずはMIRAGEの25周年があって、今年は僕の30周年があって、というこの流れはちょうど歯車が噛み合った感じがしますね。まぁ、そのぶん去年からかなり目まぐるしくて忙しい日々の連続にはなっちゃってます(笑)。