MENU バンドTシャツ

激ロック | ラウドロック ポータルサイト

INTERVIEW

THE PRIMALS

2021.11.10UPDATE

2021年11月号掲載

THE PRIMALS

Member:マイケル・クリストファー・コージ・フォックス(Vo) 祖堅 正慶(Gt/Vo) GUNN(Gt) イワイエイキチ(Ba) たちばなテツヤ(Dr)

Interviewer:秦 理絵

プレイヤーが主役ではなく、"ゲーム体験"が主役にある。そんなコンセプトで活動するロック・バンドがいる。大人気ゲーム"ファイナルファンタジーXIV(以下、FFXIV)"のオフィシャル・バンドとして、2014年に結成されたTHE PRIMALSだ。サウンド・ディレクターである祖堅正慶を中心に、メンバーはGUNN、イワイエイキチ、たちばなテツヤ、マイケル・クリストファー・コージ・フォックスら辣腕のプレイヤーが名を連ねる。これまでゲーム内の楽曲をロック・アレンジし、全世界でライヴを展開してきた彼らが、"FFXIV"の最新拡張パッケージ"暁月のフィナーレ"で、初めてゼロから楽曲制作を担当。ゲームの発売に先駆けて、7インチ・レコード盤『ENDWALKER 7-inch Vinyl Single』として発売する。シリーズの集大成となるタイミングだからこそのTHE PRIMALSの起用だ。異色の"ゲームのオフィシャル・バンド"という役割を担った彼らは、どんな矜持で今作に向き合ったのか。話を訊いた。


僕のロックの美学として、おっさんが全力でやるっていうのがあるんですよね


-ゲームの"オフィシャル・バンド"って、かなり特殊な存在ですよね。

祖堅:そうかもしれませんね。

-どういう意図でこのバンドは生まれたんでしょうか?

祖堅:最初のきっかけは単純で。"FFXIV"っていうゲームには多数の楽曲が搭載されてるんです。中にはわりと本格的なロックがあるんですね。いきなり突拍子もないですけど、それをラスベガスのライヴでやることが決まったんです。そこからバンドを組まなきゃいけないっていうことになったのが始まりでしたね。

-メンバーは祖堅さんが中心で集めたんですか?

祖堅:僕はゲーム音楽のクリエイターなので。"バンドとして活動しましょう"ってなったときにはズブの素人なんですよ。そこで助けてもらったのがGUNNさんです。僕とGUNNさんに共通の知り合いがいて。その知り合いを通して、GUNNさんに"こういう感じのバンドを組みたいんだけど"っていう相談をしたんです。

GUNN:当時は"祖堅って誰なのよ?"っていう話でしたけど(笑)。

祖堅:そういうことですよね(笑)。

GUNN:で、一度、お会いしたいって言って。"FFXIV"の音楽について説明を受けつつ、とにかくバンドの形態にしたいっていうところで、どういう人を集めればいいのか、みたいな話を聞いたんです。そうすると、祖堅君から"おじさんをお願いします"と。"おじさんでバキバキにいける人、知ってる?"みたいな話になったので、そりゃあもう知っておりますと(笑)。そこで、ふたり(イワイエイキチとたちばなテツヤ)に連絡をしてっていう感じですね。

-ライヴのMCでも、THE PRIMALSは"おっさんが本気で汗を流してやっている"って言ってましたよね。そこはバンドを組むうえで大切なポイントだったんですか?

祖堅:そうですね。今振り返ると、もともと僕がロックだと信じてる音楽がそっち系が多かったのかなって分析してるんです。THE PRIMALSのコンセプトとして重要なことがひとつあって。ふつうのロック・バンドであれば、音楽を演奏する人たちが主役になるっていうのが通常の流れだと思うんです。でも、THE PRIMALSはすごく特殊で。ゲームがそこにある。ゲームをプレイした人の思い出が主役なんですよ。つまりゲーム体験が主役なんですね。THE PRIMALSのライヴにくる人たちって、ゲーム・プレイヤーがやったゲーム体験があったうえで聴きにくるんです。それは通常の音楽を聴く状態とはまた全然違った状況ですよね。とにかくその一曲一曲に詰まってる思い出が強めというか。なおかつ音楽を聴いたそのときのシチュエーションがプレイヤー同士全員一緒なんですよ。それに火をつけてあげる。例えば、敵と戦ったときのゲーム体験を消化させて、ライヴをするのが僕らの仕事なので。一般的なバンドとは違うと思ってるんです。ライヴでもお客さんの熱量が異様ですからね。それは一般的なロックに熱量がないっていうことじゃなくて。

たちばな:今まで何度か海外のFFXIVフェスティバルに行かせてもらったんですけど。どこでやっても強力な熱量のお客さんがいてくれるんです。それはやっぱりゲームという共通言語があるからですよね。一度ゲームの中で悲しい想いも楽しい想いもしていて。俺らが演奏することによって、彼らの頭の中にそれがよぎるわけだから。ふつうに音楽を聴いて盛り上がるのとはちょっと違うなっていうのはありますね。

祖堅:だからね、すごく難しいんですよ。演奏をするほうからすると、"俺の音を聴け"っていうのはあるかもしれないですけれど。THE PRIMALSは"あなたのゲーム体験"が前提なんです。それで、さっきの質問に戻るんですけど、"おじさんで"っていうのにこだわったのは、人生経験が豊富じゃないと、そういったことができにくいと思うんですよね。

-年を重ねているからこそ、自分のエゴを抑えながら表現できるというか。

祖堅:そういうことです。なおかつ、僕のロックの美学として、おっさんが全力でやるっていうのがあるんですよね。いろいろ経験したけど、"今の俺はこれだ"っていう表現をできる人たちと一緒にやることで、自分が求めるロックが体現できるんじゃないかなと思ったんです。

-イワイさん、たちばなさんはそういったお誘いを受けてどんなふうに思いましたか?

イワイ:オーダーに"おじさん"って入ったのは生まれて初めてでしたね。

一同:あはははは!

GUNN:失礼な話だよね。実際おじさんだけど(笑)。

イワイ:でも、参加してからはライヴをやるたびに楽しくなっていったんですよ。

たちばな:僕は祖堅氏に会った、最初の印象はあんまり良くなくて(笑)。

祖堅:あははは(笑)。

たちばな:でも、演奏やレコーディングをしていくうちに打ち解けていって。真面目な人だなと思うようになりましたね。演奏する内容でも意気投合していったし。

-ヴォーカルのコージさんは、また少し違う経緯で加入されてますよね?

コージ:そうですね。私も祖堅さんと同じスクエニ(スクウェア・エニックス)の社員なんですけど、部署が違うんですよ。(祖堅さんは)サウンドで、私はローカライズ。日本で作ってるゲームを海外用にアレンジしたり、翻訳したりする部署なんです。で、"FFXIV"で一緒に働くことになって。"曲を作るから、コージ、詞を書いてくれない?"ってまず依頼がきたんです。で、詞を書いたら、今度は歌う人がいない。"コージ君、歌ってくれる?"って言われて。歌はやったことがなかったから、恥ずかしいって言ったんですけど、大丈夫だからって説得されて。

-歌詞を書くほうに関しては、特に戸惑いはなかったですか?

コージ:詞を書くのは楽しかったんです。もともとローカライズの仕事なので、人が書いたものを翻訳するのがメインですけど、"FFXIV"の曲に関しては、祖堅さんが好きに書いていいよって言ってくれたので。この会社に入って初めて自分がゼロから作ったものでもあるから楽しかったんですよ。祖堅さんも、"いいですね、いいですね"って言ってくれて。そこから"じゃあ、次にこの曲もあるからやってくれない?"ってなったんです。

祖堅:ふふふ(笑)。

コージ:そうやって歌詞を書いたり、歌ったりしてるうちに、今度は"ライヴでやることになったから、ステージで歌ってくれない"って言われたんです。しかも、いきなり5,000人の前で。"はぁ!? 話が違うじゃないか"って思いました。完全にハメられた! って。

一同:あははは!

祖堅:そんなこと言ってますけど、日本でもZeppツアーをやったし、幕張で1万5,000人が入るイベントもやったし。海外だと、ソウル、上海、パリ......。

コージ:ロンドン。

祖堅:フランクフルトとか。世界7ヶ所で数万人っていう規模でやってるんですよ。

GUNN:一般的なバンドよりも経験豊富だよね(笑)。

祖堅:あと、コージにお願いをしたのはロックが好きっていうのもあったんです。アメリカ人なので本場のロックを聴いて育ってるのもあるし。僕と同じジャンルをずっと聴いてたところもあって。こういうアーティストをイメージして歌ってと言うと、そんなに説明にしなくても伝わるんです。

-そういうときにあがるのはどんなアーティストですか?

コージ:移動中のバスで、ふたりでTHE OFFSPRINGを熱唱してますね。

祖堅:ドイツのバスの運転手にすごい迷惑をかけたよね(笑)。車の中で3時間ぐらいずっとでっかい声で歌ってるんですよ。フリーウェイでどうせ周りに聞こえないから。THE OFFSPRINGとGUNS N' ROSES......あとなんだっけ?

コージ:RAGE AGAINST THE MACHINEとか。90年代のロックをよく聴いてます。

-いちサラリーマンがフロントマンに抜擢されて、世界を股にかけてライヴをするなんて、"FFXIV"という人気コンテンツだからこそですよね。

コージ:私と祖堅さんは"FFXIV"の開発者でもあるので、ステージに出ると、プレイヤーのみなさんがよろこんでくれるんですよね。仲間だって思ってもらえてる。"私たちが楽しんでるゲームを作ってる人だ"っていうのがあるから許してもらえるのかなっていうのは思います。サラリーマンでありながら一生懸命作ってる。私たちのために一緒に歌ってくれてるっていうのもわかってくれてるので。すごく温かく応援してくれてるので嬉しいです。

-もともと"ゲーム体験ファースト"で結成したバンドですけど、7年間の活動を経て、自分たちが果たす役割が変化してきたと思うところはありますか?

祖堅:もちろんゲーム体験ファーストっていうのは変わらないんですけど。バンドとして、どうあるべきかは毎回切磋琢磨して、より良くしていこうって意志はみんな持っていただいてるんですね。その中で細かい変化はあって。

-具体的に言うと?

祖堅:最初はもっと勢い任せ一辺倒だったんですよ。でも、もうちょっとテクニカルなことをやってみたらどうかっていう試行錯誤があったりして。でもやりすぎて、初心を忘れちゃいけないんじゃないかっていうことで、また最初の頃の感じに戻してみよう、とか。そういった微妙な変化がバンドの中ではあるんです。

GUNN:意見を出し合ってね。

祖堅:うん。そこはもがいてますね。だけど、やっぱり大事なところはゲーム体験ファーストと全力のロックっていうところ。常にそれを考えながらやってると思います。