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LIVE REPORT

HAKEN

2024.04.26 @渋谷WWW X

Writer : 菅谷 透 Photographer:“Jake Ten” (@jake.ten) on Instagram

UKロンドン発の6人組バンド HAKENが、待望の来日公演を開催した。2023年にリリースされた最新アルバム『Fauna』も好評を博し、現行プログ・メタル・シーンの第一人者としての存在感をますます高めたなかでついに開催された本邦初ライヴは、バンドの実力をまざまざと見せつけるような衝撃のステージとなった。

会場の渋谷WWW Xにはほぼ満員と言っていいほどの観客が集結し、開演前から熱気が充満している。開演時刻を過ぎたタイミングでは、"もう待ちきれない!"と言わんばかりに手拍子が自然発生。ライヴへの期待の高さが窺えた。場内が暗転し、緊張感を煽るSEとともに赤い照明が明滅したところで、バンド・メンバーがステージに登場。前作『Virus』のオープナーである「Prosthetic」でショーをスタートさせた。ステージの両サイドに構えたツイン・ギターのRich Henshall(Gt/Key)とCharlie Griffiths(Gt)は、8弦ギターならではの腹にズシンとくるヘヴィネスと脳天に刺さる高音を駆使したプレイが実に鮮烈。この日は音響も良好で、どちらがリードを担当してもソロ/バッキングが埋もれることなく堪能できたのが素晴らしかった。初期メンバーで『Fauna』からバンドに復帰したPeter Jones(Key)はキーボード1台のシンプルな機材構成で、楽曲によっては音源と音色が異なる場面もあったのだが、個人的には生で演奏している実感があって好印象。装飾的なプレイもリードも卓越したスキルを発揮していた。

Raymond Hearne(Dr)とConner Green(Ba)のリズム隊は緩急自在で、HAKENの肝である変拍子を見事に操る。そして、この日最も存在感を放っていたのはRoss Jennings(Vo)だ。音源では抑制的な、どこか一歩引いた印象のあった彼だが、ライヴでは低音からハイトーンまで豊かな表現力のヴォーカルが際立っており、それでいてピッチもタイム感も抜群。『Fauna』のテーマである動物になぞらえるなら、たてがみのようなカーリー・ヘアも相まって、愛嬌と獰猛な牙を併せ持つ百獣の王のような風格を漂わせていた。

"コンニチハ、トーキョー! こんなに大勢の人たちと会えて嬉しいよ"というRossの挨拶を経て、2曲目にプレイされたのは『Fauna』から「Nightingale」。大空へと羽ばたくような清々しさとダイナミクスを持った楽曲で、フロアをより深くバンドの世界観へと引き込んでいく。もともとは映画館だったWWW Xという会場も、ある意味HAKENにとっては理想的な舞台だったのかもしれない。オーディエンスは音世界にじっくりと浸りつつ、テクニカルなセクションに突入すればその都度歓喜の声を送る熱の入りよう。メンバーにも熱気はしっかりと伝わっていたようで、演奏を終えると笑顔やガッツポーズでリアクションを返していた。次の「Sempiternal Beings」では楽器陣がコーラス・ワークでも魅せていて、中でもRaymondは複雑なリズムを刻みながら、左手でスネアを叩く合間にコーラス・マイクを動かす器用ぶり。テクニカルな演奏だけでなく、コーラスでも安定したパフォーマンスができるのは間違いなくこのバンドの強みだろう。

続いては『Fauna』の曲順通りに「Beneath The White Rainbow」がプレイされ、中盤のアヴァンギャルドなパートでは拍を見失ってしまうほどの凝った展開ながら、一糸乱れぬ演奏を繰り広げる様に思わず驚嘆。Rossの拡声器を用いたパフォーマンスもユニークだった。続いて4thアルバムの『Affinity』から、と披露されたのは「Earthrise」。80sポップを思わせるカッティング・ギターやシンセを取り入れながら、力強くドラマチックなメロディを広げていく人気ナンバーで、壮大な景色を作り上げていった。

Rossが胸に掲げたハート・サインを合図に始まった「Lovebite」では、AOR的なメロウさとサビでの衝動的なビートの対比がより明確に感じ取れて新鮮な感覚に。コール&レスポンスもバッチリ決まって、多幸感溢れるムードが会場を満たしていく。その流れを引き継ぐようにユーモラスなセクションから始まった「Elephants Never Forget」は、Djentからミュージカルまで、ポップネスとヘヴィネスの両極端を11分の中に詰め込んだ、まさにHAKENの真骨頂。目まぐるしく変化する光景に、オーディエンスも食らいつくかのように身体を揺らしていた。興奮に包まれた空気を和らげるように届けられたのは、『Virus』収録のバラード「Canary Yellow」。Rossの優しい歌声と、慟哭のギターが響き渡ったこの曲は、一部日本語詞のアコースティック・バージョンが作られたことや、MVで核実験をテーマにしていたこともあって、この地で鳴らされるべき曲だったように思う。

開始から50分強が経ったところで、ようやく小休止のMCタイムへ。Rossはソロ・パートで袖にハケる時間があったとはいえ、あれほどまで複雑な楽曲を、せいぜい10秒程度の曲間のブレイクだけで演奏し続けたのだから本当に恐れ入る。"初めての日本をみんなと祝うことができて嬉しいよ"という言葉のあと、Rossは"悲しいけど、終わりが近づいてきているんだ"とひと言。正直"ちょっと早くない?"とも思ったのだけど、その真意はすぐに理解できた。"俺たちのお気に入りの曲だよ"と披露されたのは、20分近くに及ぶ超大作「Crystallised」だったのだから。中盤のフォーキーなパートでは対位法を用いたアカペラを完全に再現したうえに、Rossがオペラチックな歌唱をRich との"ツイン・リード"で繰り広げてみせ、大役を終えたあとのボウ・アンド・スクレープには惜しみない拍手と歓声が送られていた。そのあとも曲が進むごとに感情が積み重なっていき、終盤のリプライズではまばゆい光とともに特大のサウンドスケープでカタルシスを生み出し、ドラマチックなエンディングを迎えていた。

HAKENコールとともに始まったアンコールでは『Vector』より「Puzzle Box」、「Nil By Mouth」のメドレーをドロップ。再びDjentyな質感の重厚なサウンドを叩きつけ("ターミネーター"のテーマの引用もユニークだった)、フロアのヴォルテージを高めていくと、ラスト・ナンバーとしてプレイされたのは代表曲「Cockroach King」。この日一番の盛り上がりを見せ、白熱のステージは幕を下ろした。

バンドとオーディエンスが共振し、双方に予想を超えたインパクトをもたらすような一夜となった今回のライヴ。最後にRossが放った"次回はトーキョーを2デイズでやらないとね!"という言葉からも満足度が窺えたのだが、あえて言えばもっと聴きたい曲があったのもまた事実。次回はぜひ、欧米で実施されている2部制3時間セットで来日してほしい!

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