INTERVIEW
(sic)boy
2025.11.27UPDATE
Interviewer:吉羽 さおり
今年リリース5周年を迎えた1stアルバム『CHAOS TAPE』(2020年)にはじまり、『vanitas』(2021年)、そして『HOLLOW』(2023年)という3作のアルバムを通して構築してきた(sic)boyの世界観。ロックやエモの持つドラマ性やカタルシス、あるいはパンクやヒップホップのDIY精神で、歪ながらそれでいて美しい鼓動を鳴らしてきたその音楽は、この最新作『DOUKE』で鮮やかに、挑戦的に広がりを見せている。『CHAOS TAPE』からのタッグを組んできたプロデューサー KMや、久々の邂逅となった Chaki Zulu、またビートメイカー uinや海外のプロデューサー Tidoとセッションを重ね、その時々のフィーリングや未知の音にも無心で飛び込んでいった今作は、無防備なくらいのしなやかさと、それでいて強烈な叫びを上げる"個"が刻まれた作品にもなった。その制作はどういうものだったのか、話を訊いた。
-前作『HOLLOW』からは約2年4ヶ月ぶりとなるアルバム『DOUKE』が完成しました。まずは今の実感や、手応えから教えてください。
長かったなというか。大変だったなという思いと、やり切った達成感とがある感じですね。
-収録曲としては全20曲というボリューム感ですし、特にKMさんやChaki Zulu(YENTOWN)さんといったプロデューサーを中心にして、一曲一曲丁寧に、いろんなことを試しながら作ったであろう深みと新しさとがあるアルバムだなという印象です。
結構じっくりとやりましたね。今の時代、アルバムで20曲って多いと思われがちだと思うんですけど。その自分の詰め込みたいものを全て詰め込んだ20曲だったので、一曲一曲楽しく作れました。
-これまでの3枚のアルバムを経て、制作のモードとしてはどんどん新しいことをやっていこうという思いは強かったですか?
KMさんはもちろん、Chakiさんとは前作『HOLLOW』でKMさん、Chakiさん、JUBEE(Rave Racers/AFJB/CreativeDrugStore)さんとの曲「君がいない世界 feat. JUBEE」を作ったことがあったので、他にもuinとかいろいろなプロデューサーとの制作でああしようこうしようと話しているとどんどんアイディアが出てきて、広げてもらった感じかな。
-Chakiさんとは久々のタッグとなりますが、今回の制作ではどんな話をしましたか?
Chakiさんは、世間のイメージするChaki Zuluというプロデューサー像、クールな印象はあるんですけど、話してみると柔らかい人柄で。僕はお笑いが好きなんですけど一緒にお笑いの話をしたりとか、音楽以外の話も結構しましたね。でも制作となるとバチっとモードが変わってみたいな。それがすごい楽しくて。いい曲がたくさんできたなと思ってます。
-今回のChakiさんと制作をした曲は実に幅広いテイストになりました。OMSBさんをフィーチャーした2000年代R&Bを思わせる「SAY GOODBYE feat. OMSB」や、タイトなビートでの疾走感ときらめきが溢れる「Shaggy White」、またLOVE PSYCHEDELICOの「Last Smile」も(sic)boyらしいカバーですね。
今回は8曲くらいあるのかな。でもそれ以上に作っていたので、この期間でだいぶChakiさんのスタジオに通いましたね。スタジオに着いて、こういうのを作ろうというよりも先にChakiさんがトラックを組み立て始めて。そこからメロディとかを乗せていくんですけど、勉強することだらけだったというか。やっぱり緊張感もありますしね。ちゃんとコードを意識しながら作るとか、自分が作曲をするにあたって今までちょっとサボってきた部分とかも、Chakiさんとのセッションを重ねるにつれて少しずつ理解できたのかなって思います。
-特に「疑心暗鬼」は、ファンキーでポップなトラックと(sic)boyという組み合わせの妙で新鮮でした。
この曲が今回、Chakiさんのスタジオに入って1曲目だったんです。"せっかくだしちょっと面白いことやろうよ"みたいな感じで、ヒップホップとかパンクとか、今まで(sic)boyとしてやってきた曲とは違うものを作ろうと始めた、その1曲目が「疑心暗鬼」だったんです。これは楽しかったですね。
-ヴォーカルや歌のキー等も、サウンドやそのときのセッションでのノリに引き出された感が。Chakiさんとしても、(sic)boyにこういう曲をやってほしい、(sic)boyのこういう歌を見てみたい、聴いてみたいというのがあったのでは?
そう言ってくださることが多かったですね。これまでアルバムを3枚、EPも3枚出してきて、となると作曲にしても歌い方や歌詞にしても、結構自分の型、癖みたいなものもできていると思うんです。それは自分の中で1つ確立できた世界でもあるんですけど、もっとそれ以上に、それ以外に、と考えると、Chakiさんはその可能性を引き出してくれたかなと思います。「疑心暗鬼」は特に、自分があまりこういうジャンルの音楽にトライしてこなかったので。どの曲にしてもそうですけど、Chakiさんは"こういうのが合いそうじゃない?"とか、その日のテンション感でいろんなことをやってみたりとか、アイディアを出しながら作り上げていった感じです。
-曲作りのときに、曲やアレンジの方向性について何かリファレンスとなるもの等はあったり、いろいろ聴いたりということはあるんですか?
"最近、どういう曲聴いてるの?"とかそういう話もしますけど、わりとそれは日常会話という感じで。何か言語化したり、リファレンスをというよりも、まずChakiさんがトラックで提示してくれるところからでしたね。ひたすらChakiさんの作るトラックに追いつけるようにってずっと後ろを追いかけていました。セッションによっては長時間一緒に作ったりもしたので、すごい集中力と根気が必要で、でもそういう状態だからこそ引き出されるフロウやリリックもあって。ものすごく刺激的なセッションでしたね。で、日を跨いでChakiさんのスタジオに行くと前回作った曲がガラリと、さらにいい方向に変化していたりする。それもすごく楽しかったし、そういう曲だらけでしたね。
-そういったスリリングで高揚感のある制作から生まれた「疑心暗鬼」は、ダークな香りが漂う、憂いのある歌詞にもなりました。歌詞も、セッションの中で作っていったものですか?
歌詞もほぼそのスタジオで完結ですね。自分の家で宿題のような感じで書くこともあったんですけど、Chakiさんとの曲はほぼChakiさんのスタジオで書いたかな。お互いにアイディアを出し合って、"サビがこうだったら、このヴァースのここはもっといい表現があるよね"とか言いながら。時間はかかるんですけど、お互いにいいものを作ろうという目標は変わらないので。ひたすら言葉を出しては歌ってというセッションで。
-また、Chakiさんとの曲で印象的なのは「色のない夜」です。(sic)boyの真骨頂と言える、エモーショナルで壮大に広がっていく曲になりました。
結構コード進行とかが今までトライしたことない流れだったので、この曲は一番思い入れがあるかもしれない。歌い方も、この曲ではどうしてもシャウトっぽいがなる感じにしたくて。きれいなだけの曲というよりは、内側から来る不安や切ない気分をエモーショナルに表現したかったんです。それで"こういう歌い方がしたいです"って言ったら、それでいこうって。サビ部分は何回もレコーディングしましたね。喉を潰すまでいかないですけど、どんどん喉にダメージが出てきて、それでようやく納得するものが出せたみたいな。歌詞にある物足りなさとか焦燥感みたいなものが歌い方にも乗って、いいレコーディングができたんじゃないかなと思います。
-曲へのとっかかりとなったのは?
アルバムのリリースが11月末で、12月にツアーを想定していたので、もともとは冬に聴きたくなる曲、クリスマス・ソングみたいなのを作ろうよって始めたんです。意外とそうやって聴くと、鈴の音とかが入っていたりもするんですよ。
-そういう始まりが、(sic)boyでは悲しみや切なさを宿した曲になる。そこはどうしても出てしまう感触なんでしょうか。
エモーショナルな部分は大事にしているし、明るいクリスマス・ソングは世の中に溢れているじゃないですか。そういう曲も好きなんですけどね。でも僕とChakiさんなりの冬の曲となると、こういう感じかなっていう。すごく納得がいった曲だし、これがアルバムの中で最後に作った曲だったので。そういった意味でも達成感があって、いい意味でアルバムにピリオドが打てたなっていうか。ぶっちゃけ、できなかったら次回作に回そうかくらいで作り始めたんですけど、でもこのアルバムにこういう曲必要じゃない? となって。なのでちょっとリリースが遅れちゃってレーベルの皆さんには申し訳なかったんですけど、それもいい思い出です(笑)。
-対して、KMさんとの曲は(sic)boyのルーツや原点をより掘り下げていったのかなというイメージがあります。KMさんとは長い付き合いですが、今回はどんな制作でしたか?
KMさんは(sic)boyの昔からある部分やエナジーを引き出そうとしてくれてたのかなと思います。1stアルバム『CHAOS TAPE』から3rdアルバム『HOLLOW』までの3部作の延長線を描いてくれました。いつも通りといえばいつも通りなんですけど、『DOUKE』でのKMさんは、前作とかその前の『vanitas』とも違って。この2年くらいの間でKMさんにもサウンド感の変化はもちろんあっただろうし。逆にあまり相談事をするというのもないんですよ。お互いのいいところを出し合うのは分かっているので、そこは安心感があるトラックを仕上げてくれたなという感じですね。
-アルバムを幕開けるタイトル曲「DOUKE」では、ルーツの1つであるV系サウンドやそのムードが(sic)boyとして昇華されました。前半のメロディアスで退廃的な雰囲気から、後半はモダンでデジタルなサウンドへとガラリと様相を変えます、どう生まれた曲ですか?
「DOUKE」は結構、自分の趣味っぽい感じがあるなと思いますね。あのまま前半のパートの感じでずっと続いていってもよかったんですけど、後半でビートをスイッチしたらどうかっていうアイディアをKMさんが出してくれて。今までの(sic)boyっぽさも残しつつも、新しいスタイル、2025年っぽい感じになったのかなと思っています。









