INTERVIEW
ALI PROJECT
2025.10.14UPDATE
2025年10月号掲載
Member:宝野 アリカ(Vo) 片倉 三起也(Key)
Interviewer:杉江 由紀
結局はアリプロってずーっとアングラなんですよね(笑)
-凛々しき「日本男子、獅子奮迅」の次に来るのはシャッフルのリズムが小気味よい「暗黒IDOL」ですが、こちらは曲調ありきで仕上げていったものになりますか?
片倉:これはずばり「暗黒天国」(2007年リリースのシングル表題曲)を踏まえた曲になってます。
宝野:ほぼ同じ曲みたいな(笑)。
片倉:前作『若輩者』では"「亡國覚醒カタルシス」(2006年リリースのシングル表題曲)の次にそれっぽい曲を出してたとしたら?"という方向性で表題曲を作ったんですけど、あれが結構面白かったのもあって、今回もそういう試みをまたやってみた感じです。
宝野:私、前から片倉さんに"「暗黒天国」みたいな曲作って"と何度も言ってたんですよ。やっと作ってくれました(笑)。
-「暗黒IDOL」の歌詞には"グラグラアングラ"というフレーズが入っていますね。
宝野:そこはアルバムのテーマである"Underground"を意識した部分です。地下室を1つの舞台として考えるなら、そこで歌ったり踊ったりしているアイドルたちというか、女の子たちのことも詞として描けるなと思ったんですよ。
-「暗黒IDOL」とはいわゆる地下アイドルのことだったのですね。
宝野:結果的にというか、結局そうなっちゃった(笑)。私、"地下アイドル"っていう言葉は根本的に嫌いなんですけどね。
片倉:アリカさん、言葉には気を付けてね(苦笑)。
宝野:えー。だって志が低すぎるじゃない? アイドルになりたいなら、もっと上を目指しなさいよ! と思うんだもの。地下でいいやというスタンスは"それでいいの?"って感じちゃう。
-近年は、地下に限らずメジャーでもことごとくグループ売りなのが寂しいところではあります。
宝野:ですよねぇ。なぜみんなもっと絶対的なアイドルを目指さないんだろう?
片倉:そういう意味では、これは励ましの歌なんだと思いますよ。アリカさんなりのね。ってことで、この曲についてはこのくらいにしておきましょう(笑)。
-承知いたしました(笑)。次のA面4曲目にあたる「不条理劇」はピアノから始まる大変ドラマチックな曲になっておりますね。
片倉:ちょっと生意気な言い方にはなってしまうんですが、あまりポピュリズムには走らない曲を作りたかったんです。そういうものに対するアンチテーゼですね。僕はよく思うんですよ。どうしてこの世には世間に迎合したつまらない曲ばかりがこうも多いんだろう? って。もちろん、中には若くてかっこいい音楽家がいることは知っていて、彼等の存在に救われてるところもあるにせよ、自分でももっと新しい音楽を作りたいなとすごく思うんですよね。この曲は自分の中でのその気持ちを形にしたものです。まぁ、きっと僕もこんな生意気なことを言えるような歳になってきたということなんでしょう(笑)。
-この曲はピアノの音色も素敵ですが、影の主役はベースのようでもあって、裏で曲を牽引する役割を果たしてくれているように聴こえます。
片倉:そう聴こえるのはベースの音を少し歪ませてるせいかもしれないね。
-絶妙なアンダーグラウンド感を醸し出しているのがベースの音だと思います。一方、アリカ様はこの「不条理劇」の世界をどのように作られていかれたのですか。
宝野:最初はアングラ劇団みたいなイメージから、"anti-théâtre"っていうタイトルを付けていたんですよ。でも、劇場とか劇団みたいな言葉はこれまでにもいくつかの曲でタイトルに使ってきているし、ここではそれらとは少し違う表現をしたいなと思っていたら、気が付いたときにはこの詞と"不条理劇"というタイトルが全てできあがっていたんです。時間自体はかなりかけているんですけど、その過程は覚えていなくて、いつの間にか素敵な歌詞ができていたという奇跡が起きました。たまにだけどそういうことがあるんですよね。そして、私はこの曲も歌詞も大好きなんです。今まで何百も書いてきた歌詞の中で、ベスト5には入るくらいかも。これだけのものが書けるなら、また次もいけるなっていう気持ちにもなりました。
-さて。いわゆるA面の最後を飾るのは「地下牢(ダンジョン)から愛を込めて」です。
片倉:これは本当に地下に潜ったような暗い曲にしたかったんです。ドロドロとしているので、宝野さんは絶対"好き"と言ってくれるだろうなという狙いのもと作りました。
宝野:ほんと、すごく好き(笑)。プログレっぽさもあっていいんですよ。歌詞は地下牢のイメージがすぐ浮かんできて、私はゲームってそんなにしなくて"ドラゴンクエスト"で止まっているんですけど、地下で蠢いて最後の鍵を探すとか、そういう場面を想像しながら書いていきましたね。
-となりますと、アングラ感の満載な「地下牢(ダンジョン)から愛を込めて」でA面を締めくくった後、B面1曲目として、「ZAZOU通りの猫オンナ」を選ばれた理由がなんだったのかも気になります。
宝野:雰囲気をがらりと変えるにはこの曲だよねってなりました。
片倉:今回、B面をまとめていくのは非常に難しかったんです。A面はまだ統一感があると思うんですけど、(B面は)みんな毛色が違う曲ばっかりなんですもん(笑)。
宝野:さっきも話に出ていた通り、もともと私たちはZAZOU RECORDというレーベルを持っていて、この"ZAZOU通りの猫オンナ"はそこからタイトルを付けたものになります。でも、別にこれは"サンジェルマン通り"でも良かったんですよ。
片倉:というか、"ZAZOU通り"ってサンジェルマン通りのことを僕等が勝手にそう呼んでるだけだからね。1940年代のパリには"ZAZOU"っていうのがいて、彼等はパリに侵攻してきたナチスに抵抗していた人だったんです。それこそ、彼等の存在自体がアンダーグラウンドだったわけです。
宝野:地下に潜るしかなくてそこでジャズとかやってたんですって。
片倉:と言っても「ZAZOU通りの猫オンナ」は別にジャズではなくて、わりとエレクトリックな感じの音になってるでしょ? これは僕からすると、どこのものともしれない未来的な民族音楽なんです。
宝野:詞に関しては、これを書くまでに今回はもう何曲分か書いてしまっていたので、次はどうしたらいいんだろう? って状態になっていたんですよね。それで、片倉さんに"どうしたらいい? 何かアイディアない?"って聞いたら"猫オンナがどうのこうの"って言われて、それでこういう内容になりました。
片倉:"猫オンナ"っていうのは、レジスタンスのことね。ナチスがパリに進攻してきたときに、サンジェルマン通り=ZAZOU通りの地下にあるライヴハウスをアジトにして暗躍していたという設定で、女性スパイのことを言ってるわけ。
-なるほど。"Je suis ton assassin"という一節があるのはそういうことでしたか。
宝野:"assassin"っていう言葉は、女性の場合でも男性名詞のままでいいんですって。今回それを勉強しました(笑)。
-それから、その次に来る「GARAKUTA」は本作の中で最もロック感の強い音像に仕上がっているように聴こえます。
宝野:ロックというか、これはロックンロール寄りよね。感覚的には前作でやった「若気ノ至リ」の女の子版みたいな雰囲気だなと思います。
片倉:僕の中ではこれ、GARBAGEのイメージなんですよ。紅一点の女性ヴォーカリストがいるあのバンドのことを、半年くらい好きだったことがあって、この曲はその頃をちょっと思い出しながら作りました。といっても、できた曲自体は全然GARBAGEにはならなかったですけどね。ハモンド・オルガンっぽい鍵盤も含めて全ての音が歪んでます(笑)。
宝野:曲タイトルを"GARAKUTA"にしたのは、それもGARBAGEのことを意識したからなんですよね。"GARBAGE"はゴミのことだから。ゴミ、散らかってる、ガラクタみたいな感じで連想していった感じ。あ、でもガラクタって漢字で書くと"我楽多"と書くこともあるんですよ。そこで"いや、ガラクタって素敵なものなんだ"って思考が切り替わりました。
-他人には分からないとしても、我にとっては楽しみを多く与えてくれる大切なものたち。それが"我楽多"だということなのでしょうね。
宝野:私の部屋なんてまさに"我楽多"ばっかり! 断捨離の得意な人が"ときめかないものから捨てましょう"なんて言ってるけど、全部ときめくものしかないの(笑)。
-かくして、今作『Underground Insanity』のエンディング(※通常盤ボーナス・トラックを除く)で響くのは「out of the blue(instrumental)」です。片倉さんはこの曲にどのような想いを込められましたか。
片倉:僕は今わりと自然の多い場所で暮らしているので、窓から鳥が飛ぶ姿や木々がよく見えるんですよ。この曲は鳥が風を受けて飛ぶ場面から発想したものですね。晴れ渡った空から、突然前触れもなく予期せぬ素晴らしい出来事が起きますように、という希望と願いをここには込めました。
-『Underground Insanity』というアルバムは、この曲が最後に置かれることで救いを見いだすことができるものになったように感じます。
片倉:そうしたかったんですよ。地下に潜ってるだけじゃダメで、レジスタンスも勝ち残っていずれは地上で生きる日を獲得しないとね。日本男子たちも"凱歌揚げて高らかに"生きてほしいし、"暗黒IDOL"たちにも本当の生き甲斐を見つけてほしいよねっていうことなんです。
-加えて、通常盤には、ボーナス・トラックとして「パラソルのある風景2025」も収録されておりますが、なんでもこちらは、もともと1988年の1stアルバム『幻想庭園』に収録されていたものなのだとか。
片倉:そもそも曲を作ったのはALI PROJECTが始まる前でしたし、インディーズでの名義も当時は"蟻プロジェクト"だったんですよ。
-今回改めてこの曲と向き合われたときに、何か感じられたことはありましたか?
片倉:今や譜面もデータも何も残ってなくて、あったのは歌入りのオリジナル音源だけだったんですけどね。これこそ若気の至りだなぁということは感じました。新たにアレンジするならオーケストラみたいにしたほうが分かりやすいかなとか、ジャズっぽくするとかの手法があったものの、聴き直してみると発見がいろいろあって。思っていた以上に複雑なことをすごく上手にやってんだなっていうことを、自分で再評価することができたんですよ。それが我ながら嬉しかったです。
あと、この曲は、数年前にライヴでやろうとしたときに譜面もカラオケもないんで却下したことがあったんですね。この曲自体は今回のアルバムとは全く関係のないものなんですが、再来年"ALI PROJECT"になって35周年と考えると、今後ライヴでやるためにもこのタイミングでリアレンジしておいて良かったなと思います。
宝野:この曲のことを好きだという人って実は多いしね。私もこの曲はライヴでやってみたいと思っていたので、今回リレコーディングできたのは嬉しいです。そして、当時ライヴでやったときは、この曲で途中、探偵役のキャストの人がステージに上がってくるみたいな前衛的な演出もしていたので、そこはアングラ感という意味で今回の作品との繋がりもちょっとあるかもしれません。結局はアリプロってずーっとアングラなんですよね(笑)。
-そうしたALI PROJECTの真髄は、12月25日に、ヒューリックホール東京にて開催される"ALI PROJECT 2025~Underground Insanity Christmas"でも、存分に感じさせていただけそうで楽しみです。
宝野:別にクリスマスを狙ったわけではなかったし、平日なんですけど、結果的にクリスマスになってしまいました。
片倉:会場の空きが全然見つからなかったんですよ(苦笑)。
宝野:当然『Underground Insanity』の曲たちもやりますが、アリプロには1曲だけクリスマスの曲(1995年リリースのアルバム『星と月のソナタ』収録曲「彼と彼女の聖夜」)もあるので、それもアンコールとかでやってもいいかなって思ってます。
-そのライヴが終わると程なく2026年がやってまいります。新譜が完成したばかりではありますが、最後に来年以降に向けたALI PROJECTとしての展望もお聞かせください。
片倉:宝野さんがね、作り終わったばかりなのに"次の曲をまた書きたい"ってすでに言ってるんですよ。
宝野:これまではいい形でアルバムを作り終われると、"しばらくはもういいかな"って感じることが多かったんだけど、今回の『Underground Insanity』はとても好きな作品になっただけじゃなく、この先もまだまだあるじゃん! みたいな気持ちになったので来年もまた作りたいんですよね。再来年が35周年だから、来年1年休んでから35年に向けて動こうかなと思ってたけど、今は別に休まなくてもいいやって考えてます(笑)。