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INTERVIEW

ALI PROJECT

2024.06.25UPDATE

2024年07月号掲載

ALI PROJECT

Member:宝野 アリカ(Vo) 片倉 三起也(Key)

Interviewer:杉江 由紀

凶悪打撃武器、釘バットを手にした宝野アリカ様が征伐しようとされているのは、つまり"若輩者"なのである。まだまだ至らない者のことを意味するこのアルバム・タイトルは、年若い人々に向けられている一方で、実はALI PROJECTからすると、"自分たち自身"のことをも指したものなのだと言うではないか。鬼才、片倉三起也の織りなす鮮やかな音像のうえで"どんな時代だろうと/わが道を貫こう"と表題曲「若輩者」で歌い上げるアリカ様の前に、今こそすべての者は敬服すべきであろう。


いつまで経ってもどれだけ作っても常に若気の至りでしかない


-たいそう驚きました。ALI PROJECTは毎作コンセプチュアルな世界を提示してくださっており、前作『天気晴朗ナレドモ波高シ』(2023年リリースのアルバム)は日露戦争をモチーフにしながら、現代の"戦争と平和"についても描き切った大作でしたけれど......なんと、今作は"若輩者"というアルバム・タイトルにして、アリカ様が凶悪打撃武器 釘バットを手にされているお姿をあしらったジャケ写が、強烈なヴィジュアル・インパクトを放っております。いったい、何がどうしてこのような展開へと至られたのでしょう?

宝野:前回とはまったく違うものを作りたい、という姿勢そのものは今回もこれまでと同様だったんですけどね。このアルバムを作り出すにあたっては、最初に"若輩者"というタイトルが決まったんですね。自分自身が未だに若輩者であるって意味と、それとは別に外の世界に向けた"この若輩者め!"という上から目線の、ふたつの意味でこの言葉をここでは使っているんです。そして、視覚的な部分での打ち出し方についてどちらで行こうかな? となったときに、最初片倉さんが"昭和のスケバン"のイメージで、そういう格好をするのはどうか? と。

-昭和のスケバンと言えば、最近ヒットしたテレビ・ドラマ"不適切にもほどがある!"には、80年代初期頃によくいたセーラー服を着た不良少女が登場していましたっけ。

宝野:でもね、セーラー服だとあんまりゴテゴテできないでしょ? それに、前回の『天気晴朗ナレドモ波高シ』は水兵さんをイメージしたセーラーだったので、微妙に被っちゃうのも避けたかったし。しかも、私としては上から目線な雰囲気を見た目から醸し出していくなら、ゴシックな感じが良かったんですよ。例えるなら"ゲーム・オブ・スローンズ"に出て来そうな、目下の者たちを見下ろす王様みたいな格好をしたかったんです。あとやっぱり、武器を持ちたい! っていう気持ちもすごくありました。

-なるほど。武器=釘バットに昭和の面影を託されたわけですね。

宝野:だって、今まで武器は日本刀もレイピアも剣も散々いろいろ持ってきましたから(笑)。今度は何を持とうかな? と考えていたとき、片倉さんから"前に1回やってることはダメだよ!"って言われて、そのうえで"釘バットとかヌンチャクはどう?"と提案されたんです。まさに釘バットだと昭和っぽさもあるし、いいかなってなりました。

-釘バットを提案されたのが、片倉さんだったとはやや意外です。

片倉:釘バットって、今のZ世代の人たちはたぶんよくわかんないでしょうけど(笑)。

宝野:マンガとかアニメでも見たことないかな?

-ちなみに、歴史の上では、1990年に勃発したルワンダ紛争で実際に釘バットによる犠牲者が出たそうです。

宝野:片倉さんの場合は、前から"ウォーキング・デッド"が大好きでずっと観てるので、それに武器として出てくるバットから発想したんでしょ?

片倉:"ウォーキング・デッド"に出てくるのは、釘バットじゃなくて有刺鉄線を巻いたバットなんだけどね。アリプロ(ALI PROJECT)として若輩者というテーマでやるんだったら、武器は昭和の不良が持ってた釘バットで、ゴスっぽい格好をした宝野が上から目線で若者をいたぶる! って感じがいいかなと思ったんですよ(笑)。

宝野:とはいえ、いざ釘バットが必要だとなっても今時そんなのどこに売ってるの? っていう話じゃない。でもなんと、今回はチームアリプロの衣装の人が作ってくれました! ということで、今回の私はお洒落釘バットを持ってゴシックにマントをひるがえし、オチとしてはその姿でスイカを割るショットもジャケ写とは別に撮ってます(笑)。

-さてさて、あまりに鮮烈なヴィジュアル・ショックを受けてしまったので、ついジャケ写に関するお話に夢中になってしまいましたが、ここからはいよいよ『若輩者』の内容についてうかがって参りましょう。今作には、既発タイアップ曲や外部提供楽曲のセルフカバーなども計5曲収録されておりまして、インストゥルメンタル「含羞草ねむりぐさ[instrumental]」を含む書き下ろし曲も計5曲収められておりますが、このうちコンセプトとしての"若輩者"から、直接的に生まれた楽曲というのはどちらになるのでしょうか。

宝野:表題曲の「若輩者」と「反國陰謀ディストピア」、「若気ノ至リ」、「日本弥栄」の4曲です。特に「若輩者」と「若気ノ至リ」に関しては、"若輩者"っていうアルバムを作るのであれば、ぜひそのタイトルで曲を作りたいなと思っていた曲たちですね。

-表題曲「若輩者」を仕上げていくにあたり、留意されていたのはどのようなことだったのかもぜひ教えてください。

宝野:実はですね。この「若輩者」って、以前アリプロで出してる「亡國覚醒カタルシス」(2006年5月リリースのシングル表題曲)という曲に酷似しているんですよ。そして、それには理由があるんです。

片倉:さっき宝野も言っていた通り、"若輩者"は上から目線で若者たちを見下ろす言葉であると同時に、自分たち自身に対しての"いつまでもまだまだ若輩者だな"という自戒の言葉でもあるんですね。というのも、やっぱり過去に作った作品に対しては、時間が経ったときに、"もっとできることがあったんじゃないかな"と感じることもあるわけなんです。それこそ、2006年に出した『亡國覚醒カタルシス』とか、2005年に出した『聖少女領域』あたりはアリプロが微妙にヒットした時代だったんですけど(笑)、今思うと"なんだ、あれは若気の至りだったじゃん"ってなるというか。でも、同時にそんな自分たちのことを振り返ると"かわいかったな"と愛おしくも思うんですよ。

-裏腹にして複雑な感情がそこにはあるのですね。

片倉:一般的によく見掛ける流れとしては、いったんヒットするとそこから逸脱しないものを続けて作るっていうのがあるじゃない? ところが、アリプロではそういうことはやってきてないのね。でも、今回はあれから15年以上経って"もし、あの頃に『亡國覚醒カタルシス』の次に出すそれっぽいシングルを出してたとしたら?"って方向性で、きっとこんな曲を作っていたに違いないというものをかたちにしたのが、「若輩者」なんです。

宝野:今の私たちだからできる、もうひとつの「亡國覚醒カタルシス」が「若輩者」っていうことですね。

片倉:だから、ファンの方たちは"あれ? 聴いたことあるな"って感じるはずです。

-「若輩者」はセルフオマージュになっているとも言えそうですね。片倉さんからすると、「亡國覚醒カタルシス」のことを踏まえたうえで、"今回はあえてこうした"というような部分もあったのでしょうか。

片倉:音作りとかは一緒にしてます。構成もコード進行も同じ。あと、アリプロで使う手法のひとつであるカウンターメロっていうんですかね。構成を繋ぐときに入れるヴァイオリンとかね。全編「亡國覚醒カタルシス」から逸脱しないように作ってます。

宝野:酷似してるっていうのは、そういうことなの(笑)。

片倉:もちろん、メロディは違いますけど。

-さすがです。メロディに明らかな違いがあることにより、聴き手側からするとそこまで酷似しているとは感じませんもの。

宝野:そうか、酷似してる曲に違うメロをつけるって難しいはずだもんね。

片倉:そこはまぁ、ロックンロールでも3コードでいろんな曲があるのとおんなじですよ。テンポやらリズムやらメロディ、それを歌にしたときの違い、歌詞の違いで異なる曲としての存在感を持つっていうことだと思います。昔は気負って"音楽は発明だ!"なんて生意気なことを言っていたりもしましたし(笑)、今でも音楽は発明であるべきだとは思ってますけど、結局はいつまで経ってもどれだけ作っても常に若気の至りでしかないんですよ。メジャー・デビューから32年が経った今でも、ずっとその繰り返しなんです。逆に言うと、だからこそ作り続けていられるということでもあるんでしょうね。だって、自分で"これで完成した!"って思ったらそこで終わっちゃうでしょ?

-アリプロにとってのゴール・ポストは、常に動き続けているわけなのですね。なお、歌われるアリカさんからすると、この「若輩者」のメロディ・ラインについてはどのように受け止められたのでしょうか。

宝野:最初は"「亡國(亡國覚醒カタルシス)」に酷似してるじゃん!"と思いましたけど、何回も聴いていくうちに違う世界が見えてきた感じだったかな。構成も多いし、曲としても長いので、歌詞を書くのはちょっと苦労しましたね。内容としては、基本的に"いつまでも若輩者でいよう"っていうことを歌ってる感じ?

-"どんな時代だろうと/わが道を貫こう"というメッセージが刺さってきます。

宝野:年を取っていったり、どんな時代が来たりしても、若い人たちに合わせなくていいし、気持ちは若輩者のまま、自分たちのままでいきましょう! っていうことなんですよ。今のZ世代の人たちは、"飲み会には行きたくない"とか、"挨拶はめんどくさい"とかっていうスタンスのことも多いらしいけど(笑)、別にそんなくだらないことに合わせる必要はないと思うんですよね。

-気軽に"メシでも行こうよ"と誘ったりしようものなら、最近はそれがメシハラ認定されることもあるそうですからね。実にめんどくさい世の中ではあります(苦笑)。

片倉:メシハラなんてあるんだ。面白いねぇ。

宝野:私はマルハラとかもわかんない! 文末に"。"ってつけて何が悪いの!? ほんと意味不明。だから私、今回ツアー・タイトルは、意図的に"ALI PROJECT TOUR 2024〜お見かけ通りの若輩者です。"にしたんですよ(笑)。タイトルに"。"付けるのなんてほんとは嫌いなのに(笑)。

-このタイトルはそういうことでしたか。アリカ様の心意気に惚れ惚れします!

宝野:あと、一応説明しておくと、「若輩者」の中の"お見かけ通りの若輩者"の歌詞は北島三郎さんの「仁義」という曲の、"お見かけ通りの若輩者です"って詞をオマージュしたものでもあるんですよね。そこは私たち、ちゃんとレコード会社におうかがいを立てて使わせてもらってます。

片倉:"若輩者"というのは、それだけ伸びしろがあるって意味だしね。とてもいい日本語だと思いますよ。

-そんな「若輩者」とテーマ性の部分での繋がりを感じる楽曲として、今作には「若気ノ至リ」も収録されておりますが、こちらの曲は――

片倉:これもまさに"若気ノ至リ"な曲なんですよ(笑)。原曲はもともと1980年代前半くらいに作った曲なんです。