MENU バンドTシャツ

激ロック | ラウドロック ポータルサイト

INTERVIEW

ALI PROJECT

2024.06.25UPDATE

2024年07月号掲載

ALI PROJECT

Member:宝野 アリカ(Vo) 片倉 三起也(Key)

Interviewer:杉江 由紀

-40年前ですか!

宝野:まだALI PROJECTがなかった頃ってこと?

片倉:宝野さんと会うより前ですよ。当時は普通にロックやったり、グラム・ロックやったり、フュージョンもやってみたり。売れないもんだからいろんなことをやってて(苦笑)、THE POLICEみたいな3ピースのバンドをやってたこともあったんですよ。で、その当時に作った曲がこれなんです。その頃は詞も書いてて歌も僕でした。

宝野:それってカセットかなんかに録ってあったの?

片倉:おそらく6ミリ(オープン・リール・テープ)で録ってあったとは思うけど、いかんせん今それを探し出したとしても聴くものがないじゃない。だから、記憶を辿って思い出しながらかたちにしていきました。つまり、この曲は"若気ノ至リ"そのものなんですよ。

宝野:でも、サビは変えたんでしょ?

片倉:サビだけね。宝野が歌うことを考えてそこは変えてみました。

-間奏部分に入っているロシア民謡「コロブチカ」のくだりも当時のままなのですか?

片倉:あれは当時どんな間奏だったかを忘れちゃってて、ちょうどそこにハマりそうだったのが雰囲気的に「コロブチカ」だったんです。それはそれで、40年経った今になってやってしまった"若気ノ至リ"ですね(笑)。

宝野:それ面白い! あははは(笑)。

-そうした一方で、この「若気ノ至リ」の歌詞でアリカ様が描かれているのもまた、若輩者のとある姿だったりしそうですね。

宝野:バカな若い男、みたいな。でも、ただのバカではなくて何かは持ってる子です。

-"ウェルテルさま"(ゲーテの小説"若きウェルテルの悩み"の主人公)を知っているということは、まず知性があるのでしょうし。

宝野:そうなの。"胡蝶"ってフレーズを入れたのも、"胡蝶の夢"(荘子の説話)を知ってるという意味だし。思い悩んでる若者のことを描きたかったんです。そして、私としては最後に"若気ゲゲゲノ至リ"と歌いたかったので、そこに持っていくための詞として書いたところもあります。

-それから、今作には、ストリングスの響きが美しい「反國陰謀ディストピア」という楽曲も収録されております。こちらの成り立ちはどのようなものだったのでしょうか。

片倉:こういうオーケストレーションの使い方って、ALI PROJECTとして王道的ではあるんですよ。生オケを使うという案もありましたが、生はいいところもある反面で甘さが出てしまうところもあるので、この曲では、自分のPCの中でゴリゴリしたオーケストレーションを作っていくことにしましたね。

-音から感じる緊張感は詞とも呼応しているように感じますが、アリカ様はこの詞の中にかなりの危機感を込めていらっしゃるように思えます。

宝野:タイトル通り、これはディストピアについて書きたかったんです。なんなら、これを書いてたときは、1枚まるごとディストピアがテーマのアルバムを作りたいくらいの気分で、救いようのない世界を描くのにこの曲はぴったりだったんですよ。特に"家畜"っていう言葉を使いたかったですね。家畜のような民衆の姿、というものを表現したかったわけです。

-風刺の色合いが濃い内容になっておりますよね。

宝野:これは今の世相に対しての風刺でもあるし、これからもっと恐ろしいことが起こるでしょうね、という意味を込めたものでもありますよ。わざとファンタジー色を出すために、家畜とは真逆のイメージの"女神"っていう言葉なんかも使ってはいますけど。

-そのように、現代に対する警鐘を「反國陰謀ディストピア」で鳴らしていらっしゃるのに対して、大日本愛國唱歌とも呼べそうな「日本弥栄」でのアリカ様は"百年の先にも/いまの声を/とどろかせよう"と聴き手を鼓舞していらっしゃいます。この対比も、ALI PROJECTならではの振り幅と言えそうです。

宝野:これは"弥栄(いやさか)"っていう言葉をわりと最近になって知って、とても素敵だなと思ったんですよね。どうやら、万歳とか乾杯の場面でも使える言葉なんですって。ますます栄えることを祈念する大和言葉だというので、次の"大和ソング"を作るときはぜひ使いたいなと思っていた言葉だったんです。

-アリプロの"大和ソング"と言えば、過去にも「勇侠青春謳」(2006年10月リリースのシングル表題曲)、「青嵐血風録」(2007年リリースのアルバム『Psychedelic Insanity』収録)、「永久戒厳令」(2016年リリースのアルバム『A級戒厳令』収録)、「この國の向こうに」(2009年リリースのアルバム『Poison』収録)などいくつもの名曲がございましたよね。

宝野:さかのぼると、たぶん2005年に『Dilettante』というアルバムで「愛と誠」という曲を作ったあたりから、"大和ソング"と私が勝手に名付けたシリーズが始まったのかな? もちろん愛国ソングなので、いわゆる保守派とされるような気持ちも根底には入ってはいるけれども、それだけではなく純粋に日本の良きところをなくさないようにしましょうよ、という気持ちで詞を書き歌っているところが私の中では大きいんです。

-「日本弥栄」は詞に込められている思いからも強さを感じますが、音楽的情報量の面でも相当に多くのものが詰まっているところが、大きな特徴ではありませんか。

片倉:「日本弥栄」は、テーマを持たずに無機質な感情というか流れのまま自然に作曲してみようと思っていたら、構成がぐしゃぐしゃと複雑になっていってしまった曲なんです。何か着想があったわけではなく、出たとこ勝負で作ったということですね。

-出たとこ勝負でこの完成度......やはり片倉さんは鬼才でいらっしゃいます。

片倉:ただ、アレンジには苦労しました。最初はハモンド(ハモンド・オルガン)のB-3、アナログ・シンセのOberheim、Rhodesのエレピ、DX7のシンセとか、昔の開放的な音源をいろいろ使いつつ、リズムはRolandの通称ヤオヤと呼ばれてたTR-808でやってみたんですよ。そうしたらやっぱり、すごいチープになっちゃって(笑)。次はギターに切り替えてみたところ、面白いんだけどそれだとコードの微妙なニュアンスが出ないんですね。それで、最後にはアリプロならではのミクスチャーな感じというのかな。ギターも入っていれば、オーケストラやシンセ、ピアノ・ソロとなんでも入っているかたちに落ち着きました。

-それでこの濃密な情報量に仕上がっていたわけですね。納得です。

片倉:テクノとかロックの方向で斬新にやっても良かったけど、それだと歌詞はきっと"弥栄"なものにはなってなかっただろうし。

宝野:あー、たしかに。この音だからこの詞になったっていうのはあるかもしれない。

片倉:アリプロはアリプロらしいやり方で作ったほうがいいんだな、ということを「日本弥栄」では再認識したところがあります。

-そのほかにも、今作にはヤンキー漫画と見紛うような強烈なタイトルが冠せられている「爆烈勇侠外伝」、浮世離れ感さえ漂うほどにろうたけた「美しき獣たちの為の」、耽美な香りに満ちた「聖少年遊戯」、どこかアヴァンギャルドでクールな「BLACK ROSE」、軽やかで鮮やかな「誰ソ彼パピヨン回廊」と、多彩なアリプロの魅力を宿した曲たちが満載ですね。

宝野:その5曲はいずれもタイアップとかで発表してる曲たちで、「爆烈勇侠外伝」なんかは、"コードギアス 反逆のルルーシュ"のパチンコ台で当たると流れる曲だから、これまでは勝たないと聴けなかったものなんですよ。今回はそれを初CD化したんです。

片倉:あとは、「誰ソ彼パピヨン回廊」も、スマホ・ゲーム"誰ソ彼ホテル Re:newal"の主題歌を初CD化したものになってますね。"コードギアス"繋がりだと「美しき獣たちの為の」は、映画"コードギアス 復活のルルーシュ"の挿入曲だったし。

宝野:「聖少年遊戯」は、"あんさんぶるスターズ!"っていうスマホ・ゲームで、3人の男の子たちが歌ってるキャラクター・ソングを、私がひとりで原曲キーのままカバーしてるの。「BLACK ROSE」も、"maimai でらっくす"ってゲームへの提供曲をセルフカバーしてるから、これもアリプロがやるとこうなる、と聴けると思います。

片倉:宝野が歌うとこんなふうにドラマチックになるんだっていう発見はきっとあるでしょうね。

-発見という点では、2015年のアルバム『快楽のススメ』に収録されていた「狩猟令嬢ジビエ日誌」をリメイクして、歌詞を一新したボーナス・トラック「幸福の王子」も、目から鱗の仕上がりで度肝を抜かれました。

宝野:「狩猟令嬢ジビエ日誌」はすごく好きな曲で、ずっとあのメロディが頭にこびりついちゃってたんですよ。で、そのうちふと"短い一生でした ぼくはもう死んでいます"っていう歌詞が思い浮かんで来てしまい、そこから一気に書き上げたのが「幸福の王子」です。そのあとはしまってあったんですが、今回ボーナス・トラックをどうしよう? となったときに"あ、あれがあった!"って引っ張り出してきたという流れでした。

-「幸福の王子」はギター・ソロがカッコいい曲でもありますね。

片倉:今回のアルバムでは唯一のギター・ソロです。すみません。激ロックなのに(笑)。

宝野:ギター・ソロが気になる方は、ぜひ通常盤をお求めくださいね。

-さて、今回もまた個性的な楽曲の揃ったアルバムがここに完成したわけですが、この『若輩者』の世界を実演していく"ALI PROJECT TOUR 2024〜お見かけ通りの若輩者です。"においては、どのような空間を生み出していきたいとお考えですか。

宝野:せっかくなので、この『若輩者』に入っている曲以外にも、アリプロにとっての"若気ノ至リ"な曲たちもいろいろ交ぜて、結構マニアックなセットリストでやろうかなと思ってます。みんなが聴きたいであろう「聖少女領域」とか「亡國覚醒カタルシス」とかは、また別に"ヒットパレード(A級ヒットパレード)"というライヴ・シリーズのほうでやるので、今回はそんなのはやんないよ! ってまさに"上から目線"なスタンスでいこうと思います(笑)。