INTERVIEW
FREAK KITCHEN
2025.07.10UPDATE
2025年07月号掲載
Member:Mattias "IA" Eklundh(Vo/Gt)
Interviewer:菅谷 透 Translator:安江 幸子
-同じことの繰り返しにならなかったのが良かったのだと思います。今8弦ギターの話が出ましたが、9弦も使ったんですよね?
ああ。Ibanezの9弦を使ったよ。
-というのも、サウンド・プロダクションの面では8弦、9弦ギターを活用したヘヴィネスがより際立っている印象を受けまして。制作時に重視したポイントはありますか?
8弦ギターがあるとテクスチャが豊かになるんだ。8弦や9弦を手に取る人の多くは低音の弦のことばかり気にしている。Djentをやるからね(笑)。でも俺は全部の弦を使って全部のテクスチャを活用したいんだ。9弦ギターはLowAにチューニングしている。つまりベースと同じ音ということなんだけど、LowAというのは人間の耳に聞こえる、ギターで可能な一番低いチューニングだよ。そうしている理由はヘヴィネスを求めてのことじゃなくて、単にそうしたいからなんだ。8弦ギターはヘヴィなものだし。俺のフォーカスはいつも曲やメロディだからね。俺は"たまたまヘヴィ・メタルをやっているだけのポップ野郎"だから、ポップなメロディが好きなんだ(笑)。
-分かります。あなたの音楽に見え隠れするポップの要素が気に入っています。
こういう言い方をすると陳腐になるけど、自分が聴きたい音楽を作っている感じだね。"今度は超ヘヴィなアルバムを作ろう"とか、予め計画してやっているわけでもない。その場の流れに任せて曲を作っているんだ。
-歌詞では社会の分断やSNS監視社会といった現代的なテーマを、ユーモアを交えながら扱っていますね。こうした内容に至った背景を聞かせてください。歌詞は自分で書いているのですよね?
ああ。99パーセント俺が書いているよ。俺は歌詞を覚えるのが大の苦手なんだよね。だから覚えられる歌詞にするためには、歌詞が俺にとってなんらかの意味を持つものでなければならない。そのためには自分が考えていることや自分の経験、あるいは気になることを題材にするんだ。
例えばタイトル曲「Everyone Gets Bloody」は、今日の継続的な二極化について歌っている。右なのか、左なのか、中道なのかといった感じにみんないがみ合っているけど、俺に言わせれば"みんな冷静になれよ"という感じだよ。冷静になって、意見が合わなくたって友達でいられることに気付くんだ。合わなくたって大丈夫なんだから。怒鳴るために怒鳴っている人々があまりに多すぎる。どこに行っても"インターネット戦士"がいるしね。ああいうのを見ているとうんざりするよ。XやFacebookでいがみ合っている間も、人生は過ぎ去っていく。クールになって、お互い優しくなろうよってことだ。君の好きな色は青で、俺の好きな色は黒や白だ。それでいい。俺たちはみんな同じだし、そんな違いは些細なことなんだから――そんな感じのことを歌詞にしているんだ。
ちなみに毎年開催している"Freak Guitar Camp"には、世界中から人が集まってくる。みんな宗教も違うし男も女もいるし、みんな違うけど、上手くいっているんだ。それはお互いに優しいから。音楽に対する愛情が常に流れている。それが俺の理想の形だね。俺はクソみたいなことには寛容じゃないんだ。ヘイトや、ヴァイブスの悪いものには容赦しない。俺たちは良い物事に囲まれた人生を送るために生きているんだから。それもあって、アートワークは目玉に血まみれの世界地図が描いてあるものになっているんだ。俺がもし人を殴ったら、俺自身も血まみれになるからね。
誰もこの世から生きては出られないんだから、この世での時間をちゃんと活用して、人に優しくすることだよ。勝者もいない。"こういう考え方をすべきだ! 俺は正しくてお前は間違っている!"なんて言われてもね。落ち着けよってことだ。酒でも飲むか、いいコーヒーを1杯淹れて、落ち着いたら荒野に出ていくんだ。キャンプをするとかさ。あるいは理性を解き放ってもいい。パンツを脱いで渋谷を走り回るとか(笑)。
-(笑)
クレイジーなことをやって楽しめばいいんだよ(笑)! 人に優しく、人生は楽しく。そういう感じのことを歌詞にしているよ。
-なるほど。例えば二極化というのは現代的なものかもしれませんし、それぞれのアルバムがその時点での人生のスナップショットであるのと同様に、歌詞的にもそのときそのときのスナップショットなのかもしれませんね。
そうだね。と言っても俺は政治的な人間じゃないけど、政治的な意見を持ってはいる。でも、何が正しくて何が間違っているという言い方はしないんだ。俺はベジタリアンだけど君が肉を食ったって構わないし、俺はこっちに投票するけど君があっちに投票したっていい。どれだって正しいんだ。俺たちがいるこの小さな惑星は、大宇宙というスキームの中では取るに足らないことなんだから。だから人には優しくしないとね。カルマがどうとか言うけど、俺が自分の人生に望んでいるのは音楽を作って人に優しくして、願わくはエネルギーのお裾分けをすることだけなんだ。いい父親、いい夫でありたいし、うちには犬もいるからいい飼い主に。俺は一家の大黒柱だからね。
......そんなところだよ。健康でいて、正気を保って(笑)。俺が望むのはそのくらいだ。人生はシンプルなものだよ。なのに、人間が複雑にしてしまった。特にスマホが出てきてからはね。誰もがあらゆることを記録しているだけで、誰も行動に移さない。自意識が高いというかね。でも人生は、俺たちが作ってしまったよりもシンプルにできている。俺たちが自分で複雑なものにしてしまったんだ。
-分かります。歳を重ねていくと、シンプルに考えたほうがずっとハッピーになれている気がします。
そうだよ! ホビット(J.R.R.トールキンの小説"ホビットの冒険"、"指輪物語"に出てくる小人の種族)も"シンプル・ライフが鍵だ"って言っているよ。だから俺も人生を精製しようとしていて、関わりたくないものはブロックするようにしているんだ。例えば試してみたけど自分には合わなかったし気に入らなかった、二度とやりたくない、と思うものはやらない。社交的なこともやらないしね。ディナー・パーティーにも行かないし、そもそもそんなに出かけないんだ。その代わりストリーミング・サービスを10種類使っているし、スタジオにはBlu-rayディスクが4万枚あるんだ(笑)。そうやって時間を精製して、自分にとっていいことをすると同時に、他人にもいいことをするようにしている。シンプルなことだよ。
-ありがとうございます。ところでFREAK KITCHENの楽曲制作プロセスについて、アイディアの発想から完成までの流れを聞かせてください。何か方程式のようなものはあるのでしょうか?
ふむ。いい質問だね。と言っても方程式はないんだ。俺が曲を書いて、レコーディングする。そのときはMIDIキットやループを使って他の楽器の部分を録る。ヴォーカル、ギター、アレンジから何から自分でやって、自分がハッピーになるまでやるんだ。これに断続的ではあるけど1年くらいかかる。犬の散歩で森の中にいる間なんかも考えたり、歌詞を書いてみたりしてね。それが終わったら、今度はBjörn(Fryklund/Dr)とChrisに声を掛けて"お前たちが今必要なんだ"と言う(笑)。そうするとやつらが来てくれて......俺が1年かけて作ったものを、Björnはせいぜい1日半くらいでモノにするんだ。Chrisもたしかベースの部分を全部1日で録ったんじゃなかったかな。つまり、俺が1年、やつらは2日働くってことだね(笑)。
-彼等が来るまでが長いんですね。直感ベースで流れに任せて。あなたが一旦ハッピーになったら、そのあと彼等がハッピーになるのは早いということでしょうか。
その通りだよ。やつらのクールなところは、大人で......"俺たちが必要になったら連絡してくれ"と言ってくれることなんだ。レコーディングのときも"俺たちはプレイするから、お前がハッピーになったら教えてくれ"と。エゴのぶつかり合いも、"こうしなければ"というのもない。超クールなことだよ。というか、バンドとしては珍しいよね。バンドにはエゴのぶつかり合いが付き物だから。エゴのぶつかり合いや障壁をいつも超えないといけない。退屈なことだよ。でもFREAK KITCHENの場合は本当にいい関係なんだ。
-だからこそ何年も一緒にやっていけるのですね。メンバーも2000年以降ずっと固定されていますし。
本当だよね。俺たちはいい友人同士でもある。だから上手くいくんだ。
-ギターのことも訊かずにはいられないんですが、今横にあるのはFreak Guitarでしょうか?
ああ(※ギターを手に取る)。
-今年、ご自身のギター・ブランド"Freak Guitar Lab"がついに始動しました。長年愛用されてきたCaparison Guitarsのシグネチャー・モデル"Apple Horn"から独立して、オリジナル・ブランドを立ち上げた経緯を教えてください。
長いプロセスだったよ。立ち上げたばかりという感じはするけど、一朝一夕にできるものではないからね。いろんな準備が必要なんだ。まず、俺はCaparison Guitarsが大好きだ。素晴らしいと思う。いい友人でもあるしね。メインのデザイナーだったイタル・カンノ(菅野 到)は天才だ。俺は別のブランドのためにCaparison Guitarsを離れるつもりはなかった。次から次へとブランドを替えているギタリストは多いけど、"あれ、彼あのメーカーと組んでなかったっけ? シグネチャー・モデル買ったのに"みたいな人たちもいるけど、俺は忠誠心のある男だから、そういうふうにはやりたくなくて、時間をかけたんだ。長いメールや手紙を書いてね。"よく聴いてくれ。俺たちは1996年から一緒にやってきて......"という感じに。
-30年近くのお付き合いだったわけですね。
そう。でも今回は、逃すには惜しすぎる機会を貰ってね。俺が総指揮を執ることができて、ギター工房も俺が住んでいるところから1時間半くらいのところにあって、スウェーデンの木材、スウェーデンのピックアップ、スウェーデンの鋼鉄を使って作ることができるんだ。世の中に流通しているギターには児童労働とか悪条件のもとに作られている、胡散臭い工場のものも結構あってね。俺はそういうのが嫌だったから、コーヒーを1杯引っかけてからその工房を車で訪ねて、現場の人たちと直接話して、ちゃんといい報酬が支払われていることを知った。
なんといってもクールなのが、最近Freak Guitar Labを日本でも販売開始したことなんだ。9月くらいには、完全日本製のFreak Guitar Labモデルができそうだよ。上手くいけばステージでもプレイできるかもしれない。つまり、スウェーデン製のFreak Guitar Labモデルと、日本のFreak Guitar Labモデルがあるということだね。
-そうなんですね!
日本のモデルはFreak Guitar Lab Japanの第1弾モデルとして作るんだ。最高だよ! 夢が叶ったようなものだね。と言っても、Apple Hornと同じくらいのクオリティのものを作るのは至難の業だ。ギターも組み立てたことのない俺がどうやって? という感じだったよ。
俺はデザインしか見ていなかったから、いざ(プロトタイプを)作ってみたら、ギターのネックが重すぎてギターが傾いてしまうことが分かったんだ。ネックが重すぎないようにするギターを作るのが大変だったね。おかげで今こうして立っていても安定しているけど、そのバランスを見極めるのにものすごく時間がかかったよ。世の中に出回っているギターの半分は、バランスがひどいもんだからね(苦笑)。いろんなプロトタイプを作ってみたけど、"あぁ(※頭を抱える)"という感じのものばかりだった。どれも似たり寄ったりに悪くてね。