INTERVIEW
BODY COUNT
2024.11.21UPDATE
2024年11月号掲載
Member:Vincent Price(Ba)
Interviewer:菅谷 透 Translator:安江 幸子
ギャングスタ・ラップの先駆者 Ice-Tが率いるメタル・バンド、BODY COUNTが8作目となるアルバム『Merciless』を完成させた。1990年に結成され、"ラップ・メタル"の開拓者として知られる彼等だが、近年ではスラッシュ・メタルやパンク/ハードコア等、より広範囲なジャンルを内包した作品をリリースし続けており、前作『Carnivore』(2020年リリースの7thアルバム)では収録曲がグラミー賞を受賞する等、その重要性がますます高まっている。David Gilmour本人が参加したPINK FLOYDの「Comfortably Numb」カバーほか、豪華ゲストとのコラボも収録した新作について、メイン・ソングライターを務めるVincent Priceに話を訊いた。
Iceについて分かっていない人が多いけど、あいつはメタルを本当によく知っている。熟知しているんだ
-ニュー・アルバムのお話を伺う前に、あなた自身や近年のBODY COUNTについていくつかお伺いできればと思います。あなたは2001年にBODY COUNTへ加入していますが、当時はバンドやIce-T(Vo)にどんな印象を持っていましたか?
バンドはいわゆる"底上げ"が必要だったんだと思う。特にソングライティング面でね。初めてこのバンドの音を聴いたときは、曲があまり気に入らなかった。ハードコア、ヘヴィ・メタルのバックグラウンドがある俺に言わせれば、あまりいい曲じゃなかったけど、伸びしろはある気がしたんだ。それにメンバーが減っていった時期でもあったから、バンドを存続させるためにもなんらかの底上げが必要だった。俺は新しいヴァイブをバンドにもたらすことができたと思う。と言っても意図的にそうしたわけじゃなくてね。新しいバンドに入るときっていうのは、そこに自分の全てを懸けて、新たなレベルに押し上げたいと考えるものだよ。で、たぶんそれができたんだと思う(笑)!
-たしかにそういった面はあると思います。ラッパーのIce-Tがフロントマンを務めるバンドということで、BODY COUNTは"ラップ・メタル"という括りで紹介されることが多いですが、実際は特にあなたが加入してからはそれをはるかに超えていて、トラディショナルなメタルやパンク/ハードコア等、様々なジャンルが内包されていますね。ご自身ではバンドのサウンドをどのように紹介しますか?
BODY COUNTは初めから他のどのバンドとも違うサウンドを持っていたから、それが何であれ、何か出すたびに"BODY COUNTのそれまでとは違うサウンド"だったと言えるね(笑)。Iceのヴォーカルは以前より大胆不敵になったし、言いたいことも増えた。音楽的にはレベルアップしていくだけだ。俺はいつも曲を書いている。それが全てだね。曲を書くのはとても重要なことだ。あいつは何かに安住するということが一切ないからね。曲をまとめるのは概ねIce-Tがやっているんだ。俺はリフをたくさん出すだけでね。それをあいつが聴いて、"これなら歌える"、"これはラップのほうがいいな"なんて見極めるんだ。――まぁ"歌う"って程のものじゃないけど(笑)、でも少しは歌う感じかな。
-活動休止から復活した『Manslaughter』(2014年リリースの5thアルバム)以降のアルバムでは、先程触れた要素に加えて、よりモダンでブルータルなサウンドへと変化した印象を受けました。同作から最新作までプロデューサーやソングライターとしてWill Putney(FIT FOR AN AUTOPSY/BETTER LOVERS/END/Gt)が参加していますが、彼の影響も大きいのでしょうか。Iceはインタビューで彼のことを"メタル・シーンのDR. DRE(ヒップホップの重鎮プロデューサー)"と評していましたよね。
(※笑顔で)彼はこのバンドのメンバーみたいなものなんだ。いつも一緒に曲作り等に取り組んでいるよ。彼も"これはこうしたほうがいい"、"いや、これはボツだ"なんて言いながら(笑)、自分のテイストを持ち寄ってくれる。曲も書くしね。俺の書いたものを"こう調整してくれ。俺がこうするから"なんて言ってくるよ。すると別の曲になるんだけどさ(笑)。ともあれ、彼はBODY COUNTのとても重要な一部を担っているんだ。俺たちがアルバムを作るとき、一緒にやるのはWill一択だね。他の人は考えられないよ。
-それ程必要不可欠な人になっているんですね。
ああ。それにステージ上でも、この前彼のバンドのBETTER LOVERSが俺たちと一緒にステージに立って、何曲か一緒にやってくれたんだ。ようやく共演が実現して最高だったよ! 『Carnivore』のときはAmy Lee(EVANESCENCE/Vo/Pf)が参加してくれた曲(「When I'm Gone」)があって、一緒にジミー・ファロン(米のコメディアン兼司会者)の番組に出るはずだったんだ。Willもスペシャル・ゲストとして一緒にね。でもそこにコロナ禍が来てしまって、実現せずじまいだった。
-それは残念でしたね。でも新作も出ましたし、別のテレビ出演機会もあるかもしれないですね。
"The Tonight Show Starring Jimmy Fallon(ジミーが司会を務めるバラエティ番組)"に出る予定なんだ。
-そうなんですね! 日本でもなんらかの形で観られることを願っています。ところで、近年のBODY COUNTは新たにファン・ベースが拡大しているように感じられます。フェスティバルで重要なポジションに配置されたり、作品でもALPHA WOLFやLIONHEART等、下の世代のバンドとIce-Tがコラボしたり(ALPHA WOLF「Sucks 2 Suck (Feat. Ice-T)」、LIONHEART「Live By The Gun Feat. Ice-T (BODY COUNT)」)と、バンドや周辺の環境が良い流れにあるように見えますが、ご自身では現状をどのように捉えていますか?
いい状態だと思うよ。みんなBODY COUNTやIce-Tと何かしら一緒にやりたがるからね(笑)! いいことだよ! 悪いことなんかじゃない。何しろ俺たちの多くはもう60代だからね(笑)。Iceは66歳とかそのくらいだし、Ernie C(Gt)もそのくらいかな(※65歳)? 俺はもうすぐ59歳だ。
-そうなんですね。下の世代もいろいろ皆さんから学ぶことがあると思います。さて最新作『Merciless』について伺います。前作『Carnivore』は2020年3月のリリースと、ちょうどコロナ禍に突入するタイミングでの発表となりましたが、アルバムの制作はいつ頃スタートしたのでしょうか?
コロナ禍に入ってわりと早い段階だったと思うよ。ツアーに出るはずがシャット・ダウンされてしまったからね。
-そうでしたね。その後何もせずにじっとしている時間をあまり取らずに、今回の制作に取り掛かったということでしょうか。
ロックダウン当初は何もできなかったけど、その後少し解除された時期があったから、その機会に外に出てみたんだ。当時は個人的にもいろいろあったけど、"再始動だ!"みたいな感じでね(笑)。"曲をいくつか作ろうぜ!"と。「Merciless」は3年前に書いたんだ。他の曲もその頃に書いたのかな? 14曲くらい作ったよ。ただ、今の状態になるまでには時間がかかったけどね(笑)。
-ソングライティングはあなたとプロデューサーのWillが中心となって行われていますが、まずトラックを作成してIce-Tがリリックを乗せていくスタイルなのでしょうか? それとも楽曲のイメージを共有しながら制作していくのでしょうか?
一緒に組み立てていくんだ。俺とWillがそれぞれいくつかネタを持ち寄る。2人で会ってネタの棚卸しをする。それをIceに送る。するとIceが"このパートを取ってくれ。ここは使う"とリクエストをしてくるから、あいつにとってしっくり来るまで練り直すんだ。完成した曲をあいつに送ることはないね。絶対気に入らない箇所が出てくるから(笑)。
-Iceが歌詞を書くタイミングはその過程の途中でしょうか、それともそのしっくり来る状態になってからでしょうか?
曲ができあがってからだね。
-できあがった曲にインスピレーションを受けて歌詞を書くのですね。
ああ。あいつができたものを何度も聴いて、あいつにとって熟した状態になるまで編集を重ねるんだ。気に入らない箇所があると"この部分を変えよう。こういうふうにしよう"と言ってくるからね。まぁ映画を作るようなものだよ。演技みたいに、この部分はこう、あの部分はこう、この部分は掛け合いで......と采配を振っていく。だからあいつはアレンジにも多く関わっているんだ。
-歌詞だけではなく。
だけじゃないね。Iceについて分かっていない人が多いけど、あいつはメタルを本当によく知っている。熟知しているんだ。
-曲を形成していく際に"歌詞はこんなことを書くんだ"と彼が言うことはありますか? というのも本作は、アメリカ社会の政治的な分断をテーマにした「Fuck What You Heard」や、世界情勢を描いた「World War」のようなポリティカルな内容や、タイトル曲「Merciless」のようなホラー映画的な内容等、多岐にわたるリリックが収められています。"こういうインスピレーションを得たんだ"等話してくれることはありますか?
1つは......俺が1人でネタを作ったりWillと曲を作ったりするとき、俺は"偽タイトル"を付けるのが好きなんだ(笑)。
-一時的なタイトルのことでしょうか。
そう、仮タイトルだね。Iceはそれにインスピレーションを得て新しいタイトルを付けることがある。例えば"Psychopath"はもともと"Killer On The News"(ニュースに出てくる殺人者)という名前だった(笑)。基本的にはそんな感じに作るんだ。"Slaughter"(虐殺)という名前を俺が付けていたのを、あいつが全く違う名前にしたりね。一度だけ偽タイトルがそのまま使われたことがあったな。どの曲だっけな......最近全部覚えていられなくて(苦笑)
-偽タイトルを付けるとき、例えば"Psychopath"のときは何か特定のニュースを見てひらめいたりしたのでしょうか。あるいは事件や読んだ本、映画ですとか。
ノー。ただ頭に浮かんだものを適当に付けただけでね(笑)。