INTERVIEW
HYDE
2024.10.15UPDATE
2024年10月号掲載
Interviewer:杉江 由紀
悪魔ってそれぞれの心の中にいるよね、って意味での"[INSIDE]"です
獰猛だけれど美しい、自由で力強い野生動物のように。HYDEは自らの内に息づく野性を研ぎ澄ましていくことで、今ここに、『HYDE [INSIDE]』というヘヴィなだけでなく味わい深さも孕んだ約5年ぶりのアルバムを完成させるに至ったようだ。L'Arc~en~Ciel、THE LAST ROCKSTARSでもそれぞれの形でフロントマンを務めながら、HYDEがHYDEとしての進化をこの5年間で成し遂げたという事実は、実に驚異的とも言えるはず。HYDEの新境地はここにある。
-今夏のHYDEさんはワンマン・ライヴ"HYDE [INSIDE] LIVE 2024"を展開されていく一方で、フェスにも積極的に出演していらっしゃいました。ちなみに、前回2022年夏の取材時には"僕みたいにエンターテイメントするロック・バンドはわりと少ないんじゃないですか? 今年出ることになってるフェスも、完全に肉弾戦なバンドが多い印象なんですよ。それだけに、今んとこは独占市場という形で頑張ってます(笑)"とおっしゃっていたのですけれど、今夏の場合フェス出演ではどのような手応えを感じられたのかをまずは教えてください。
どのフェスも出て良かったですね。そして、やっぱり今回も独占市場な感じはしました。まぁ、僕みたいにやりたいってバンドはいないかもだけど(笑)。中には僕等に対して、"金にもの言わしてる"みたいに思う人たちもいるかもしれないけど、ステージ上での演出に関しては、"大事なのは発想なんだよな"って僕は思ってるんです。もちろん、何かする以上タダではないにせよ、"どうやったら他とは違うことをやれるか? みんなを楽しませられるか?"っていう部分に関しては、発想だけでやってきてるところがあるので実際お金はそこまでかけてないんですよ。登場の仕方一つとっても、僕は普通に出ていくって面白くないなと思うから、つい人と違うやり方を模索しちゃいます。
-そういえば"HYDE [INSIDE] LIVE 2024"の際は、冒頭でパーカッションとして使われていたドラムの中からHYDEさんが登場されるサプライズ演出がありましたね。
まぁ、それがカッコいいのか? っていう話もあるんですけど(笑)。でも、みんなが驚いてくれたりするとこっちとしても嬉しいっていうのはあるかな。
-SNS上では、今年の夏フェスで初めてHYDEさんのパフォーマンスをご覧になって"HYDEさんがこんなにもヘヴィでラウドな音楽をやっているとは知らなかった!"、"いろんなバンドが出てたけどHYDEさんが一番すごかった!"と衝撃を受けている方たちが多々いらっしゃるようにも見受けられました。HYDEさんのポジティヴなアプローチは、今新たな拡がりを見せてきているのだと思われます。
初めて僕を観るような人たちにも刺さるようなことができてる、という自信はあるんで。どこでやっても、完全にアウェーなことをやってるとは思ってないです。かなり激しいライヴにはなってますが、その中でもちゃんとキャッチーな部分もあると思うし。観てもらえればそこから好きになってくれる人はいるんじゃないかな、と思ってやってます。
-そうしたなか、このたびは約5年ぶりのアルバム『HYDE [INSIDE]』がリリースされることになりました。すでに9月13日から配信はスタートしておりますが、今作についてのお話を伺う前に、ここでは2019年6月に発表された前オリジナル・アルバム『ANTI』について、少し振り返っていただいてもよろしいでしょうか。というのも、5年前の時点では"巨大マーケット、米国"をターゲットとして制作されたとのご発言があり、同時に"2020年までには、米国を中心とした海外でのライヴ展開をしていきたい"といったことも明言されていらっしゃいました。ただし、その後はCOVID-19の影響により、プランの変更を余儀なくされたところがあられたかと思います。そうした経緯も踏まえた上での今作に向けた構想については、いつ頃からどのような方向性を意識して練り上げていかれたのでしょうか。
コロナ禍はどうしてもね、やる気がなくなりました。どうせアルバムを作っても、ライヴできないしな、というところがあったんでね。今ここで無理に頑張って作らなくてもいいんじゃないか? って思ってました。
-ただし、HYDEさんはコロナ禍でも早々にライヴ活動を再開されていましたし、状況の変化に合わせて常にフレキシブルな対応をされていたところに大変感銘を受けました。
たしかに。あの時期でも、僕はライヴ本数に関して言えば相当やってたアーティストの1人だとは思います。当時はその状況の中でできる限りのことをやって、少しずつ改革を重ねながら、政府や世間に対して"安全にできるんだよ"っていうことを証明していったつもりです。だから、ほんとそこから少しずつですよ。曲もまた作り出して、だんだんとアルバムっていう形が見えてきて。
-満を持しての5年が経ち、今ここに『HYDE [INSIDE]』が完成したわけですね。
ここまでに配信とかも含めてシングルを何作も出してたので、あと2曲くらいあれば13曲になるなとは思ってたんですけど、それでもその2曲ができるまでにはちょっと時間がかかっちゃいました。途中でL'Arc~en~Cielの30周年ツアー"30th L'Anniversary TOUR"が入ったり、THE LAST ROCKSTARSの曲を作ったりとかいろいろあったので、思うようには進めていけなかったっていうのもありました。ただ、そんなに焦ってはいなかったんですよ。幸いなことに、自分のアルバムはいつまでに作れって言われるわけではないので(笑)。作れるときに作って、好きな曲が溜まったら出そうっていう感じだったんです。
-前作『ANTI』が、ある種の怒りをアウトプットするようなところのある作品であったとすると、今作『HYDE [INSIDE]』では音的により激化しているところがある反面、タイトルからはベクトルが内側に向いたところもあったことが窺えます。HYDEさんが今作を作られていく際のスタンスとは、どのようなものだったのですか。
このタイトルは適当というか、半ば成り行きですね。"ジキルとハイド"ってあるじゃないですか。将来的にアコースティック・アルバム......つまり『ROENTGEN Ⅱ』を作って、それを"ジキル"と名付けて出したいと思ってまして。今回(ジキルとハイドの)"ハイド"として激しいアルバムを作ったんだけど、以前"HYDE"っていうタイトルのベスト・アルバム(2009年)を出してるんで、また同じタイトルを付けるのもややこしいなとなり(笑)、それで"[INSIDE]"って付けただけなんですよ。
-なるほど。結果的に、今作は人間の二面性を描いた小説として有名な"ジキル博士とハイド氏"をモチーフとしたものになっていたのですね。
そう、後付けなんです。あの小説の中だとハイドは悪魔の存在でしょ? 悪魔ってそれぞれの心の中にいるよね、って意味での"[INSIDE]"になってます。
-その悪魔というキーワードを伺って真っ先に思い浮かべたのは、先日公開された「LAST SONG」のMVの内容についてです。オーストリアのウィーンでシューティングされたという映像の中には、美術館において、ルカ・ジョルダーノ作の"大天使ミカエルと叛逆天使たち"という絵画を前にしたHYDEさんの姿が、印象的に描かれております。HYDEさんがこれまでも様々な作品の中で光と闇、あるいは善と悪といったものについて表現されてきていることを踏まえますと、今作『HYDE [INSIDE]』の最後を飾る「LAST SONG」もまた、実に象徴的な楽曲に仕上がったと言えそうです。
まさにそのあたりは、僕の中でも大きな指針になっているところですね。とても興味深い題材ではあると思うんですよ、いわゆる神と悪魔みたいなものって。
-それこそ今作には"I GOT 666"というタイトルの曲も収録されておりますものね。
きっと多くの人は神様=善っていうイメージを持ってるだろうけど、果たして本当にそうなのか? って考え出すとなかなか面白いじゃないですか。例えば、神様は"こうしなさい"、"ここからはみ出ちゃ駄目"ってレールを敷いている人と捉えることもできるわけで。逆に、悪魔は"それは正しいのか?"とか"もっと好きなようにすれば?"みたいな自由の象徴として解釈することもできるなと思うから、そこはもう考え方次第なわけですよ。そういう意味で天使と悪魔っていうのは昔から好きな題材で、今回のアルバムでもそれはどこかで意識してたところがあったと思います。
-ちなみに、「LAST SONG」のMVは、その濃い内容と完成度の面でもはや短編映画のごとき仕上がりとなっておりますし、HYDEさんもヴォーカリストの域を超えて、アクターとしての演技力を大いに発揮されており、観ていてとても惹き込まれました。
演技って、正直そんな好きじゃないし得意じゃないんですけど、長年アーティスト活動をしてるとなんだかんだで映像を通して表現をするタイミングってあるんでね。「VAMPIRE'S LOVE」(VAMPSの2014年リリースのシングル表題曲)とかもそうだったけど、経験を重ねてきた中で、なんとなく最近は、自分の中でも"こんなときはこうやったらいいんじゃないか"ってことが、分かってきてるのかもしれない。20年くらい前に映画に出たときはまぁ散々言われましたけど(笑)、あの頃はまだあんまり分かってなかったなって思います。ここは思いっきり行ったほうがいいんだなってポイントが、分かるようになってきたというか。だから、今回の撮影でもMVだからほんとなら声は出さなくていいんですけど、ウィーンの美術館の中で思いっきり1人で高笑いしてました(笑)。
-今作『HYDE [INSIDE]』では全体的にヘヴィな楽曲が多く詰め込まれていることもあり、その最後をバラード「LAST SONG」が締めくくることによって、アルバムとしての奥深さと余韻が醸し出されているように感じます。
意外とそこは気軽に「LAST SONG」だから最後でいいかな、と思ってこうしたところもあったんですよ。ただ、一枚のロック・アルバムとして考えたときには、こういう曲って4曲目とか5曲目あたりに入ってたほうが売れるだろうなとも思います。だって、METALLICAの『...And Justice For All』も4曲目に「One」が入ってるじゃない? 僕が売り手だったら、きっと「LAST SONG」は"5曲目にしようよ"って言ってたでしょうね。でも、作り手側からしたら、トータルのコンセプトとして「LAST SONG」は最後にあるほうが美しかったんです。もともとこれは、ライヴの最後にやりたい曲として作ったので。"LAST SONG"っていうタイトルを付けたのもそのためなわけで、その点では迷いなく思い切ってこの曲を最後にしました。