INTERVIEW
SOFTSPOKEN
2025.02.20UPDATE
2025年02月号掲載
Member:Sam Scheuer(Vo) Chris Wethington(Gt) Kevin Potts(Dr)
Interviewer:菅谷 透 Translator:安江 幸子
2024年には念願の来日ツアーを開催した、オハイオ州出身の5人組ポストハードコア・バンド SOFTSPOKENが、3rd EP『Martyr』を初の日本国内盤としてリリースする。"殉教者"を意味する言葉をタイトルに掲げた本作は、自らの信念を貫き、ドラマチックな音像に磨きを掛けた珠玉のナンバーを収録している。来日公演の感想や、EPに込めた想いについてSam Scheuer、Chris Wethington、Kevin Pottsの3人に訊いた。
"martyr"でいるというのは、ありのままの自分でいるということ――そして、それを守るのに命を惜しまないことなんだ
-昨年は初の来日公演("Softspoken JAPAN TOUR 2024")が行われましたね。ツアーを振り返っての感想を伺えますか?
Chris:忙しかったけど、日本ツアーは素晴らしかったよ。怒濤の日々だったけどね。飛行機から降りて、練習して、ツアーに出て。でもショーは素晴らしかったし本当にいい経験だったよ。
Sam:素晴らしい経験だったよ。日本に行くのは俺のバケット・リスト(やりたいことリスト)にあったんだ。音楽のおかげで世界の反対側に行けたなんて信じられないよ。超クールだった! みんなすごく優しかったし、食べ物もおいしかったし、何もかも。Chrisが俺向きのところだって言ってた(笑)。
Kevin:日本ツアーは俺の人生の中でも最高の経験の部類に入るよ。自分のバンドでは経験し得ないと思っていたことが経験できた。メンバーにも言ったんだけど、俺は海兵隊員だった頃に海外で演奏したことがあるんだ。韓国とタイに行ってね。でも、自分のバンドでこんな経験ができるなんて思ってもいなかった。素晴らしい時間を過ごしたよ。
-日本に住んでいた経験があるChrisを除くと、全員日本に行くのが初めてだったんでしょうか。
Kevin:俺は空港だけなら(笑)。行った数に入るかどうかは分からないけど(笑)。さっきも言ったけど、韓国とタイには行ったことがあるけど、日本で過ごしたことはそれまでなかったんだ。
-そうだったんですね。日本の印象はいかがでしたか?
Kevin:素晴らしかったよ。人々の反応とか、音楽に対する感じ方とか、俺たちがやってきたことをちゃんと予習してきてくれるとかね。準備してくるんだよね。ただ手あたり次第にショーに行って、気に入ればラッキーとかそういうんじゃなくてさ。過去のインタビューも読んでくれていて"あなたについて、こういうことが書いてあった"なんて話してくれる。すごくクールだなって。"まるでショーの前に宿題をやるみたいだな、すごいな"と思ったよ(笑)。みんなすごく受容力があって、とても親切で、それから......(本国より)ずっと静かだったけど(苦笑)、それ以外はすごく楽しかったね。
-静かなのは、まずは音楽を自分の中で消化してから反応するからでしょうね。
Kevin:その通り! そういうところが最高だよ!
-Samの日本の印象はいかがでしたか?
Sam:1つ印象深かったのが、(出演者が)ショーの前に全部の出演バンドに挨拶すること。自己紹介しに行ってね。すごく興味深いと思ったよ。こっちではそんなことが一切ないんだ。
-そうなんですね。
Sam:ないよ(笑)! みんな自分のセットの直前まで来ないし、終わったらさっさと帰るしね。そういうのが大半(笑)。でも日本は全然違うんだ。ショーが終わったらみんなで"カンパイ"するし。SOFTSPOKENに入ったときにChrisのバンドの操縦法を見ていたけど、やっとその理由が分かったよ。ちゃんとネットワーキングして、終わってからも会場に残って、時間を守って、自己紹介をしに行って友達を作って、ハードな状況になったり人にものを投げつけられたりしても、いつもニコニコしていようって言っていたんだ。全て腑に落ちた。全部Chrisが日本で体得したことだったんだね! それが一番日本で印象的なことだったし、最高だと思う。
-たしかにSOFTSPOKENのセットのとき、対バンのメンバーたちがオーディエンスにいましたね。
Sam:嬉しかったよ。こっちでもないわけじゃないけど、なかなかないからね。
-Chrisは前回のインタビュー(※2024年6月号掲載)で"昔の教え子が名古屋公演に来るかも"と言っていましたが、再会できたのでしょうか?
Chris:ああ、2人来てくれて、少しだけど話すことができたよ。あと、教師時代の同僚が3人来てくれた。うち2人は日本人で、もう1人は一緒に働いていた(外国人の)英語の先生なんだ。
-そんなツアーを経て、3rd EP『Martyr』が初の日本国内盤としてリリースされますね。発売を控えての今の心境を伺えますか?
Chris:素晴らしい気分だよ! たくさんの労力を費やしたからね。EPに入っている曲はここ2年の間に書いたものなんだ。ようやく、という感じだね。EPを前回出して(2021年の『Where The Heart Belongs』)からも長い時間が経ったし。このEPは今の僕たちのバンドとしての現在地と、この2年の間の成長が表れているんだ。これを"日本で"出すことができるというのが素晴らしいよね。しかも日本盤が出て、こうやってインタビューで語ることができて。特に日本は僕自身にとってものすごく大切な場所だし、このバンドのストーリーも日本から始まっているからね。――とみんなを代表して言うけど、本当にワクワクしているんだ。
-"Martyr"というタイトルの由来を伺えますか? 「TWYLAM」に登場するフレーズだということに気付きました。日本では"Martyr"というと"殉教者"ですとか、宗教的な文脈で使われることの多い言葉ですが。
Sam:"信念を貫いて死ぬ"ってことだね! Chris、頼むよ(笑)!
Chris:(笑)僕たちはアルバムでも曲でも、名前を決めるときは相談し合うんだ。すぐにピンと来るときもあれば、ちょっとした話し合いになることもある。「TWYLAM」の歌詞にその"martyr"という言葉が入っている。僕がEPのタイトル候補としてリストに入れていた言葉なんだけど、自分たちがバンドとしてやっていることに繋がっているような気がするんだ。と言っても宗教的な意味じゃないけどね、僕たちは必ずしも信仰が厚いバンドってわけじゃないから。このバンドの主な趣旨は、"自分に正直でいること"なんだ。自分の信じるものを守って、自分自身を信じること。そしてそれにこだわること。このバンドはその歴史全体を通じて、良くも悪くもそれを実践してきたと思う。それが主なメッセージなんだ。いつだったかKevinがすごくいい言い方をしていたんだけど......世の中は時に、仮面を着けることを求めてくることがある。生きていくためにそうすることが必要になることもあるけど、"Martyr"でいるというのは、ありのままの自分でいるということ。そして、それを守るのに命を惜しまないことなんだ。
-"自分の信じるものを守るために命を惜しまない"というところが、"殉教"と繋がっているんですね。
Chris:そうだね。
-本作ではスクリームやラウドなギター等ヘヴィな側面をさらに際立たせながら、繊細なヴォーカル・ラインも非常に印象に残るサウンドに仕上がっています。本作で目指したサウンドの方向性を伺えますか?
Sam:1stアルバム(2019年リリースの『Deaf Perception』)から今まで、俺たちがやってきたことはどれも続き物の感じがするんだ。『Where The Heart Belongs』でようやく自分たちらしいサウンドを掴めて、今回はそこからいいふうにステップアップできたと思う。曲によってはそこからポッと発展したものもあるし、Cam(Cameron Mizell/プロデューサー)がやっていたことを思い出したものもあるしね。今回の曲では、Camとちょっと違うプロダクションをやってみようと思って作ったものもあるよ。彼はヴォーカルで変な試みをいろいろやりたがる人なんだ。
Kevin:Samがよくダイナミクスの話をしているけど、俺たちはハードにやるのが好きなんだ。ギターが荒々しくて、スクリームもあったり、その反面甘い歌声もあったりする。同じジャンルのやつらに"SOFTSPOKENってボーイ・バンドみたいじゃん!"なんて言われることもあるんだ(笑)。
Sam:(笑)
Kevin:声がすごく軽やかなときはね。でも究極的には、俺たちはすごく多彩なんだと思う。なんでもできる力があるんだから、やらない手はないよね? それから、自分たちならではのサウンドにもこだわることができたと思う。よく"誰に影響を受けたの?"とか聞かれるけど......もちろん影響元はいろいろあるけど、自分たちならではのサウンドはキープしておきたいんだ。Chrisのギター・パートの書き方、Samの歌い方のおかげで俺たちはユニークでいられているし、他のバンドに紛れないようにできているんだ。
Chris:僕がソングライティングにアプローチするときに主に大事にしていることの1つが、このEPの曲にも表れていると思う。僕たちはとっつきやすくて夢中になりやすい曲が欲しいんだ。いいサビがあったり、覚えやすいメロディがあったり。でも、いつもそこにちょっとした"ひねり"を投入するのが好きなんだ。ここで変わるわけないだろうと思ったら変わるとかね。そういうスポットを曲に加えて、"おっ、今のは予想外だったな。クールだ"と反応してもらうのが好きだよ。全体としてスタートからフィニッシュまで、そして各曲にも、そういうスパイスがあちこちにちりばめられているんだ。
-スパイスと言えば、「TWYLAM」のグリッチや「Invincible」のパス・フィルター等、アレンジにもこだわりを感じました。アレンジで意識した点等ありますか?
Chris:大半の曲はCameron Mizellがプロデュースしているんだけど、彼がその手のものの魔術師みたいな人なんだ。僕たちはデモを完成させたような状態で持っていく。彼には全幅の信頼を置いて、彼らしくやってもらっているんだ。ところどころそういう装飾を付けてもらってね。Samのヴォーカルの録音を切り刻んで、楽器みたいに使うこともある。僕たちのライティング・プロセスの中で大切な部分がチームなんだ。初めは僕たちだけだけど、その後でプロデューサーのCameronのところに行って、グリッチや彼のフレーヴァーを足してもらう。僕も自分の音楽にそういうのがあるのが好きだからね。
-今作はラスト・トラック(ボーナス・トラックを除く)の「Lovetok」から順番にシングルとして発表されていますが、トラックリストは逆の順序で配置されていますね。こちらは意図的なものなのでしょうか?
Chris:そうだね。いきさつがあまりクールじゃないというか、マーケティング的な話なんだけど(笑)。ほら、SpotifyやAppleで新作を聴くときって、新しい曲から最初に聴いていくよね? 僕たちもそういう構造にしたんだ。新しいのが最初で、というふうにね。でもEPのストーリーはこの曲順で。一番新しい曲が最終的に見えたときに、「Lovetok」まで遡るとそこが『Martyr』の旅の始まりなんだ。
-ということは「Lovetok」を出した時点で、そのうちEPを出すかもしれないと思っていたのでしょうか。
Chris:まぁ、そんな感じかな(笑)? 「Lovetok」が出たのは約2年前で、"どこかの時点でEPを出さないと"とは思っていた。その2年の間にいろんなことがあってね。例えば外部のレーベルから興味を持ってもらえたことがあって、話し合いになって、契約書を検討したら双方満足できない内容だったから......とかもあって、ひたすら曲を出すばかりだったんだ。"もしかしたらこういう契約なら望む内容になるのかな?"なんて考えたこともあったけど、結局どれも僕たちのやりたいことには馬が合わなかった。それで最終的に、たしか「I Against Me」が出た頃だったと思うけど、"やっぱり自主制作にしよう"ということになったんだ。それで、それまでに出したものを1つにまとめようという話が出た。僕たちのストーリーの中には、拒絶されたとか、自分たちに合ったレーベルに出会えなかったみたいな話がある。これもまた"Martyr"の一環だよね。自分らしさを貫くっていう。
-なるほど。物事には理由があるといいますが、それで今の日本のエージェント、Vamprose Management Agencyと出会えたわけですからね。ということは"THEORIA RECORDS"はご自分のレーベルなんですね?
Chris:そう、僕のレーベルだ。
-ちなみに収録曲は随時制作していったのでしょうか? それともまとまったセッションで制作されたのでしょうか?
Sam:「Lovetok」、「Alone」、「Oblivion」はコロナ禍の始まりに書いた曲なんだ。今Chrisも言っていたけど、あちこちから興味を持ってもらえた頃もとにかく曲を書き続けていた。それから、「Lovetok」を書いたときは、Kevinはすでにいたなぁ。Dylan(Carter/Ba)もすでにいたけどRobbie(Valdez/Gt)はまだだった。彼等とスタジオに入ったとき、"もっと頑張ろう"と思ったよ。"EPでも作るか"ってね(笑)。
Chris:曲はいくつかまとめて作ったんだ。3つ(「Lovetok」、「Alone」、「Oblivion」)制作して、「I Against Me」はCameronではなく別のプロデューサー(Evan McKeever)と作って、残り(「TWYLAM」、「Invincible」、「Throw Me Your Roses」)もまとめて制作したよ。
-「I Against Me」はナッシュヴィルで作ったんですよね。
Chris:ああ。
Sam:でも、スタジオがCamの隣だったけどね(笑)! だから行ったり来たりしていて"いったいなんなんだ"みたいな感じだったよ(笑)! まぁ、世の中狭いよ。