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INTERVIEW

HAZUKI

2024.10.22UPDATE

2024年10月号掲載

HAZUKI

Interviewer:杉江 由紀


最後に激しい曲を作ろう、と思って作った2曲なんで。兄弟感があるかもしれません


完膚なきまでの攻撃力は聴き手を圧倒することだろう。前作『EGØIST』から2年。lynch.のフロントマンである一方、ソロ・アーティストとしても意欲的に動いてきたHAZUKIが、このたび2ndアルバム『MAKE UP ØVERKILL』を完成させるに至ったのだ。PABLO(Pay money To my Pain/POLPO/RED ORCA/The Ravens)をはじめとしたツアー・メンバーも参加する今作が、ソロの領域を凌駕しているのは言うまでもない。

-2022年8月にリリースされた、HAZUKIとしての1stアルバム『EGØIST』に引き続いて、このたび2ndアルバム『MAKE UP ØVERKILL』がここに完成いたしました。もとを辿れば、"葉月"としてのソロ・ワークス自体は2016年からスタートされておりましたし、今年末には、"XX act:1 20th Anniversary Premium Live「THE IDEAL」"を控えているlynch.での活動もあるなか、ご自身はソロ・アーティスト、HAZUKIがここまでに辿ってきた歩みについて、どのような見解を持っていらっしゃいますか。

音楽的な面に関して言うと、HAZUKIとして何をすべきかっていう明確なヴィジョンは、あるようで実は何もないままここに至ってるんですよね。ソロだからこんな曲をやりたいみたいな気持ちも全くなくて、純粋に"好きなことをやる"っていうことだけを求め続けてきてるんです。っていうのも、僕がこのHAZUKIソロを始めたのが39歳で、40歳になる直前だったんですよ。そして、その頃に考えてたのが"あとどれだけ歌っていられるんだろうか?"っていうことでした。

-ヴォーカリストにはアスリート的な側面があることも考えつつ、シビアにこの先の生き方について思案されていたわけですね。

もちろん、精神的な面ではまだまだ成長できる部分ってあると思うんです。ただ、肉体的な面からいけば若さのピークみたいなものはもう過ぎてるんだろうし、いったいいつまでコンディションに左右されることなく歌って活動していけるのか? っていうところに対しての不安も、いずれは出てくるかもしれないじゃないですか。逆に言うと、まだそこが気になってない今のうちに自分の好きなことに全振りしたい、と思って始めたのがこのプロジェクトだったわけです。

-誰しも人生の中で与えられている時間は有限ですので、そのスタンスはとても素敵だと思います。また、今伺ったエピソードはある意味で1stアルバム『EGØIST』のタイトルとも繋がりますね。

でも、いざ"自分の好きなことをやりましょう"とはなったものの、当初は"じゃあ、何をやればいいんだろうな?"ってなったのも正直なところです(苦笑)。好きに曲を作って、好きなことはやってるんだけど、そこまでlynch.とえらい違いがあるかと言ったら別にそういうわけでもなくて。まぁ、僕もlynch.でここまでの20年ほぼ1人で曲を作ってきてますから、なかなかそれと完全に違うスタイルを見せていくというのは難しいもんだな、と最初のうちは感じてましたね。

-だとすると、その"最初のうち"が終わったのはいつ頃のことだったのでしょうね。

意外と最近かな(笑)。やっていくうちにだんだんと、こんなことを取り入れられるかもしれないとか、こういう見せ方や聴かせ方をしたらもっと良くなるんじゃないか、とかが分かってきたなかで、2023年の7月に『逆鱗』っていうシングルを出したんですね。あそこでようやく、HAZUKIとしてのスタイルが"これかも"って自分の中で見えた気がします。そこまではほんと、ただがむしゃらにやってた感じでした。

-ちなみに、そんな『逆鱗』に収録されていた楽曲のうち、「Ω」と「霊蕾-laylay-」は今作『MAKE UP ØVERKILL』でも聴くことができますけれども。既発曲たち以外の新曲を今作のために制作し始めたのは、おおよそいつ頃からのことだったのでしょう。

lynch.で今年の6月に出した『FIERCE-EP』を作り終わった瞬間からだったんで、4月末か5月に入ってからすぐだったと思います。それ以前にも2、3曲はあがってたし、5月に1曲仕上げて、それ以外の曲を一気に作るぞ! ってなったのはlynch.のツアー("TOUR'24「DEADLY DEEP KISSES」-SHADOWS ONLY-")が終わった6月からでしたね。

-『MAKE UP ØVERKILL』に向けた構想自体は、作曲期間に入る前からすでに練られていたのですか? それとも、作曲過程の中で固まっていったものだったのでしょうか?

両方です。このくらいのボリューム感で、このくらいのバラエティに富んだ感じで、というザックリしたイメージ自体は前からあったんですよ。シングル『逆鱗』(2023年7月リリース)を出した後、夏に[BURST SUMMER TOUR'2023 "反逆ノ行脚"]をやって、あのときに理想像はもう見え始めてました。そこから具体的にどんな曲があればいいかという構想をまとめていって、何曲かは作り出しつつ、いろんな情報が蓄積されていった状態で、今年の6月から一気に放出作業に入ったかたちです。

-なるほど、そのような流れだったのですね。実際のプロセスという面では、バンドの曲を作るときとソロの曲を作るときの違いが最も顕著なのは、いかなる場面になりますか。

ソロでの曲作りのほうがいろんな人とのやりとりがあります。lynch.ではデモの段階で完全に固めたものを曲として出して、そこからメンバーそれぞれに変えたいところを変えてもらって、変えてほしくないところはそのままにしてもらって、そこからレコーディングっていう流れなんですよ。ところが、ソロに関しては、アレンジの段階で僕の理解が及ばないような楽器がいっぱい入ってくるケースが多いんですね。例えば、ホーン・セクションとか。そういうのは僕だと分からないんで、アレンジャーの方とやりとりしながら作り上げていくってかたちなんです。

-今回のレコーディングにはPABLOさんや、明徳(lynch./Ba)さん、TSUYOSHI(Unveil Raze/Gt)さん、響(摩天楼オペラ/Dr)さんといった、ツアー・メンバーの方々も参加していらっしゃるのですか?

参加してくれてます。ほとんどあのメンバーでやってますね。今回のアルバムはあえてそうしようっていう話を、まさに昨夏のツアーもそうだし、今春にやった[INSANE SPRING TOUR'2024"惨逆ノ行脚" -the encore-]のときにもしてたんですよ。とにかくライヴをやってるときのバンドの雰囲気がすごく良くて、みんなで作り上げていってる感覚もあったから、今回はいろんな人たちに振るのではなくて、この状態でアルバムも頑張って作ろうね! っていう話になってました。

-ここまでのライヴを通して錬成されてきたバンド感は、間違いなく『MAKE UP ØVERKILL』のサウンドに色濃く反映されているように感じます。それこそ、「ØVERKILL」も攻撃的なバンド・サウンドが活きた仕上がりですよね。

これは曲作り期間の最後のほうにできた曲でした。最後にできたのが「9999」で、その前にできたのが「ØVERKILL」だったんですよ。

-「9999」もいい意味で殺伐とした楽曲になっておりますが......これは歌詞からの推察とはなるものの、「ØVERKILL」では"MAKE UP OVERKILL"というフレーズが見受けられる一方、「9999」には"9999 OVERKILL"という一節が入っておりますよね。もしや、この2曲は二個一的相関関係を持ったものだったりしますか?

どうなんですかね? そんなこともないんですけど、とりあえず「9999」のほうに"OVERKILL"って単語が出てくるのは、あの掛け声にあたるところにハマる言葉として、一番良かったのがあれだったということなんですよね。なおかつ、アルバム・タイトルにも使われてる言葉なんで、表題曲の「ØVERKILL」とは被るけれども"ま、いっか"と。意図して狙ったとかではないです。

-意図していないのだとしたら、今回は"OVERKILL"というワードが、HAZUKIさんの中でそれだけ旬なものだったとも言えそうですけれど。

曲を作ってメロディができて、歌詞を書こうってときにパッと浮かんできた言葉がそれだったというだけなんですけどね。でも、そういう言葉って音に乗ったときキャッチーだし強いんですよ。だから、僕としては被っちゃったなとちょっと気にしながらも、そのまま活かしましたっていうことなんです。

-半ば偶然が生み出した結果だとしても、今作における「ØVERKILL」と「9999」の存在は、アルバムとしてのトータリティを生むことになったようですね。

うん、たしかにそうですね。最後に激しい曲を作ろうと思って作った2曲なんで。そういう意味では兄弟感があるかもしれません。

-なお、「ØVERKILL」の前には"(2.0)"と題されたSE的インストゥルメンタルも収録されており、アルバム『MAKE UP ØVERKILL』の冒頭を飾っておりますね。

これ、めっちゃカッコいいんっすよ。GARIのYOW-ROW(Vo/Prog)さんに入っていただいてて、これだけじゃなく「ØVERKILL」のノイズ系の音も作ってくださってます。GARIは普通にCDも持ってたし、10年以上前だけどlynch.で対バンしたこともあって、もちろん近年はBUCK-TICKでのご活躍も存じ上げてたんですね。今回のアルバムに参加していただくことになったきっかけはPABLO君からの提案で、僕が"アルバムにデジタルな雰囲気のSEを入れたい"という話をしていたら、PABLO君が"だったら、YOW-ROW君がいいんじゃない? 繋げようか?"って言ってくれたんですよ。

-PABLOさんはミュージシャンとしてだけでなく、コーディネーターとしての貢献もしてくださっていたのですね。

PABLO君はギタリストっていうだけじゃなく、制作の人でもあるんですよ。スタジオも押さえてくれるし、ミュージシャンやアレンジャーの人の手配とかもめっちゃやってくれてますからね。全体を仕切ってくれてるんですごく頼もしい存在です。

-さて。「(2.0)」と「ØVERKILL」で幕開けしたのち、今作は既発曲の「東京彩景 -TOKYO PSYCHE-」を交えながら展開していくことになり、4曲目のタイミングでリード・チューンとなる「魔ノユメ」が登場いたします。HAZUKIさんとしては、そもそも今回のリード・チューンとしてどのような曲が欲しいと考えていらしたのでしょう。

これは作る予定のなかった曲だったというか、当初に想定していたヴィジョンの中には入ってなかった曲ですね。でも、最初のほうに「AMEN」と「AMNESIA」を作り終わった後だったかな。なんとなくギターを弾いてたときに、ふと出てきたリフが「魔ノユメ」のもとになったんです。このテンポ感で、シャッフルで、ホーンが入ったらきっといいだろうなとその場のひらめきと勢いで作ったら、それをPABLO君やスタッフたちがえらい褒めてくれたんですよ。"え? ほんとに? じゃあこれ、今回のリードにします!"みたいな、そういう軽い流れでMVも作ることになりました。

-「魔ノユメ」はサウンドもMVもグラマラスなテイストが濃厚ですし、歌詞も音の持つ空気感と同調した言葉の並びとなっているように感じます。

この歌詞は曲のイメージに沿って文字起こしをしていくような感覚でしたね。内容以上に語感を活かしていったところが大きくて、ソロは基本的にそういうパターンがわりと多い気がします。lynch.でも砕けた言葉遣いをすることはあるんですけど、lynch.よりもさらに砕けてるというか、あんなにストイックで男らしいイメージに寄せていく感じでもないんで、もっと遊べてるんですよ。でも、この"魔ノユメ"っていうタイトルはちょっとlynch.とも関係あります。これってlynch.の「MIRRORS」(2011年リリースのシングル表題曲)でAメロに出てくる言葉なんですよ。

-そういえば! "魔の夢から抜け出そうか"という一節がありましたね。

今回この曲のタイトルをどうしようかなといろいろ考えてたときに、まずは悪夢とかそんな意味で何か良い言葉ってないかな? と思ってたんです。要は、HAZUKIっていうアーティストにハマってくれてる人たちの状態を、悪い夢というかたちで表したかったんですね。で、過去に"魔の夢"って表現をしたなと思い出したから、ここでは表記を"魔ノユメ"っていうかたちにして使うことにしました。

-そんな「魔ノユメ」の次に聴けるのは「霊蕾-laylay-」で、こちらも既発曲とはなりますが、今改めてこの曲を聴いて感じるのは、HAZUKIさんのメロディ・メイカーとしての優れたセンスです。lynch.でも「IDOL」(2020年リリースのアルバム『ULTIMA』収録曲)等で傑作メロディを生み出していらっしゃいましたけれど、ソロ・ワークスでのHAZUKIさんは、その卓越したメロディ・センスを、バンドとは異なるかたちで大きく花開かせていらっしゃるように感じます。

「霊蕾-laylay-」の特徴を挙げるなら、サビで転調してることだと思いますよ。僕、転調って大嫌いだったんです。でも、最近好きになってそれを初めて試したのが「霊蕾-laylay-」で。lynch.だったらAメロ、Bメロと来てサビで転調っていうのは絶対ない流れだから、そういう部分での違いを感じてもらえるところはあるんじゃないですかね。この曲はライヴでもずっとやってきてて、歌モノなんだけどお客さんたちがめちゃくちゃ盛り上がってくれる不思議な曲でもあります。雰囲気的にはダイバーが出てもいいくらいだと思ってるし、みんなが楽しんでくれてるのは僕としてもすごく嬉しいですね。