INTERVIEW
THE STARBEMS
2023.11.29UPDATE
2023年12月号掲載
Member:ヒダカ トオル(Vo/Gt/Prog) 落葉(Support Gt)
Interviewer:フジジュン
-今作はデジタル音やシンセ・サウンドも効果的に使用していて、プログラミングまでひとりでやった成果が出ていると思うんですが?
ヒダカ:ここ数年でプロデュースや楽曲提供をたくさんやらせてもらったのもいい方向に働いて。DTMの使い方に慣れたから、プログラミングも全然スムーズに入れられるようになったのはデカかったですね。いろんなアーティストさんにデモを送るとき、ちゃんと聴かせなきゃいけないと思って、DTMを頑張るようになったから。自分でやれるなという自信になったし、引きこもって家での作業ができたのはコロナ禍の成果かもしれない。でも結局、スタジオでみんなと合わせるとまた変わってくるし、それが面白いところでもあるんですけどね。落葉はどの曲を弾いたんだっけ?
落葉:「1999」と「New World」と「Turn The World」ですね。
ヒダカ:そうか、意外といい曲で弾いてるね(笑)。落葉と話しててびっくりしたのが、「Turn The World」はRED HOT CHILI PEPPERSのオマージュだったから、"John Fruscianteみたいに弾いてくれ"って言ったら、"意識して聴いたことねぇっす"って(笑)。だから、そこを説明するのが大変みたいな。あと「Turn The World」作るとき、参考にしようと思っていろんな年代のレッチリ(RED HOT CHILI PEPPERS)聴き始めたら、"Dave Navarro期もいいじゃん"とか聴き込んじゃって、曲作りが全然進まなくなっちゃった(笑)。
-BAD BRAINSのオマージュの「Dad Brains」なんて曲もあります。
ヒダカ:これもBAD BRAINSを久しぶりに聴いたから、曲作りが進まなくなっちゃったけど(笑)。でも、以前よりいろんなことがやりやすくはなりましたね。昔だと、レッチリみたいなこととか技術的に追いつかないと思ったし、シーケンスがガッツリ鳴ってるのをパンクやハードコアに入れるのはどうなんだろうな? と思っただろうけど、よく考えたらTHE MAD CAPSULE MARKETSがいたじゃんとか。自分のスキルが向上したことで、客観的に見れるようにもなったところはたくさんありますね。アメリカのハードコアでもTURNSTILEとか、ライヴでの再現度は無視して、作品にはシンセのキラキラした音がいっぱい入ってたりするし。ハードコアやパンク自体が各国で進化してるから、そこは気にしないでやろうと思うようになったのも大きいかも。BRING ME THE HORIZONも、最近出してた曲はポップ・パンクで結構明るいし。それまでやらなかったことをやろうとしてるというか、外界と繋がろうとしているのをすごく感じる部分もあって。
-ヒダカさん自身も長くバンドを続けるなかで、時代とともにサウンドが変化していく理由や気持ちもわかるし。
ヒダカ:そうですね。バンドはひとつのことだけやればいいとは全然思ってないし。QUEENとかTHE BEATLESとか、古いロックでさえそうなんだから。そんなこと言ったら、アルバムごとに全然違うDavid Bowieなんて聴いてられないですからね(笑)。今のキッズやユースならDavid Bowieが10年かけてやったことを、アルバム1枚で再現できてしまうだろうし。自分もそういうアーティストでありたいなと思います。
-落葉さんはアルバムができあがっての感想はいかがですか?
落葉:ちゃんとレコスタに入ってレコーディングしたので、"レコーディングが楽しかった"というのが一番の思い出で。レコスタだとメンバーがいてエンジニアさんがいて、俺が間違えるとみんなに迷惑がかかるっていうプレッシャーもあるから。とにかく必死でやったし、ギターが上手くなったレコーディングになりました。
-落葉さんはライヴもサポートしてるんですよね?
落葉:はい。ツアーに関しては、みなさん1時間前後のライヴのために、何時間もかけて移動して来てるんだなっていう、ロマンに触れたなというか。
ヒダカ:北海道2デイズ("TOMAKOMAI ELLCUBE 18th Anniversary「The Destroyer」THE STARBEMS 2DAYS TOUR")で函館と苫小牧に一緒に行ったんだけど、函館ARARAってライヴハウスでやって、それがすこぶる楽しかったんだよね? 函館だし、こういう時期だから、バンドいるのか? お客さんいるのか? と思ったら、店長のかとぺを中心にエモいシーンがちゃんとあって。大学生のバンドとかいて、20歳そこそこなのに、鬱屈としたカッコいいロックとかやってて。4~6時間かけて行った先に、そんなシーンがあるなんて想像だにしてなかったから、たしかにすごいロマンがあった。来年は地方でもガシガシやりたいなと思ってて、ライヴやイベントを回る理由としてもアルバムが欲しかったんです。あと今回、悩んだんだけど、ストリーミングも全部解禁することにして。フィジカルを売るためにストリーミングはやらないって手段もあると思うけど、ちゃんと両方やって結果を見てみようと思って。その反応も楽しみです。
-あと曲の話で聞きたかったのが、今作でもちょっと異色な「Mardi-Gras」について。この曲は南米の民族音楽にインスパイアされたそうですが?
ヒダカ:これもコロナ禍で音楽聴く時間が増えて。寒い地方のことを調べてたとき、シベリア先住民のグループ OTYKENが出てきて。テクノで、いわゆる民族音楽的なサウンドを四つ打ちでやるんだけど、大太鼓を鳴らしてる人もいれば、口琴を鳴らしてる人もいて、すごくカッコ良くて。"そういや自分、民族音楽好きだったじゃん!"と思って南米の民族音楽とかも漁って聴いてたら、フラメンコっぽいカッコいい曲をやる、コロンビアのCIMARRÓNとかも発見してひとりで盛り上がっちゃって。フラメンコまではいかなくても、哀愁系の曲を作りたいなと思ってできたのが「Mardi-Gras」で、これは俺なりのBRAHMANですね(笑)。そしたら案の定、ロンちゃん(RONZI/BRAHMAN/Dr)が"この曲、めちゃくちゃ好き!"って言ってたから、刺さって良かったなと思って。
-ちなみに、ヒダカさんが特に好きな曲はどれですか?
ヒダカ:俺は意外と1曲目の「1999」が好きなんです、すぐ終わるけど(笑)。1曲目を想定したわけじゃないけど、意外なスタートにしたかったというのもあるし、苛立ちとサクッと終わるタイパの良さが音楽でできたなって気がしますね。別に若い子に寄せたわけでもないし、タイパの良さを目指したわけでもないけど。ビークル(BEAT CRUSADERS)の頃だったらもっとメロディアスになっちゃうし、THE STARBEMS初期だったらハードコアになっちゃうし。今じゃなきゃできないところに落とし込めて、自分でやってても楽しかったです。
-いい意味で肩の力が抜けてるというか、あえて考えすぎてないところもありますよね。
ヒダカ:今までで一番気を使ってないアルバムかもしれない。前だったら選曲はこうでとか緻密に考えてたし、サポート・メンバーの誰々が目立つ曲が少ないから入れようとか、いろんなところに気を使ってた気がするけど、今回はそれが全然なかったんです。(ライヴの)サポート・ギターののぐニキは、もともとTHE CHORIZO VIBESってバンドのメンバーでめちゃめちゃギターも歌も上手いし、心斎橋BRONZEで働いてたからライブハウスもめちゃめちゃ精通してて一番有能なやつなんだけど、今回1曲も参加してないから"ごめん!"と思って(笑)。でも逆に、ここからのぐニキにアルバムを新しい解釈でギター弾いてもらうのも面白いと思うし、そこから"こういうことをしよう"って新しいことを思いつけばいいし。
-バンドの面白さも知ってるし、ひとりでも曲作れちゃうし。10周年以降のTHE STARBEMSは、よりフレキシブルにいろんな活動ができそうですね。
ヒダカ:なりたいですね、いろんなことができるアーティストに。パンク・ロック界の米津玄師みたいなね、"ひとりでもいろんなことできますよ"みたいな。俺、米津君とHoneyWorksって本当にすごいなと思ってて。「可愛くてごめん」って禁じ手じゃないですか。女の子も"可愛くてごめん"までは歌えるけど、"ざまあw"まで振り切るのってしんどいと思うんです。でも、そこをあえて振り切ってるところがすごいし、パンクだと思う。HoneyWorksはパンクスだなと(笑)。
-わははは! HoneyWorksへのそんな評価、初めて聞きました(笑)。
ヒダカ:これは極端だけど、それくらいのアティテュードを持った人とやりたいよね。あとコロナ禍もあって、基本"自分のやりたいことを押し殺しちゃダメだ"ってことを歌ってるつもりだから、伝えたいことは若いクリエイターと一緒だと思うんです。そうは聴こえないかもしれないけど、このアルバムの曲は俺らなりの応援歌ですから。
-そんなアルバムを掲げてのツアーの予定は?
ヒダカ:今計画中で2024年に予定しているんですが、レコ発でスタジオ・ライヴをやろうと思ってて。最たる距離感、ゼロ距離感のスタジオ・ライヴってのもいいなと思ってるんで。全国のライヴができるリハーサル・スタジオの方は連絡ください!