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INTERVIEW

FIVE FINGER DEATH PUNCH

2020.02.28UPDATE

2020年03月号掲載

FIVE FINGER DEATH PUNCH

Member:Zoltan Bathory(Gt)

Interviewer:菅谷 透

-タイトルだけ見ていると、あなた方が得たスターダムについて言及しているのかと思ってしまいますが、こんなに壮大な皮肉が隠れていたとは。そのギャップが面白いですね。では「Mother May I (Tic Toc)」はどうでしょう? こちらもスターであることの代償が語られているように思われますが、これも「Living The Dream」のようなテーマに基づいているのでしょうか。

まぁ、"皮肉"はこれまでもずっと取り上げてきたことだからね。この曲にもたくさんの皮肉が込められているんだ。そういう意味でも「Living The Dream」に似ているけど、ずっと前からやってきたことだから。例えば、2枚目のアルバム(2009年リリース)は"War Is The Answer"というタイトルだった。あれは中東での戦争の真っただ中で作ったアルバムだった。あのころは、"War is not the answer(戦争は答えじゃない)"と書いたボードを持っている人たちがストリートにたくさんいた。みんな"戦争は答えじゃない"と言いながらデモを行っていたよね。あれは"でも、結局戦争が答えなんだろう?"という皮肉なんだ。そんな感じで言葉遊びをしていたんだ。
その次(2011年)に出したアルバムは"American Capitalist"というタイトルだった。なんでそんなタイトルにしたかというと、当時アメリカでは社会主義/共産主義的なものが反乱を起こしていたからなんだ。人々が"Capitalism"(資本主義)を攻撃していた。社会主義/共産主義的なものが人々の意識にのぼるようになって、ウォール街を占拠しようとしたり、社会主義が提唱されようとしたりしていた。それであえて"American Capitalist"というタイトルにしたんだ。
そんな感じで、昔から皮肉を用いてきたんだ。と言っても、俺たちは政治的じゃないけどね。右とか左とかいう話をしているわけじゃないし、民主党だ、共和党だなんて言っているつもりもない。ただ、アーティストの仕事というのは、究極的には、違う視点からの、ものの見方を与えることだと思っているんだ。そのものに別の角度から光を当てて見せているけど、実際にそのものに対してどう思うかはその人次第。そういう意図があるから、このアルバムもそうだけど、俺たちの歌詞は皮肉を用いたものが多い。例えば、(「Bottom Of The Top」の中で)"Am I bloody enough/for you(俺は君にとって十分血を流しているのだろうか)"みたいなフレーズがあるけど、あれはバンドについての社会的なコメントなんだ。俺たちのバンドに限らずね。 このデジタル時代、SNSもあって、誰もが自分の意見を表明する機会を与えられている。ある意味それは素晴らしいことだよね。誰もが意見を言えるわけだから。でも、同時にすごく奇妙なシチュエーションでもあるんだ。世の中には必ずしもそんなに賢いわけじゃない人たちもいるからね......。本来意見を言うほどの資格がない(苦笑)人たちも意見を言えてしまうんだ。そういう人たちは自分が何を言っているのかの自覚もなしに発言してしまう。例えば、医学的な掲示板があって誰かが"頭が痛いし、めまいがするし、こういう症状がある"と書き込んだとする。そこに医者でもないやつらがアドバイスを投稿し始めるんだ。それって怖いことだよね。素人のアドバイスを聞いてしまうことになるんだから。中にはクレイジーなアイディアもあるかもしれない。アドバイスを書き込む資格もないようなやつらだからね。医者じゃないし。
そんな感じで、ソーシャル・メディアというのは誰もに声を与えてしまうし、誰の声でも聴いてもらえるけれど、中には聴くに値しない声もあるよね。アーティストだと、何をやっても必ず誰かに批判されてしまう。例えば、アルバムを作ったとして、誰かが"初期の2枚みたいな音に戻ってくれ"なんて言うとする。それがその人の好きな音だからね。その真下についた別のコメントは、"いつも同じことばかりやっているじゃないか。何か新しいものを聴きたい"なんて書いてあったりする。そのふたつのコメントは両方とも真実だったりするし、互いに矛盾していることもある。みんなそれぞれ違う捉え方があるからね。そんなわけで、"どうですか、あなたにとってヘヴィさは十分ありますか"なんて皮肉った歌詞を入れることがあるんだ。ボールを投げられたら、投げ返すってことでね。

-あとで歌詞を読み直して、ダブル・ミーニングや皮肉の箇所を今一度見てみますね。サウンド面でも質問させてください。「This Is War」はアルバムの中でも特にヘヴィ且つテクニカルなリフの、アグレッシヴなナンバーです。どのような意図を持って制作しましたか?

俺はメタル・ガイだから、ああいうリフが自分にとって身近なんだよね。このバンドはヨーロッパ音楽とアメリカ音楽の間を行き来しているような感じなんだ。ヨーロッパとアメリカの音楽を聴き比べると、実はすごく違うことがわかる。なぜそうなのかを日本のみんなに説明すると、アメリカ音楽のルーツは一般的にみんな、リズム&ブルースというアメリカの民俗音楽に由来している。その名のとおりフィーリングとリズムが要なんだ。グルーヴと曲のリズムがすべてだよね。俺はヨーロッパで育っているけど、ヨーロッパの音楽っていうのは、その人がクラシック音楽をまったく聴かない人であっても、クラシック音楽が文化に内包されているんだ。いつも感じているし、いつも身の周りにある。クラシック音楽とリズム&ブルースの決定的な違いは、クラシック音楽はコードやハーモニーの相関関係が重要だけど、アメリカ音楽はグルーヴがすべて、ヨーロッパ音楽はメロディとハーモニーがすべてだってことだね。そして、5FDPはそのふたつのコンビネーションなんだ。

-両者のいいとこどりですね。

そう、両方の要素を持っている。俺はここ(※取材日はブルガリア ソフィア公演当日)ヨーロッパ出身だからここの影響を受けているけど、今はアメリカに住んでいるからアメリカ音楽の影響も受けているしね。メンバーもアメリカ人だし。だから、俺たちのサウンドはインターナショナルな響きがあるんだ。両方の影響が反映されているからね。「This Is War」なんかは典型的なヨーロッパ系のサウンドなんだ。メロディもそうだし、ギター・ソロもレガートを使ってたりして、クラシック音楽の影響が入っている。あと、曲の書き方なんだけど、俺はヨーロッパ人でヨーロッパ音楽の影響を受けているから、ソングライティングはこうあるべきだという考えがある。クラシックの作曲家たちは、何百年も前に遡ってみると、もともとはヴォーカリスト向けに曲を書いていなかったんだ。だから、音楽だけで曲のストーリーを描く必要があった。ヴォーカル、つまり歌詞なしにね。いい例がヴィヴァルディだ。ヴィヴァルディは「四季」を作曲しただろう? その「四季」のそれぞれの季節は音楽だけで描かれている。どれが「冬」かって聞かれてもすぐわかるんだ。どうして「冬」とわかる音楽を彼は作ることができたんだろう?

-サウンドスケープがあるからですかね。

そのとおりだ! だから、どれが「春」かって聞かれても、きっと君はわかるだろう。間違いなくわかると思う。何が言いたいかというと、サウンドスケープをメロディとハーモニーで作れば、言葉なしに「夏」、「秋」、「冬」がどんなものかを説明することができる。音楽だけで、とても複雑な光景や、とても複雑なストーリーを伝えることができるんだ。5FDPでも俺はまず曲から書くことにしている。まず曲を書いて、その曲がストーリーを伝えてくれるものでなければだめなんだ。ヴォーカルが入る前の段階でね。「This Is War」でも、まずは戦争のようなものを連想できるサウンドスケープを作る必要があった。侵攻だったり、攻撃的な動きだったり、目を閉じたら軍隊とか戦車とか、あるいは中世の兵士たちが戦いに向かっていく姿とかが浮かぶもの。そういうのを音楽で描いたらどうなるか。そうやっていつも曲を作っているんだ。音楽が絵を描けるものでなければならない。そこにIvanが歌詞を書くんだ。すでに描かれた音の景色の上にね。

-他の曲もそうやって作っているんでしょうか。

まぁ、大概そうだね。今回そう書かれなかった曲は「Darkness Settles In」と「A Little Bit Off」だけだったな。あのふたつはIvanがスタジオにやってきて話してくれたものから始まっている。「Darkness Settles In」は、Ivanが見た夢から来ているんだ。ほら、あいつはアルコール中毒だっただろう? ときどき"自分が酒を飲んでいる"という悪夢で目覚めることがあるらしい。ベッドの上で起き上がって、自分が酒を飲んでいたという鮮明な夢を思い出しているんだ。その時点ではそれが夢だったのか、"うわ、記憶を失うくらい飲んでしまったんだろうか。本当に飲んでしまったんだろうか"とはわかってない。そういう悪夢から目覚めて"なんてこった、俺は飲んでしまったんだろうか"とあたりを見回して、空っぽの瓶がないか、本当に酔っぱらっていたのかどうか探してみる。そういう歌なんだ。メロディもハーモニーも、あいつの頭の中にあったものをそのエピソードに絡めて書いている。「A Little Bit Off」はあいつがスタジオに来て、文字通り"今日俺はa little bit off(ちょっと頭がおかしい)なんだ"と言ったところから始まっている。"ちょっと気分が変というか、イライラするんだ"ってね。そうして歌い始めたフレーズから曲を作ったんだ。歌詞が先だったのはそのふたつだね。他は曲が先だったよ。