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INTERVIEW

FIVE FINGER DEATH PUNCH

2020.02.28UPDATE

2020年03月号掲載

FIVE FINGER DEATH PUNCH

Member:Zoltan Bathory(Gt)

Interviewer:菅谷 透

アーティストの仕事というのは、究極的には、違う視点からのものの見方を与えることだと思っているんだ


-タイトルの"F8"は"Fate"とも読ませるようですね。歴代の作品の中でもシンプルなタイトルですが、由来や込められた意味についてうかがえますか?

俺は"F-Eight"と呼んでいたんだ。これは8枚目のアルバムだった。初めはもちろんタイトルなんてなかったから、メンバーでアイディアをメールし合っていたときもそのまま"The 8th Record(8枚目のアルバム)"と呼んでいたんだ。ナンバー8。そのうちメールの中では5FDPの8枚目だからってことで"F8"と略称を使うようになった。"F-Eight"、仮のタイトルに過ぎなかった。でも、"F8"という単語だけを見ると、発音的には"Fate"って読めるんだよね。あるいは"Faith(信念など)"とも読める。音も内容も繋がりがあるのが興味深いと思った。意味は全然違うのにね。そこから"なんか皮肉だよな、8枚目のアルバムがFateだったりFaithだったり読めるっていうのは"という話になった。"Fate"というのはあらかじめ決められた運命みたいな感じだし、こんな紆余曲折を経るのは運命だったのか? みたいなさ。成功するのは運命だったのか。その決められた運命の結果はなんだったのか。一方で、俺たちはやっていることに"Faith"を持っている。自分たちを信じてやってきたから、今の俺たちがいるんだ。わかるかい? これは面白い言葉遊びになると思ったよ。それからシンボル的な話だけど、"Rebirth"だろう? そこに"8"という数字を照らし合わせてみると、"8"は横に倒すと"∞(無限大)"になる。ヒエログリフみたいな、有名な絵というか、記号があるんだけどさ、インカ文化を始めいろんな文化に出てくるんだ。ヴァイキングも蛇をモチーフにした"8"みたいなサインを持っている。"ウロボロス"と言って、アートワークにはそれをフィーチャーしているよ。その蛇は無限大の記号みたいに見えるけど、自分の尾を食っているんだ。

-たしかに、アートワークにいますね。

そう。あの蛇は無限大の記号でもあるけど、命のシンボルでもある。誕生、生、死のね。宇宙というのはそうやって自らを食っているものだから。生きて、死んで、他の何かになって......とね。

-そうして一巡するわけですね。

そのとおり。"Full Circle"になるんだ。実はアルバムにも"Full Circle"という曲が入っていてね。......と、全部繋がっているんだ。蛇のモチーフは、文化によっては"Rebirth"も意味する。命のサイクルが一巡することのシンボルだからね。誕生、生、死があって、"Rebirth"でまた振り出しに戻る。だからこそ、無限大の意味も持つんだ。何かが死んだら何かが始まる。そうやってアルバムのシンボルを選んだんだ。8枚目で、バンドの"Rebirth"で......というのを古代のシンボルで表している。バンドの歴史と、古代の命と"Rebirth"の概念を重ね合わせているんだ。偶然8枚目だったからね。

-全部運命だったんですね(笑)。

(笑)そう、今にしてみればね。面白いよ(笑)。

-アルバムの全体像が見えました。サウンド面では、グルーヴィなリフやメロディアスなサビといったバンドの特徴が改めて強調された、力強い作品になっていると感じました。「Inside Out」はすでにライヴでも披露されていますが、オーディエンスの反応はどうですか?

クレイジーな状況だよ。出たばかりの曲なのに、みんな歌詞を知っているんだからね! あの曲はアルバムからの1stシングルだったんだ。最初にラジオに送った曲。実は5FDPは、アメリカではメインストリーム系のラジオ局で今一番流れているロック・バンドなんだ。だから、いつもどこかで俺たちの曲がかかっている。ラジオというのは、特定の範囲に当てはまる曲をプレイするんだ。ロック系のラジオだったら、あまりにソフトなものやポップなものは流れない。逆にヘヴィ・メタルみたいにダークでヘヴィなものも、ヘヴィすぎるから流れないんだ。だから、一般的に流れる曲の幅というのがある。

-なるほど。

そんななか、俺たちは10年間で24曲のラジオ・ヒットを出してきたんだ。トップ10入りしたのが24曲だ。で、俺たちはラジオで人気があるし、サポートもしてもらっているから、ここらで彼らがいつも流しているものより、もう少しヘヴィな曲を出してみてもいいんじゃないか? って思ったんだ。それで「Inside Out」を出した。結果どうなったかって? そうだな、他のバンドがこの手の曲を出したとしたら、かけてもらっていたかどうかはわからないだろう。でも、俺たちの曲は普段からプレイされているから、いつもよりちょっとヘヴィな曲を出したら......かけてくれるかもしれないし、かからないかもしれない。だから、様子を見よう、とにかく限界を押し広げてみようと思ったんだ。そうしたら、俺たち史上最速にチャートを駆け上って、ナンバー1になったんだ! アメリカのメインストリーム系ラジオで1位だよ! すごくびっくりしたよ。1位になっただけじゃなくて、3週連続で1位だったんだから。その結果、みんな歌詞を覚えてくれたし、変化をもたらすこともできたんだ。普段だったらラジオで流れないような曲がかかるようになったからね。それを引っ提げてヨーロッパに行ったら、もっとびっくりする状況になっていた。1、2日前(※取材は2月下旬)、イタリアのラジオ局のインタビューを受けていたんだ。そのラジオ局はOASIS、Noel Gallagher、Paul McCartney......そういう感じの曲をかけているんだってさ。

-5FDPとはずいぶん異なりますね(笑)。

そう。どっちかというとソフト・ロック系のラジオ局でね。そのラジオ局の女性が、「Inside Out」がお気に入りの曲だって言うんだ。でも、ラジオ局はPaul McCartneyとかを流している。"本当に?"と聞いたら"そうなんです。しかも、すでにトップ10入りしていますよ"って言うんだ。"えっ"と思ったよ。Paul McCartneyと並べて「Inside Out」を流すなんてあるのかよ! ってね。"わかりませんが、とにかくみんなこの曲が大好きなんです"と言われたよ。すごく驚いたね。ソフト・ロック系のラジオ局が「Inside Out」をプレイしていて、そこでトップ10入りしているなんてさ。そんな感じで、興味深い現象が起こっているんだ。ロックを流したこともないような局でもかけていたりするからね。

-それは素晴らしいことですね! 続いて、他にも何曲か質問させてください。「Living The Dream」では、"キャプテン・アメリカ"や"スーパーマン"などのスーパー・ヒーローの名前や、"地獄への道は善意で舗装されている"という格言を引用しつつ、夢の中で生きていくことの苦悩を歌っていますね。歌詞を目にしたときにどのような感想を抱きましたか? バンドのここしばらくの経験も反映されているものなのでしょうか。

ある意味そうだけど、社会に対する意見でもあるんだ。俺たちはいわゆる"政治的なバンド"ではないけど、ときには社会に対する意見を表明することもあるし、政治に関する意見をすることだってある。と言っても、誰かに"これを信じろ"とか指図するわけじゃないけど、特定のものにスポットライトを当てることがあるんだ。あの曲はいろんなふうに解釈ができると思う。俺自身は、ポップ・カルチャーへの言及がいろいろあるところが気に入っているんだけどね。"スーパーマン"とか"アイアンマン"とか。でも同時に、さっき話していたことのような社会的なことに対する意見でもあるんだ。例えばだ。"政府は民衆を恐れるべきだ。民衆が政府を恐れるのではなく"という言葉がある。それが何を意味するかというと、どんな国でも民衆のために働いてくれる人を選挙で決めるけど、政府や、あるいはなんらかの知的な同盟はいわゆる冠を被ってふんぞり返っていて、民衆が自分たちのために働くのを待っている。どうすれば民衆が自分たちのために働いてくれるかを決めるんだ。皮肉っぽく言っているんだけどね。俺たちは夢の世界を生きている(Living The Dream)んだ。俺たちは自由な世界に生きていると言い聞かされているけど、その自由は政府に与えられている。その状態に疑問を呈しているんだ。政府は俺たちに自由を与える権利なんてないはずだからね。人間は生まれながらに自由なんだから。"政府が民衆に自由を与える"なんて状態はありえないんだ。だって、自由というのは人間の権利なんだから。この世に生まれ落ちた瞬間から持っているものなんだ。

-たしかにそうですね。

もう少しわかりやすい例を挙げるよ。アメリカの一部の地域ではマリファナが合法化されている。知っているよね?

-はい。

マリファナというのはただの葉っぱ、ハーブ(薬草)の1種なんだ。他のハーブとなんら変わらない。それを政府が"今からマリファナを合法化します"なんて言う権利が、本当にあるのかって話だよ。お茶だってハーブの1種なのにさ。カフェインが入ってるんだぜ(笑)? 日本のみんなにわかりやすいような例を挙げるけど、例えば、日本の政府が"これからお茶を禁止します"って言って、しばらくしたら、"今日は気分がいいからお茶を解禁します"なんて気まぐれに言ったらどうする?"ホッカイドーだけ解禁します"みたいにさ。

-(笑)

ホッカイドーだけお茶を飲んでいいことになるんだ。クレイジーな話だよ。そんな感じで、カリフォルニアやコロラドではマリファナを消費していいんだ。俺自身はマリファナなんて使ったこともないけど、そもそも政府がマリファナを消費する"許可を与える"こと自体おかしいと思うんだよね。政府には関係ない話なんだから。マリファナだろうとお茶だろうとシイタケ・マッシュルームだろうと知ったことじゃないはずなんだ。だから、政府が"自由を与えます"とか"〇〇する許可を与えます"なんて言うのは、それ自体が人間への侮辱だと思う。政府が人間のために"決めてあげる"というのはね......。シイタケを食べる許可を与えます、お茶を飲む許可を与えます、マリファナを吸う許可を与えますというのは、本来政府が決めることじゃないから、人間への侮辱だと思う。何を食べていいか、食べて良くないかというのは、自分が決めることなんだ。政府が決めようとするってこと自体が侮辱だよ。で、「Living the Dream」みたいな曲はそういうのを皮肉って歌っているんだ。"俺は夢の世界を生きている! 何せ素晴らしい政府様が俺にお茶を飲ませてくれるんだから"みたいな感じでね(笑)。

-あはは(笑)。

"なんという夢だ!"って感じさ。"そうなんですね、素晴らしい計らいをありがとうございます、お茶を飲ませてくださるとは"ってね。そうやって、世界中の人間は"自由"という夢の世界を生きている。"あれ、ちょっと待てよ。選挙で政府を選んだのは自分じゃないか。やつらは俺たちのために働いているはずなのに、俺たちがお茶を飲めるかどうか決めるのか? なんだよそれ"と疑問を呈することもなくね。そういう皮肉の歌なんだ。歌詞を見てもらえればわかるけど、"your majesty(陛下、殿下)"なんて言葉が出てくる。"is there anyone above you(あなたの上には誰かいますか)"というのは政府のことなんだ。政府の上に誰かいるのですかという意味だね。"We all live under your crooked crown(私たちはみんなあなたの歪んだ冠の下で生きている/※実際の歌詞とは一部異なる)"というのは、俺たちが食べていいもの/いけないものをお上に決められているというのを意味している。あとは......アメリカに自由の女神があるのは知ってるよね。

-はい。

自由の女神と、あと司法のシンボルとして、天秤を持った女の人......レディ・ジャスティス(正義の女神)っていうのがいるんだ。それの代わりに歌詞にはレディ・アムネスティというのが出てくる。アムネスティというのはすでに逮捕されたりしている人を自由にするものだろう? だから、ジャスティスという言葉を使う代わりにこの言葉を使ったんだ。本来今の状態は正義じゃないからね、"俺はお茶を飲んでいい"というのが正義なんだから。レディ・アムネスティは、政府が"あなたがお茶を飲むことを禁じます"と言ったとして、それでも飲んだときに現れて"今回だけは許してあげるけど、次回はどうなるかわからないわよ"と告げる役なんだ。そういうふうに、皮肉な言葉遊びをしている。今の世の中には正義がないからね。正義という"概念"が存在するだけで。正義の"概念"というのは、その人がしていいこと/いけないことを政府が決めるということだけど、それ自体がすでに正義じゃないんだ。それはアムネスティでしかない。というものすごく皮肉な歌詞なんだ。