INTERVIEW
FIVE FINGER DEATH PUNCH
2020.02.28UPDATE
2020年03月号掲載
Member:Zoltan Bathory(Gt)
Interviewer:菅谷 透
これまでに30億回を超えるストリーミング再生数を記録し、ツアーに出れば世界各地でアリーナ・クラスの会場を沸かせる、名実ともにビッグ・バンドへ成長を遂げたFIVE FINGER DEATH PUNCH(以下:5FDP)。とてつもない成功を収めたように見える彼らだが、一方ではIvan Moodyらが依存症に陥るなど困難な局面に突入していた。治療を経て、全員が音楽にフォーカスした状況で作り上げられたというニュー・アルバム『F8』は、創設メンバーであるZoltan Bathoryが"Rebirth"(再生、生まれ変わり)と語るとおり、バンドの新章の始まりを告げる力強い作品に仕上がっている。今回はZoltanに、様々な話を訊いた。
-激ロックとしては、6thアルバム『Got Your Six』リリース時(※2015年8月)以来のインタビューとなりますので、近年のバンドの状況から教えていただければと思います。2018年に7thアルバム『And Justice For None』がリリースされていますが、発売から約2年が経った今、あなたにとってどのような作品になりましたか?
俺たちは今まさに新しいアルバムをリリースしようとしているわけだから、そのアルバムは"昔の"アルバムということになるんだけど、あのアルバムは俺たちがプライベート・レーベルから出した最後の作品になったんだ。過去7作は小さなインディー・レーベルから出しているんだよね。メジャーな成功を収めてきているから、ずっと"メジャーから出していて、宣伝費も莫大にかけてもらってるんだろ"なんて思われてきたけど、実際は全然そうじゃなかった。3~4人しか従業員がいなくて、バンドも俺たちしかいない、本当に小さなレーベルだったんだ。それが真実さ。――あのアルバムは俺たちにとって"ひとつの時代の終わり"になった、そう俺たちは見ている。小さなレーベルから7作出して、俺たちは前に進んでいく。新しい環境にね。それにあたって、結構いろいろなことを変えたんだ。アルバムの歴史を振り返ってから今回のアルバムを見てみると、アートワークに至るまであらゆることが変わっている。今日の俺たちは新しいバンドなんだってことを全面に打ち出したいと考えたんだ。みんな集中できているし、感性もものすごく鋭くなっているし、パーティー三昧だったやつらもみんなシラフになって、音楽だけに専念できるようになった。そんな感じだね。前作はひとつの時代の締めくくりで、今回は"Rebirth(再生、生まれ変わり)"なんだ。すべてが新しくなっている。みんなシラフだし、フォーカスができているし、それが新作にも、ライヴにも表れていると思う。このバンドはこの2年の間に徐々に成長してきた。今こそ爆発するときなんだ。行く先々で1万人規模の会場がソールド・アウトになっているのを見ても、この2年間の結果が爆発的に花開き始めているのがわかるし、新作もそれを体現していると思うよ。
-今回のツアーのドキュメンタリー映像を観ていますが、オーディエンスともども爆発的に楽しんでいますよね。
そうなんだよ。世界的な現象が起こりつつある。アメリカでは5年前からアリーナ級のバンドだったけど、世界ではそうではなかった。それが今はロシアからウクライナ、ドイツ、フィンランド、どこに行ってもアリーナだ。世界的にもアリーナのヘッドライナー級に成長できたと思う。今日みんなで話していたんだけど......GRATEFUL DEADってバンド知ってる?
-GRATEFUL DEADですか。はい。
今日みんなで、ジョークだけど、"俺たちGRATEFUL DEAD PUNCHだな"って言ってたんだよ。-(笑)
というのも、GRATEFUL DEADっていうのは昔のバンドだけど、世界中ついて回るファンがいたんだ。そういう不思議なことが俺たちにも起こってね。どこに行っても一緒に旅しているファンの大きな集団がいるんだ。ロシアでも見かけたし、どのショーでも見かけるな......というファンたちのグループがいる。それも複数ね。ドイツの旗を持ってきているやつらもいれば、イギリスやロシアの旗――そういうファンの集団がどのショーもひとつ残らず来てくれているんだ。そういう現象は今まで見たことがなかった。というか、そんなファン層がいるバンドはGRATEFUL DEADしか見たことがなかったんだ。そんなファンのコミュニティが生まれて、すごいことだと思ったね。みんなファミリーみたいな感じでお互い知り合いで。オンラインでもそうだよ。誰かが"今日はなんだか気が滅入る"なんて投稿したら、そこに何千人ものファンが励ましのレスをするんだ。自分たちの作ったものが、そうやってただのバンド以上の存在になっているのを見るのは感慨深いものがあるよ。
-7thアルバム発売の一方で、Ivan Moody(Vo)らが依存症治療を受けるなどバンドは難しい局面に突入していたようですね。どのような状況だったのか教えていただけますか?
今回のアルバムが"Rebirth"というのは、まさにそういう面もあるんだ。新しい時代の始まりだね。不思議な話でもあるんだけど、このバンドはものすごくクレイジーな状態だったにもかかわらず、1stから7作目まで大きな成功を重ねてきたんだ。俺に言わせれば、バンドの内部はトルネードの状態だったよ(苦笑)。"ツナミ"とでも言えばわかりやすいかな。すごく苦しんだし、すごく難しい時期だった。しかも、Ivanだけじゃなかったからね。俺はずっとシラフだったけど。バンドを始めてからずっと、なんとかまとめようとビジネス的なことをやっていた。誰かが舵取りしないと"タイタニック"が沈んでしまうからね(笑)。俺にとってはバンドがそんな状態になっているのを見るのがとてもつらい時期もあった。Ivanはシンガーだから、どうしても注目の的になってしまう。あいつがアルコールで苦しんでいたのは誰もが知っていたけど、あいつだけじゃなかったんだ。他のメンバーもみんな同じだったんだから。
-そうなんですか......。
ああ。だから、アルバムが売れて、アリーナ・ツアーもガンガンやって......と大成功していたのに、その裏ではみんな完全にクレイジーだったんだ。2年前の夏、状況は悪化する一方だった。相反する状況が同時進行で起こっていたんだ。大成功を収めていて、日々ますますビッグになっていったのに、内部ではメンバーの調子がどんどん悪くなっていった。そんな状況で大成功を収め続けていたというのも不思議な話だけどね。で、2年前、ついに俺たちは分かれ道に来てしまったんだ。このままみんながシラフに戻らなかったら、何か恐ろしいことが起こるだろうというところまでね。最近でもたくさんのミュージシャンが死んでいるだろう? 鬱だったり、自殺だったり、オーバードーズだったりで。残念ながら音楽業界にはそういうものがつきものだ。というのも、どんなバンドでも街から街にツアーするだろう? だから堕ちるのが簡単なんだ。みんなパーティーしたがるからね。オーディエンスにとってはそれでいいんだ。ライヴに来てパーティーして、次の日はまた日常生活に戻っていくわけだから。でもバンドっていうのは、そこから次の街に行ってそこにもたくさんの人が来て、またパーティーしたがる。その街の人たちは家に帰って......という感じだけど、俺たちは行く先々でパーティー状態になってしまう。
-たしかにそうなりますね。
最終的には、それが悪い結果をもたらしてしまうんだ。で、2年前――大きな話題になってしまったから、もう隠すことでもないけど(苦笑)、特にIvanに関しては、リハビリ施設に行かないと、酒をやめないと生きていけないかもしれない状態になってしまった。悲惨な状況になり得ると。それであいつをリハビリ施設に送り込んで――それは公にも知られるところになったけど、他のメンバーもリハビリ施設に行ったんだ。で、全員シラフになって......IvanとChris(Kael/Ba)は酒を断ってから2年になるんだよ。
-すごいですね。
そう。酒を飲まなくなって2年経ったんだ。そんな感じで、前作はみんながクレイジーなときに作った作品だった。今度は新作『F8』を作ったわけだけど、このアルバム作りのためにスタジオに入った時点で全員がシラフだったんだ。それまでは気を散らすものがいろいろあったけど、今は音楽に専念できている。7枚もアルバムを出したあとだとバンドとしてのサウンドができていて、"これが俺たちだ"っていうのがあるけど、なんらかの形で進化しないといけない。でも、そこから自分たちを変えることなく、どう新しいものを取り入れるかっていうのがなかなか難しいんだ。けど俺たちの場合、その進化が自然に起こった。人間はシラフになると変わるからね。で、スタジオに入ったら、シラフになったメンバーが、人が変わったようになっていた。今までとは違うやつらが、今までとは違う音楽を書いていたんだ。そうしてできたアルバムは、やっぱり5FDPで俺たちらしい音だけど、どこか新しくて、どこか今までと違うものがあるんだよ。みんながフォーカスできて、仕事をする意欲に満ちていて、気が散ることなく、パーティーとかクレイジーなことなしに、素晴らしいアルバムを作ろうとして作ったものだからね。だからこそ、今回のアルバムは俺たちにとってマイルストーンだと思っている。"Rebirth"だと考えているし、何か新しいものに変化した作品だと感じているんだ。そう思ってアートワークとかのヴィジュアルも変えた。
-"Skullhead"(※過去作品のアートワークにフィーチャーされていたキャラクター)ももういませんね。
そう。ライヴも変えるし、何もかも変えているんだ。俺たちは成長したと思うし、それを見せたいからね。今は昔とは違うバンドになっている。アリーナ・ショーをやるビッグなバンドになったし、新たなレベルに上がったと思うよ。