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INTERVIEW

KILLSWITCH ENGAGE

2019.08.19UPDATE

2019年08月号掲載

KILLSWITCH ENGAGE

Member:Jesse Leach(Vo)

Interviewer:米沢 彰

Jesse Leachの喉にポリープが発見され、手術を余儀なくされるなど波乱に満ちた今作だが、むしろその重大な試練をも糧にする謙虚さと貪欲さが作品により深い説得力を与えることとなったと言っても過言ではないほどに、重厚でエネルギー溢れるニュー・アルバム『Atonement』。ヴォーカリストとして進化を遂げ完成させた今作について、当事者のJesseに訊いた。

-前作『Incarnate』から約3年半ぶりとなるニュー・アルバム『Atonement』のリリースおめでとうございます。2018年にポリープを切除したのですよね? どういった経緯だったのでしょうか?

カリフォルニアのレコーディング・スタジオに入っていたときだった。ある曲を歌おうとしたんだけど、どうしても歌えない音があったんだ。アルバムをプロデュースしていたAdam(Dutkiewicz/Gt)は困惑していたね。"普通だったらお前なら簡単に歌える音なのに、何かがおかしい"と言われた。それでニューヨークに飛んで帰って医者に診てもらったら、ダメージがあったことが発覚したんだ。ドクター・ストップがかかって喉を休めるように言われたよ。腫れが引くようにたくさん薬を飲んだけど引かなかったから、外科医に行くように言われた。そしたら"手術はできるけど、その後元通りになれるかは保証できない"って。1ヶ月くらい、ちゃんと快復できるのか悶々と心配する日々が続いた。ストレスフルだったよ。2ヶ月静かにしていないといけなかったし、声を立て直してトレーニングを受けて......。復帰初のショーはIRON MAIDENのオープニングだったんだ。復帰後のショーがそれってデカいよね(笑)。最高だったけど、同時にとても怖い経験でもあったよ。

-心配しましたが、同時にその状況を乗り越えるあなたの姿勢にも心が動かされました。手術後は"改めて声の出し方を学べてかえって上手くなったよ"なんて発言をされていて、かなり前向きになっていましたね。

そうだね。というのも、まずはちゃんと喋ることから覚えないといけなかったんだ。スピーチ・セラピーを受けて、喋る方法を学んだよ。それがステップ1。その後ちゃんと歌う方法を学んで、最終的にはスクリームとかをちゃんとできる方法を学んだんだ。手術しなかったらあれほどのトレーニングをやることにはならなかっただろうから、物事にはやっぱりみんな理由があるんだろうね。今にして思えばすべてが恵みだったような気がするよ。実際俺のキャリアはそのおかげで救われたわけだし、この展開はハッピーだね。

-ポジティヴで素晴らしいですね。ちなみにお医者さんからスクリーミングやグロウルは喉に良くないなんて言われたりはしませんでしたか?

幸い、俺の主治医は今どきの音楽に興味と理解のある人で(笑)。似たようなスタイルの歌い方をする患者を他にも受け持っているんだ。ちゃんとしたテクニックを使って歌うことさえできれば克服できるってわかっていたよ。そのテクニックが俺には間違いなく欠けていたから、その部分は1から学ばないといけなかったんだ。

-そして今は自分史上最強の声になったと。

うん、そう思うよ。自分でも実感できているんだ。

-逆境からいい収穫を得るのが上手いんですね。

人生はサバイバルだからね。泳いでいるうちに波がやってきたら、運命を受け容れてからそれを泳ぎきらないと。実際俺が持っているものはすべて闘って手に入れたものだから、そういうスピリットが自分の中に根づいているんだろうね。

-そうして完成した今作への想いは特に強いのではないでしょうか? 完成した今の率直な感想を聞かせていただけますでしょうか?

このアルバムをものすごく誇りに思っているよ。俺の人生だけじゃなくて、俺たちのキャリアの一時期を間違いなく捉えていると思う。バンド史上最高に多彩な内容になっているんだ。歌詞やトピック的にも個人的にグサッと突いてくるアルバムだね。歌詞の多くは今この国で起こっていることや、俺の個人的な生活の中での出来事に基づいているから、このアルバムが出たということで、ようやく何かを取り戻すことができたという気持ちがとても強いんだ。すごく誇りに思っているよ。

-先ほど声帯の異変に気づいたときスタジオにいたと言っていましたが、すでに本作の制作に取り掛かっていたのですか。

そうだね。確か5~7曲くらいはできていたんじゃなかったかな。そのころ、道が閉ざされていったんストップせざるを得なかった。声を数ヶ月は休めないといけなかったからね。アルバムは声が治ってから完成させたんだけど、それまでにできていた曲も部分的に作り直したよ。あとから完成させたのと同じくらい洗練されたものにするためにね。

-病気を経て変えた部分はありますか。歌詞ですとか歌唱スタイルですとか。

いや、単にそれまでに目指していたものを引き続き達成しようとしただけだと思う。絶対変わらない俺のスタイルというのはあるけど、ちゃんとしたテクニックを体得して、そのスタイルへのアプローチを変えたという感じかな。ドラスティックに変えた部分はないね。"声帯スムーズ作戦(Operation Smooth Vocal Chord)"のおかげで前より上手くなったと思う。前はボロボロの声帯で歌っていたからね(笑)。

-今作はキャリアの初期から長年関係を築いてきたRoadrunner Recordsからではなく、ソニー・ミュージック(北米ではMetal Blade Records)からのリリースとなったことに驚きました。どういった経緯で移籍に至ったのでしょうか?

Roadrunnerとの契約が終わったところで、新しいものに進もうという気分になったんだ。Roadrunnerとは長い付き合いだったし、本当に良くしてくれたから、もっとこうしてくれれば良かったとかそういうのもないんだけど、新しい挑戦をしてみようと思ったんだよね。Metal Bladeはたった1枚のアルバムにものすごく手厚いサポートをしてくれたから、迷いもなかった。なんと言ってもMetal BladeはBrian Slagelというレジェンドのレーベルだしね。メタル・シーンのゴッドファーザーなんだ。METALLICAやSLAYERとかメタル・シーンの大物たちのベスト・フレンドで、しかも正真正銘の筋金入りメタル・ファン。スタッフも全員そうなんだ。だから、俺たちを支えてくれているチームは俺たちの音楽にものすごく精通していて、メタル・コミュニティのこともちゃんと解っている。迷いなんてなかったよ。大企業的な感じはまったくないし、メタルのカルチャーや音楽に理解のないアウトサイダーもひとりもいない。今俺たちが所属しているのは、100パーセント、メタルのレーベルなんだ。だからすごく居心地がいい。しかも、彼らは長い間俺たちの友人でもあったんだ。ショーにもずっと来て顔を出してくれていたし、ツアー・バスに一緒に乗ってくれたこともあった。この6年間の半分以上は友人として付き合っていたんだ。だからオファーを受けたときは俺たち全員"もちろん、友達だから一緒に仕事したい"と二つ返事だったよ。友人がたくさんいるメタルのレーベルで、メタラーのレジェンドが率いているところなんだから。パーフェクトだったよ。たまには環境を変えるのもいいことだと思ったね。

-なるほど。彼らはずっと前からあなた方に目をつけていたんですか?

うーん、単にファンだったんじゃないかな。実際に俺たちのバンドのファンでいてくれるっていうのはすごくクールなことだよね。ちゃんと音を聴いてくれているし、歌詞まで知っている。しかもコメントや、場合によっては批判もしてくれるんだ。Brianは俺たちのことを解っているからね。自分が好きでもないバンドとは契約しない。自分たちのバンドのファンを実際にやってくれている人が、俺たちのキャリアを支援してくれるんだ。ものすごく大きな意味があるよ。

-ビジネスマンというより、音楽ファンという感じの方なんですね。

普段の会話にはビジネスの話は出てこないんだよね。音楽への情熱とか、曲の構造とか、プロダクションのディテールの話はするけど。会話の最後にほんの少しビジネスの話が出てくるくらいかな。ファン度がとても高くて、メタルという空気を吸って生きているような人なんだ。

-だから気が合うんですね。

あぁ。今のところ素晴らしい関係を築けているよ。

-アルバムに先行して公開された「Unleashed」はJesseのスクリームとクリーン・パートが圧倒的にエモーショナルで、ミドル・テンポながらものすごく勢いのある曲だと感じました。感情がこれでもかと込められていますが、どういった心情を、誰に対してぶつけているのでしょうか?

多くは怒りだね。あの歌は裏切りについて、贖罪について、リベンジについて歌っているんだ。とてもパーソナルな曲ではあるけど、同時に今この国で起こっていることについても歌っているんだ。そして一般論としての腐敗した政府についてもね。俺が歌詞を書くときはできるだけ、リスナー自身がその曲について自分なりのアイディアを投影できるような書き方をするようにしているんだ。元ネタはひとつかも知れないけど、歌詞はできるだけ曖昧な感じにして、リスナーが考える余地を残しておくんだ。ただ、俺が間違いなく言えるのは、これが怒りについての曲だってことだね。裏切りについての曲でもある。俺はそういう感情を声に反映できるようにベストを尽くしたんだ。

-現時点では手元に歌詞がありませんし、あったとしても対訳がないと理解できない部分もあるかもしれませんが、あなたが込めた感情は感触として伝わってきます。

うん。音楽の素晴らしいところってそこだと俺も思うんだ。言葉の壁を越えてくれるものがあるからね。あの曲を聴いてくれた人なら誰でも感じてくれると思う。俺がイライラしているってね(笑)。

-でも不思議ですよね。あなたは苛立ちを歌にしているのに、聴いている身としては素晴らしい歌い方にハッピーなんですから(笑)。ファンにとってはふたつの感情が一緒に来ていると言いますか。

そう言ってもらえると最高だね!