FEATURE
ART OF ANARCHY
2017.04.17UPDATE
2017年04月号掲載
Writer 山口 智男
まさかART OF ANARCHY(以下:AOA)に"第2章"があったなんて!?
昨年7月、Alternative Press Music AwardsでScott Stapp自らAOAに加入したことを発表したというニュースが伝えられたとき、世界中のハード・ロック/ヘヴィ・メタル・ファンがそう思ったにちがいない。
AOAに"つづき"があるなんて、誰に想像できただろう? 彼らをスーパー・グループたらしめていた最大の要因である稀代のロック・ヴォーカリスト、Scott Weiland(ex-STONE TEMPLE PILOTS/VELVET REVOLVER)がアルバム・リリース前に脱退してしまったときすでにAOAというプロジェクトは頓挫していたわけだけれど、それでもプロジェクトの中心メンバーであるRon "Bumblefoot" Thal(Gt)は"いつ戻ってきても歓迎する"(www.revolvermag.com)と、すでにTHE WILDABOUTSというバンドを率いる活動を始めていたWeilandの帰還を待ち続けていた。"バンドに加わった覚えはない。時間があったからメロディを書き、ヴォーカルをレコーディングしただけだ"(gekirock.com/feature/2015/08/art_of_anarchy.php)とWeilandが主張していたことを考えれば、Weilandの帰還はまずありえなかったが、Thalとしては一縷の望みにかけていたということなんだろうか? たしかにSTONE TEMPLE PILOTS然り、VELVET REVOLVER然り、バンドに唯一無二の輝きをもたらすと同時に破滅にも追い込む悪魔のような男ではあるけれど、その存在の大きさを考えれば、手放すには惜しいヴォーカリストだ。
しかし、セルフ・タイトルのデビュー・アルバム『Art Of Anarchy』のリリースから半年経った2015年12月、Weilandが急死してしまったことで、その一縷の望みすらも絶たれてしまった。そこでAOAの波乱に満ちた物語は終わったはずだった。ところが、物語はそこから急展開しはじめる。バンドにとどめを刺したWeilandの死が逆にターニング・ポイントになってしまったようなところが何やら運命のいたずらにも思える――。
AOAのスタートは、2011年5月。作り溜めていた楽曲を発表したいと考えていたJon(Gt)とVince(Dr)のVotta兄弟に、"それなら"とふたりのことを10代のころから知っているThalが手を貸したことがそもそものきっかけだった。Thalはソロ・ギタリストとして活躍したのち、2006年にGUNS N' ROSESに加わった超技巧派ギタリスト。素晴らしい才能を持ちながら無名の存在に甘んじている双子のVotta兄弟が世に出るチャンスを作ろうとThalは兄弟とバンドを結成。そこに加わったのが、かつてOzzy Osbourneが"メタルの未来"と絶賛したシカゴの4人組、DISTURBEDのベーシスト、John Moyerだった。
こうしてメンバーが揃い、ニュージャージーにあるThalのスタジオで作り上げた曲にWeilandがヴォーカルを加え、セルフ・タイトルのデビュー・アルバムが完成。GUNS N' ROSES×DISTURBED×STONE TEMPLE PILOTS/VELVET REVOLVERと脚光を浴びたものの、Weilandとバンドの考え方のすれ違いから、プロジェクトがいきなり頓挫したことは前述したとおりだが、Weilandの帰還が二度と叶わないものになった時点で、それなら自分たちは前に進むべきだろうとThalたちは考えたにちがいない。Weilandの死が逆にターニング・ポイントになったというのは、そういう意味だ。
Scott Weilandの脱退・急逝を経て、CREEDのScott Stappが電撃加入。HR/HMシーンのスーパー・グループが新作を完成させた
そんな彼らの前に現れたのがScott Stapp――ご存じ、CREEDのヴォーカリストだった。CREEDは90年代後半~00年代前半、ポスト・グランジ~オルタナ・メタルの流れの中で最も成功を収めたバンドのひとつ。出世作と言えるヒット・シングル「Higher」を含む2ndアルバム『Human Clay』(1999年)とその次の『Weathered』(2001年)はともに全米No.1に輝いている。2004年に一度、活動を休止したが、2009年に活動を再開。その年にリリースした『Full Circle』は全米2位を記録して、変わらない人気を見せつけた。
StappとAOAがどんなふうに出会ったかはわからないが、CREEDの活動が一段落して、きっとStappは情熱を持って取り組める新たなプロジェクトを探していたのだろう。"俺が一番、求めていたのは、化学反応もそうだけど、音楽に専念し、ユニークで特別なものを作りたいと思っている素晴らしいミュージシャンと一緒に取り組むことだった"(loudwire.com)とStappは語っている。話はとんとん拍子で進み、Stappの加入を発表してから3ヶ月後の2016年10月にはニューヨークでStapp加入後初めてのライヴを敢行。ひょっとしたら、そのころにはすでに日本では4月26日(※海外では3月24日)にリリースされる2ndアルバム『The Madness』のレコーディングも進んでいたのかもしれない。
いわゆるオルタナ以降の流れを汲みながら、ハード・ロック/ヘヴィ・メタルの醍醐味が堪能できるという意味では、前作の延長と言える作品だが、"前作とは全然違うものなんだ"(www.axs.com)とThalは言っている。つまり、Votta兄弟が作り溜めていた曲を完成させた前作とメンバー5人がイチから曲を作った今回は全然違うということらしい。『The Madness』がどんなふうにできあがったか、Stappが語っている。"Jon Vottaの家にある地下室に全員が集まって、ほぼ全曲を書き上げたんだ。古いやり方だよね。全員が顔を突き合わせて、自由にアイディアを出し合い、ジャム・セッションから始めた。アルバムの大半がそんなふうに書かれたんだ。俺の次のソロ・レコードで使おうと思って、デモ・レコーディングした曲がいくつかあって、みんなに聴かせたら、とても気に入ってくれたから、アルバムに加えることにしたけど、10曲中8曲は昔ながらのやり方でバンドの一員としてイチから作ったものさ"(loudwire.com)。
スタジアムやアリーナで演奏した経験があるミュージシャンたちが新人バンドのように地下室でジャム・セッションしている光景を思い浮かべながら耳を傾ければ、その味わいはいっそう違ったものになるだろうし、ロック・ファンならばAOAが本当の意味でバンドになった歓びを、メンバーたちときっと分かち合えるはずだ。Stappのヴォーカルが加わったことで、シングルとしてもリリースされたアルバムのタイトル・ナンバー「The Madness」やブルージーなリフにちょっと不釣り合いな明るいメロディが乗るところが面白い「Won't Let You Down」に顕著なようにオープン・マインドともポジティヴとも言えるヴァイブがAOAのサウンドに加わっている。ThalとCREEDのヒット・アルバムやStappのソロ・アルバムを手掛けたHoward Bensonがプロデュースした「Changed Man」は、Stappが最も得意とするパワー・バラード。生まれ変わったバンドを象徴する1曲と言えるかもしれない。
この数年の出来事を、歌詞にぶつけ、それがある意味ヒーリングになったというStappの言葉からも彼が並々ならぬ情熱を持って、このプロジェクトに取り組んだことが窺える。"ライヴが大好きなんだ"と語るStappを擁するバンドは現在、アルバムを引っ提げ、全米各地をツアーしている真っ最中だ。頓挫しかけたバンドの起死回生と"第2章"のスタートをアピールする5人は行く先々で大歓迎されているにちがいない。
▼リリース情報
ART OF ANARCHY
2ndアルバム
『The Madness』
2017.04.26 ON SALE!!
[Sony Music Japan International]
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TOWER RECORDS
HMV
1. Echo Of A Scream
2. 1,000 Degrees
3. No Surrender
4. The Madness
5. Won't Let You Down
6. Changed Man
7. A Light In Me
8. Somber
9. Dancing With The Devil
10. Afterburn
-日本盤ボーナス・トラック-
11. Won't Let You Down (Acoustic)
12. Dancing With The Devil (Acoustic)
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