FEATURE
BLACK SABBATH
2013.12.08UPDATE
2013年12月号掲載
Writer 沖 さやこ
Ozzy Osbourne(Vo)、Tony Iommi(Gt)、Geezer Butler(Ba)――いまやヘヴィ・メタルの伝説と言うべき3人が集結したBLACK SABBATH。“Ozzfest Japan 2013”の大トリを務め、6月には1978年発表の『Never Say Die!』以来、約35年ぶりにこの3人が集まった復活作『13』をリリースしたことも記憶に新しい。同作はiTunesでは56か国で1位を記録。バンド史上初の全米No.1アルバムとなった。そしてそんな彼らが、『13』に伴うワールド・ツアーの初回公演である2013年4月29日、5月1日のオーストラリア、メルボルンのロッド・レーバー・アリーナの模様を収録したDVD&Blu-ray『Live... Gathered in Their Masses』を11月27日にリリースした。彼らのオーストラリア公演は約40年振りだったという。
ヘヴィ・メタルの創始者と言われる彼らの歴史は1968年に遡る。Ozzy Osbourne、Tony Iommi、Geezer Butler、Bill Wardの4人が、イギリスのバーミンガムでEARTH BLUES COMPANY(のちにEARTHと短縮される)を結成。彼らは当時のシーンの主流であったLED ZEPPELINやCREAM、JOHN MAYALL & THE BLUESBREAKERSといったブリティッシュ・ブルーズ・バンドに影響を受けていた。サイケデリック・ロックのアプローチも行っていたし、Ozzyに関して言えば髪の短いソウル・ミュージック好きのモッズだったそうだ。それがヘヴィ・メタルに変貌を遂げたのは、Geezerが持ってきたアイディアがきっかけだった。ホラー映画や黒魔術をテーマにした小説のファンだった彼がそれに触発されて作った音にOzzyが歌詞をつけたその曲は「Black Sabbath」と名付けられた。1963年に公開されたMario Bavaが監督を務め、フランケンシュタインでも知られるBoris Karloffが主演のホラー映画『BLACK SABBATH』から取られたタイトルだ。いままでとは全く異なるリアクションを得る曲ができあがったのと、EARTHというバンドの存在を知ったタイミングが重なり、彼らはバンド名をBLACK SABBATHとする。
BLACK SABBATHは戦争や社会の混沌、超自然、死後の世界、善と悪のときを超えた争いなどのテーマを追い続けた。それは1960年代後半という時代背景も大きな影響を齎している。ベトナム戦争や効力の強い麻薬の登場、権力とのぶつかり合い、多くの若者を待ち受ける労働者階級の人生の傷だらけの現実、様々なものごとにより若々しい理想主義が衰退し始めていた。“いまや悪魔のほうが支配を握りつつある。人々はひとつになることもできず、平等もない。自分が他人の上に立とうとするのは罪なのに、みんながそれをやろうとしている”――Geezerは1971年に『ローリング・ストーン』誌にそう語った。彼のその言葉は、2010年代の現代にも言えることだ。彼らが現在も尚、全世界の人間から支持されている理由のひとつ……と言うと少々皮肉だが、文化は常に時代を映すものなのだと痛感する。
バンドは1970年にアルバム『Black Sabbath』でデビューし、さらに同年、ヘヴィ・ロックの金字塔的2ndアルバム『Paranoid』、そして最高傑作との呼び声も高い3rdアルバム『Master Of Reality』と立て続けに名盤を発表し、一気にスターダムを駆け上がる。だが『Never Say Die!』のツアー後、1979年にOzzyが脱退。その後脱退や加入などのメンバー・チェンジが繰り返される。先述の通り『13』は約35年ぶりにこの3人が集まった復活作なのだ。だからこのライヴで演奏されているのは『13』は勿論、この3人が共に演奏していた頃、特にBLACK SABBATHの初期作である『Sabotage』までの作品に収録された楽曲である。
この映像作品はまず、3人の入りの様子をドキュメント風に捉える。移動の様子、メンバーひとりひとりの楽屋の様子なども収められており、そこに3人のキャラクターの違いなども表れているのが面白い。ファンのインタビューでは“親子で来たんだ”と語る人々も多く、その世代差は優に三世代分ある。約40年振りのオーストラリア公演、そしてこの3人では約35年ぶりとなるワールド・ツアー。観客の期待が大きいのは必然だろう。ステージにメンバーが登場すると観客は一斉に大歓声を上げる。1曲目の「War Pigs」ではクラップからのコール&レスポンスとシンガロング。客席からの“待ってました”感は尋常じゃない。Ozzyは積極的にクラップを煽り、非常に生き生きとした表情を浮かべる。ステージは『13』のジャケットを模したデザインの3つのモニターがバックにあるというシンプルなもの。もともとTonyもGeezerも派手なプレイをするわけでもないし、Ozzyも基本的にはマイク・スタンド前から動かない。変わらぬ姿を感じさせながらも、やはり端々に老いは否めない。だがヘヴィでありながらも瑞々しい音色はそんなものを吹っ飛ばすくらい、音だけでも充分魅せてくれる。「Into The Void」ではTonyとOzzyが向かい合い互いに笑うシーンも。“俺たちがまだイカれきったガキの頃の曲だ”と「Snowblind」。演奏するメンバーを眺めるOzzyはとにかく嬉しそうで、子供のような笑顔だ。Tonyのムーディーなギター・ソロは、いまだからこそ出せる渋みと言えるだろう。“俺たちの歴史はここから始まった”というOzzyの言葉から鳴り響いたのは勿論「Black Sabbath」。曲中でもポイントポイントで歓声が止まず、大合唱が起こる。キャリアの凄味を見せつける重いリフのリフレインは彼らの歩んだ人生そのものだ。Geezerとサウスポー用のギターのTonyのネックは共にOzzyのいるセンターに向いている。そのシルエットがまたヒーロー的で気分を高揚させてくれる。ド派手な演出は一切ない。ステージにメンバーがいる。音で魅せる。そしてバンドの音楽を愛する観客たちがいる。ライヴハウスでなければ成立しないようなことをあの巨大なキャパシティで行うことができるのは、彼らの歴史の賜物だ。音楽に命を捧げた人間の生きざまそのもの。歳を重ねるのも悪くない。晴れやかな気分で心が満ちた。
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