LIVE REPORT
OMERTA × moreru
2025.03.15 @渋谷WWW X
Writer : サイトウ マサヒロ Photographer:Hiroki Tani
耳鳴りが一向に治まらない。どうしようもなく破壊的で、だからこそある種の胎動を感じずにはいられないような一夜だった。
昨年、日本のネット・ユーザーの間でバズを引き起こしたアメリカのメタル・バンド OMERTAの初来日ツアーが、東京のトゥルー・パンク・バンド moreruの招聘によって実現。"誤配"を引き起こすというmoreruメンバーの明確な目的意識のもとで編まれた各地の出演ラインナップは、バンド、DJ、ラッパー、バーチャル・シンガーまでもが入り乱れ、誰も経験したことのないトラウマを残しながら東名阪を横断(ちなみに、XではOMERTAメンバーが会場内でベイブレードの対戦に興じる姿もタイムラインを賑わせていた)。満を持して終着点である東京の渋谷WWW Xへと辿り着いた。
ツアー・ファイナルとなるこの日は、ライヴ・アクトとDJアクト合わせて11組が出演。一介の対バン企画にとどまらない、国内エクストリーム・シーンのターニング・ポイントとなることを予感させていた。
その期待を裏付けるように、ライヴ・フロアは開演時点で後方まで埋め尽くす超満員に。VOCALOID楽曲にもインフルエンスされた情報過多且つハイエナジーな楽曲をYui(Vo)の熱いメロシャウトで突き抜けさせるEarthists.、世代を代表するカリスマ RYO(Vo)がフロアを掌握しながらハイブリッドなメタル・ショーを展開したKnosis、20年超のキャリアで鋭く研ぎ澄まされたカオティック・ハードコアを矢継ぎ早に繰り出したnervous light of sunday、粘り気のあるリフの応酬で鬼哭啾々としたムードを漂わせつつも徹底的に踊れるグルーヴを提示し続けたグローバルなデス・メタル・アクト KRUELTYと、メタルやハードコアを共通言語としつつ絶妙に異なる領域に在る精鋭たちが、それぞれの重なりと隔たりを浮かび上がらせながらバトンを繋いでいく。
上階のラウンジではhirihiri、illequal、HAIZAI AUDIO、〜離、yanagamiyukiがDJとして登場した。エクスペリメンタルな音像からハードなダンス・トラックまでを操り、十数秒の距離で繰り広げられている激烈な演奏とは全く異なるアプローチを披露。クラバーとメタラー、あるいはそのいずれでもないアウトサイダーが行き交うこの場に相応しいユニークなフロアを構築していた。
moreruのライヴは、三上 寛の「誰を怨めばいいのでございましょうか」をバックにメンバーが登場してスタート。郷愁を覚える旋律から幕を開ける「念写」は、夢咲みちるの叫びとともに禍々しい轟音を渦巻き始め、モッシュ・ピットが大口を開く。続いて、最新EP『闇の軽音楽で包丁を弾く』から、まずは「学校空間における階級闘争について」。ハードコアな突進と静寂のストップアンドゴーが繰り返された後、ホーリーなシンセが響き渡り、恍惚へと導かれてしまう。そのままの勢いで「闇の軽音楽で包丁を弾く」へ。夢咲がブラストビートを浴びながらダイブし、自他境界が融解するようにフロアの秩序が失われていく。
"喧嘩弱くてウィンドミルしたくてもできなかったやつ、全員来いよ。俺の前でお前だけの痙攣を見せてくれよ。チー牛の復讐を始めようぜ"。ナード且つヴァイオレントな本イベントを象徴するMCに導かれて披露された「乙女座最終日」で、夢咲はマイクをフロアに投げ込んでしまった。もはや誰のものかも分からない絶叫が、会場中に響き渡っている。
こうしてライヴの模様を書き連ねると、荒唐無稽なパフォーマンスを武器にした刹那的なバンドのように思われるかもしれない。もちろんその危うさも大きな魅力なのだが、しかし彼等は演奏と音響構築の練度も並大抵ではなく、Dexによる凄絶なドラミングを軸にした分厚いアンサンブルは、内省と混乱を行き来する楽曲に表層的ではない説得力と切実さをもたらしていた。
「夕暮れに伝えて」では、冒頭の"砕けてぶちのめされたらいい"というフレーズをオーディエンスが合唱し一体感が生まれたのも束の間、直後に全てがノイズの海に飲み込まれる。ラストはメロディアスなギター・リフと重苦しいブレイクが印象的なキラーチューン「kireta otaku」。夢咲がまたしてもダイブをかまし、石肉はギターを投げ捨ててマイクに齧り付く。そして突如事切れたかのように音が止み、メンバーは何も語らず足早にステージを去っていった。
さて、いよいよOMERTAの出番である。客電の落ちた会場に流されたのは、アニメ"ブギーポップは笑わない"のセリフ。"悪いと殺されてもいいのかい?"、"そうでしょ? 悪いやつがいなくなったら、世の中も少しは良くなるし"、"つまり善人だけが生きている世界ということかい?"。そのやりとりは、自ら"アメリカで最も嫌われているボーイズ・バンド(America's most hated boy band)"を名乗るOMERTAの存在を肯定するまじないのようだ。
1曲目はデビュー・アルバム『Hyperviolence』のオープナーでもある「Payback」。縦ノリのグルーヴが会場のボルテージを一気に高めていく。続く「I Luv U」では、Gustavo Hernandezによる言葉を弾き出すニューメタル然としたフロウが冴え渡った。正直なところ今日まで、そのアヴァンギャルドな楽曲の迫力を生でどこまで再現できるのだろうか? と疑っていたところもあったのだが、実際の彼等のプレイは文句なしにタイト且つパワフル。デスクトップ上のディテールを熱量で振り切る姿から、確かなツアー実績を持つライヴ・バンドであることを実感させられる。
グリッチ・ノイズと高速シャウトで極まったカオスをハイトーンのメロディで解き放つ「Antiamorous」では、ゲスト・ヴォーカルのDaniels Goneが多彩なスクリームとグロウルを叩き付ける。なお、以降の楽曲ではVincente Void(ex-DARKE COMPLEX)を含む複数のゲストが代わる代わるマイクを受け取り、要所でアクセントを加えていた。
ゲスト陣、そして舞台袖に控えるスタッフも含め、OMERTAクルーの装いは黒ブレザー・セーター&黒ネクタイという"プレッピー×エモ"とでも呼ぶべきスタイルで統一されていた。それは、彼等の重層的且つ自己矛盾を孕むルーツやアイデンティティとリンクしているようにも感じられる。振り返ってみると、moreruのステージでは夢咲がスクールバッグを背負ったまま歌唱していた。多くの人がいつの間にかノスタルジーに回収させてしまう10代からの屈折や希死念慮は、彼等にとってなおもリアルタイムな感情であり、その表現の源泉になっているのだと思う。
念願の来日公演に気合十分のOMERTAメンバーにオーディエンスも応える。"The heaviest song"と紹介された「Cidephile」では特大のモッシュ・ピットが発生。そして、トラップ・メタルも包摂するバウンシーな「Talent Show」が会場を大いに揺らす。彼等の存在を知らしめた「Charade」は歌い出しから歓声が上がり、ステージ・ダイブも多発した。R&Bやジャズも経由するメタルコアという音源では不条理に感じられる楽曲構成も、身をぶつけ合うフロアではその緩急にある種の必然性が宿ることに驚かされる。
また、この日のライヴでは未音源化曲も多数演奏されていた。GustavoとギタリストのHan Kimがパートをスイッチした「Traumacoaster」はトラップ・メタル、ビートダウン・ハードコア、マスコアを織り交ぜ攻撃的に展開しつつも、スウィートなメロディが印象に残る一曲。合成音声の歌唱から幕を開ける「Double Suicide」は洒脱なエレクトロ・サウンドとブルータルなバンド・サウンドを交互に繰り出すダンサブルなナンバー。いずれもOMERTAの新たな可能性を感じさせる楽曲で、今後リリースされるであろうまとまった作品にも期待が高まる。
高BPMで駆け抜ける「Hyperviolence」、モッシーな「Benny Boy」でクライマックスを演出すると、ラストは初期SLIPKNOTを思わせる前のめりな「Garbage」。"知ってるやつはステージに上がってくれ"という呼び掛けを合図にマイクジャックも起こり、盛り上がりはピークの状態で本編が締めくくられる。アンコールではまたしても未発表の新曲を披露。不協和音フレーズと複雑なリズムワークにブレイクコアの要素まで取り入れた楽曲で、最後の最後までフロアの危険度が落ち着くことはなかった。
エクストリーム・ミュージックの可溶性、あるいは枠組みを自壊させる程にほとばしるパワーを、オンライン・コミュニティの飛距離とともに示してくれたOMERTAとmoreru。その達成はBRING ME THE HORIZONの"NEX_FEST"やCrossfaithの"HYPER PLANET"といった大規模イベントにも比肩するものに違いないし、一人一人を抉った傷の深さと生々しさは比類なきものだったと言えるだろう。OMERTAの再来日はもちろん、moreruの今後の企てからも目が離せない。
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