INTERVIEW
moreru
2025.03.10UPDATE
2025年03月号掲載
Member:夢咲 みちる(Vo) Dex(Dr/Vo)
Interviewer:サイトウ マサヒロ
昨年「Charade Feat. Vincente Void, Hash Gordon」のアニメMVが日本のネット・ユーザー間でバイラル現象を起こしたアメリカのメタル・バンド、OMERTAの初来日ツアー"Omerta × moreru Japan Tour 2025"が決定。招聘したのは東京のハイパー・エクストリーム・バンド moreruだ。バンド、DJ、ラッパーが入り乱れる各公演のラインナップは、前代未聞の"事件"を予感させる。行き場のないリビドーと破壊衝動をノイズにして放散させる彼等が、バンドのこれまでとこれから、最新EP『闇の軽音楽で包丁を弾く』やOMERTAとの共鳴について語ってくれた。
-昨年12月に中国でヘッドライン・ツアーを開催していましたね。moreruにとっては初めての海外公演だったのでしょうか?
Dex:そうです。今、中国で日本のインディー・アーティストがライヴするのが流行ってるんですよね。その一環で、いくつかのオーガナイザーからオファーをいただいたっていう感じです。
夢咲:東京で言えば(Spotify)O-EASTくらいの規模の会場でもやりました。やってる側からは満パンっぽく見えるぐらいは入ってました。
-ライヴの感触はいかがでしたか?
夢咲:自分はツアー中に風邪を引いちゃってて喉の調子が悪かったので、とにかくしんどかったです。中国の病院も行きました、ヤバかったです。まぁ、意識が足りてないなって感じですけど。ただ、いろんな国でライヴをやって、いろんな場所を知るのはいいことだと思いました。
Dex:すごいエネルギーがありました。中国での興行に関する政治的なイメージとかもありますけれど、それとは関係なくお客さんは盛り上がってくれて。
-たしかに、国外のアーティストが中国公演を行う際に、歌詞等も細かく検閲されるという話はよく聞きますね。
夢咲:普通に考えればmoreruの歌詞は歌えないんですよね。だからヤバいところは同音異義語に変えて申請してくれました。それでもダメな曲はあったし、どういうことなんだよって感じですが、他の都市ではOKでも、上海では無理な曲とか......日本では考えられないような経験がたくさんありました。実は日本はめちゃくちゃ自由だった......。
-フロアの空気や客層について、日本との違いはありましたか?
夢咲:制限が多くて、例えば客席にダイブするのは攻撃と捉えられる可能性があるからダメでとか、そこ駄目なら何もすることないじゃんと不安だったんですけど、お客さんが代わりに盛り上がってくれました。特にウケる曲は日本とは全然違いました。
Dex:あぁ、それはそうだったね。
夢咲:日本だったら「IAMFINALSATANIST」(2023年リリースの3rdアルバム『呪詛告白初恋そして世界』収録曲)みたいな激しい曲で客がめちゃくちゃ暴れるわけですが、中国では曲と曲の間のSE的な立ち位置の打ち込みをサンプラーから流すだけみたいな曲がすごく盛り上がったりして、"なんなんだ?"って。
Dex:中国には、"ハードコアのライヴだから行く"、"メタルのライヴだから行く"とかじゃなくて、"日本のインディーズだから行く"みたいな層がいるらしいです。それでいて中国に来る日本のバンドはエモ系やインディー・ロック系が多いから、moreruの中でもエモっぽい要素が強い曲がウケてたのかも。
-歌詞をはじめ、moreruの表現の中の言語的な部分の意味を理解していないオーディエンスも少なくなかったとは思いますが、その壁はあまり感じなかった?
夢咲:そもそも本当の意味で自分のことが確実にオーディエンスに伝わるかっていうのは、日本でも手応えを感じてないし、自分の言語的な行為は自分でもよく分からないところがあるので、それは中国でも変わりませんでした。
-今回インタビューを実施するにあたっていただいた「乙女座最終日」(2024年のデジタル・シングル)リリース時の資料には、"2025年に向けて、バンドの世界進出計画が着々と進行している最中"と書いてあったのですが......。
夢咲:そんなことが書いてあるんですね。
-(笑)その記載通り、現在は海外での活動を強く意識するフェーズなのでしょうか?
Dex:そうですね。中国でも手応えがあったし。一番狙ってるのはアメリカですかね。Spotifyのリスナーもアメリカが多い。moreruはアメリカではskramzとして受容されていて。
-アメリカのskramzシーンには100代のバンドやリスナーも多いらしいですね。
Dex:そうそう、若いバンドが多くて、コミュニティがあるし、マーケットもあるんですよ。自分はソロでthat same streetとしても活動していて、そのライヴでアメリカに行ってskramzの盛り上がりを体感したんですけれど、ここでmoreruがやったらすごいことになるなっていうのはもう分かったので、できれば今年moreruでアメリカに行ってライヴをやりたいですね。
夢咲:10代の客が中心で、600人くらい来てるみたいな話をDexから聞きました。moreruは東京でそういうシーンに恵まれてないから、もうアメリカにしか敵がいないのではないかと。だからとにかくアメリカのバンドたちを倒していきたい。それしかない。
-日本には敵がいない?
夢咲:同じ感覚でやってる人が少ない。シーンがうちに閉じこもっているから終わらない飲み会をやってるだけに感じています。
-なるほど。moreruは2023年に"Road Trip To 全感覚祭"、2024年に"森、道、市場"と大きなイベントに出演する機会も増えてきていて、アンダーグラウンドな存在とは言い切れないバンドになってきているんじゃないかと思うのですが、そういった活動の展開は結成時から想定していたことだったんですか?
夢咲:そう思ってたところと、思ってなかったところがありますね。
-そもそも結成の経緯は、みちるさんとDexさんがTwitterでやりとりしていたことからなんですよね。
Dex:もともとみちるがソロでノイズをやっていて、それからちゃんとバンドをやろうっていうことで、自分が上京してきて。
夢咲:最初はただの子供の遊びでした。他に楽しいことが何もなかったからバンドを始めただけなのが、ちょっと取り返しのつかないところに来たなという感覚です。
-"取り返しのつかないところ"に足を踏み入れたタイミングっていうのは、いつ頃だったんですか?
夢咲:10代でバイトとかをしながら過ごしていたときに、人生を思い悩んだ結果、自分は本当にバンド以外のことがやりたくなくて、2022年、大阪でライヴをしたときの宿でそれをみんなに伝えました。バンド活動というバトル・ロワイアルのゲームをあえて選択しようと。それがアンダーグラウンドで続けることよりも自分に課せられている使命のようなものだと理解し、見たことない何かに挑戦しようと思いました。
Dex:コロナ禍であんまり活動ができなくなったタイミングもあって、心境が変わったんだと思う。それまでは遊びの延長で、2nd(アルバム)の『山田花子』(2022年リリース)を聴いたら分かるように暗黒一直線みたいな音だったんですけど......こっちがブレなければ、音源をある程度マス向けに仕上げても、バンドとしての芯は変わらないだろうなと思うようになって。だから3rd『呪詛告白初恋そして世界』は2nd程ノイズで埋め尽くされてないし、とにかくヴォーカルをデカくミックスしました。moreruの音楽において、みちるのヴォーカルをちゃんと聴かせることがとても重要だと思ったので。そういうふうにやり方を変えたら世間に認知してもらえるようになり、いろいろと状況が変わり始めたと思います。
夢咲:マス向けにしてるっていう感覚はどうなんだろう。自分にはないな。大衆に向けたっていうよりは、自分のためだけにやっていたことから自分以外の存在も想定するようになったって感覚。
Dex:あぁ、その言い方のほうが正しいかもしれない。
-なるほど。見せ方、届け方を変えても揺るがないバンドの芯とはいったい?
Dex:いろいろあると思うけど、一番はハードコアであることですかね。絶叫と、激音感と。
夢咲:やっぱり基本的に性格とか、自明すぎて自分で言うのは憚られるんですけれど、屈折している"全員死ね!"の気持ちが今後の人生で明るく前向きな方向に転換することとかあり得ない気がするので、曲を作るのも、好きでやってるっていうよりは、やらないと死んでしまうからやってる。それを芯だと思うこともできます。
-昨年12月にリリースされた最新EP『闇の軽音楽で包丁を弾く』の収録曲「death true 死」の歌詞"クソガキの玩具にされないために死の歌を作り続ける"、"内輪のスノビズムに回収されないために恋の歌も作る"は、moreruがmoreruのままでどのように"売れる"のかを表明していますよね。
咲:例えば、あるシーンやジャンルを、伝統に沿った形で存続させていく、という姿勢はある意味では素晴らしいと思いますけど、そういうのはスノビズムを避けられないし、権威的なものにならざるを得ないのが嫌で。逆に、ただ売れるためだけに、人から承認を得るためだけにやってるようなアーティストは問答無用にカスだと思うし、どっちも嫌だから新しいオルタナティヴを考えて作っていくのがミッションだっていうのが「death true 死」です。まぁ、別に答えは未だないのですが。
-その第3の道を探している状態なんですね。
夢咲:一応、抽象的なヴィジョンはあって......いや、言うのはやめときます。たぶん伝わらないから。すみません。まとまるまで待ってください。身内で飲み会やるためだけのシーンを作るのでもなく、数字だけを見て曲を作ってバズるでもない方法を考えてます。
-EP『闇の軽音楽で包丁を弾く』についてお伺いしたいのですが、この"闇の軽音楽"というフレーズに強く惹かれていて。というのも、これまでの話と通ずると思うのですが、"軽音楽"っていう言葉自体に、すごくキラキラしたイメージが付きまとってるじゃないですか。"闇の軽音楽"はそこに唾を吐くようなニュアンスを感じました。
夢咲:大学の軽音サークルみたいで楽しく音楽やってるやつらをとにかく恨んでるんですよ。入ったことないですけど、中卒だし、偏見で。本当にすみません。でも、自分等もやってること自体は軽音楽なんですよね。moreruは難しいことをやってるわけでもないし、スタジオに入ってライヴをやるっていうのは、まさに軽音楽で。っていうことを考えたときに、"闇の軽音楽"っていう概念を思い付いたので提出しました。軽音楽だけど、ある種の苦行であり、アレテーであり、暗黒であるっていう。中二病ですね。
-moreruも含めて、バンド活動はどうしたって連帯感やホモソーシャルな空気感と切り離せないと思うんですよ。つまり、moreruが表現の中で唾棄してきたものに自ら近付きかねない。だからこそ、"闇の軽音楽"を掲げることで、"クソガキの玩具"や"内輪のスノビズム"と距離を取ろうとしているのかなって。
夢咲:あぁ、そうですね。誰からも距離を取れる。大学生のバンド・サークルも、ライヴハウスで云々......みたいな人たちも、両方が嫌がる言葉が"闇の軽音楽"。
-そういった理念はDexさんはじめメンバーと共有したりするんですか?
Dex:みちるはメンバーに対して自分の考えをハッキリと伝えるようなタイプではないので、みんな歌詞を読んで解釈する感じですね。
夢咲:俺は兄貴的な行動ができないんですよ。
Dex:そんなのやってたら嫌だしね(笑)。
夢咲:俺、弟だしね。他人に自分の考え方を説教のように押し付けるということがおこがましくてできないです。最低限はしないといけないのかな?
Dex:いやいや、そんなことはない。みちるの言ってたことは、ある程度は共有されてると思う。みんな、嫌なやつだし。
夢咲:地元の幼馴染でやってるわけでもないし、1つの信念を持った共同体でもない。ヒップホップで言うところのクルーとも全然違うし、かといって完全な仕事仲間というわけでもない。バンドっていうものの距離感ってすごく絶妙です。いちいち全てを話さないから、解釈にもズレがある。でもなぜか俺もお前もmoreruである、ということが重要です。
Dex:今の音楽性も、みんなが育ってきた環境や好きなものが全然違うからこそできるものだと思うしね。