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INTERVIEW

moreru

2025.10.22UPDATE

2025年11月号掲載

moreru

Member:夢咲 みちる(Vo) Dex(Dr/Vo)

Interviewer:サイトウ マサヒロ

破壊衝動、に従ってもその焼け野原に何も残らないことの虚しさ、を認めた上で諦念と引き換えに手にする、複雑に捻れ曲がったピュアネス。光が重なって真っ白に染まったジャケット・アートが印象的なmoreruの4thアルバム『ぼぼくくととききみみだだけけののせせかかいい』は、これまでになくキャッチーで、だけどどこまでも閉じた世界で繰り広げられるノスタルジックなスペクタクルだ。青春パンクやギター・ロックまでをも巧みに換骨奪胎してみせた驚異の新作について、話を訊いた。


同世代のシーンの動きとかをガン無視する 中1の自分に聴かせるために作ったアルバム


-前回(※2025年3月号掲載)の取材は"Omerta × moreru Japan Tour 2025"開催直前のインタビューでした。ツアーはいかがでしたか?

夢咲:日本でツアーをすること自体が初めてだったから、一瞬で終わって、白昼夢のようでしたね。何かを考えながら日程をこなしてたわけじゃないし、めっちゃ忙しかったからなんとも......振り返るために日記とか書けば良かったかもしれない。

-お2人はインタビューにて"誤配を起こしたい"、"ここから何かを始めていかないといけない"と仰ってましたが、実際の成果は感じていますか?

夢咲:いろんな人が聴いたことないもの、観たことないものを観せようと思ってラインナップを組んだけど、実際にクラバーみたいな人がOMERTAやKRUELTYをSpotifyのライブラリに加えてるかっていうのは分からないので、まだまだ全然足りない。こういうのってお祭りで終わらせるべきじゃないというか、普通にずっとずっと続けていくべきことかなと思います。

Dex:最終日はDJを観に来た人がライヴを観たり、その逆も結構あったと思います。OMERTAとも具体的ではないにしろ今後また一緒にやれたらっていう話をしてて、それも繋げていけたらなと思ってます。

-同ツアー後も、moreruにとって新しい出会いを引き起こすようなライヴ出演が続いていましたよね。

夢咲:そうですね。あんまり呼ばれたことのないタイプのイベントに積極的に出てみたりしました。呼ばれる機会が単に増えて、全然知らない外部にも興味が湧いて。

-様々な現場に出向いたことで得た感触はありますか?

Dex:moreruの音楽って、特に前情報なく観ると、みんな棒立ちになるっていうか。コンテクストがあるから、それはしょうがないんですけど。メタルでもパンクでも、やっぱりノるための身体性がどのバンドにもあるじゃないですか。でも俺たちの曲は急に止まったりするし。

夢咲:ニュースクールっぽい現場とかだと、どうしても"これ、大丈夫なのか?"って思ったりする。やっぱりずっと家に引きこもってたから、結局はパソコン君っていうか、パソコンで音楽を作ってきてるんです。ハードコアの機能美を身体に馴染ませたり、セッションで曲を作ったりする以前のやり方で続けてきたことを痛感して、いろんな身体を自分の中に持つっていう課題が見えた感じ。

-それを課題と認識してはいるんですね。

夢咲:でも、それを完全に答えとするわけではなくて。別に家でいい音楽を作るっていうことは変わらない。

Dex:身に付いたのはこっちの気の持ちようっていうか。あまりフィットしない場所でライヴをやって、その反応に一喜一憂するのはしょうもないかなと。別に、自分たちは自分たちのことをやっていくのがいいかなって。

-moreruがその場その場に迎合したライヴをするようなバンドではないということは明らかなわけで、そうなると必然的に、拒絶されたり、ハレーションが起きたりすることがあると思います。そういった反応についてはどう感じますか?

Dex:言ってしまえば、別にどの場所でやってもそんなにしっくりきてないですからね。ハマったなと思えたのは自分の企画ぐらいで。

夢咲:そもそも、モッシュ・パートでダンスをするとか、クラブで踊るとか、拳を高く掲げるとか、そうやって1つになることに対しての興味があまり持てなくて。それはそれで当然快楽が伴うんだろうけど、それが全てになってしまったら、我々が目指している表現とはベクトルがズレる。そもそも自分は、音楽とかライヴって、人を気持ち良くさせるためのものではないと思ってるんです。ライヴ=週末のサウナみたいに、リフレッシュして日常を生きていくためのものっていう前提が、無意識レベルで共有されてると思うんですけど、僕は観てる人に修復不可能な傷を与えて、それを日常に持ち帰らせたいっていう明確な意図があるから。むしろ喜ばれたほうが困ります。

-アルバム・リリースに先駆けて6月に新しいアー写が公開されましたけど、そこで夢咲さんが十字架に磔にされているのがなんだか象徴的に感じられて。アイコン的役割を背負って立つ覚悟なのかな、とか。

夢咲:うーん。曲を作ったり歌詞を書いたりしてる瞬間の人って、どうかしてるんですよ。普通の、冷静な状態ではない。しかももうアルバムを4枚も作って、何十曲も作ってる。そうして詞をずっと書いてると、なんか、神になるしかないっていうか。超越に向かうしかなくなる。普通ではいられなくなる。だから、もはや何重にも拗れてるけど、俺は神なんだということをアイロニカルに引き受けてるんです。

-前回の取材時にも、楽曲「神の裁きと訣別するために」(2024年リリースの4th EP『闇の軽音楽で包丁を弾く』収録曲)について"超越的な目線を取り戻そうとした"と語ってらっしゃいました。

夢咲:そうですね。今こうして喋ってる俺は冷静だから、"十字架を背負ってる"ってことに対してゾッとするような部分はあるけど、そういう繰り返しでしかないから。超越と対置される、生活に寄り添う云々みたいなものが全部嫌で、へし折りたい。仮想敵にするわけじゃないけど、ショート動画で流れてくるような類の、生活を爆音でやってるようなものには明確に距離を置こうって、この前のEPから心に決めました。

Dex:あと、創作としてすごいものを作ろうとするなら、この身体を乗り越えていかないといけない。等身大の音楽をやってるわけではないので、そうなると外部の力を注入しないといけないから、神のようなものと接続したりする必要があるんです。

-やってることがバンド演奏で、肉体の運動によるものだからなおさらですね。

夢咲:だから神っていうのは便宜的に使ってる言葉であって、別にキリストじゃなくて、"まだないもの"って感じ。あとは、"俺みたいなのが神になっちゃったけど、どうすんの? ざまあみろ"みたいな。

-さて、今回のアルバム『ぼぼくくととききみみだだけけののせせかかいい』ですが、制作はいつ頃から?

夢咲:一番古い曲が「乙女座最終日」で、去年からポツポツ曲を作り始めて、OMERTAとのツアー後ぐらいに、最後にできた「討死!」のデモが完成しましたね。

Dex:本当に最後まで作ってたのは「ROCKSTAR」じゃない?夢咲:そうだね。デモは去年の段階で送ってたけど、ギリギリまで二転三転して。

-当初はどんなアルバムにしようと?

夢咲:構想自体は、前作の『呪詛告白初恋そして世界』(2023年リリースの3rdアルバム)が出たぐらいから考えてて。すごく簡単な言葉で言うなら、"ロックをやってみよう"と思ったんです。今まで、グラインドコアとか、ノイズとか、そのときに好きで聴いてたものを作品にして出してたけど、今回は、自分が小6とか中1のときに聴いてたロックをやる。で、真っ白なジャケもその時点で決まってて。1回、真っ白になるアルバム。

-『闇の軽音楽で包丁を弾く』では"バンド"がキーワードでしたけど、それと今回の"ロック"はまた別物?

夢咲:近いところもあるんですけど、ちょっとだけ違います。バンドの機能美を求めたのがこの前のEPで、つまり音としてのバンドをやろうっていう。でも今回は音だけではなく、何から何まで。

-すごくキャッチーな作品になった一方で、これまで以上にルール無用だなと思って。moreruがこれまで禁じていた手を躊躇なくやっちゃってるっていう印象を受けました。

夢咲:同世代のシーンの動きとか、他の軽音楽全般のことをガン無視することも含めてのロックをやりたくて。"過去に戻る事を許しましょう"っていう1曲目(「初恋と戦争の準備」)から始まるんだけど、ここから先は横じゃなくて縦の直線でしかないというか。中1の自分に聴かせるために作ってるから。"これをやっちゃったら"みたいな禁じ手があるって考え方は、横の現在しか見てないから浮かび上がることで。

-それって、中1の自分のような他人に聴かせたいっていうことでもあるんですか?

夢咲:いや、それは全くないです。自分の音源を聴き直してて思ったんですけど、学校空間云々を歌っているのは、真に中学時代を描きたいわけではなくて、もっと意味があるなって。究極的にはお母さんのお腹の中とか、そういうのと同じレベルで学校空間って言葉が出てきてる。それはもう他人がどうこうではなくて、自分の話でしかないですよね。ただ、学校がどうとかいうのはもう今回でやめにしようと思いました。みっともないしね。『山田花子』(2022年リリースの2ndアルバム)、『呪詛告白初恋そして世界』と今作で3部作的なテーマが遡行して浮かび上がったから、もうこれでいいんじゃないかと。

Dex:みちるの歌詞はすごくいいと思うんですけど、どこまでも個人単位の話だから、それを音源として出して歴史に位置付けるためには、さっきの話のようにやっぱり外部の力が必要になってくるなって自分は思ってます。

夢咲:だから僕の歌詞には"君"とか"あなた"が出てくるんですよね。それが恋愛の相手では絶対にないっていうのは聴いたら分かると思うんですが、これが要するに外部というか。僕にとっては、もう取り返しがつかなくなって、絶対に手に入れられないものっていう感覚です。

-今作に漂うノスタルジアは、過去には絶対に戻れないという虚しさも内包していると感じました。

夢咲:それはある意味では僕だけの問題ではないんです。ラカンの精神分析では、もともと母の内臓の一部のようだった人間が、生まれてから欠如してしまって、満たされることのない一体感を求めるための装置を対象aとしていて。それはお金でも音楽でもいいんですけど、僕が詞で"君"という場合は、その対象aのことを指しているなと思いました。