LIVE REPORT
アラウンドザ天竺
2019.08.08 @渋谷CLUB QUATTRO
Writer 杉江 由紀
紛うことなく、それは前代未聞な衝撃的ライヴであった。漫画"ジョジョの奇妙な冒険"の名台詞になぞらえて表現するのであれば以下のようになるだろうか。
"あ......ありのまま今回のライヴで起こったことを話すぜ!「おれはアラ天のライヴを観ていたと思ったら、いつの間にかまたアラ天のライヴが始まっていた」。な......何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった......頭がどうにかなりそうだった......催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねぇ。もっと恐ろしく面白いものを存分に味わったぜ......"
MV「邦 Limited Sazabys」と最新アルバム『タイトルめっちゃ悩む』で改めてシーンに殴り込みをかけたアラウンドザ天竺が、約1年前から告知を始め、ひとつのトライアルとしてこのたび8月8日に敢行したのは、自身初の渋谷CLUB QUATTROワンマンとなる"アラウンドザ天竺 2nd ANNIVERSARY ONEMAN LIVEBEST ALBUMリリース記念・アラ天仲間大集合!8ヶ月連続主催Tour final「Welcome to アラテ部。」"だ。
まさにこのクアトロ(渋谷CLUB QUATTRO)公演へ向けた、赤裸々な不安と期待の入り交じった思いがそのまま歌詞に託されている「クワトロこわい」をド頭で威勢良くぶちかましたあとは、この盛夏にこそ相応しい「LOUD体操第一」を演奏しながら、あらかじめ案内をしたうえでオーディエンスに持参させていたという雑巾でクアトロの床掃除をさせるというとんでもない暴挙......もとい、素晴らしい善行に出たアラ天。
"みんな、来てくれてありがとう。アラ天です! みんなで伝説の1日を作ろうぜ!! そして、ここはせっかくの初めて使う場所ですからね。みんなでキレイに使いましょう!!!"
曲に合わせ途中まではサークル・モッシュを展開していた人々が、フロントマンであるロンドンタナカ(俺)の指示に従い一斉に"一休さんスタイル"をとり、雑巾掛けを一心不乱且つ楽しそうに始める様子は、もはや狂気の沙汰と言っていいほどのシュールさが満載。
かと思えば「初恋撃沈同窓会」では、ベーシストのニシキド・カッター(5弦とシャウト)が激烈スラップをキメる一方、これまたロンドンタナカが曲の途中に映画"ボヘミアン・ラプソディ"のヒットで現代の音楽リスナーにも再評価されることとなったQUEENの名曲「We Will Rock You」を彷彿とさせるような煽りを唐突に折り込み、なかなかの強引な手法でフロアの空気感に一体感を生み出すという手腕も見せることに(笑)。とにかく、どうやっても絶対にクアトロ公演を成功させてやるんだ! という圧倒的な気概が、今宵の彼らのライヴ・パフォーマンスにはこの場面に限らず全編にまでわたり満ち満ちていたと言っていい。そのわかりやすいほどの必死さは、夏の高校球児たちが漂わせるテンションにも近い熱っぽさと真摯さを持ったものだったとも思える。
また、会場中から"グラビア見たいよ?"という身も蓋もない大コールが沸き起こった「グラビアチェック」では、ギタリスト アラウンドザ長老(超重8弦)が華麗な速弾きソロを見せつけつつ、バンド全体としてもアラ天ならではのヘヴィ・メタル愛も同時に発揮。いやはや......たしかに傍から見れば、アラ天のやることなすことは一事が万事、どれも面白おかしくふざけたスタンスに見える場合が多いのかもしれない。しかし、それでいて実のところは結局"いかにして受け手を楽しませながら、自分たちのやりたい音楽を体現できるのか"という命題に対し、むしろ生真面目すぎるくらいの姿勢で取り組んでいるのがアラ天というバンドなのだと言えるような気もする。そうでもなければ、わざわざ初のクアトロ・ワンマンで以下のようなことをMCで発表するわけもなかろう。
"ここまでの1年間、動員状況とかはこまめに発表してたんで最終的な今日の動員も発表したいと思います!"
こと細かな実数については、この場にいた人たちのみが知ればいいことだとして、結論から述べるなら、この夜は満員御礼とまではいかないシチュエーションであったのが事実となる。そのうえで、ロンドンタナカは"そう。これが今のアラ天の人気と実力です!"とも言い切ってみせたのだった。このあたりの潔さは、彼らが"腹をくくれているロック・バンド"であることをありのまま証明していたように思えてならない。
なお、Amazonにて7,800円で購入したという巨大ゴキブリ型バルーンが観客らの手によってフロア中を飛び回る中で演奏された「ゴキだ!! ~家の外へ~」や、タイトルからしてアレな「栄光の割り箸」、はたまたMVで共演したグラビア・アイドルの小日向結衣がサプライズ参加した「男男男子」でも大いに盛り上がり、本編最後では大シンガロング大会となった「ヤバイ、新聞屋さん。」で大団円を迎えた......と思いきや。
アラ天のライヴにおいてアンコールを意味する定番の"最初からコール"がフロアいっぱいに響き出すと、再びメンバーがステージへと登場。そして始まったのは、再びの「クワトロこわい」だ。......まぁ、最初にやった曲をもう一度というのは他のバンドでもよくあるパターンではあるものの。アラ天の本気はここからがむしろクライマックスで、なんとここから前代未聞の"ほぼライヴまるごとアンコール"が発動したのだからヤバみがすぎる。
我々は"もう食べられないよぅ"というところまでアラ天に追い込まれることとなり、あげくの果てのダブル・アンコールではパート・チェンジ・バンドとして派手に着飾ったドラマー ガワ(雑用と二連太鼓)がフロントで歌う"アラウンドザ天笠"までもが降臨。はてさて。この前代未聞なクアトロ初ワンマンを経て、来たる12月22日には本誌対談から端を発したと思われる、SEX MACHINEGUNSとの対バンが渋谷TSUTAYA O-Crestにて決定したというアラ天だが。彼らには、これからもその破天荒ぶりでシーンを翻弄していってもらいたいと願うことしきり。いやマジで、"クアトロこわい"どころかアラ天こわい......。
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