MENU バンドTシャツ

激ロック | ラウドロック ポータルサイト

INTERVIEW

ヒッチコック

2024.10.18UPDATE

2024年10月号掲載

ヒッチコック

Member:八咫 烏(Vo) 月(Gt) 光 -kou-(Gt) 宵(Ba) 冥(研修生 Dr)

Interviewer:長澤 智典

もし『サリドマイドⅢ』が生まれるとしたら、それは僕が命を絶とうとしているときなのかもしれない


-c/wに収録した「『中絶』」も、「サリド×マイド」や「『サリドマイドII』」の流れを踏まえてできた楽曲??

八咫:こちらはまた違った感情ですね。子供を授かったお母さんや、望まずして産んだという共通項は確かにありますけど、中絶は母親側が望んで行う行為で。「『中絶』」は、本当は産みたくはなかったと思いながらも、でも生まれてしまったという歌。言ってしまえば、これも僕のことにはなりますけど......。

-烏さんの中に、母親に産んでほしくなかったという願望がずっとあるから「『中絶』」のような楽曲が生まれたのでしょうか?

八咫:そもそも求められていないんだったら、早く中絶してほしかったですね。自分がもし死ぬんだったら、感情のないときに死んでおきたかったです。

-「サリド×マイド」は実際にあった薬害事件を題材にしています。そこにも、自らの母親の姿を投影していたのでしょうか?

八咫:「サリド×マイド」はだいぶいいお母さん風に書いていますけど、投影はしていました。

光:「『中絶』」は作曲も烏ですけど、ヒッチコックは烏の感情を具現化することを軸に置いているから、彼の感情を活かす楽曲をいかに作り出すかは常に考えています。だからこそ、彼の感情の根源を僕等も知ろうとしていくわけです。

宵:僕はライヴにおける照明(演出)も担当しているから、歌詞を貰ったときに理解が難しいときは"ここはどういう意志を持って書いているのか"と烏に聞く等、細部まで理解するためのやりとりをしています。普段はニコニコしているときもあるけど、彼の根底にあるのは負の感情だから、いつ壊れるか分からない。でも、そこも分かった上で烏の気持ちを受け止めているし、一緒に活動をしているのも事実ですからね。

光:烏の場合、負の感情が強ければ強いほど表現やライヴ中のポテンシャルもすごくなるから、その姿がかっこいいというか、ライヴ中にその姿を見ると自分たちも刺激を受けて気持ちが昂りますね。烏は負の感情が強いときほどいい表現をするから、これからも適度に不幸になっていただきたい。

-烏さん、ニコニコの度合いは分かりませんが、決して暗い表情ばかりでもないですよね。

八咫:さすがに人前では笑うようにもしていますし、なるべく負の感情を表立って見せないようにもしています。

宵:ヒッチコックはライヴの本数も多いから、メンバーは常に両方の顔を見ているけどね。

八咫:自分でも、普段から負の感情を出しすぎないようにしてるというか。溜め込んだ感情をライヴでバーンと出すことで、それをいい形に昇華していけるから、普段は無理して笑っているくらいがちょうどいいのかもしれません。

-月さんは、そんな烏さんとずっと接してきたわけですよね。

月:でも、自分は他人に興味がないので......。ただ、彼が不幸であればある程ライヴにいい影響を与えるから、烏が負の感情になっているときは嬉しくもあります。

光:烏のことばかり言ってるけど、僕も宵も烏寄りの性格ですね。自分たちも負の感情をライヴにぶつけていくタイプだから、幸せよりも不幸を背負っているくらいのほうがいい表現ができるので。月は分かんないけど......。

月:そもそも人に対しての興味の感情がないというか、その感情を探し中です。

宵:そういう性格の月も含めてバランスがいいんだろうね。

八咫:「『中絶』」のことを改めて語るなら、この曲は昔ながらのヴィジュアル系バンドの楽曲として制作しました。自分の母親が本当に中絶を望んでいたのかは正直自分には分からないですが、歌詞に"十月十日に/私は愛を否定しました"と書いたように、「『中絶』」は中絶に失敗して生まれてしまった胎児の物語です。その上で、『サリドマイドⅡ』を手にした主催イベント("ヒッチコック主催イベント 『生きていた中絶児...』")やワンマン・ツアー("サリドマイドⅡ発売記念ワンマンツアー 『生きていた中絶児...』")ではそこへも繋がるストーリー性を感じながら、ライヴでもこの世界を味わってもらえたらなと思っています。

-タイトルの"生きていた中絶児..."とは、まさに今の烏さんのことだ。

八咫:そうですね。このツアーを通して『サリドマイド』、『サリドマイドⅡ』で書いてきた物語を完結させようと思っているけど、自分の感情自体が変わるわけではないから、形を変えて物語が続いていく可能性も否定はできないです。僕はヒッチコックの楽曲を通して人をバンバン殺しまくっている大量殺人鬼ですけど、『サリドマイドⅡ』に収録した2曲とも、人は死んでないんですよ。なぜなら、僕が今こうやって生きているから。もし『サリドマイドⅢ』が生まれるとしたら、それは僕が命を絶とうとしているときなのかもしれない......。

宵:主催イベントやワンマン・ツアーでは2曲ともライヴでやっていくけど、どっちもライヴで感情をぶつけやすい曲なのもいいよね。

光:もともと感情重視で作った曲たちだから、ライヴでも感情重視で表現していこうと思っています。

-主催イベントや全国ツアーに付けた"生きていた中絶児..."というタイトルの意味も、話を聞いていたら納得でした。でも、それを知らない方々には変な勘違いを生んでしまいそうじゃない?

宵:すでに勘違いされてますよ(笑)。

八咫:過去に聞いたことのある作品名と同じタイトルですけど、決して狙ったわけではなく、きっとその方と根本的な考え方が一緒だったんだと思います。ただし、あの方の作品とヒッチコックのツアー・タイトルに込めた思いは同じじゃないから、中身は違うぞと強調しておきたいです。でも、今の僕らの思いが本人に届くくらいにまで広がればとも思っています。もし耳に届いたら、いや、むしろ届かせるくらいの気持ちです。

-"生きていた中絶児..."ツアーのファイナルを、12月5日に埼玉会館 小ホールで行います。最後はホール公演という狙いもあってのこと?

光:ヒッチコックはホールでの表現が似合うバンドという自負があります。今回のツアーは、いわゆる諸先輩方が巡ってきた歴史のあるライヴハウスを軸に据えました。その上で......。

宵:ツアーを通して描き上げた物語を、よりストーリー性を持ってホール公演で伝えたかったんです。

八咫:ちなみに、なぜ名古屋 MUSIC FARMではなくHeartLandなのか。名古屋 MUSIC FARMはワンマン公演も含めいつもお世話になっている場なので、このタイトルを付けたとき、正直そこも考えましたけど、今回はあえてあのバンドが無期限活動停止を発表した老舗の会場でやろうと決めました。今回のツアーは、ミニ・アルバム『サリドマイド』とシングル『サリドマイドⅡ』を聴いた人、さらに前回の"「帝王切開」ツアー(ヒッチコック『サリドマイド』発売記念ワンマンツアー『帝王切開』)"を観た人たちなら"そういうことね"と腑に落ちる公演になるはずです。もちろん、思い切りライヴで騒ぎたい人たちが存分に騒げる内容にもしていくので、初見の人たちも気軽に楽しみに来てくれたらなと思います。

冥:自分にとっては、ヒッチコックの世界観により深く入っていくための主催イベントやツアーになります。このツアーを通してよりメンバーとの絆を深めて、早く正式メンバーになれたらなと思います。

八咫:『サリドマイド』、『サリドマイドⅡ』の物語を今回のツアーで育て上げて、その集大成をツアーのファイナル公演となるホールで描き出します。そこで一度全てを清算して、そこからまた新たなものを作り上げられたらなと思っています。話は前後しますが、"生きていた中絶児..."ツアーは、10月21日にVeats Shibuyaで行う主催イベントがスタートだと僕らは考えていて。この日は、母親という名のMAMA.、生まれてまだ名もないNAMELESS、自殺未遂のミスイ、そしてLynoasと、"生きていた中絶児..."のタイトルに相応しいバンドたちと共演します。ここから一緒に"生きていた中絶児..."という物語を描きましょう。ライブハウスという大きな子宮の中で、皆さんをお待ちしています。