INTERVIEW
ヒッチコック
2024.10.18UPDATE
2024年10月号掲載
Member:八咫 烏(Vo) 月(Gt) 光 -kou-(Gt) 宵(Ba) 冥(研修生 Dr)
Interviewer:長澤 智典
前作『サリドマイド』で、母親の視点で流産した胎児への思いを歌に刻んだヒッチコックが、11月1日にリリースするニュー・シングル『サリドマイドⅡ』では、その胎児の視点から思いをぶつけてきた。そこにはどんな意図が込められたのか......。ヒッチコックは、シングルの発売日より全国ツアー"サリドマイドⅡ発売記念ワンマンツアー 『生きていた中絶児...』"を開催する。新メンバーに冥を迎えた今の彼等の気持ちをここへ記したい。
-新ドラマーに冥さんが加入して、初ライヴが......。
冥:Shinjuku HEISTで、9月23日から7日間連続で行った"研修生ドラマー加入記念7夜連続ワンマン『地獄の修行 七連夜』"からになります。ヒッチコックのことは、以前にやっていたバンドのときに何度か対バンをしてたので知っていたし、メンバーとも面識はありましたが、実際に入ってみたら、想像していた以上に楽曲の演奏クオリティが高く、今は必死に食らいついています。メンバーとの関係もライヴの本数を重ねるごとに深くなっているから、これからの活動を通して4人との絆をさらに深めます。
-冥さんは正式メンバーではなく、まだ研修生という立場なんですね。
宵:もちろん最初からメンバーという形でも良かったけど、冥自身がヒッチコックに溶け込もうと積極性を見せていたこともあって、少しの期間、彼の努力していく様を見ながらその上で正式に迎え入れてもいいかなと判断して、あえて研修生という形を取りました。ヒッチコックを形作る上でとても大切なドラムというポジションに正式なメンバーを迎え入れるということは、それに相応しい人物でなければいけない。その姿勢をメンバーだけじゃなく、ファンの人たちにも知らしめてから正式メンバーとして迎え入れてもいいなと思ったのも、この制度を取った理由としてありました。冥は努力家なので、そこはね......。
月:一緒にやっていて着実に成長を感じているから、早く正規メンバーになることを期待しています。
冥:早くヒッチコックに相応しいドラマーになれるように頑張ります!!
-ヒッチコックは、11月1日に最新シングル『サリドマイドⅡ』を発売します。6月にリリースしたミニ・アルバム『サリドマイド』に収録された「カルテ2『サリド×マイド』(以下:サリド×マイド)」では、望まぬ形で生まれた胎児への思いを母親の視点から書きました。今回の「『サリドマイドII』」では、その胎児の視点で歌詞を記しています。母親と胎児、それぞれの視点から物語を描く構想は最初からあったのでしょうか。
光:最初から構想していたか......と問われたら、ぶっちゃけしていませんでした。ただ、烏の中にその構想はもともとあったのかもしれない......。
八咫:リリースまでは考えていなかったけど、「サリド×マイド」が生まれたときから、続きの物語の構想は頭の中にありました。。『サリドマイド』と『サリドマイドⅡ』は対を成す物語で、「サリド×マイド」は実際に起きた陰惨な事件を背景に生まれたフィクションだけど、「『サリドマイドII』」は楽曲の最後でも呟いたように本当にあった話。『サリドマイド』の視点だけで捉えると(奇形の)子供を産み落とした母親が可哀相に思えるけど、『サリドマイドⅡ』を聴くと一番かわいそうなのは子供だったということが見えてくるはずです。さっきの話に補足するなら、「サリド×マイド」ができあがったときから自分の中で"続きの物語を作るのもありだな"と思い、構想はしていましたけど、特に口には出していませんでした。その後、「サリド×マイド」のリアクションの高さもあってメンバーから"「サリド×マイド」の続きを作ろうか"という話が出て、"じゃあやろう"と返事をして今回の制作へ繋がっています。
光:前作の「サリド×マイド」は哀愁味を帯びたテイストの楽曲だったけど、今回は烏が感情を思い切り前面に出したい気持ちも強かったから、c/wに収録した「『中絶』」を含め、2曲ともかなり攻めた、感情全押しの楽曲に仕上げました。
宵:烏の実体験から生まれた楽曲というのが大きいよね。彼は母親に捨てられた人間なんですよ。その思いを「『サリドマイドII』」の歌詞にバーッと書いているんです。その話はメンバーも以前から何度も聞いていて、なんなら歌詞に書いてある以上に深い話も聞いています。つまり、烏の気持ちも理解した上でメンバーは演奏をしているからこそ、曲に深みが出ているわけです。
八咫:まだまだ話し足りないほどいろんな思いはあるけど、それをシリーズ化するのは、この思いをずっと引きずることになるからしたくはないなと思い、あえて「『サリドマイドII』」で終わらせています。歌詞に書いてあるのは、全部僕自身のリアルな感情。「『サリドマイドII』」を一言で表すなら"お母さん、死ね"ですね。この言葉が、この曲を一番分かりやすく説明しています。その上でこの歌詞を読んでもらえたら、みんなの中にもいろんな感情が巡っていくんじゃないかなと思う。
-烏さん自身、生まれたくなかった気持ちを今もずっと引きずっていること??
八咫:物心付いたときから今でも"自分は生まれなきゃ良かった"とずっと思っています。でも、こうやって命があるから生きてこうかぁという......。
-その思いは、ヒッチコックとして表現するいろんな楽曲に投影していません?
八咫:自分ではまったく意識していなかったんですけど、社長やメンバーに"やたらお母さんが憎そうな歌詞が多いけど"と言われて、自分でも"あー、たしかに"と気付いたくらい、無意識に書いてきた部分はあります。
宵:「『サリドマイドII』」=八咫 烏と言ってもいいくらい、その(母親への)感情が特に出ているのが今回の曲なんです。彼が、その感情を全部ぶつけてきたからこそ、メンバーらも全力で感情をぶつける演奏をした結果、この曲が生まれました。
-月さんは、どんなふうに思いを受け止めています?
月:烏の実体験ということもあり、世の中にはいろんな経験をする人がいるんだなという気持ちです。
八咫:そんなことを言ってますけど、月は唯一僕のお母さんに会ったことがある人なんですよ。月とは4~5歳の頃からの付き合いだから、育ってきた環境もお互いによく知っている間柄で。
月:会ったことは覚えているけど、どういう人かまでは記憶にないです。あの頃から、僕も細かいことは聞かないようにというか、深入りはしないようにしていました。決して触れてはいけない話でもなかったけど、そもそも僕自身があまり他人に興味のない性格だから深く触れてこなかったのもあって......。ただ、「『サリドマイドII』」の歌詞を読んだときに"お母さん、死ね"とまで思い詰めていたんだと知って、『サリドマイド』以降の流れを通して改めて烏のことが分かってきたところもあります。
-冥さんにとっては、衝撃的な話だ。
冥:まだ加入して間もないし、「『サリドマイドII』」のMVに参加はしてるとはいえ、音源制作後に加入したので、今改めて烏さんの心模様を知った感じです。
-「『サリドマイドII』」の内容が烏さんの実話と知り、衝撃を受けるファンの方々も多いんじゃないですか!?
光:言ってしまえば、「『サリドマイドII』」は烏の感情の集大成的な曲。「『サリドマイドII』」には烏の感情がギュッと濃縮されているけど、すでにいろんな楽曲で「サリド×マイド」や「『サリドマイドII』」に繋がる表現をしてきたから、歌詞を読んで納得しているファンたちのほうが多いんじゃないかな!?
八咫:「『サリドマイドII』」でこの感情の物語にひとまず区切りは付けたけど、こういう感情は本質的に持っているものだから、今後も気付いたら歌詞に出ていたということはあると思います。今回「サリド×マイド」と「『サリドマイドII』」で描いたお母さんと子供という関係図、2人が登場人物の軸として明確にあったことで、歌詞はとても書きやすかったというか、感情をぶつけやすかったです。正直、幸せな家庭の歌を書くのは無理ですけど、不幸な家庭を描くのは、自分自身のことを書けばいいだけなので得意です。