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INTERVIEW

ヒッチコック

2024.06.12UPDATE

2024年06月号掲載

ヒッチコック

Member:八咫 烏(Vo) 月(Gt) 光 -kou-(Gt) 宵(Ba)

Interviewer:長澤 智典

-続いて登場するのが、いじめられた末に自殺しようとする「カルテ5『バイ菌』」になります。

宵:「バイ菌(カルテ5『バイ菌』)」は、いじめや自殺などをテーマに据えた楽曲です。僕自身、自殺しようとまで思い込んだことはないけど、過去にいじめを受けた経験があるので、この心情は理解できることで。すごく偏見を持った言い方をするなら、ヴィジュアル系の音楽が好きな子や、ヴィジュアル系バンドをやっている人たちの多くが、過去にいじめられた経験をしてきた人たちだと思う。今でこそこうやって生きているけど、一歩道を間違えたら、「バイ菌」のような選択肢を選んでいたかも知れない。そういうつらい思いを経験してきた人ほど、「バイ菌」を聴いて、今をしっかりと生きている自分に自信を持ってもらいたい。俺自身、こういう経験を乗り越えてきた人たちや、バンギャさんたちって一番好きな人種なんですよ。俺自身がその気持ちに共感しているからこそ、そう思えているんだろうけどね。

-たしかに、「バイ菌」へ記したような思いに共感する心の優しい人たちは多いと思います。

宵:ほんとそう思う。むしろ今の時代だからこそ、聴いて心を病むのではなく、逆に発散するパワーに変えてほしい。

光:そうだね。決して浅いテーマじゃない......どころか、深い内容ではあるけど、「バイ菌」はライヴで感情を発散しやすい曲だからこそ、あまり深く考え込みすぎずに受け止めてもらえたらいい。「バイ菌」は、感じたままの思いが、その人の答えでいいなと思っている曲だからこそね。

月:受け止めたひとりひとりによって捉え方が違うのは、すごくわかる。それに、ライヴで生きる楽曲だからこそ、自分もノリに身を任せて楽しんでほしいなと思ってるな。

八咫:「失楽園病」と違って、「バイ菌」はすごく共感できる曲。自分の過去を思い返したときに、実体験まではいかないけど、バイ菌扱いみたいにされたときの心情が浮かんできた。「バイ菌」に出てくる女の子は、バイ菌扱いを受けることを自分で肯定してしまっているんだよね。この曲は特に、聴いた人それぞれに感じてほしいんだけど、「バイ菌」を聴いた人に対して言いたいのが、"この曲を聴いて、あなたはどう感じましたか? 浮かんだ思いこそが、「あなたはそういう人間です」ってことなんですよ"ということ。「バイ菌」こそ、聴いた人の人間性や人としての本性が一番わかる楽曲だと思う。個人的に、最後に書いた"「空は青かった」"って歌詞が一番気に入ってて。だって、"空って青い"んですよ。なんで(精神的に追い詰められた人が)最後にそう思ったのか。それって、全部がどうでもいいからなんです。この曲で女の子は高いところから空を見下ろしながら"空は青かった"と言うんですけど、見下ろしたときに、死ぬこと以外の思いがよぎる人は、まだ死ぬべきときじゃない。そういう人は絶対に生きたほうがいい。ただ、なんの思いも巡ることなく、空を見て"空は青かった"と思う人は、人生をやめたほうがその人の救いになる......のかも知れないです。

-中に出てくる"《死ねばいいのに》"の言葉ひとつを取っても、それをどういう心情で捉えるか次第で、この曲の受け止め方が変わるのかな? と思いました。

八咫:その言葉を前向きに捉えるのか、後ろ向きに捉えるか。それをいい言葉と思うのか、悪い言葉として受け止めるのか。その言葉にどれだけ重みがあるのか、それとも軽いのか。要は、この曲を聴いて出てきた感情こそが、あなたの本性ということなんですよ。

-最後は、「カルテ6『夢遊病』」になります。

八咫:「夢遊病(カルテ6『夢遊病』)」以外の曲の中で起きた出来事が全部夢だったら、その人はどうなるんだろうって。いろんな絶望を感じ続けながら、パッと目が覚めたら全部が"あっ、夢か"となったとき、人間ってどういう心境へ陥るんだろうというのが気になります。逆に言えば、悲しい人生を背負い込み、"これが夢だったら"と思いながら生きている人もいる。「夢遊病」はその両方の視点を持って、感じてほしいんです。「夢遊病」では、自分が信じた夢の中にとらわれてしまい、それが現実なのか、夢なのかわからずにいる女の子の心情を書いています。「夢遊病」を聴いて私は、僕は、こう思いましたという気持ちを、いろいろ聞かせてください。

月:「夢遊病」は、アルバムの最後を飾る曲。前までに描き出した物語や、自分の過去の思いなども振り返り、重ね合わせて聴いてほしい楽曲です。

光:楽曲自体をめちゃめちゃ凝って作り上げて、メンバーそれぞれに凝った表現をしているので、サウンド面でのこだわりも、音源やライヴを通してぜひ感じてください。

宵:「夢遊病」の歌詞の中で、"貴方 だけが/幸せなんて許さない"と記されていますけど、それって、男性側は思うことのない、女性ならではの心情だなと俺は思っていて。その感情を表現できる烏に、俺はぞっとしました。

八咫:僕、感情が女性なのかな?

宵:最終的に現実から目を逸らしたい感情とか、本当に気持ちがぐちゃぐちゃになっている曲だと感じたね。

八咫:「夢遊病」に書いた"私捨てた 貴方 だけが/幸せなんて許さない"という気持ちって、僕自身が全人類に対して思っていることなんです。僕に関わった人間が、僕が不幸へ陥った瞬間にどっかへ行ってしまった時点で、僕はその人たちを許さないんですよ。もし、それで僕が自殺してしまったら、遺書に僕が関わった人間の名前を全部書いて、それを遺族へ託し、遺族に遺書に書いてある人たち全員に問い合わせをしてもらうという、残った人たちが面倒くさくなることを僕は絶対にやろうと思ってる。

宵:これ、常日頃から言ってるからマジっすよ。だから、俺らは絶対に烏を捨てられないです(笑)。でも、それくらい縛ってくれたほうが、うちらもいいけどね。

光:まぁ烏は、地雷みたいなやつだからな。地雷はたとえ踏んでしまっても、離れなければ大丈夫。

八咫:そう、たとえ地雷を踏んでも、足を離さなければいいだけ。その足を離した瞬間に絶望を感じるくらいなら、足を離さずにいたほうが幸せでいられるはずなので。

-ミニ・アルバム『サリドマイド』、まさにヒッチコックらしさの出た作品ですよね。

八咫:ヒッチコックらしさも出ていますけど、僕らしさが歌詞全般に出た作品になった感じがしています。僕の中にある欲や傲慢さを思い切り全面に出した作品だから、"八咫 烏さん、実はこんな人なんだ"、"こんなことを思っている八咫 烏さんの横にいる3人ってすごいな"と思ってくれたら......。ほんと、この4人は唯一無二の関係だし、それを出した作品ですからね。

-ミニ・アルバム『サリドマイド』を出して、すぐに"ヒッチコック『サリドマイド』発売記念ワンマンツアー『帝王切開』"が始まります。

八咫:ワンマン・ツアー自体は3回目ですけど、過去にやってきた中でも、一番足を運ぶ場所も本数も多いし、初めて行く場所もあります。全箇所異なる感情のヒッチコックを見せていくし、それぞれの会場に、その姿を置いてゆく公演にしていくつもりです。

宵:俺、ヒッチコックとして初の浜松凱旋公演になるから、地元浜松の公演はたくさんの人たちに観てほしいなと思ってるし、今から浜松でライヴをやるのを楽しみにしています。

八咫:ツアー・ファイナルの場となる8月15日の目黒鹿鳴館公演では、ヒッチコックの持ち曲をすべて演奏します。40曲強、演奏時間だけで3時間を超す内容になりそうですけど、この場を通して、ヒッチコックはもう昔の曲はやらないよってバンドではなく、いつだって全部の曲をやり続けるからという姿勢を感じてください。この日は、間違いなくあなたの聴きたい曲が聴けますから。それを、歴史のある目黒鹿鳴館でやれることも楽しみにしています。今回の音源も、全国ツアーも、溢れんばかりの思いを詰め込んでやっていくので、しっかり受け止めてください。