今年3月に配信リリースされた「REBORN」で本格始動。同作を皮切りに4～6月と4ヶ月連続配信リリースを行ってきた都会派ハードコア・ハイブリッド・バンド、湾岸の羊～Sheep living on the edge～（以下：湾岸の羊）の1stアルバム『2020 RISING SUN』が完成。すでに配信されている4曲を含む、全12曲収録。一音一音にこだわり抜いて魂を込めたサウンド、HIRØの嘘偽りのない言葉たちが胸に突き刺さる楽曲たちは、全編を通して壮大な物語を紡ぎ、"生きろ"と真摯で痛烈なメッセージを訴え掛けてくる。今作完成に至るまでの経緯や楽曲について、メンバー5人に話を訊く。

アルバムの頭から最後まで、映像も含めたすべてを聴いてもらって、完結する作品

－今年3月に配信リリースした「REBORN」から4ヶ月連続配信リリースを経て、ついに1stアルバム『2020 RISING SUN』を完成させた湾岸の羊。2019年に楽曲制作に着手してから、アルバム完成に至るまでの3年を振り返ったとき、湾岸の羊にとってどんな期間でしたか？

HIRØ：最初は2019年末、長野にあるJODY（天空）のスタジオに合宿に入って、みんなで"せーの"で録ったんですけど、そのあとコロナの流行でスタジオに入れなくなって。1曲だけ、「RISE UP」っていうフリーセッションから作った曲があったから、その曲だけは"せっかく録ったから"と作り進めたんですけど、あとは全部録り直しになってしまいました。

－ただ、形にこそならなかったかもしれませんが、湾岸の羊の第1歩目として、長野の合宿ってすごく重要だったんじゃないですか？

TATSU：すごい重要だったよね、素晴らしい環境だったし。

HIRØ：スタジオと宿泊所が併設されているんですけど、宿泊所の階段や廊下といった至るところにジョー山中さんの写真が貼ってあって。それを見るたび、ピリッとしてね（笑）。JODYのお父さんが宮下富実夫さんという音楽家で、ジョー山中さんもよくそのスタジオで合宿していたらしいんですが、長野の山奥で、1回スタジオに入ったらコンビニに行くのも1時間くらいかかる場所で。

Ryo-Ta：合宿中は一度スタジオに入ったら、朝方までやって。"1回休もう"って2～3時間寝て、朝また集合して音を出すような生活でしたよね？

CHARGEEEEEE...：「RISE UP」とか、下手したら朝7時に集合してできた曲だからね（笑）。朝イチからフリーセッションしてできた曲をそのまま形にした感じでした。

－そういう環境だったら、音楽漬けにならざるを得ないというか。

HIRØ：そうですね。だから、あれが湾岸の羊のグラウンド・ゼロというか、すべての始まりでした。そのときからアルバムを作ろうというのは考えていたし、アルバムの半分くらいはできていて。そこから、リモートでみんなで楽曲を詰めていきました。

CHARGEEEEEE...：合宿で録った音はあえて使わなかったわけではなく、もっとブラッシュアップしたかったんです。例えば、ドラムはクリックを聞いて録り直したり。でも、長野の合宿があったからこそわかったこともたくさんありましたね。

－衝動から生まれた起点となるものがあったからこそ、それをブラッシュアップして、より良い形にすることができたと。

CHARGEEEEEE...：そうですね。フリーセッションのままではなく、個々で録り直すことで音の被りもなくなったし、それぞれが音の追求をすることができましたしね。

－僕がアルバムを聴かせてもらって、まず感じたのが"追求"の部分で。一音一音への妥協のないこだわり、一曲一曲と向き合う真剣さがビシバシ伝わってきましたし、それが12曲並んだとき、そこに込めた想いや物語がワッと伝わってきて。"アルバムって、こういうものじゃないといけないな"とすごく思いました。

HIRØ：ありがとうございます。コンセプトのないアルバムなんてないとは思うんですけど、アルバムとして頭から最後までしっかり聴いて、今作のコンセプトをしっかり感じ取ってほしいです。映像まで含めたすべてを聴いてもらって、完結する作品だと思ってます。

REDZ：僕も今日、車で来るときに改めてアルバムを聴いてきたんですけど、おっしゃる通りアルバムとしての物語があるし、だからこそ最後の「Sincerely」のHIRØのメッセージが刺さるんですよね。もう何回も聴いてるんですけど、毎回HIRØのリリックが刺さってしまうというか。"そうだよな、頑張んなきゃな"と思える、パワーを持ったアルバムだと思うんです。実は俺は合宿が終わって、リモートでアルバムを作ろうという話になったとき、"現実的にできるのか？"って半信半疑だったんですよ。でも、HIRØの歌への取り組みが尋常じゃないくらい本気で。何回も録り直して、追求しているのを見て"これは本気だ"と思わされて。俺もそこからスイッチ入って気合い入れなおしました。

TATSU：レコーディングに関しては、HIRØのパワーに引っ張られたところがあったよね。あれだけ気合入れて、本気で向き合ってる人がいたら、同じところまで行かないと気が済まなかったし。俺も執念はあるほうですけど、上には上がいるなと思ったし。湾岸の羊の曲を総合アートとして捉えて、一曲一曲にいろんな発想とこだわりを持ってる人なので、俺もそれに応えなきゃいけないなと。一曲一曲にドラマがあって、物語があるから、聴く人は好きな曲を好きに聴いてもらえればいいんだけど、俺たちはひとつの作品として捉えているし、総合アートとして考えてるから。そのへんが今作の肝ですね。

REDZ：あと一曲一曲、一音一音をこれでもかってくらい丁寧に作りながら、エナジーを歌や音で爆発させてるから、安心してパワフルに聴けるアルバムになったよね。

HIRØ：うん、みんなすごくいい話をしてくれてるんだけど、いいことばかりじゃなくて......。

－HIRØさん、褒められすぎてくすぐったくなってきましたか（笑）？

HIRØ：三軒茶屋のスタジオだったかな？ TATSUがRyo-Taのベースに対して意見して、少しバチッたことがあって。TATSUが"そうじゃねぇよ！"とか言って、"じゃあ、もう1回録ろう"って録ったんだけど。聴き返したらCHARGEEEEEE...が、"あれ？ ズレてるのHIRØさんとTATSUさんじゃないですか？"って（笑）。そこから俺たち、何も言えなくなっちゃってね。

TATSU：あれはイントネーションの問題だからしょうがなかったんだよ。ごめんね、俺レコーディングになると性格が変わっちゃうから。

HIRØ：いや、でもああいったことがないとここまで達せなかったと思ってて。バンドって遠慮しちゃったり、言えなくなっちゃうのが致命的だから。"このメッセージおかしいよ"とか、"ビートが走ってない？"とか言えなくなっちゃったら、バンドって成立しないよ。

CHARGEEEEEE...：僕やRyo-TaからしたらHIRØさんやTATSUさんって大先輩だし、一見怖そうなんですけど、気づいたことを言いやすい環境を作ってくれる先輩たちなんです。だから全然縮こまることなく、意見も言えるし。

HIRØ：カッコつけて"言いやすい環境"とか言ってますけど、CHARGEEEEEE...は"そこまで言う！？"ってくらいズバズバ言うんです（笑）。でもたしかに俺らも昔だったら、何か言われて中指立てたかもしれないけど、今は"たしかにな......"って咀嚼できるようになって。

TATSU：CHARGEEEEEE...もRyo-Taもある意味で俺たちより限界値が高いところもあるし、言ってることもすごくわかるから、そこは素直に聞いてね。

HIRØ：うん、それがバンドだよね。

－お話を聞いても年齢やキャリアも関係なく、お互いがお互いに触発されて、"負けねぇぞ"ってところでぶつかり合っていて。そこにバンドの強い信頼関係を感じます。

HIRØ：楽器の音に関しては絶対に間違いないし、僕もメッセージだったり、リリックの責任感をしっかり持ってやってるつもりだし。あと僕はその先の映像まであって、作品が完成すると思ってるんですよね。今回のアルバムはCDと一緒にBlu-rayがパッケージされているので、アルバムを手に取ってもらった方には、ぜひ映像も大きな画面で観てほしいなと思ってます。全曲、昔から一緒にやっている映画監督の薗田ペッチーニ賢次と組んだ映像作品なんですけど、大きい画面で観ることを前提に制作して。完成した映像を観て"いいな"と思っても、次の日に大画面で観ると"ダメだ、全然違う"ってこともあったり。音源だけでなく、映像も監督もバチバチやりながら、納得いくまでやらせてもらいました。

－アルバム序盤、「REBORN」、「Merry-Go-Round」、「LOST CHILD」と、MVも公開されている配信済みの楽曲から収録されていますが、こうしてアルバムの並びで聴くとまた違った印象ですし、アルバムの物語の始まりにぴったりです。

HIRØ：ありがとうございます。CDは曲間の秒数までしっかり考えてました。

TATSU：「LOST CHILD」の歌を入れてるとき、HIRØがシャウトしすぎて倒れてたよね？

HIRØ：倒れた。最後のレコーディングが終わってスタジオを出るとき、スタジオで倒れて筋肉断裂したからね。