INTERVIEW
湾岸の羊~Sheep living on the edge~
2023.03.01UPDATE
2023年03月号掲載
Member:HIRØ(Vo) REDZ(Vo/Gt) TATSU(Gt) Ryota(Ba) CHARGEEEEEE(Dr)
Interviewer:フジジュン
都会のハードコア・リリシスト、HIRØ(カイキゲッショク/ex-RISING SUN)を中心に、ライヴハウス・シーン最強且つ、最狂のメンバーが集結した、湾岸の羊~Sheep living on the edge~(以下:湾岸の羊)が本格始動! 3月に配信リリースする「REBORN」を皮切りに、4ヶ月連続配信リリースを行い、7月には1stアルバムのリリースが決定した。HIRØの嘘のない言葉で綴られたリアルなリリックと激しく優しい人間味に溢れたヴォーカル、魂を込めたハードな演奏がダイレクトに胸に突き刺さる、湾岸の羊のハイブリッドコア・サウンド。謎に包まれたバンドの結成秘話から最新作までをメンバー5人が語る、貴重なインタビューだ。
-湾岸の羊の結成はプロフィールだと2015年となっていますが、まず改めて、結成の経緯から教えていただけますか?
REDZ:俺は20代後半にHIRØと仲良くなったんですが、RISING SUN(HIRØが在籍したバンド)の最後の頃、久しぶりにライヴを観に行って。俺はHIRØの勢いあってカッコいい頃を知ってたんで。正直なことを言うと、"HIRØはこんなもんじゃないぞ"と思ったんです。そこで俺がギターをやってHIRØを輝かせたいと思って、"一緒にやらない?"と言ったのが最初です。そのタイミングでCHARGEEEEEEを呼んで、後輩のRyotaに声を掛けてもらって。4人でスタジオに入って、それから1ヶ月もしないうちに"New Year Rock Festival(36th NEW YEARS WORLD ROCK FESTIVAL 2008-2009)"(以下:ニューイヤー)にこの4人で最後のRISING SUNとして出たんだよね? 無茶苦茶だよ(笑)。
TATSU:そのとき、俺はまだ加入してない。俺は社会にいなかったから。
HIRØ:ははは(笑)。ウチのメンバーはミュージシャンとしてはすごいけど、ヤバい連中ですから(笑)。でも今は何もやましいことがないから、どんな話でもできるんです。僕はロックに助けられたと思ってて。ロックがあったから今もこうしてインタビューを受けさせていただけてるし。普通の人が2~3年でできることを10年くらいかけてやってると思うし、楽器もできないからきっとこの中で音楽偏差値が一番低いかも(笑)、ただ僕のリリックやかけてきた時間、生きてきた道に嘘偽りはひとつもなくて、それが武器だと僕は思ってるんです。ウチのメンバーもすごいんですよ。レコーディングのときとかすごい喧嘩もするし、こんなロックなやつら、なかなかいない(笑)。
TATSU:俺、レコーディングになると性格悪くなっちゃうんだよ。それはこの場を借りて謝る。でも、そこには先輩も後輩もないと思ってるから。
HIRØ:そう。キャリアってのは代えがたいものだけど、年齢も国籍も関係なしに、平等でいられるのがロックだと思うんだよね。
CHARGEEEEEE:そう思わせてくれる先輩とロックやれてるっていうのが、俺もRyotaも嬉しいなと感じてます。みんないい意味で、マジで少年ですからね(笑)。
TATSU:俺は"生涯ガキパンク"。昔から何も変わらないしね、こうしてみんなでやれてることがすべてだと思ってるから。
REDZ:結成の話に戻すと、4人で"ニューイヤー"に出て、少し時間が空いて、別件でHIRØと話してるときに、"また4人でライヴでもやらない?"という話になって。
-そこからTATSUさん加入の経緯というのは?
HIRØ:自然な流れでしたね。RISING SUNの『BAD BOY』(2003年リリースの2ndアルバム)をリリースするときに、TATSUが隔離されたので、"この曲をもう一度TATSUとやりたい"と思って、声を掛けて。2016年に(湾岸の羊で)「still BAD BOY」を出して、次のアルバムに入る「LAST BAD BOY」に繋がるんです。
REDZ:俺はTATSUが加入したのは必然のような気がしています。TATSUは個人的に好きなギタリストで、憧れもあったので、一緒に音を出せるのが俺も嬉しいし。
TATSU:俺もREDZのギターがすごいのは、△THE ORANGE(REDZのソロ・プロジェクト)聴いて知ってて。REDZはギタリストにとって、一番大事な部分だけを持ってるギタリストです。REDZのギターは感情をすごく入れるから、歌ってるのと一緒なんですよ。
REDZ:俺はテクニックはないんですけど、チョーキング一発にも全部の感情を入れて弾くんで。湾岸の羊のライヴでは、ギター・ソロで肋骨を折ったりするんです。湾岸の羊のライヴって、本気で行かないと客も来ないから。
Ryota:REDZさんはすごいです。Marshallのアンプをぶっ倒したりしてましたもんね。
-湾岸の羊以外にもたくさんのバンドを経験されているみなさんですが、湾岸の羊にしかないものはなんですか?
HIRØ:リアル、嘘がない、仕事じゃない、ロック。何回も喧嘩してるけど、腹割って本当の話ができるメンバーだから。嘘がないっていうのが、このバンドの強みだと思います。
REDZ:だから湾岸の羊のライヴは盛り上がるし、お客さんのエネルギーがすごいんです。
HIRØ:みんな昔ヤンチャしてきたり、悪さをしてきたりした連中ですけど、ステージに向かうときは命がけで本気で行ってますからね。
CHARGEEEEEE:昔はライヴ・バーみたいな狭いステージでよくやってて、4人で実験デモを作っていたんですが、それが去年末、バンド史上最大になる"ニューイヤー(50th New Year Rock Festival 2022-2023)"のステージに立っててすごく感慨深かったです。HIRØさんがリハーサル中に、"音量だけじゃなく抑揚をつけたほうが、世界観が伝わる"とよく言うんですが、静と動があることでHIRØさんのリリックがより伝わるし、それが湾岸の羊のライヴの醍醐味だと思ってて。照明の光すらいらないくらいの静があって、"ニューイヤー"の大舞台でも照明を使わず、静を表現する曲があったんですが、それを見せられたのは、すごく良かったですね。
HIRØ:「都会の森」なんかは、"真っ暗な中で音だけ聴いてください"って曲だしね。
REDZ:しかも真っ暗っていうのも、本気の真っ暗を追求するんで、ギターの手元がまったく見えない(笑)。"ニューイヤー"のサウンド・チェックのときも、暗転にしてもらったら本当に真っ暗で。僕のアルペジオから始まるんですけど、"これは絶対にできない!"って、少しだけ明るくしてもらいました。それくらい追求するのがいいんですけどね。音、ステージ、照明と、HIRØは昔からすべてに妥協しないですから。
HIRØ:アートって妥協した時点で死ぬと思ってるんですけど、昔はそこに自分の実力が伴っていなくて、それが今、ようやく少し追いついてきたかな? と思っています。俺は"ああしとけば良かった"って、後悔ばかりの人生だったんで、死に場所を探してるわけじゃないですけど、もう絶対に妥協したくない。だからMVも薗田賢治ペッチーニ監督と何回も無言のにらみ合いをしながら、作り込んできました。
TATSU:俺も20代は間違いもたくさんあったけど、自分を信じ切って、アートワークにおいては絶対、妥協しなかったんですよ。でもそのあと、いろんなことがあってバンド・メンバーの気持ちを汲んだりするようになって、結果的に失敗するようになってしまいました。
HIRØ:そう。俺もTATSUもREDZも失敗してるんだよね。振り返るとやり直したいことばかり。でもだからこそ、今こういうふうに言えるし、もう妥協したくないんです。
TATSU:俺はいろんな世界に迷い込んだりしてるなかで、そういうパワーとか、人との向き合い方とか忘れちゃってたんですけどHIRØの突き詰め方を見て影響を受けて、"妥協しちゃいけない"とまた思えるようになりました。今は妥協しなすぎて、もたもたしちゃってるけど(笑)、"ミュージシャンとしての残りの時間は、絶対に妥協しちゃいけない"というのは、HIRØから学んだことでした。
CHARGEEEEEE:50周年の"ニューイヤー"は、そんなHIRØさんの生き様や言葉が憑依したようでした。大会場にあれだけのアーティストを集めて、プロモーションも最後までやり切って、プロデューサーとしてあっちこっち駆け回って、たくさんのことをやって。
TATSU:出演者ひとりひとりと直接向き合って、あれだけのアーティストが揃ったのは、HIRØの人望だよ。
REDZ:あの日会場にいた人は、みんな満足した顔してたからね。客席で観ていてもすごいヴァイブスを感じたし、ものすごいイベントだった。あれをやれる人はいないですよ。
CHARGEEEEEE:2ステージ出て、プロデューサーもやってますからね。なんで湾岸の羊を1発目にしたんですか?
HIRØ:最初、"ニューイヤー"の歴史もわかる過去映像も使ったOP映像を流して、"これが「ニューイヤー」だ!"って意味でも、最初の音は自分たちで出したかったというのが本音。だから湾岸(湾岸の羊)以外は考えられなかった。もうひとつ言うと、フェスだから最初のバンドだけがリハができる(笑)。
-1発目に湾岸の羊が出て、"ニューイヤー"に対する想いや意気込みを音楽で伝えるのは、出演者にとってもお客さんにとっても、ものすごい説得力があったと思います。では、作品についても聞かせてください。3月リリースの「REBORN」から4ヶ月連続で新曲を配信リリース。7月には1stアルバムのリリースが決定しています。
HIRØ:コロナ前は自身主催の"STREET BLOOD"というイベントがあったり、実験的なギグを行っていたのですが、ギグがだんだん形になってきて、"そろそろレコーディングしようか?"と言っていたら、コロナで緊急事態宣言が出てしまって。実は今回、配信リリースする曲は2020年にレコーディングしていて。長野県にある宮下 JODY 天空(Gt)(湾岸の羊のサポート・メンバー、以下:JODY)のスタジオで合宿して、せーので合わせた曲もありますけどあとは個々でレコーディングして、2021年にミックスして、2022年にMV撮影をしてと、3年がかりで完成させました。みんなに会えない状況だったけど、僕はコロナ禍で何かメッセージを出さなきゃいけないと思って、カイキゲッショクで「【KILL COVID】~いまROCKがヤレること?!~」(2020年)を発表したりしていたんで、リモートでもできることをわかっていたんです。
CHARGEEEEEE:緊急事態宣言下でガラガラだった高円寺のレコスタで、立ち合いもいないなかでセルフ・ディレクションで録ったデモを、みんなに送ったりしてましたよね?
TATSU:全部、セルフ・プロデュースだから結構テンパったけど、HIRØと密に連絡を取って、やりとりをしながら進めました。