INTERVIEW
キズ
2022.09.16UPDATE
Member:来夢(Vo/Gt)
Interviewer:杉江 由紀
-未だに続いているあの侵略戦争については、きっと多くの方が物思うところでもあるでしょうね。一方で、世間には、"ミュージシャンごときが政治や戦争について触れるな"的なことを言う人々もいますけれど、来夢さんがこの件にあえて踏み込もうと思ったその勇気に私は大変感銘を受けました。
僕、中学生時代や高校生のときは留学をしたことがありましたし、そのあともコロナ禍前までは何かと海外に行くことが多かったんですよ。で、現地では歴史認識の影響による日本人差別とかいじめっていうのが結構あったんですよね。まぁ、それが普通に日常だったんですよ。
-その海外とは具体的に言うとどちらのことなのです?
イギリスとか、カンボジアとか、ベトナムとか。高校がインターナショナルな学校で各国に友達がいるから、ヨーロッパもアジアも今すぐには数え切れないぐらいいろんなところに行きました。僕、コロナ禍前までは1ヶ月とかいきなりどっか行ってまた戻ってきて、みたいなことをしょっちゅうしてたんですよ。
-そのフットワークとグローバルな人脈......カッコいいですねぇ。
違うんですよ。最初は別に自分で勉強したくて留学したかというと全然そんなわけじゃなかったんです。周りが悪くて僕も悪くなっちゃって、親に無理矢理海外に飛ばされたんです。要は島流しですよ(笑)。
-更生のために隔離されたわけですか(笑)。
そうなんですけど、僕からすると勝手に遠いところまで飛ばされて、そこで歴史的な差別なんて受けたら腹立つわけですよ。でも、実際のところ向こうで習う歴史と日本で習う歴史は違ったし、内容が完全に食い違ってるんです。そういった矛盾点に気づいたのは、留学したからこその収穫ではありました。そこに気づかない日本人って多いと思いますし。この小さい島国で生まれた人たちの多くは、島国から出ずにこの島国を信じて死んでいくっていう事実を考えると、僕はそれがすごく怖いです。
-何しろ、日本人のパスポート所有率は25パーセントにも満たないといいますものね。
うん、そこは思ってる以上に低いですよね。そういうなかで、プーチンは今回のことが起きたときに演説で、"日本に対して我々は報復する権利がある"ということを言ったんですけど、その言葉がすごく引っ掛かったんですよ。
-日本を含む非友好国には報復措置をとる、というアレですね。
たしかに、彼の立場や彼の歴史認識からすればそういうことではあるんでしょう。だけど、長い歴史の中で日本人が耐えてやっとつかんだこの国の平和や幸せを、隣の国がまた巻き込んで奪おうとするんだったらそれには絶対腹立ちますからね。今、日本のロック・バンドとしてこれは強く主張するべきだと思って書いたのがこの曲です。とはいえ、別にこの曲を世に出す目的っていうのは別にないんですよ。
-主張はしておきたいけれども、目的はない。......それはどういう意味でしょう!?
主張したいことは曲に込めましたけど、だからってその先にどうなってほしいという気持ちはないってことですね。これを聴いて、もし"戦争賛成!"って言う人がいたとしてもそれはそれでいいんですよ。"反戦!"って思うならそれもその人の自由だし、僕は単純に注目してもらいたいだけというか。そこから先については、自分が携わるようなことじゃないと思ってるんです。
-来夢さんはつくづく思慮深い方ですね。
そこは聴いてもらいたいっていう一心ですね。例えば、この曲タイトルで僕は意図して"リトルガール"っていう単語を使いましたけど、ここで直接的な"リトルボーイ(※広島に投下された原爆を指すコード・ネーム)"という言葉を使っていたら、それだけで曲を聴いてもらえなかった可能性、興味を持ってもらえなかった可能性もあると思うんですよ。
-アレルギー的な反応を示す方が出てきていた可能性はありそうですね。
いろんな意味で「リトルガールは病んでいる。」は、みんなに注目してもらうことを最優先にした曲なんです。このタイトルだって、本来ならキズとしてはなしなやつじゃないですか。おそらくファンのみんなは嫌がるだろうなっていうことを、わかったうえで付けたんです。ジャケットだってそうですよ。デザイナーにわざわざ"みんながガッカリするくらい、めちゃくちゃダサくしてくれ"って頼んだんです(笑)。
-注目してもらうためにそこまでするとは、潔すぎます。
タイトルを見て、ジャケットを見て、そのあと音を聴いたときにギャップとか"なんだこれ、カッコいい"って思わせるような曲じゃないといけないというのは、すごく思ってましたからね。そこはちょっとプレッシャーでもありました。これで中身もダサかったら終わりですもん(笑)。
-それだけに、この曲の持つアタック力は尋常ではないのでしょうね。歌詞カードを見ずにいきなり聴くと、最初の印象としてはまずサウンドの尖り方とアッパーさに驚くのですよ。それでいて、メロディ自体はとんでもなくキャッチーですし、よくよく歌詞を見ると気になる言葉だらけで、とにかく情報量とその密度の加減がヤバいです。メタルっぽいとか、EDM的だとかジャンルでこの曲をカテゴライズすることはもはや難しく、簡潔にこの曲の印象を言葉にするなら"やたらと圧がすごい"かもしれません(笑)。
僕の脳みその中にある、今までに出会った好きなものをたくさん詰め込んだんで、この情報量になったんだと思います。途中にはラップも入ってますけど、あれなんかはメロも混じっちゃってますからね。そういう意味ではトラップっぽくなってるような気もするけど、自分でもこれってジャンルなんなんだろうな!? ってできあがってから思いました。これは果たしてヴィジュアル系なのか? っていうところでもありますけどね。
-キズの場合、こと音楽的な面ではわざわざヴィジュアル系を名乗らずともいいのでは? と感じるところがありますよ。
言ってくれましたね! でもそれ嬉しい。僕も実はちょっとそう思ってます(笑)。ただし、結局ヴィジュアル系って日本で生まれて日本で発展してきた文化だし、僕は純粋にそれがいろんなジャンルの中でも一番好きなんですよ。そんな僕が、今ここで「リトルガールは病んでいる。」っていうかたちでひとつの主張をすることには、間違いなく意味があると信じているし、僕の居場所は死ぬまで"ここ"なんじゃないかなと感じてます。
-キズの禁じ手を厭わない姿勢には、ある種のロック・スピリッツといい意味での中毒性を感じますよ。
僕も含めて、うちはみんなバカなんです(笑)。だから、何かするにしてもビビるっていうことがないんですよ。