INTERVIEW
ADAM at
2022.06.14UPDATE
2022年06月号掲載
Interviewer:石角 友香
リリースするたびにアルバムがジャズ・チャートのTOP10にランクインし、ジャンルはどこまでもフレキシブル。昨年末より活動10周年に突入し、アニバーサリー作でもある新作『OUTLAST』のタイトル・チューンでもメタルとラテンが融合していたり、ピアノ・インスト・シーンで活躍しつつも、なんとFEEDERのGrant NicholasやFRONTIER BACKYARD参加の歌モノ楽曲があったり、より音楽的なレンジを拡張中だ。意表を突きつつ、入り込みやすい楽曲の軸には親しみやすいメロディとADAM atならではのユーモアが存在する。ライヴでもおなじみ、噺家顔負けのセンスも顔を覗かせるインタビューをお届けしよう。
-今回、10年というタームはテーマとしてありましたか?
"10周年のアルバムだから今回はめちゃめちゃいいものを"って感じではないです。ただそのできたものを聴いて、やりたいことを全部詰めこんだ結果、10周年の記念アルバムに相応しい内容になったのかなと思っておりますね。
-どのあたりの曲ができてアルバムが見えてきましたか?
コロナ禍になったぐらいからですけど、いつ音楽活動ができなくなるかわかんないぐらいだったら、今やりたいことを全部やってしまったほうがいいと思いまして。作風も結構変わってきたんですよね。で、今回は特にそれが顕著に出たのかなと思ってます。ヴォーカルの方々とのコラボが2曲もありますし。それはヴォーカルとコラボしたいっていうよりも、できた曲を聴いてみて、これは歌があったほうがいいんだろうなと思ってお願いした感じなんです。10周年だから有名な人とコラボしよう! それをニュースにしよう! っていうよりも、聴いたらこれは歌があったほうがいいなと思って。特に"あの人が絶対合うだろうな"みたいなのがあって、ちょうどそのオファーがはまったみたいな感じですかね。
-たしかにFEEDERのGrant(Nicholas)が歌う「Happy Place feat. Grant Nicholas」は、これまでのADAM atのインストにもなきにしもあらずですけど、新しい曲ですよね。
ありがとうございます。個人的にはピアノ・ロックみたいなイメージで、例えばFIVE FOR FIGHTINGとか、まあまあピアノ・ロックのイメージで送ったんですけど、GrantはPeter Gabrielとか、若干プログレのイメージを持ってくださったみたいで。お互いのこのちょっとした入れ違いで(笑)、ものすごくいいものができたのかなと思いますね。コロナの話ばっかで申し訳ないんですけども、それこそオンラインだとか、配信なんかで離れてても繋がってはいるっていうことがね、だいぶ自然になりましたから。今まで会って話してみないとお願いできないってことが、こうやってお願いできるようになったのはありがたいし、助かるって言えば助かりますよね。
-ちなみにGrantはどんな歌詞を書いてきたんですか?
これが本当にコロナにピッタリというか、ピッタリって言い方も変なんですけど、自分が行きたいところにも行けないこの状況みたいな歌詞でございまして。で、それはたぶんGrant自身が日本のことをすごく好きなので、日本にも行きたいんだけど行けない状況みたいなことを歌詞に綴ってくれてまして、それが"Happy Place"っていうタイトルになってますね。非常に合ってると思います。今のタイミング的にも、ロシアの戦争が始まったなかで、世界中のいろんな人間、誰しもが"Happy Place"を探しているような気がしてしまうような曲ですね。
-(資料としていただいた)セルフ・ライナーにもありましたけど、やりたいことを先延ばしにしてると、きっと後悔するんじゃないかっていう気持ちが書かれていますね。
そうですね、それもありますね。例えば自分が望んで病気だとか怪我をするわけじゃないですし。ライナーにも書かせてもらったんですけど、今までは例えば武道館でライヴするんだったらここを埋めてから、ここを埋めるにはここを埋めてからって道順、筋があったんですけど、その途中でもし命を落としてしまった場合に、後悔してもしきれないところがありますし。その可能性、確率がコロナ禍になってしまってちょっと高くなってしまったような気がするんです。なので、もうできればやりたいことに関しては、もちろん礼儀だとかマナーとかは必要ですけども、最短距離をとってもいいのかなと思うようになりましたね。
-たしかにそうだと思います。そしてもう1曲のヴォーカル・ナンバーがFRONTIER BACKYARDの田上(修太郎/TGMX)さんヴォーカル参加の......。
そうですね、「22時」。
-FRONTIER BACKYARDとの繋がりっていうのは?
これは対バンでですね。何度かご一緒させていただきましたが、非常に素晴らしい大先輩で、良くしてくださっているんです。この曲ができて、お酒が好きで、ちょっとキラキラしててこっちが飲みたくなるような人って考えてたら、"あっ! 田上さんだな"って(笑)。田上さんか吉田 類さんか迷ったぐらいですから(笑)。
-吉田 類さんと肩を並べる(笑)。
個人的にシンセを入れたアレンジにしたくて、で、お酒を飲みたくさせるって言ったら田上さんだったんですよ。
-田上さんのイメージってどうしてもやっぱり英語詞だったりするんで、この曲で日常的なことを歌っているのが面白かったです(笑)。
(笑)実はFRONTIER(BACKYARD)さんの新しいアルバムを拝聴させていただいたんですけど、めっちゃめちゃカッコ良くて、本当におしゃれで。洋楽なんじゃないかと思うぐらい新しいことを取り入れている方に、なんてことを歌わせてしまったんだろうという(笑)。
-実は歌っていることはそんなに遠くないのかもしれないですよ?
田上さんもおっしゃってました。こんな日本語を歌うの初めてかもしれないって言ってくださって。
-すごく素っぽいと思います。で、この"22時"は、22時ぐらいにちょっと帰りの時間が気になり始めるっていうことだと思うんですけど、22時って早くないかなっていう気もしまして。
それは都会だからですよ。我々は地方なんで、結構、朝が早いんですよね。朝だいたい8時出社の人とかが多くて9時出社、10時出社はだいぶ遅いんで。で、"23時"ってなると語感が悪くなる。で、24時はこっちだともうみんな完全に寝てますからね(笑)。
-なるほど(笑)。これまたなんかいい感じでFRONTIER BACKYARD節も出てる感じで。 TDC(福田"TDC"忠章/Dr/Backing Vo)さんも参加していらっしゃるんですか?
はい。福田さんも参加していただいて。
-そういう意味で言うとリズムの部分もFRONTIER節なんですね。
いやでも、不思議ですよね。田上さんの声と福田さんのドラムが入っただけで、FRONTIER BACKYARDになりますもん。で、シンセのアレンジなんかは僕や田上さんじゃなくて――ざっくりとしたものは僕で作ったんですけれど、新人のバンドの子にお願いしたんです。その子もFRONTIER BACKYARDを意識したのかどうかわからないんですけれども、全部合わせてみるとFRONTIERになるんですよね。不思議なものでございます。
-ヴォーカル・ナンバーが2曲あるのは大きな特徴ですね。そして、先行配信されていた「Syoi syoi」は間違いなく、声は出せないけど口パクでコール・アンド・レスポンスしてしまう曲で。
(笑)嬉しいです。早く声出せる状況になればいいんですけども。まぁJ-JAZZとはこういう形なのかなと僕は思ってますけどね(笑)。どこがジャズだ? と。これがジャズ・コーナーでかかると思うと小気味よさしかないです(笑)。
-速いっていうだけじゃなくて、いわゆるブラストビートが好きな人も。
はい。ツーステ踏めると思いますし、意外にリフもいいんですよ(笑)。
-ファンのみなさんは、ADAM atのアルバムでは、逆にスピーディでクランチなギターが鳴ってる曲を期待するんじゃないですか?
そうですね。もしかしたら他にいらっしゃるのかもしれないですけど、みなさんがおっしゃってくださるのは"こんなことできるのはADAM atしかいない"ということで。ピアノとギターとドラムとベースの構成はもちろんあるんですけど、インスト・バンドでピアノとギターとギターとドラムとベースっていう、ツイン・ギターはほとんどないんです。3本がリフを弾いてその上に鍵盤が乗るってのは珍しい形なのかもしれないですね。
-ギター2本ってなると音が当たっちゃうってみんな考えるんですかね?
やっぱ音圧とかも負けますよね、鍵盤は。
-ADAM atの場合、鍵盤は完全に歌メロっていう感じですもんね。
もうピアノはヴォーカルみたいな感じで、例えばギター2本を制圧しているピアノってなんかカッコ良くないですか(笑)? DREAM THEATERにもう1本ギターが入ってヴォーカルがピアノみたいな感じですかね。
-ピアノってメロディ楽器でもあるけどもめちゃくちゃパーカッシヴですしね。
非常に便利な楽器ですけど。シンセだとかキーボードっていうとある程度激しいとこもあるけど、やっぱどうしてもピアノとなると行儀良くみたいなイメージがあるなかで、こんな下品な音楽やってるのはいいじゃないかと(笑)。
-たしかにDREAM THEATERのヴォーカルってイメージしやすいです。
ははは、そうですね(笑)。
-今回のアルバムのタイトル・チューン「OUTLAST」が、なんといってもメタル側面の極めつけって感じがあるんですけど、ライナーに書いていらっしゃる、ラテン好きの奥さんとメタル好きの旦那さんが仲良く楽しめるという例えには笑いました。
ははは! ありがとうございます。すみません、最初はちょっと筆が乗ってたんで(笑)。 楽しんでいただければ何よりです。ちょっと執筆が好きになりつつあるんですよ。良くないですね。
-ライナーがどんどん厚くなっていきますね。
やたら紙資料多いからやなんだよね、みたいな(笑)。
-1曲に対して1ページあるってなかなかないことですよ(笑)。
本来は曲に込めた思いをもうちょっと書きたいんですけど。たぶん思い切り添削されますからね(笑)。
-(笑)楽曲自体のアイディアはどういうところから来たんですか?
昨年出させていただいた「ケイヒデオトセ feat. Benji Webbe from SKINDRED」(7thフル・アルバム『Daylight』収録)っていう曲や、その前の「零」(2020年リリースの6thフル・アルバム表題曲)って曲でギター・リフ、ベース・リフの上に鍵盤が乗っていて、それが目立つのが僕のひとつのテーマというか。僕はメタルが好きなんですけど、メタルってリフありきみたいなとこも結構あるんですよね。まずリフを作ってその上にピアノを乗っけてみる。もちろんラテン・メタルはいろいろあるんですけど、ラテン・メタル・インスト、中でもピアノ・インストはあんまりないと思ってたら、結構ありまして。そこからですかね。それこそ前のレコーディングが終わって、歩きながら次はどんな曲作ろうかなと考えたときに、もうちょっとラテンにして、それでメタルを合わせたら合わないはずがないなと思ってやってみた結果です。
-ラテンのリズムでメタル的なリフを乗せてるバンドっていうのは南米のバンドですか?
SEPULTURAとか、いくらでもいるんですけど。ただそれでピアノのインストっていうのは、僕が知識が浅いので知らないだけかもしれないし、もちろんいらっしゃるかもしれないですけど、まぁ日本ではそんなにないんじゃないかと思ってやってみました。
-リズムが変わるとメタル要素が新鮮に聴こえるというか。
なるほど、わかります。今までずっと縦の"たたたたたたたたたたたた"ってところがちょっと跳ねるだけで、重くしなきゃいけないですからね。まぁ、しなきゃいけないわけじゃないんですけど。
-サンバとかそういうリズムになるとどうしても拍子が縦じゃないので。
シャッフルというか跳ねるというか。
-そこに意地でもギターもピアノも弾いてやるみたいな感じが痛快なんです。
そうなんです。行ってみました。特に浜松にはブラジルの方も結構多いので、彼らに気に入ってもらえたらいいなと思ってますけどね。
-ネイティヴな人たちじゃないですか。
メタルはいいですねっていうのがまず大前提にあるんですけど(笑)。自分が好きだったミュージシャンとか、昔聴いてたミュージシャンの今のライヴを観たときに、やっぱお客さんとミュージシャンが一緒に歳をとってたりするんですよね。ただ唯一、唯一じゃないかもしれないですけど、メタルだけはミュージシャンが歳取ってもお客さんは結構若かったりして。IRON MAIDENのブラジルの"Rock in Rio"の映像を観たんですけど、女子高生だとか若い男の子がIRON MAIDENが出たときに泣くんですよ。これはもうメタルにしかなせない業だなって思いましたね。いつか"Rock in Rio"でこの曲を、みたいなことはないですけどもね(笑)、とはいえやっぱりこういう曲のほうが世代を超えて聴いてくれるのかなと。
-歌詞云々じゃなく、音圧とクランチなギターと。
そうですね。あとステージ上の派手さだとか(笑)。
-発散できるし、そこで解放しに行くみたいな?
常日頃生活してて、もちろんイライラすること、もやっとすることがあると思うんですけども、そのときにやっぱり大きな音で音楽を聴くのが一番いいと思うんです。嫌なことあったな、ってときに大きな音でヒーリング・ミュージックを聴いても落ち着くだけですからね。ヒーリング・ミュージックが悪いわけじゃないですよ? そんときに"腹立つ!"と飛び出した気持ちの先でKILLSWITCH ENGAGEがかかった日には最高! みたいな感じで(笑)。
-(笑)南米のメタル・バンドでもやらないんじゃないかと思った部分は、やっぱりピアノなんですよ。
ははは(笑)。たぶんいらっしゃるんですけど、僕が知識なくて知らないだけなんです。まぁ先ほどおっしゃったように、もしかしたらADAM atのファンの方もこういうのを期待してたような気がしますし、できて公開したときにはやっぱお陰様で好評で。比較的その期待値以上のものをお届けできたのかなとか思ったりしてます。