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INTERVIEW

MUCC

2020.06.09UPDATE

2020年06月号掲載

MUCC

Member:ミヤ(Gt)

Interviewer:TAISHI IWAMI

-曲単位のサウンドについても聞いていきたいのですが、まずは1曲目の「惡 -JUSTICE-」。ラップ・メタルやハードコアなど様々な要素が入っていて、シンセはレイヴ/EDMからのインスパイアを感じさせつつ、ダーク・サイドからのカタルシスを描いているようでもあり、すごく興味深いサウンドメイクとともに、今までにはないタイプの決定的なキラーチューンが生まれたと感じました。

作っている自分としても今までにないタイプの曲だなとは思っていて。何かに向かって戦っているようなイメージはありながら、そこには怒りも諦めもあるし、どこか俯瞰しているような部分もある。サビは今自分たちが最もやりたい洋楽っぽい感じにしたいと思っていたんですけど、それが主観的な俺ららしい想いだとしたら、そこを強調するに至るまでの流れはLUKAS GRAHAMをちょっと意識したラップっぽい感じにするとか、それらはMUCCを形成する要素ではあるんですけど、どれも本職ではない感じもあって。直感と俯瞰的な目線が入り混じってるんですよね。

-その感情が整頓されていない感じが、この曲をキラーチューン、すなわちポップたらしめている要因なんじゃないかと思います。

いろんな人がいますからね。怒ってると言える人、言えない人、何も考えてない人、何が起こってるかはわかりつつ興味がない人、それぞれの立場から考える惡がある。そういうことが表現できていると思います。シンセを入れた理由はそこにあるんです。曲としてはなくてもいいような気がしたんですけど、いろんな感情を表現するには必要だったんです。

-既発曲の「アメリア」も様々な感情を7分で描いた曲と捉えていいのでしょうか。

そうですね。でも、「惡 -JUSTICE-」と違うのは、2曲目の「CRACK」もそうなんですけど、俯瞰的な視点はほとんどなくて、その感情の起伏が起こった瞬間というイメージですね。最初のほうに話した"フォーク"との距離感で言うと、近い順に「アメリア」、「CRACK」、「惡 -JUSTICE-」です。ちなみに「アメリア」と「MY WORLD」、「生と死と君」の"惡 MIX"としている既発曲は、よりライヴのイメージに近づけた音像になっています。

-「海月」はMUCCに期間限定で在籍していたキーボーディストの吉田トオルさんが作曲に参加した曲で、MUCCらしさやジャジーな風情が印象的です。

これは吉田さんがMUCCに1年以上在籍してくれたうえで、"MUCCってなんぞや"ってことをすごく考えて書いてくれた曲。彼が逹瑯に歌ってもらいたいメロディを生かした基礎を作ってきてくれたところに、MUCCらしいアイディアをさらに足していきました。ジャズっぽいのは、吉田さんの鍵盤発信でコード進行ができていったから。Bメロとか初期の椎名林檎みたいなんですけど、吉田さんがいてこその要素がふんだんにあって、すごく面白い曲だと思います。

-「Friday the 13th」はサイコビリー由来のベースが今の音で思いっきり響くイントロが刺さりました。

おっしゃるように、もろにサイコビリーですね。ベースも普通のエレキではなくてアップライトを使ってますし。たしかに、当時のサイコビリーの音源にはないクリアな音で、もはや打楽器っていう(笑)。もともとはオールディーズとか50年代のロックンロールを思わせる曲だったんですけど、それをちょっとラウドなサイコビリーにしたら面白いと思ったんです。

-そのイメージをMUCCが演奏するとグラマラスでパンキッシュにもなる。

これも吉田さんのピアノがポイントで、スタンダードなフレーズをパワフルに弾いてくれたことが効いてるんだと思います。そこにダウン・チューニングのギターが入ることで、さらにいい感じになりましたね。

-「Friday the 13th」のベースと同様、「SANDMAN」の間奏でミヤさんの弾くギターにもびっくりしました。

あれは簡単に言うと、ギターのアンプに入る前の音。ギターにファズをかけて、普通はアンプから出した音をみんなは聴いてるんですけど、アンプに入る前のラインの音をOKにしたんです。さらにミックスの段階で、前半部分に間違えてリバーブをかけちゃってそれが面白かったから採用して後半では一気にそのリバーブを外すっていう。自分の失敗を成功にしました(笑)。

-ゴシックっぽい耽美的な要素もあります。

自分でミックスしてることもあって、ふだんヴォーカルに入れない歪をかけてみたりとかして、もうなんでもありでしたね。

-lynch.の葉月(Vo)さんが参加した「目眩 feat.葉月(lynch.)」も、なんでもありのユーモア全開で。

MUCCによくあるふざけた面ですね(笑)。葉月も入ってくれてより楽しくなりました。彼が適度にアドリブも入れてくれました。間奏の逹瑯はやらないうなり声とかはそうですね。あれはより曲の馬鹿さ加減が強調されてそのあとの展開にも生きてきました。

-そのあとにSYSTEM OF A DOWNが突然顔を出します。

ただの趣味じゃないですけど、別になくてもいいんですよ(笑)。でもライヴではあったほうが盛り上がる。

-「スーパーヒーロー」はそんな目まぐるしい展開に対して"ストレート"という言葉がはまる曲です。

これはさっきも話したように、逹瑯が親父の死について書いた曲。もともとはレゲエっぽいアレンジですごく緩い感じだったんですけど、それでもメッセージもメロディもすごくしっかり立っていていい曲だったから、シンプルな8ビートにしたら、もっと良くなるんじゃないかと思ったんです。

-ここまでストレートな8ビートで押し切る曲はあまりないですよね?

そうですね。その8ビートとオルガンを主体に、しっかり歌詞とメロディを響かせるアレンジにしました。

-ギターは添えるだけというか。

そうですね。この曲や「COBALT」はラウドなギターを封印しました。ラウドロックだとギターが貼りついてないといけないみたいなところがありますけど、この曲はそうなるとうざいし、体感的にしか取れないギターの音量感が好きで。歌謡曲として聴けるようなギターを弾くのが楽しいですね。

-「自己嫌惡」はその歌謡曲のテイストを感じる曲です。

これも冒頭で話したフォーク的な感覚で、曲と同時に浮かんだ"悪いことしてごめんなさい"みたいな言葉を歌詞にしたら、本当にどうでもいい感じになりました(笑)。そこからライヴ中にメンバーをギターで刺すとか、これまたどうでもいいことをするようになったら、ここ2~3年の代表曲みたいなところまできて、それが満を持してアルバムに。

-世界観としては中森明菜の「飾りじゃないのよ涙は」やチェッカーズが思い浮かびましたが。

「飾りじゃないのよ涙は」を作った井上陽水さんですね。フォーク出身のミュージシャンがバックにファンクやブルーズのバンドを入れて魅力を広げていったような。

-曲中で逹瑯さんの声色にも変化があって、それがレトロ昭和なドラマ性を際立たせていると思いました。

ヴォーカルは日を分けて録ったんです。もともとライヴでやっていた原曲にはない構成と新しい歌詞が入ってるんで、そこは別人格が出てくればいいなと思って。

-「生と死と君」は、前のアルバム『壊れたピアノとリビングデッド』以前の2018年の曲(シングル『時限爆弾』収録)ですが、なぜアルバムをひとつ跨いで収録したのですか?

「生と死と君」はある意味今作のスタート地点でもあったんですよね。アルバムのほかの曲とは違う次元の曲で、作ったころはまだ死に対して悲観的でした。そこから2年経つと「スピカ」みたいに変われるってことを、アルバムの最後に2曲並べて示したかったんです。

-「スピカ」はすごく包容力のある曲で、アルバムの最後を飾るに相応しいと思いました。「生と死と君」と対になる曲ということで、完成したときに達成感はありましたか?

達成感ではなくて、輪廻転生という裏テーマがアルバムを作った最初の頃からあったんですけど、本当にそういうことってあるんだなって。繰り返していくことがあるから失うことも怖くない。過去の自分が失ったものを背負って悩んでいたこともあったけど、それ自体が間違いだったんじゃないかって思うようになったんですよね。そういう運命だったんだから、割り切ってもいいんじゃないかって思えたことがきっかけでできた曲なんです。

-肩の荷が下りた感じですか?

どうだろう? 何かを失ったということは、新しい何かが得られるかもしれない。失ったことには理由があるんだって、そういう価値観にここ2年くらいでなれたように思います。奇跡とか運命なんてないと思うんですけど、なるべくしてなったって思うのは自由じゃないですか。犬が死んだ日に子供が生まれたとして、代わりに新しい命を授かったと考えてポジティヴになるとか。失ったことでいい方向に向かうか悪い方向に向かうかは自分次第。そうなるとちょっと宗教っぽいですけど、信じたい、信じさせてほしいっていう人の気持ちは俺もわかるんで。

-では、MUCCのあるべき姿についてはどう思いますか?

ひとつの音楽だけをずっと聴き続けたい、ひとつの文化だけを楽しんでいたい人にはお勧めしないですね。俺らはいろんなジャンルの音楽や文化が好きで、いろんなところを渡り歩いていくんで。もしMUCCをひとつの起点に、楽しみ方は無限に広がっていくんだってことを知りたいなら、きっといい景色が見られるよって、そんな感じですね。