LIVE REPORT
LORNA SHORE
2025.02.27 @Zepp DiverCity(TOKYO)
Writer : 井上 光一 Photographer:Nicholas Chance
圧倒的音楽体験。2025年2月27日に実現したLORNA SHOREの一夜限りの初来日公演は、誇張でもなんでもなく今後間違いなく伝説として語られるであろう夜となった。そう、ついに日本のメタルヘッズたちが現代デスコア――エクストリーム・メタル界における最重要バンドの1つ、LORNA SHOREを目撃する時が来たのだ。
ソールド・アウト公演となったこの日のオープニング・アクトを務めたのは、今や日本のみならず世界を舞台にして活躍する福岡発のPaledusk。今回彼等が抜擢された理由としては、ヨーロッパ・ツアーの最中に楽屋がLORNA SHOREの隣だったそうで、バンド側からのリクエストであったとのこと。ジャンルレスでハイブリッドなサウンドが持ち味の彼等のパフォーマンスは個人的に初見であったが非常にライヴ上手といった印象で、最初は様子見といった雰囲気もあったオーディエンスの前でも臆することなくアグレッシヴなパフォーマンスを披露、確実にLORNA SHORE目当ての観客の心を動かしてダイブやモッシュも発生! 日本のバンドということに対するプライドを感じさせるMCの後に披露されたラスト曲「PALEHELL」では、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの永遠の名曲「世界の終わり」の鮮やかな引用も実に見事であった。
Bonnie Tylerの大ヒット曲「Total Eclipse Of The Heart」が丸々1曲流れ照明が落ちると、フラッシュ・ライトの演出と共に荘厳なオーケストレーションが場内に鳴り響き、LORNA SHOREの面々が姿を現した。オーディエンスの興奮も最高潮に達するなか、現時点での最新作『Pain Remains』のオープニング・トラック「Welcome Back, O' Sleeping Dreamer」でライヴは幕を開け、人間の所業とは思えぬWill Ramosの咆哮が我々に襲い掛かった瞬間、LORNA SHOREのライヴが眼前にて繰り広げられていることを、この日集まった全ての観客が改めて実感したに違いない。卓越したソングライティング能力と、作り込まれた緻密なアンサンブルで構築された楽曲群が持つ世界観が一切損なわれず、ライヴという場で完璧に再現されていることが驚異的であり、彼等がライヴ・バンドとしてどれほどのレベルに達しているのかを最初の1曲で証明してみせたのであった。
彼等の出世作となったEP作品『...And I Return To Nothingness』から「Of The Abyss」、「...And I Return To Nothingness」の2曲が披露された後、悲哀と美が交差するイントロのストリングスの音色だけで歓声が沸き、最初のハイライトとなった「Sun//Eater」が放たれた。途中、PaleduskのKAITOが飛び入りで参加して強烈なグロウルを披露するといったライヴならではのサプライズもあり、フロアはまさにカオス状態。続く「Cursed To Die」、「Into The Earth」でもバンドの勢いは止まることなく、観客のボルテージも上がる一方である。
オーケストレーションのアレンジを担い、ライヴでは一糸乱れぬリフを刻み続けるAndrew O'Connor(Gt)、実はドラマーとしての顔も持ち、複雑なギターのリフとユニゾンしながらアグレッシヴなグロウル・コーラスも披露したMichael Yager(Ba)、マシンガンのようなブラストビートを表情も変えずに繰り出すAustin Archey(Dr)といった面々の職人芸に支えられながら、バンドの鍵を握るAdam De Micco(Gt)がテクニカル且つ流麗なギター・ソロを奏でる。
荘厳なシンフォニック・サウンドと共に、地獄のようなブルータリティの中で悲痛なまでの美しさを作り上げ、まさに美醜入り乱れながらも調和の取れたLORNA SHOREの音世界が構築されているのを目の当たりにし、繰り返しとなるが、ライヴ・バンドとしての彼等の実力がこれほどの高みに達していたのかと、改めて驚愕せざるを得ない。
そして誰もが言葉を失ったWillのパフォーマンスに関しては、スタジオ音源はもちろん、ライヴ動画等でその凄まじさは理解していたはずだったが、理解した"気がしていた"だけであって、文字通り常軌を逸したレベルであり、デスヴォイスという技法はこんなにも多種多様なものであったか、と感動すら覚える。彼は完全に憑依型のヴォーカリストで、日本のオーディエンスの盛り上がりに笑顔で"Incredible!"と連発するMCでの姿は、性格の良さが滲み出たグッドルッキングな超ナイスガイといった雰囲気ながら、曲が始まった瞬間にあらゆる人間の激情を己の声だけで表現する悪魔の如き存在へと変貌する様は、にわかには信じられないほどであった。
彼等の名を世界中に知らしめた名曲「To The Hellfire」の盛り上がりは当然ながら凄まじく、地獄の業火に焼かれ続ける約6分間はあまりにも重く、あまりにもドラマチック。後半の"fucking!"では見事にオーディエンスも共に叫び、Will Ramosというヴォーカリストを世界が"発見"したあの呻き声のようなヴォーカルも完璧な形で披露され、混沌の渦の中でライヴ本編は幕を閉じた。
アンコールは『Pain Remains』の表題曲であり、3部作となっている「Pain Remains I: Dancing Like Flames」、「Pain Remains II: After All I've Done, I'll Disappear」、「Pain Remains III: In A Sea Of Fire」を完全再現。バンドの集中力が一切途切れることなく、それぞれの役割を完璧にこなして作り上げられたのは、絶望と虚無とが渦を巻くデスコアを超えた極限の果てに生まれた、痛切なまでに美しいアートである。「Pain Remains III: In A Sea Of Fire」の後半では、Willが観客にスマホのライトを掲げるように指示。その姿を満足げに眺めながら"アイシテル"と語り掛け、一瞬のブレイクダウンの中で"We Are LORNA SHORE"と呟いてそのまま最後の演奏に雪崩れ込む展開も素晴らしく、伝説の夜に相応しい締めくくりであったと言えよう。終演後にはこの日が誕生日だったというAndrewを祝うサプライズもあり、和やかなムードとライヴ時の彼等のギャップも含めて、LORNA SHOREというバンドの魅力なのだなと改めて知れたことも嬉しい驚きであった。
LORNA SHOREのようなエクストリームな音楽性のバンドが、2,000人以上収容可能なZepp DiverCity(TOKYO)での公演をソールド・アウトさせたという事実は、日本のヘヴィ・メタルの歴史において1つの分岐点となったのではないか。いずれは今回のライヴを目撃した若いオーディエンスの中から、将来を担う有望なミュージシャンが誕生する......そんな未来にも期待したい。
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