LIVE REPORT
DARK TRANQUILLITY
2025.03.10 @渋谷CLUB QUATTRO
Writer : 菅谷 透 Photographer:Masashi Yukimoto
メロディック・デス・メタルの重鎮、DARK TRANQUILLITYの来日東京公演が、3月10日に渋谷CLUB QUATTROにて開催された。2000年代後半~10年代前半は頻繁に来日するイメージのあった彼等だが、今回は"LOUD PARK 15"以来約10年ぶり。前回からはラインナップの変化もあったものの、進化と深化を続けるバンドの現在地と揺るぎない美学を超満員の観客へ提示していた。
最新作『Endtime Signals』のアートワークをモチーフにしたVJが映し出されると、幽玄なギターとシンセの音色から「The Last Imagination」でショーが開幕。演奏が徐々に熱を帯び、Mikael Stanne(Vo)がステージ中央で挨拶代わりの咆哮をお見舞いしたところで、会場の熱気がたちまち上昇した。続く8thアルバム『Fiction』のオープニング曲「Nothing To No One」では、2023年に正式加入したJoakim Strandberg Nilsson(Dr)のタイトで強力な高速ビートが炸裂。フロアは一気にカオスへと突入し、演奏後には爆発的な歓声と共に無数のメロイック・サインが掲げられる。10年分の想いを乗せた熱狂的な歓迎を、Mikaelをはじめとしたメンバーも、圧倒されたような表情で受け止めていたのが印象的だった。
"長い間待たせてしまってすまない。代わりに今日は全てを演奏するよ――できる限りね"というMikaelの冗談を挟んで、"君たちの人生にもっとイェーテボリ・デス・メタルが必要か?"との言葉から、6thアルバム『Damage Done』収録曲「Hours Passed In Exile」の緻密なツイン・リードが響き渡る。前作『Moment』からメンバーに加わったJohan Reinholdzは、大柄な体格も生かし、ギター・ヒーロー然とした堂々たるステージングを見せていてなんとも頼もしい。2024年に加入した、HATESPHEREのギタリストでもあるPeter Lyse Karmarkも、テクニカルなフレーズを飄々とした雰囲気で弾きこなしていて、実にいい組み合わせだ。そんな布陣が躍動したのは『Endtime Signals』のファスト・ナンバー「Unforgivable」で、暴風雨のようなブラストビートとトレモロが観客をさらなる興奮へと導いていた。
中盤では「Forward Momentum」、「Atoma」といったミドル・テンポの楽曲が配されていて、Mikaelの深みのある低音を効かせたクリーン・ヴォーカルや、Martin Brändström(Key/Syn)の幻想的なエレクトロニクスが引き立つ展開に。緩急やバンドの二面性を堪能できるセットリストの構成も見事だ。最新作からの「Neuronal Fire」では重厚なバンド・アンサンブルと、木漏れ日のように降り注ぐ温かなピアノの音色の対比が美しく、観客も好反応を返していた。「Terminus (Where Death Is Most Alive)」からは再びギアを上げ、鋭利なメロデス・リフと近未来的なシンセでフロアの温度を高めていく。「Wayward Eyes」ではギターが前面に出た生々しいサウンドで、音源とはまた異なる味わいに。終盤のブリッジで観客の手拍子をそっと制し、感情を込めて歌いきるMikaelもクールだった。
今回のセットリストは最新作に加え、『Damage Done』、『Fiction』の楽曲が多くフィーチャーされていたが、ファンが最も感情を爆発させたのは「Cathode Ray Sunshine」~「Final Resistance」の流れだったように思う。特に前者は近年までライヴでほとんどプレイされていない楽曲だが、叙情的なイントロで自然とシンガロングが発生していて、どれだけ彼等がこの機会を待ち望んでいたか、またバンドや作品と共に日々を歩んできたかが窺い知れる瞬間だった。続いては最新作収録の「Not Nothing」を挟み、『Fiction』収録曲だが、難易度が高く現在の体制になるまでライヴで演奏できなかったという「Empty Me」へ。演奏前のメンバー紹介も含めて、会場から喝采が巻き起こる。ちなみに今回のツアーでは、Christian Janssonの代わりにTHE UNGUIDEDのJonathan Thorpenberg(Vo/Gt)がベーシストとして参加していたが、パフォーマンスだけでなく観客をガンガン煽る姿勢にも好感が持てた。ツイン・ギターが織りなす哀愁のハーモニーが美しい「Phantom Days」を経て、本編ラストに披露されたのは「Therein」。
バンドだけでなくメロデスというジャンル全体の表現を拡張した名曲に、一際大きな歓声が上がる。アンコールには「The Wonders At Your Feet」、「Lost To Apathy」、「Misery's Crown」のライヴ定番曲が3連発で投下され、フロアは最後の最後まで熱狂的な空気が渦巻いていた。Mikaelは"できるだけ近いうちにまた会おう"と語っていたが、間違いなくバンドにファンの熱意が届いていたはずだ。今回は披露されなかった名曲も数多くあることだし、彼等が再び日本に訪れる機会を楽しみに待ちたい。
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